一章二十四節 霧の弓
病室の窓から見える空は、少し眩しい太陽が輝き鳥達や草木が囁いてる音が歌を歌って様に聞こえてくる。
碧が入院している病院は邪馬国屈指の病院施設であり、施設面積は広大で山一つを切り開いて造り出されたため、施設の一部が谷底に建てられていたり山の中にまで施設が造られている。
病院の下の階層では、研究施設が造られてあるが未だ改装工事や更には、隣の山の中にまで通路を繋げ施設を増やしていた。
「茜ちゃんよー」
「何に何に黒兄ちゃん?」
黒と茜が研究施設の最下層に繋がる螺旋階段を並んで降りている最中黒は、螺旋階段の脇を流れる滝を眺めていたが気付けば黒の頬は引きつっていた。
 
「この施設だけにどれだけ金使ってる?」
黒が恐る恐る聞くと、茜は指を四つ立ててニッコリ笑った。
「四十万位か?」
「四兆位です」
茜の口から出た数字にビックリしていると、目の前から大量の書類や資料を抱えた研究員が階段を凄い速さで下りていった。
 
「所で、兵器の解析はどうなったんだ?茜」
黒の質問に無表情になったと思ったら研究員同様に階段を駆け下りていった。
「…忘れてたのかよ……」
仕方なくと言うか、少し心配になり最下層の研究室の扉を開けると、茜や研究員が兵器を解析していた。
形状は、至って普通の金属片が特殊な液体に入っていた、研究員の一人が茜に書類を提出していたのを見つけ近付くと。
「あっ!黒兄……ちょうど良かった。リーラちゃんを連れてきてくれないかな?」
「そんぐらいなら別に良いぞ」
螺旋階段を上り通路を歩いていると、正面から大柄な男と小柄な女の子が歩いてくると、小柄な女の子が黒に向け微笑み大柄な男が会釈をする。
黒が二人を横切った瞬間、少女が黒に耳打ちをすると全身に流れていた魔力を指先に込め、少女に向け黒雷を放つ。
「コレが、黒竜帝のやり方ですか?」
少女が黒が放った雷を握り潰しながら尋ねる。
「それは、こっちの台詞だ。昔同様にいや、…妹達に手を出してみろ……」
少女からは微笑みが消え、少女から血の気が引いていった。
 
「…もう一度、貴様らの国々を灰塵に帰すぞ……」
少女の足が震え、黒の魔力が徐々に膨れ上がり、施設上空の天候にすら影響を与える程に膨れ上がっていた。
すると、少女の後ろから大柄な男が割って入り、敵意が無いことを示した。
「俺達は、ただ預り者を届けに来ただけだ。戦闘の意思は無い」
両手を挙げ少女に自分の鞄から封筒を出すように言うと、封筒を黒に投げ、そのまま姿を消した。
「何かする気じゃないよな」
黒は封筒の中身を見ようと封を破り中身を見ると、異空間の扉を繋げ黒竜達のいる庭園に向かった。
『事例は無いが可能性は一律あるな』
「……そうかもな…」
黒色のぼた餅らしき生き物が黒竜の周辺を浮遊し続ける中、黒は庭園内の浮島で横になっている黒竜の背に座り、本を読み漁っていた。
『何か、分かったか?』
黒竜が尋ねると、黒は本を放り投げ首を振った。
「全く分からん」
庭園内には、本棚がいくつも存在している。
壁になっている棚や、浮島同様に浮き続ける本棚も存在していた。
その中で黒一人では何年も掛かってしまうため、ぼた餅達に手伝って貰っていた。
次々とぼた餅達は本を取り出し列を成して渡す者や、黒の投げた本を掴み元の位置に仕舞う作業をしていた。
「……所で、黒竜……」
『何だ?』
黒竜が目を開け、目線だけを黒に向ける。
一方その頃、茜の研究室は静まり返っていた。
黒がリーラを連れてくると研究室を出てから二時間が過ぎていた。
「クソッ兄がぁ!」
茜の怒りはピークに達していた。
研究員は、茜の赤紫色のショートボブの髪色が徐々に赤くなるんじゃないかと思う程に、茜はキレていた。
「茜教授……お…落ちついてください。黒殿も何か用事が出来て遅れていかもしれませんよ、そ……そうですよね!皆さん!」
丸眼鏡の老研究員が周りの研究員達も一斉に頷く。
すると、扉が開きリーラが入った来た。
「何だ~黒兄もやる時は、やるんだ」
一気に表情を明るくなり、研究員一同が胸を撫で下ろすと。
リーラの肩には、黒色で両目が青色なぼた餅見たいな者が乗っかていた。
「なにこれ?」
「さぁ~?」
茜の言葉にリーラ苦笑いであったが、ぼた餅だけリーラの肩でキリッとした状態(本人からしてみれば)で敬礼をしていた。
黒が庭園から戻ると、直ぐ様黒の魔力を感じ取った茜が助走からの渾身の飛び蹴りを黒に食らわせる。
黒は窓を突き破り滝壺に落ちていた、その後茜の研究室に戻り訳を話した。
茜は、机に頬杖をつきながら兄の話を聞いていた。
紅茶で一息入れて茜は立ち上がると、黒の頭に乗っかていたぼた餅を抱きしめた。
「黒兄の話はどうでも良いけど、ぼた餅か~わ~い~い~」
黒の話を聞かずに、ぼた餅で遊んでる茜を放置して黒は、リーラの側に立つとリーラは震えていた。
「先程の話は、本当ですか?」
リーラが尋ねると。
「本当だ、邪馬国に大群で異形種が進軍しているが。そこは、些細な問題じゃない……問題は、相手も古代兵器を持っているってことだな、最悪戦争かな?」
「そんな……そんな……」
リーラの震えが増すと、碧がリーラの両手を掴み微笑んだ。
「大丈夫です、何てったって此所にも神器使いが居るんですから」
碧の励ましによりリーラの震えは止まり、リーラに笑顔が戻った。
「リーラちゃん!リーラちゃん!茜教授からのプレゼントだよ、適合率100%!」
そう言うと、茜は机にジュラルミンケースを置くと、リーラの前で開けて見せた。
 
リーラちゃん専用の神器
【霧の霊弓】
リーラが霊弓を持つと、弓が蒼白く光り辺りを埋め尽くす程の霧を生み出した。
 
 




