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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
一章 漆黒の楔編
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一章三節 騎士団とドライバ


 状況はいたってシンプル。


 周囲を囲むように配置された生徒からは、尋常じゃないほどの殺気を感じる。

 一人一人の殺気はそれほど大きくなくとも、それが何本も束になれば、とんでもな質量となる。

 その中には、本物の殺気を出している者も数名見てとれる。


 (星零を潰しに来た事に、本気で怒ってんのか……俺の調律魔法の被害を受け、それに怒ってる。その2択だな)


 中庭に立つ黒は、先ほど理事長に放り投げられた部屋から少し離れた場所を見詰める。

 そこは、黒の調律魔法の影響で壁崩れており、崩れた壁は下の階にも影響が出ていた。


 当然と言えば当然だ。

 ただのコンクリート材が蒸気による爆発を受けておきながら、上の階だけ壊れるなどと都合の良い事があるはずもない。

 だが一番の理想としては、上の階だけ吹き飛ぶ事が望ましい。

 三階の瓦礫が二階へと落下し、その下敷きになる生徒がいてもおかしくはない。


 だが、それを許す理事長ではない。

 自分が調律魔法を使う事など、お見通しだろう。


 それに、そんな事で殺られていては騎士としてまだ甘いと言わざるをえない。

 黒が懐かしいそうに、星零の校舎を見詰めてからその場で円を描くように回り、周囲の生徒一人一人に目線を送る。

 すると、巨大な斧を持った筋骨隆々な男が黒の元へと歩み寄って出て来た。


 「ここにいる奴等が騒ぎまくってる。侵入者ってのは、あんたで合ってるんだよな?」

 黒の倍以上の身長と筋肉量を持った男が、鉄のような固さを持ってそうな筋肉を脅すように動かして見せる。

 つり上がった頬から覗く、鋭い犬歯は良く手入れをされている。

 「ああ……俺が侵入者だ。と言っても、理事長のババァに呼ばれただけだけどな?」

 黒が自身は理事長に呼びれただけの存在が、なぜこのような面倒事になってしまったのか分からない。

 すると、男が黒の正面に向かって物凄い速度で間合いを詰める。



 「この学院で最も力を有している理事長を『ババァ』呼ばわり……殺すッ!」

 力強く降り下ろされた斧は、中庭に設置された風情ある岩を粉砕し、花壇は捲れ上がる。

 地面があまりの衝撃に盛り上がり、傾いた地面はその男の力を見せ付ける。

 「いや、すげぇな。俺がもう少し速く動けてなかったら、死んでたかもな?」

 「調子に乗るなよ? お前をボコボコにしてから、星零学院が誇る『魔導ボクシング部』のサンドバッグとして有意義に使ってやるよ!」

 男は地面にめり込んだ斧を片手で引き抜き、再度黒に向かって間合いを詰める為地面を蹴る。

 幾度と無く男は黒に向かうが、黒は男の肩や腰を軽く押すように男の方向を変える。

 しかし、男もその都度黒を狙い続ける。


 

 「なかなか、いい筋してんな。正直驚いてるよ」

 「…そうか? でもな、侵入者何かに言われても…嬉かねぇよッ!」

 男は斧を器用に持ち替え、黒の足下を潰しに掛かる。


 「あんたも、結構逃げるな。逃げ足だけは、俺の力と同等か?」

 黒は男の猛攻を避け続け、男が腰に携帯していた小型なナイフを奪い取る。

 男は助走からの瓦礫を利用した跳躍で、頭上から黒を仕留める。

 真上を見上げた黒は、丁度男に重なった太陽の日光が眩しく目を一瞬背ける。

 その、隙を付いて男は黒の後頭部を踵で蹴り、体勢が崩れた黒の溝内に斧を叩き込む。

 男の斧は、黒を捉えたままフルスイングで黒をその場から吹き飛ばす。

 黒の両足は地面から離れ、男の腕力と遠心力で黒を校舎の二階まで飛ばす



 「…ッ!…あの位置から、二階まで相当距離あるぞ。化け物かよ全く……壁が鉄だったら死んでたぞ? ボケッ!」



 壁に直撃する手前で、黒は男から奪い取ったナイフで壁を切り壊し直撃を避けた。

 だが、衝突する前に壁を壊したが、男の力が入っていた衝撃は和らげなかった。

 黒の腹部からは、生暖かい液体が服を滲ませる。


 「俺、回復系の魔法苦手なんだよな……」

 黒は腹部と左手全体に魔力を集中させ、腹部の治癒をはじめる。

 しかし、相手が傷の手当てを待ってくれる筈がなかった。


 「中々やるじゃねぇか。と言っても、あれ位でくたばってたら雑魚過ぎて話しにならないけどな」

 男は、片手で大きな斧を振り回しながら、こちらに近づいて来る。

 斧を片手で楽々扱う様に、黒は『この見た目で、俺より年下なんだよな?』と彼の年齢詐称を疑う。

 見た所、強化魔法を使って体を強化した訳じゃない事が分かる。

 もしも、彼が身体強化の強化魔法を施した状態で、あの斧を振り下ろせば、辺りの校舎をいちげきで破壊する事が出来るであろう。

 現在の星零学院は、黒の破壊した場所と目の前の男が破壊した箇所を合わせれば、不安定な地盤と数ヶ所の壊れた壁。

 そこから、亀裂が入れば簡単に学院を瓦礫の山へと様変わりしてしまう。



 ――それは、何としても止めないといけない…


 「――そっちが来ないなら。俺から行かせて貰うぜ!」

 男が斧を掲げたと思うと、徐々に斧が真っ赤に色付き蒸気を発した。

 「――止めろ! バリッス!」

 「――あ?」

 正面に立つ、筋骨隆々の男を『バリッス』と呼び。

 その場で停止するように命令したのは、二刀の剣を腰に下げた青髪が特徴の女子生徒であった。


 「…俺に命令するな。カホネ!」



 両者共にどちらも手練れだ。

 今の所は、二人してちょっとした口論に発展しているがそれでも隙がない。

「――面倒な事になってきたな。早く終わらせないとな……」

 何とか隙を口論している間に治療を完了させた黒が起き上がると、目の前からバリッスの姿が消えていた。




 「早く終わらせれるもんなら、やってみろ――」


 その声が聞こえた時は、もうバリッスが黒の後ろに回り込んでおり、黒の首筋には斧の刃が触れていた。






 「…直ぐにドライバの準備を」

 理事長がそう言った。

 「ドライバを…出すのですか?」

 秘書が遠目から黒とバリッスの戦いを眺める理事長に再度尋ねる。



 秘書が驚くのも当然だ。

 ドライバとは、かつて日本とアメリカが共同で造り上げた産物である。

 異形と戦うには古代兵器が一番だが、古代兵器は数が少なく適合者がいなければ使う事が出来ない。

 だが、ドライバは違く古代兵器をベースに適合しない者でも使う事が出来る兵器を造り上げた。


 『対異形特別小型武装』通称【ドライバ】


 それが完成すると、古代兵器を動かす膨大なコストが削減され、その有り余ったコスト等を使って各々国の防衛費に当てることで異形によって死傷者が格段と減った。

 そして、ドライバを使うことに長けた人材を作るため、騎士団にドライバを使っての戦闘訓練。

 そして、次期騎士を目指す特別な学校にも、ドライバが使われるよう成り始めた。


 だか、ドライバは異形に対しての圧倒的殺傷能力ではある。

 だが、それは人間も同様であった。


 裏ルートから手に入れたドライバによって、日々はね上がっていく犯罪率の三割がドライバ絡みの事件であった。

 学校側でも使用を極力避けて、騎士候補生にのみドライバを使用した模擬戦闘訓練が実施されている。




 そんな代物を、たかが侵入者一人に使うと決意した理事長に対して、学院の教員達が理事長の決断に反論する。

 「理事長先生、気は確かですか? お言葉ですが、騎士団候補生の子達もかなりの手練れ、あの少年一人に負けるはずがないかと思われますが」

「――黒髪の侵入者。あの子は私のところで修業した弟子の一人なんだよ」

 「まさか、この学院の首席騎士候補生のリーラさんと同じ…! 理事長の弟子なのですか……」

 周囲の教員達は黙り込み、なぜ侵入者ごときにドライバを使用するのを許した要因を知る。

 

 「では……ドライバ使用者は、リーラさんで宜しいですか?」

 理事長が静かに頷くのを確認すると、1人の男性教員が端末を開く。


 「――リーラ・ファルナデス。……入ります」


 ほどなくして理事長室の扉が開けられ、三つ編みの眼鏡を掛けた女子生徒が入室する。


 「貴女に、コレを預けます。くれぐれも扱いには気を付けて下さいね?」

 「そんな、まさか! あの侵入者に使うのですか!?」


 そう言ってリーラに渡されたのは、黒色のジュラルミンケースに入った『手甲』が厳重に保管されていた。







 その頃、中庭ではバリッスが力を込めて振った斧を黒が右手1つで軽々と止めた光景に、二人を取り囲むようにしていた生徒達が驚きの表情でその光景を眺めていた。


 「なッ……! 何で俺の斧を軽々と止めてやがるんだ! さっきまでとは比べ物にならない程の力を込めたんだぞ!?」


 「ッ! 止めろバリッ―――」

 カホネの静止を聞かずに、黒目掛けて拳を向けて殴ろうと斧から手を離した瞬間。

 黒がその場で体を捻り、バリッスの脇腹に裏拳を叩き込みバリッスの体の中から鈍い音があちらこちらから聞こえる。

 バリッスの口から大量の血が吹き出し、黒が立つ中庭から校舎の三階の壁突き抜け、理事長室近くの一室へと叩きつけられた。

 

 「これで、うるさいのは黙ったか…?」

 黒の左手全体を覆っている赤黒い雷が、静かに収まる。

 カホネや周囲の生徒達は、理解した。



 『この男は本気ではない』始めから加減をして、自分達の相手をし続けていた男が、一瞬だけ力を見せた。

 つい先程までの生徒達の見解では、ただの『侵入者』だった。

 しかし、現在は目の前の男に恐怖し、逃れられない程の()()なのだと今頃理解した。



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