一章最終節 六と7
ハートは絶望していた、目の前には血だらけの黒。
泣き叫びながらも兄の名を呼ぶ碧の姿が昔の自分と重なった。
  
「お前が殺ったのか!」
アルフレッタが両手を赤く染めた暁を向き、犬歯を剥き出しにするほど歯を食いしばると、両手に纏わせた炎を球状に変え暁目掛け放り投げた。
横に躱わす瞬間に、両側からヴォルティナと紅の魔法が襲う。
「水魔法【水槍】!」
「土魔法【石柱】!」
水の槍が列を成して暁の全方位から放たれ、槍を追うように地面や校舎から伸びた石の柱が暁を挟み撃ちにした。
  
「どけお前ら!炎魔法【煙火】」
アルフレッタの拳が熱を帯び、突きだすと同時に火の粉が暁の周りを囲み徐々に赤く光り、石柱諸とも暁を吹き飛ばした。
暁を襲う魔法の数は徐々に激しさを増していた、アルフレッタの炎と爆発ヴォルティナの土と石美月の水、威力は何れも対したことはないが暁にとっては魔法を放つ事ましてや魔力を操作する時間すら無かった。
いや、三人が暁にその時間を与えなかった。
「お前らの魔力惜しみ無く使えよ!」
「わかってるわ、ボケ!コイツの魔法は何かあるって知っとるからな!」
アルフレッタに暴言を吐きつつ、柱を出し続けた。
「何で、そう思うの?」
美月が傾げながらヴォルティナに聞くと。
 
「あの、黒がこんな奴に簡単に負けるわけ無いだろ……禁忌の聖騎士の中で黒に正面から殴り会える奴居るか?アイツ以上に武力が上な奴に会ったことがねえ……つまり、アイツが武力で負けるわけが無いなら、後は魔力しかないだろ。」
ヴォルティナの柱が徐々に増え遂には、暁の周りを囲み、逃げる隙を与えない程の石柱が暁の上空から降り下ろされた。
「お前見たいな奴が、黒に勝てるわけ無いだろ!」
猛攻が続くが、不意に三人の意識が朦朧とし始めた。
「なっ!何これ!?」
「二人とも手を掴め!」
アルフレッタが二人を掴み跳躍しようとするが、三人の足元が崩れ意識諸とも暗闇に消えていった。
「なっ、何をしたのですか!」
笹草が暁にレイピアを突きつけると、笑みを浮かべながら振り向き瞬時に笹草の背後に回ると、笹草の首を掴み持ち上げた。
「弱すぎる、あぁ弱すぎる!」
脅威染みた笑みは、笹草を震え上がらせるのには、十分だったが。
 
「やっぱり、黒ちゃんとハーちゃんは別物だよぉ」
暁は、全身を魔力で覆ったハートと血だらけの黒に拍手しながら近づくと。
「そう言えば思い出した、僕達は宣戦布告に来たんだった……こんなお遊びしに来たんじゃなかったや」
一歩一歩下がる暁をハートが巨剣で貫こうとするが、暁の前に現れた大男がハートを叩き潰した。
「おい、ギャラハ!コイツら弱いぞ!食べて良いか?」
「止めときなベイド、腹壊すよコイツ食ったら」
大量の人骨を腰やら背中に背負っているベイドを同じ衣装のギャラハが止めると、暁が二人に助言をした。
「君らが思ってるより、二人だけは強いよ」
「はぁ?」
ギャラハとベイドが首を傾げた瞬間に、ハートがベイドの首元を掴み上げ、そのまま地面に上半身を埋め込み、ギャラハがハートに切り掛かろうと飛び付いた所を黒の蹴りを鳩尾に食らい、倒れた所を黒の拳がギャラハの顔面に降り下ろされた。
「やっぱりそうなるよね、僕は宣戦布告したし帰るよっ!今度は強くなった二人と遊ぶたいな」
暁の立つ空間が捻れ、いつの間にか暁は消えていた、同じくギャラハとベイドも。
「やられたな……黒」
「あぁ…めっちゃんこにされた…」
その後、駆けつけた聖騎士によって周辺の警戒や事後処理が行われた。
星零学院の校舎が半壊してしまったが、学長が言うには。
「禁忌の聖騎士と黒とハートが暴れて半分残ったんなら良い方だよ」
半壊で済んで良かったのかは分からないが、宣戦布告を受けてから三週間が過ぎた日の事だった。
リーラは、机に頬杖を着いたまま空を眺めていると、不意に後頭部を叩かれ、叩かれた方を向くと。
「リーラさん、騎士に選ばれたとしても貴方はこの学院の生徒!生徒は勉強が第一です。では、リーラさん『神器とは何か』『神器の主な形成物質』を答えてください」
先生の指名を受けたリーラは眼鏡をかけ直し立ち上がり、質問に淡々と答えた。
「神器とは、唯一異形種に対抗出来る兵器である古代兵器の核から現代の技術力で造り出された、いわば、現代版の古代兵器です。古代兵器の製造者は古の異族の中でも特に魔力操作に特化した者が作ったと言うのが最近発見されました。神器の主な形成物質は、鉄以上の強度を持つ金剛鉄と朱羅鉄、魔力の影響でも変形しない、塩化銀凝石が主な形成物質です。」
リーラが席に座ると、隣の愛莉が話掛けてきた。
 
「リーラちゃんは、何を考えてさっきまで上の空だったの?」
愛莉の質問に愛莉は驚きを隠せなかった。
「何で、暁って人は。宣戦布告だけして帰ったのかな?私達より優ってたのに……」
愛莉がリーラの問に答えようとした時。
 
教室の電子黒板に学長が映し出されると、学長が驚きの提案を述べた。
「星零学院の騎士候補生の諸君には、あるチャンスが訪れた。君達には、他校の騎士候補生と試合をしてもらう」
余りの突然の提案に生徒達が驚いていると。
「だが、試合をするだけでは意味がない、という訳で好成績を残した生徒は現役聖騎士団長からの推薦枠を与えよう。その後は当然だが、団員又は見習いだが、確実に聖騎士の仲間入りが決まる、推薦枠は少ないが存分に己の全て力を騎士団長に見せて欲しい」
学長の話が終わると同時に各地から歓声や叫び声が聞こえてきた。
「愛莉ちゃん凄い事になったね!」
リーラが愛莉の方に向くと。
「これで、禁忌の聖騎士団の仲間入りが決まる……やったぁ!」
小さなガッツポーズをしている愛莉を一人にしてリーラは電子黒板を見ると、不思議な事に気付いた、映し出された映像には、禁忌の聖騎士の六人が映っていたが、六人に対して。
「何で、禁忌の聖騎士って六人なのに、席が七つもあるの?」
そんな疑問を抱えていると、後ろから疑問の答えが返ってきた。
「元々、禁忌の聖騎士は7人の団長が率いる七つの騎士団が合ったんです。今現在空席の第七席は一席と三席の同等又はそれ以上の最強と謳われた騎士
人は、彼女を讃えた。
人は、彼女を愛した。
人は、彼女に敬意を表した。
人は、彼女をこう呼んだ。
彼女も、自ら呼んだ。
最強の騎士、称号『難攻不落の戦乙女』天城未来」
 




