二章六節 黒の前の氷
世界の再創、夢のまた夢と誰かが言った。
それでも、成し遂げなければならない。
全てを殺してでも、全てを敵に回しても。
……世界を敵に回しても……
黒は現在トタン住居の一室で寝転がっていた。
現状から考えて戦闘要員は、黒と碧そしてヘレナなのだが。
「殺女は止めとけ。魔法が使えないんじゃ、塵魔法に対しての対処方が無い」
「私も戦えます。女ですが、鍛えてるんですよこう見えて」
どう見たら、ムキムキの筋肉が目に入らないのか教えてもらいたいものだ。
それに、筋肉だけで魔法に打ち勝てるなら苦労はしない。
「橘、俺も少しは役にたつぜ!」
ロークに至ってはただの一般人それも、万が一にもロークが死んでしまったらキークは、一人で生きていかなければならない。
小さな子供が、一人で生きていける程今の世界は優しくはない。
「ロークは連れていけないな、妹がいるし。殺女も魔法の対処方が無いしなー」
地下の人達を連れて行く訳にも行かず、並んでいたが思い付かず、気晴らしに散歩をするため外に出ると、ステラが路地裏に入っていたのが見えた。
「そうだ、ステラがいたじゃん」
ステラは車イスに乗った時の事を思い出していた。
親や周りからの冷たい目、兄弟からの化け物扱い。
従者だった者や仲の良かった友人は離れ、たった一人の孤立感。
この脚が全ての原因、こんな脚じゃなかったら、何度でも泣いて何度も脚を傷付けた。
だか、彼がそれを許さなかった。
「また、皆さんに頼りきってしまってますね……私はどうすれば良いんでしょうか。教えて、『アイシクル』」
ステラの脚から氷が生え、氷の亡霊が現れると。
『あのねぇ、ステラちゃん。やっぱり話しといた方が良いんじゃないかな?って私は思うの』
アイシクルは、ステラの側に座りステラの悩みに答えた。
「アイシクルもそう思う?でも、なかなか言い出せなくて……」
ステラを抱きしめ、アイシクルがステラの頭を撫でた。
『いつか、貴女の事を受け止めてくれる友人に会えるわよ。今は隠していても良いかもしれないけど、ステラが辛くなると思うの』
ステラにとって、アイシクルだけが自分の理解者であるが、周りはそうは見なかった。
どこに行ってもステラの居場所だけが無かった。
見つけたとしても、直ぐに奪われ壊される。
けれど、殺女と出逢い殺女のいる場所が居場所になった。
「殺女を守りたい。でも、この脚の事は知られたくない……どうすれば……」
『ステラ…』
ステラが車イスから立ち上がると、周辺の地面が氷へと変わる所を運悪く黒は見てしまい尚且つ、アイシクルに見つかってしまった。
『ステラ、退いて!』
「えっ!」
硬直するステラを前に、黒に襲い掛かるアイシクルを黒の容赦ない魔法が襲い掛かる。
『アイシクルブレード』
自らの腕を刃に造り変え何度も斬りかかるが、黒は寸前で躱わしていた。
だが、凍った地面で足を滑らせた瞬間をアイシクルは見逃さなかった。
『捉えた!』
アイシクルが黒の心臓目掛けて氷の刃を突き立てた。
「アイシクル!」
『大丈夫よステラ。ステラの秘密を見た者は私が消してあげる』
氷った脚を撫でて貰い、徐々にステラの脚の氷が引き元の綺麗な脚に戻っていた。
「成る程、脚の髄まで魔力が進行して完全に体と一体になっている所を見ると……8年位経ってるな」
唐突に聞こえてきた黒の声にアイシクルが後ろを向くと、目の前には心臓に氷が刺さったまま立つ黒の姿があった。
「残念、ハズレー」
氷が刺さっていた方の黒の体が真っ黒に変わり崩れると、多数のぼた餅達が黒の前に現れ一斉に敬礼すると、庭園に帰っていた。
アイシクルが再び襲い掛かろうとするが、体の表面が水蒸気となり直ぐに水に変わり崩れてしまった。
『くそっ!』
「活動圏内が、半径1メートル位か……」
黒がアイシクルに詰め寄り、ステラとアイシクルを交互に見ると、笑みを浮かべた。
「珍しいな、魔物 の魔力で戦わず、魔物自体に戦わせる奴がいるなんて、ホントに珍しいな」
黒がステラに詰め寄り、魔物を良く見してくれと頼んだ。
「でもこれ、呪いですし……橘様も呪われてしまいます…」
ステラが一歩下がると、隣にアイシクルが再び現れ黒に殺気を剥き出しに威嚇していた。
「そうだな……俺は、コレについて多少なり詳しいからな力になれるぞ」
そう言うと、アイシクルは驚きとステラは泣きそうな顔のまま固まっていた。
そして、コレの力にいつ目覚めたのか、これまでの経緯を聞かせてもうなかで、黒はステラの脚に疑問を抱いた。
「ステラ、脚を見せてくれないか?」
「へ?」
ステラは驚きはしたが、魔物について出来る限り知りたく車イスに座り着ていたローブの裾をたくし上げ、白色の綺麗な脚を見せた。
黒は確認するかのようにステラを見ると、顔を耳まで赤くする程真っ赤になっていた。
(やっぱり、昔の経験から魔物を見られるのに抵抗があるのかな?……いや違う、脚を見られるのが恥ずかしいのか)
見ると、ステラは太ももで裾を押さえ付け、その先を見えないように隠していた。
(こんな状況でラッキースケベとか期待できないから!)
黒の直ぐ後ろには、先程よりも殺気を研ぎ澄ましたアイシクルが両手を刃に変え、今にも切りたいのを我慢している様子が見てとれる。
「あの……もういいですか?」
ステラが尋ね、現実に戻された黒はステラ同様に赤面して離れ、ステラに真実を話した。
「それは、呪いじゃなくこの世界に生きる人全てに与えられている力、通称魔物。ステラちゃんは、たまたまアイシクルの力に目覚めてしまったのは良いんだけど……上手く制御出来る歳ではなくて制御出来ず。周りに呪いと言われたのかもしれないね、俺の仲間だと結構な人数いるから安心して、それに、鍛練を重ねれば上手く制御出来るよ」
ステラは嬉しいのか、一本だけ立っているアホ毛を回していた。
「じゃあ、この力はご先祖様から私への贈り物なんですか」
黒が頷くと、背後に現れた強烈な魔力に気付くのが遅くなり、逃げ損ねた。
「それ、俺にも教えてよ」
私服の上から羽織っていたのは、白ローブだった。




