二章三節 力と共に
聖獣連盟大和支部の一室には、禁忌の聖騎士の一堂とリーラ達そして、獅子都藤十郎と孫の紬が集まっていた。
暗く重い空気のまま6時間が過ぎていた。
扉の向こうから誰かの走る音と共に扉が開かれ、白衣を濡らした茜の姿があった。
「碧姉が拐われたって……本当?」
紬が近づき茜を抱きしめると、茜はここまで溜め込んだ涙、大粒の涙を流し泣いた。
支部の屋根に当たる雨の音を掻き消す程に響き渡っていた。
黒は一人、支部裏手の森林で雨に打たれていた。
震える拳は、情けなく無力な己を殴るためか、叫びだして泣き叫ぶのを我慢するためなのか。
すると、後ろから和傘をさした泉おばあちゃんが黒に近づいてきた。
傘をさしたまま立ち、黒の背中を見ていると。
「聞いたよ、碧ちゃんが拐われたってね」
優しい声で黒に話しかけると、黒を振り返らず立っていた。
「泉の婆さんか、情けねぇよな。故郷を飛び出して着いてきた妹二人を守る事を条件に、大和に留まる許可を得たのに…コレじゃぁ……親父達に会わせる顔がねぇよ二人を守るって言ったのに……守れてぇねよ、何で何でだよ。何のための聖騎士だよ!何のための力だよ、妹を守れず…何が黒竜帝だよ!」
傍らの巨大な岩を砕き、巨木を薙ぎ倒し、滝を風圧で吹き飛ばし周りにある全ての物に怒りをぶつけていると。
「甘ったれるなぁ! 何が守るだぁ~碧ちゃんと茜ちゃんを守る?ふざけるな!二人共お前さんに守って貰うために来たんじゃない。お前の力に、なるために来たんだろうが!」
泉は黒を殴り飛ばし、更に胸ぐらを掴み揺さぶった。
「いつまでも男がメソメソすんじゃないよ!泣くより先に行動で示せ!妹達の力を甘見てるじゃないよ、こんな腑抜けに守って貰う程アイツら二人は……弱くないよ!」
「じゃあ、どうすれば良いんだよ!碧を救う術をあんたは持ってるのかぁ!」
叫ぶ黒の前に、札でいっぱいの箱を見せ開けさせると、中には刀が入っていた。
だが、黒は一瞬でその刀を理解した。
「良く出してきたな……こんな物。昔はいくらせがんでも見してくれなかったのに」
刀を手に取り、封印の札と紐を解き鞘から抜き、天目掛けて振ると。
雨雲を吹き飛ばし、太陽の光が黒の頭上を空から照らしていた。
「名刀と言われた時もあり、またある時は妖刀と言われ意味嫌われていたが、その刀を振れば万物をも切り裂く刀。その正体は、社型古代兵器『鬼嶽門』に座す多数の魔物の中の一人【血燐一刀】それが、お前の新しい神器であり新しい魔物。【鬼極丸】だ」
血燐一刀の刀身を眺めていると、一滴の雨水が肉眼からでも解る程に両断された。
「すげぇ刀だなコレ。貰って良いのか?」
刀身を鞘に納め泉婆さんの方に向き直すと、突然目眩に襲われた。
「何だ?コレ、いったい俺はどうしたんだ?」
立っていられなくなり倒れると、そのまま意識を失った。
目を覚ますとそこは、庭園だった。
「何が何だかさっぱり分からん」
すると、黒の後ろから飛んでくる斬撃を躱しながら飛んで来た方向に構えると。
そこには、和服姿の男が血燐一刀を肩に担いでいた。
「誰だてめぇ、粋なり襲いやがって……まさか」
立ち上がるのを忘れ、固まっていると。
「空いた口が塞がらねぇとはこの事だな。がはははっ」
黒に血燐一刀を投げ渡すと、胸を叩き大声で叫んだ。
「我れは、鬼嶽門に座す内の一人。名を鬼極丸、お前さんの血燐一刀に宿る鬼じゃ。今日から宜しくなっ!黒色の竜殿と怪しい妖術使い殿そして、我が主よ」
気付けば目の前は、先程の森林だが、変わっていた事があったそれは。
驚いた泉婆さんの顔に、黒竜の15本中12本だった楔が10本になっていたこと、そして。
右手に黒幻左手には血燐の二刀流の状態は俺の体から湧き出る魔力が俺を昂らせる。
皆が集まる支部の一室に急いで向かい、今後について話そうとしたが。
「碧姉を助けるために、まずは相手を知らないと。相手の詳しい身なりと能力それと、ここ数ヶ月で戦闘街で改造ドライバを買った人間の情報を調べれるだけ調べて。あっ後、それらしい人影人相を見つけたら逐一報告、わかった!」
はいっ!
支部の職員全員を動かす茜の姿を見ていた黒は、泉婆さんの言葉を思い出した。
「だろ?お前が考えてるより二人は強いんだよ」
泉が部屋に入ると同時に、安堵の息を吐き黒も血燐を腰の剣帯に差し室内に入っていた。
「昔に比べて、頼もしくなったじゃねえか……」
翌日、捜索部隊と情報部隊の情報が送られ情報によると、邪馬国から南西にある国を一つ通り過ぎた先にある山の中に塵の集団に酷似した者を発見とのことだった。
黒は急ぎ出発の準備をしていると、レックスが黒の手を掴み動きを止めた。
「何をしている、これから決勝進出者と推薦枠発表があるのだぞ。勝手な真似は慎め。妹探しなら他の連中にやらせろ」
レックスが黒を連れて行こうとすると。
「俺の推薦枠なら、コイツらで十分だ。唯一俺に着いてきた騎士はコイツらだけだしな」
指差した先には、リーラ、愛莉、渚、三奈の姿があった。
「黒!お前は……」
レックスの言葉を遮る用に黒がため息を溢した。
「レックス、お前は直ぐに人の邪魔をする。俺が聖騎士団長だからか?だから、俺の邪魔をするのか?」
レックスは、黒の発する魔力に怯えあとずさると、壁に凭れ掛かった。
「邪魔だ、邪魔するなら切り捨てるぞ…」
黒幻を突き出しながら警告すると、レックスは腰が抜けたのか固まっていた。
「黒はいったいどうする気なのかな?」
ハートが扉の前に立ち塞がり、片目をつむって尋ねた。
「ハートお前も邪魔するのか?」
「いやいや、まさかぁー黒と正面からやり合ったら死んじゃう死んじゃう」
手を振りながら、笑っているハートを黒は邪魔だと言わんばかりに睨むと。
「たったの一人で乗り込むのかよ、黒」
「全く、連れないねぇ傷付くよ。一人だけ暴れようなんてさっ」
「別にお前に協力しようって訳じゃねぇからなそこは勘違いするな」
「一人で多くの傷を負うより、皆で分け合った傷の方が軽くて治りやすいんですよ。黒様」
ハートの裏には、アルフレッタに美月そのまた後ろにはヴォルティナと笹草がたっていた。
「何だよ、着いてくんのかよ。まぁ、好きにしろただ知らねぇぞ死んでも」
黒が鼻で笑うと。
アルフレッタが肩を組み。
ハートが背中を叩き。
ヴォルティナが中指を立て。
美月がお菓子を分け。
笹草が救急箱を片手に。
黒と並んで、歩き出した。
「さぁて、俺らを敵に回したらどうなるか教えてやるか」
ハートの呼び声と共に支部の扉が開けられた。
後ろからこっそり着いてきた茜は、昔の黒の騎士団『黒焔騎士団』を思い出していた。
「さて、相手さんはどう出るのかな?」
黒は楽しそうに笑みを浮かべた。




