二章二章 塵の老婆
トーナメント表が、広間に貼り出され多くの候補生徒が集まっていた。
一回戦から白熱した試合が次々と会場を沸かした。
「まさか、優秀とは聞いていたがここまでの猛者揃いとは、ハート殿あの候補生徒何てどうでしょうか?」
ハートの左下に座る騎士団長が炎系統の魔法を操る候補生をしつこく勧めていた。
「いやいや、貴殿の団の方が彼女の力を出しきれるでしょう。私の所は遠慮しときます」
「ハート、候補生を前に遠慮しますは無いだろ……せめてもう少し考えるとか話題を逸らせよ」
黒はハートの微妙に棘のある言葉にフォローを入れつつ、試合を観戦していると、隣の美月が何故か気になってしまう。
「なぁ、美月」
「何?黒君」
長い沈黙が続き、意を決して美月に問いかけた。
「なんだよ、その巨大なチョコレートパフェ」
美月の手には、ガラス製の器にタワー状になったパフェが黒を見下ろしていた。
一段目にはチョコアイスが敷き詰められ二段目に数種類のフルーツゼリーとコーヒーゼリーが交互に入れられその上にスイカ半、ミカン数個、イチゴ6個、他にも色々な果実が乗り、これでもかとホイップクリームがトッピングされていた。
10人分位の量を美月は一人で頬張っていた、試合そっちのけで。
(これが、評議会主催の大食い大会を出禁になった王者の胃袋か、それにしてもよく食うよな。なのにスタイル良いいから美月の体は不思議過ぎる)
「ねぇ黒、今私にとっても失礼な事考えてたでしょ?」
美月は黒の目の前にスプーンを突き付け、徐々に迫ってきた。
「まさか、ねぇ?」
黒は目線を逸らしながらスプーンを押し返す。
いつの間にか、観客の熱気は最高潮に足しっていた、拳や剣がぶつかる度、魔法と魔法の打ち合う最中でも観客の拍手喝采は止む気配はなかった。
数が多くの激闘が繰り広げられ、その中の猛者達が予選を勝ち続けた。
その中には当然三奈と愛莉の姿があった。
「予選決勝進出でーす。イエイ」
愛莉はリーラ達の待つ控え室の扉を勢いよく開け、ピースしながら満面の笑顔だったが、三奈がすれ違い様に走り出した。
「ねえ、どうしたの。三奈も飛び出しちゃったけど」
すると、リーラがモニターを指差すと映っていたの映像は、三奈の弟。
渚の試合中継だった。
愛莉の試合が終わる一時間前……
「渚候補生は果敢に挑むが、ガックス候補生の魔法に苦戦してる模様だ!」
実況者も観客の熱気に当てられたのか場を盛り上がらせるためなのか、モニターにもその熱気が伝わってきた。
渚は薙刀に魔力を纏わせ、ガックスに詰め寄るため薙刀を巧みに操りながら迫り来る土壁を薙ぎ倒し進んだ。
「良いよー良いよー、おもしろくなってきたよ。俺をもっと楽しませてくれ!」
ガックスが指を鳴らすと、土埃が巻き上がり渚の周辺を囲み下から突き上げらる土柱を避けれず、正面から食らい倒れたところを両サイドから迫る土壁に挟まれ、渚の体は鈍い音を立てた。
「ぐっわぁぁぁぁぁ!」
渚の悲痛に満ちた叫びを聞き、ガックスは髪をかきあげ渚の叫びに酔いしれていた。
「おっと、もっと叫んでくれよ」
そういうと、立ち上がろうとした渚の右腕を折り再度叫び声を挙げさせた。
「最低な奴だな……」
ハートは真剣な表情でガックスを見ていたが、一人の騎士団長が彼を団員にすると言い出した、すると。
「バカなのか、ただ強い奴を勧誘したなら戦闘街に行ってこい。あそこなら、お前じゃ歯が立たない強者しかいないからな」
大半の聖騎士団長は位が高い貴族と言った者がなる印象が強かった。
現在の聖騎士は家柄を気にした親がより名声や地位、金を欲するため政略結婚等と同じ要領で聖騎士も名前欲しさのただの『場所』だった。
小さい頃から自分の子共を立派な聖騎士と言う『称号』欲しさに毎日のように特訓させられた者がそうだったが、ハートは違った。
ハートの生まれは、劣悪だった。
絶え間なく人が死ぬ所、殺人犯や手配書に載る程の凶悪犯がひしめく街『戦闘街』そこは、子供が育つには余りにも酷い環境だった。
だが、ハートはその中で上を目指す方法を知っていた。
他者より強く、他者から奪う、他者から奪われないようにハートは喧嘩に明け暮れた。
家に帰れば親大切にする家族思い、外に出れば戦闘街を占めていたグループのリーダー。
そんな環境で根付いた観察眼、それは聖騎士になった今でも、ハートを絶対王者にする根源であった、そのため他者の考えを見抜くと言われていた。
そして、ハートは見抜いた。
ガックスは聖騎士団が集まる中で一人、騎士になるためではなく、ただ強者と戦いそのためだけに候補生徒になっていた。
ハートは少し違和感を覚えたが、試合は続いていた。
強くありたい、強くいれば楽しいことやオモシロイ事で道溢れているでも、弱いとイタメツケラレ奪われる。
だから強くアリタカッタ、モット力がホシイ。
モット倒して殺して、タベタイ。
そして現在に至る。
「もっとモット、力が……ホシイ!ダヨリモ……強い力がホシイィ!」
ガックスの感情は徐々に壊れていき、遂に顔が膨れ皮膚が破れ体全体が肥大化すると渚を掴み口にいれようとした。
「弟を食べるなぁ!」
三奈が涙を堪えつつ刀を取りだし斬りかかろうとしたが遅かった。
三奈がたどり着いた時には、渚は化け物のに丸飲みされていた。
「そんな……そんな」
三奈は刀を持ったまま膝から崩れ落ちた。
「女クウ、力がモットイル」
三奈に手を伸ばそうとした瞬間、ガックスの腕が切り落とされた。
「試合は、終わって無いぞくそ野郎……」
ガックスの顎を砕きながら、渚の腕が見えた。
「姉さんに手を出すなぁ!」
ガックスの上顎と下顎はキレイに別れその間から渚は出てくると、三奈の刀を手に取り、ガックス一刀両断した。
ハート達禁忌の聖騎士も席を離れ会場近くまで降りてきたが、ハートは険しい表情だった。
「どうしたんですか、ハート様?」
笹草が尋ねると、ハートは爪を噛みながら答えた。
「ガックス候補生の体は魔法出てきた特殊装甲だ。戦闘街で取引されていた、改造ドライバだ。」
それを聞いた途端、紅とヴォルティナは飛び出しガックス目掛け魔法で拘束した。
「水魔法【泡色の箱】」
「土魔法【砂の鎖】」
ガックスの体全体を砂の鎖が縛りその上から更に砂が覆い被さり、水の箱がガックスを砂諸とも閉じ込めた。
「今のうちに候補生は避難を、これは試合何かじゃありません」
笹草の言葉を聞いた渚と三奈は笹草の近くに寄る。
「ダメ……もう持たない!」
「くそっ、このデカブツどんどんでかくなっていくぞ」
二人の拘束が解け、怪物はどんどん大きくなり、会場の屋根を壊すところで首が切れ崩れ落ちた。
「笹草さん、彼の手当てをお願いします」
ガックスを抱き抱えた男は、笹草にガックスを任せハートに近づいてきた。
「これで今日の試合は終了である。直ぐに自分の寮また家に帰るのだ!」
ロングソードを鞘に納め、ハート達を見つめそして聖騎士団を見て回ると。
「侵入者一人見逃しあまつさえ生徒に被害を及ばすとは、何事だ!」
大声を挙げ会場全体に響き渡っていた声に耳を押さえていた美月とヴォルティナの後ろから黒は。
「るせぇ、遅れて来た奴がどなり散らしやがって。称号『破壊剣』のレックス・ヴェルナーチ」
「黙れ、黒竜帝貴様から破壊するぞ」
剣を握り、鋭い見幕で黒を見つめるレックスだったが。
「どういう訳だ、竜の妹よ」
レックスの背後には、銃を突き付けた碧の姿だった。
「おい、碧」
黒は止めようと手を伸ばそうとしたが、碧が腰から出した拳銃に右足を撃たれた。
「ッう!」
倒れた黒を助けるため、ハートやアルフレッタが飛び込むがレックスに止められた。
「辺りを見ろハート、私達は囲まれている」
会場全体を覆い隠す程の老婆、ハートはあることを思い出した。
「お前らが、ガックスに改造ドライバを渡したのか?」
ハートは老婆を睨むと、返答の代わりに碧が口を開けた。
「そうだ、我々の理想の為あの小僧とこの小娘の体を借りたまで。まぁ、小僧に至っては使い物にならなかったがな」
老婆の一人が黒に近づき笑みを浮かべ衝撃の言葉を述べた。
「この小娘、碧と言ったか?こやつは汝に嫉妬していた。圧倒的な魔物の力を持つ兄と類い稀な頭脳と発明家の妹。だが、当の本人は何も無いただの竜人族、嫉妬していて当然だな。だから我らに漬け込まれるウッヒヒヒ……」
黒は、老婆に掴み掛かるが塵になって消えいつの間にか碧も消えていた。
「…黒……」
ハートが手を伸ばすが、黒は地面に落ちていた碧そっくりな人形を掴み泣き崩れた。




