一章二十六節 三日月色の黒
彼の名前は、ゲダルト・ウォン。
家がお金持ちであり、幼少期に会得した魔法【糸魔法】が特別な物であると知ってから彼は、調子に乗った。
騎士団育成学院では、主席を取ったのは自分の実力ではあっただが。
学院卒業後、直ぐに『金騎士』の適正テストをトップで合格。
他者を操り適正テストや学院の合格をコントロールしたのは全ては、高度な糸魔法の恩恵や親の金であった。
ゲダルトはこれまで、糸魔法を使った人形での戦闘により、自分以上の敵とは真正面から戦った事は無かった。
そのため、黒が圧倒的な脅威に感じた。
「ずびまぜんでじだ」
ゲダルトの足を持ち上げられた状態で謝ると、気を失った。
内心やり過ぎたと後悔している黒の頭に大量のぼた餅達が空間の裂け目から降ってきた。
「どうしたんだ、お前達?」
ぼた餅は、黒の周りを走り回りながら何かを訴え掛けてきた。
「兄様!いつになったらこの空を直すんですか!真っ赤な三日月なんか出して」
腰に手を当てた碧が少し怒った表情をしていた。
「なんの事だ?真っ赤な三日月何か出して無いぞ。ましてや制限掛かってんだし出せないから」
笑いながら空を見上げると、黒の目に入ったのは。
屋上に建てられた、戦乙女の銅像に立つ人影だった。
「確かに……じゃあ一体誰が?」
碧が三日月を見上げながら考えていると、突然黒が碧の腕を掴み学長に向け放り投げた。
学長が碧を受け止め、碧が顔を真っ赤にしながらスカートを直すと、黒を思いっきり睨むと。
黒の表情が邪馬国で見た顔より、殺気だっていた。
「……兄様?…」
恐る恐る、兄に近づこうとすると、学長の手が碧を掴み、結界の中に入れられた。
「ここから出ては駄目よ」
学長の真剣な顔にあることに気が付いた。
「まさか……!」
「よぉ……二年ぶりだな……暁ぃ!」
黒が黒竜の魔力を威嚇がわりに発すると、暁が。
「久しぶり、黒ちゃん未来は元気?」
暁が口にした言葉が、黒の殺意をよりいっそ強くした。
「未来は元気だって?」
徐々に黒の魔力が高まり遂には魔物に刺さった楔すら亀裂がはいる程の魔力に達した。
『おっ……落ち付け、黒ぉ!これ以上魔力が高まったら楔の封印が解ける!』
黒竜の首には、大小合わせて15本の楔が刺さっているが、現在の黒は、15本中3本をコントロールしているため封印されているのは12本であるが、残りの楔の魔力は強大なため同時に解ければ黒の体ですら、ただではすまない。
「未来は……未来はお前が殺したろだろうがぁ!」
黒の怒りが頂点に達し、楔が数本弾けた。
暁の立っていた銅像が黒の跳躍と同時に砕けた。
「わぁ~スッゴォイ!あっはははははは!」
砕けた破片を足場にしながら黒との空中戦の火蓋が切られた。
評議会では、調査団や学者が作戦本部を行き来していた。
「異形達の動きは!」
「以前、ありません!」
会議室の扉が開かれると、一際目立つ男が本部の前をうろうろしていた。
「緋音様、現状から考えてやはり。南の陣営に戦力を集めた方が良いのでは?」
「ありえん!そんな事すれば、東側の陣営が崩壊してしまう。何としても異形種が動き出すまでに全ての陣営に等しい数の兵を配備させるのだ。良いな!」
緋音が命令を出すと、各々が各陣営に作戦や状況の通達が始まった。
指令室では、現役聖騎士団長のみの作戦会議が行われていた。
緋音が軽く深呼吸をして緊張を和らげ、聖騎士の集まる会議室の扉を押し開けた。
「やはり、禁忌の聖騎士なんぞ。野蛮な輩の集まりだったな」
「何だと、もう一度言ってろ!お前の騎士団吹き飛ばすぞ!」
ヴォルティナが机から身を乗りだし、相手に掴み掛かろうとした所で、アルフレッタが止められた。
「落ち付け、ヴォルティナ。ただ俺達の力に嫉妬してるカス共の戯れ言だ」
相手を睨みながら机に足を置き、向かい側の聖騎士長達を挑発する。
「こんな輩達と作戦など出来るか!私は降りる」
「私も」
「自分も」
次々と、聖騎士達が指令室から出ていき、指令室は禁忌の聖騎士のみとなってしまった。
「コレは、どういうことかな?……」
ハートが指令室に入ると、見馴れたメンツだった。
「何で、聖騎士がいないのかな?仲良く出来ないのかね……」
ハートは密かに他の聖騎士との中の悪さに頭を悩ませていた。
「自分らより弱い奴と馴れ合う気はないですよ、ハート殿」
アルフレッタがハートの方に向き直すと、隣のヴォルティナがポケットからキャンディを口に入れながらアルフレッタ同様にハートに意見をした。
「弱い奴が足を引っ張って貰っちゃ困るだよねぇー」
ハートが仕方なく、ヴォルティナから貰ったキャンディを舐めていると、扉が開かれ、笹草と紅が入って来た。
「あれれー。他の聖騎士達は?やっ、待って察したから」
察した美月は、アルフレッタとヴォルティナを交互に見ると仕方ないと心の中で思った、右に同じと、笹草も目を閉じたまま溜め息を吐いていた。
そんな、思った事を言葉にする二人には、仲良くしろ等と言っても意味がない。
すると、指令室の扉を押し開けた研究者が息を切らしながら恐る恐る報告を述べた。
「……まさか、暁が出てくなんてな……黒の安否が心配だ」
ハートの後ろには、炎を纏ったアルフレッタ、ゴーレムの肩に座るヴォルティナ、地上を這う水の上を滑る美月、突風を操り空を翔る笹草。
ハートは、奥歯を噛み締め報告にあった星零学院に急いでいた。
「頼む……黒っ!自分を保っていてくれ!」
報告では、星零学院に高密度な魔力を観測。
二年前と同じ、灰塵ノ廃墟事件同様に黒の識別魔力が、魔物に反転。




