二章四節 下層の音
碧が覚えているのは、暗闇に潜む、多数の白ローブと老婆を従えた。
幼女の姿だった。
 
「塵魔法【捕らわれの塵】」
魔法が解かれ、碧は気が付けば鉄格子の中にいることに。
「おやおや、気が付いたみたいだね」
老婆の一人が碧に近づいてきた。
「貴方達はいったい何なの。何が目的なの!」
手錠に繋がれた鎖を限界まで伸ばし、老婆に食って掛かると。
「司教様。ここが嗅ぎ付けられました」
「予定どうりじゃ、各自持ち場に着いたら作戦通りにのぉ」
「はい、司教様」
老婆の命令を聞こえていたのか、上層がやけに騒がしくなってきた。
碧は老婆が立ち去った後に見張りの目を盗み、手際よく手錠を外し同様に牢屋の鍵を開け、見張りの数名を護身術で制圧しながら上層に上がると。
「人質が消えた、その内ここにも来るかもしれん。警戒を怠るな」
見張りを気絶させたのがバレたらしく、仕方なく下層に向かって降りていると下から助けを呼ぶ声がした。
「助けて……ママぁ」
「怖いよ、出してよ」
下層には、数十人の子供達が鉄格子の向こう側に捕らわれていた。
「な……なによコレ」
碧が子供達に気を取られ、後ろに近づいてきた白ローブの男に気が付かなかった。
 
黒達が馬や飛竜を使い、目的地を目指していると。
「偵察班から緊急連絡、敵がこちらに気付いたようです!」
早馬で騎士の一人がハートに報告してきた。
「わかった、各自作戦通りに。作戦開始!」
両側の騎士達が馬の速度を上げ、森部隊と山岳部隊に別れ作戦が開始された。
「黒、作戦内容は覚えてるか?」
アルフレッタが黒に近づき質問した。
「覚えてるわ!あれだろ、森と山に別れて奇襲と捕縛の両方を可能にする作戦で、俺らは邪魔なやつらを叩きのめせば良いんだろ?」
すると、後ろから黒の頭が石が飛んで来たがすらりと躱すと、飛んで来た方向を睨む。
「アホがぁ、奇襲と捕縛は先に待機しとるだろうがぁ!俺達が率いてるのは、要の突撃部隊。笹草様と紅様が奇襲部隊を率いて突撃部隊が突っ込んで来たと同時に奇襲。そして、逃げた所にハート様の捕縛部隊が捕縛する作戦だったろ。その頭は飾りか?」
「お前こそ何言ってんだ。俺の頭が飾りだったらお前はゴミか?」
ヴォルティナの挑発を無表情で返すと、ヴォルティナの顔はドンドン赤く頬は膨れ上がった。
アルフレッタは二人の喧嘩に頭を抱えていると、山肌に現れた敵のアジトには、多数の白ローブが集まっていた。
  
「来たぞ!」
白ローブの集団が一斉に祈り始めた。
「我々には、司教様が着いてる。野蛮な騎士達に神の鉄槌を、我らが司教のために。我らが世界のために」
集団が先頭の騎士に目掛けて走りだし、注射器型改造ドライバを体に刺すと次々体がガックス同様に化け物に変化した。
数はどんどん増え、獣染みた咆哮は、騎士達を震え上がらしたが。
「ちょっと、ごめんなさい」
泉が馬から降り、騎士の間を通って先頭に立ちここで止まるように騎士達に言い残し。
腰を落とし、抜刀術の構えをした。
それが見えた黒は、見よう見真似の糸魔法で騎士全員を下がらした。
「泉流抜刀術【白袖切り】」
化け物達は地を這う真下からの音速斬撃に反応できず、真っ二つになった。
それを見ていた騎士の一人が呟いた。
「剣術を使う者なら誰でも知ってる……剣聖の一人が使う流派。抜刀術最速の泉流抜刀術、刀を抜けば範囲内全てを切り伏せる居合い切り。まさか、この目で直に見れるとは」
「てことは、貴方様が、泉流抜刀術二代目泉千湖殿ですか!」
黒は、ただ社を守る巫女おばあちゃんと思ったいたため、剣聖と聞いて固まっていた。
「家ってやっぱりただの家系じゃないのかな?」
黒は自分の家族が普通じゃないのではと、思い始めた。
黒達が率いている、突撃部隊と化け物が衝突したのを確認すると、笹草率いる南側と紅率いる西側にそれぞれ合図が送られ、南西から同時に斜面を下り、アジトに奇襲が始まった。
ハートは北側で老婆達を待っていると、アジトに向かって一人の男が歩いていた。
「なんだ……」
ハートは嫌な胸騒ぎを感じていた。
碧は困惑していた、勿論敵のアジト内なのは変わらないが先程まで、碧を後ろから襲い掛かろうとした男が、鉄格子を突き破りながら飛び出した剛腕に捕まり、牢屋の奥まで引きづられて行った。
「大丈夫ですか?」
牢屋の中からか弱い声がした。
「あっ、はい!大丈夫です」
声の方向に反応すると、前にミッシェルと同じ位の筋肉量の男が出てきた。
「えっ……と……」
碧の頭は、突然の出来事にパニックになっていた。
か弱い声がしたはずだったが、目の前に見えるのは、到底女に見えない男だった。
「先程の振動は貴方がやったのですか?」
碧に質問する声は、女性の物だった。
「いえ、私ではないですけど。多分仲間だと思います」
敵には見えないと思い、捕らわれた理由を聞くと。
 
「私の名前は、不殺殺女と言います。以後お見知りおきを」
唐突に聞こえてきた、殺気丸出しの名前にビックリしていると。
「殺女さん……ローブの人達?」
牢屋の中から、車イスにに乗った少女が現れた。
「いいえ、この人は大丈夫よ」
殺女が少女に駆け寄り、碧の前まで連れてきた。
「こんな、粗末な身なりで申し訳ありません」
深々と頭下げ、笑顔を作り感謝を述べた。
「助けて頂きありがとうございます。下層に捕らわれたすべての子供達は貴方に感謝しています」
何がどうなってるのか分からないが、事情を説明した。
「そうだったのですか、貴方もここに捕らわれていたのですか、申し訳ありません。私を助けに来たものかと……」
少女から笑顔は消え、沈黙だけが下層を満たしていた。
「じゃあ、先程の爆発音は?」
疑問を投げ掛けられた碧は、根拠は無いが言いきった。
「私の仲間達が助けに来たのだと思います」
少女や周りに集まっていた子供達に笑顔が戻った。
すると、再度爆発音と地響き。
碧は壁に耳を近づけ、音の発信源を探ろうとしたが、あまりの数に発信源を特定出来なかった。
「仕方ありませんね、音響魔法【大音】」
手で地面に触れ、魔法を地面に向け放つ。
直ぐに地面内に侵入した音は色々な音と混ざり一つの音となり、地上に現れた。
化け物と騎士は双方耳を押さえ、音が止むのを待っていると。
「この音魔法は、碧か!」
碧の合図だと分かると、魔法の出現場所まで跳躍する。
「大音だったら、色々な音を集めて放出する魔法。あのデカさなら戦闘の音以外も入ってる外ずだ。なら、出現ポイントまで結構距離のある場所って……下しか無いか」
黒は鞘から黒幻を抜き、炎を纏った斬撃をアジトに向け放つ。
爆発が下層にまで聞こえ、子供達が怖がっていると。
「大丈夫ですよ皆さん。きっと、助けが来てくれますよ。だから、もう少しの辛抱です」
少女の言葉に子供達も泣くのを耐えた。
「良い子です」
少女が、子供達を抱きしめていると。
「逃がすわけ無かろう……」
老婆の一人が碧の背後から現れ、塵魔法で碧と少女を拘束した。
「この!」
碧が拘束を解こうと暴れるが暴れる度に少女の首を締め付けた。
「動くと、娘の首が折れるぞ?……ウッヒヒヒヒ」
「何て奴……」
渋々碧が腕の力を緩めた瞬間、老婆の塵が碧を更に強く締め付けた。
「小娘風情が調子に乗りおってぇ!」
塵が刃物えと変わり碧に振り降ろされる所で、殺女が後ろから老婆を拘束した。
「碧さん、皆を連れて逃げて!」
「小癪な!」
老婆は杖を振り回すが、殺女の力は強く振りほどけないと分かると、塵で殺女を自分ごと貫いた。
「殺女さん!」
少女の呼び声と共に、殺女は床に力無く倒れた。
「邪魔者は居なくなったか……ウッヒヒヒヒ」
塵を触手の用に操り、子供達に襲いかかったが。
「邪魔だババァ」
上層諸とも黒の斬撃が老婆を切り裂き、瓦礫の下敷きになった。
「子供は大切に……将来ある宝だ」
 
 




