一章二十三節 紫雷と黒雷
リーラの提案とは簡単な事だった、機動力のある碧と千夏が亡霊を撹乱することで生まれた一瞬の隙を突きミッシェルの強化魔法で強化した魔物での一撃、普通の魔物では倒せる可能性は無いがリーラの魔物は特別だった。
禁忌の聖騎士第一席のハートと同等の力を秘めた神級魔物の力ならば。
亡霊の周りを跳びながら意識を二人に集中させるため碧と千夏は周りの樹木を足場にしながら空中を飛び続けた。
「リーラ!お願い」
碧の掛け声と同時にリーラが魔物を発動させミッシェルの強化魔法により魔物の持つ鎌がよりいっそ禍々しい光を発しながらリーラは魔物の維持に全神経を注ぐ。
千夏は、ナイフを使った巧みな動きで亡霊の攻撃を避けながら着実に急所や靭帯等斬り裂いた。
だが、千夏のナイフよりも亡霊の再生能力の方が高く、全てが無意味であった。
「クソッ!」
千夏が憤りを感じ、樹木を蹴る力が強くなり更に速度を増すが、そこに着け入れられた。
亡霊を背後から斬りつけようとした瞬間、圧倒的な反応速度で千夏の目の前に亡霊の足が見えた。
千夏は余りの速さに回避を忘れまともに蹴りをくらい数本の樹木を突き抜け意識を無くした。
透かさず碧が背後を見せた亡霊に魔力を込めた拳を叩き込むが、亡霊は長剣で拳を弾き長剣を持ち替え碧を斜めから斬った。
身を捻り後ろに躱すが、腕を切ると、亡霊は碧の向け走りだすが、横から来たミッシェルのタックルを受け吹き飛ばされ受け身をとった所をリーラの魔物が追い討ちを掛けたが、魔物の鎌を片手で止め長剣の振り払った風圧でリーラを空高く打ち上げ長剣を足場に跳躍して、地面に向けリーラを掴み叩きつけた。
「碧ちゃん!千夏ちゃんを連れてここから離れて!コイツには勝てないわ逃げることだけ考えましょう」
ミッシェルの言葉通り、状況はかなり不利であった。
再生する敵を倒せる程のリーラの魔物ですら攻撃出来ず手の打ちようがなかった。
すると、亡霊の上空から落雷が落ちたと思ったら亡霊が樹木を巻き込みながら吹き飛び数々の雷が亡霊に落ちた。
「時間は俺が稼ぐ、お前らはリーラと千夏を連れて逃げろ!」
そこには、両手を黒竜の様にした黒が立っていた。
「わかったわ!行きましょう碧ちゃん!」
ミッシェルがリーラと千夏を肩に乗せ跳躍して行く最中碧は黒の背中を眺めた。
「……兄様…でも…」
碧が手を伸ばそうとした一歩踏み出すと、碧の足が唐突に紫色の雷が現れ体の自由が無くなり同時に意識を失しなった。
ミッシェルが森を抜けるとシャルデーナ支部に到着すると隊員達が集まりミッシェル達の手当てを始めた。
「私は良いから、早く黒ちゃんを助…けに……」
ミッシェルの魔力も尽き掛けていたがそれでも行こうとしたが、医療班に止められ治療を受けていた瞬間。
森の方から紫雷と黒雷が上がると森に落ちると、森からロングヘアーを靡かせながら紫色の目をした碧がバチッバチッと音を立てながら近付いてくると、ミッシェルの前で倒れ意識を失った。
その後の森の調査で森の奥地では、機械製の四足歩行獣型古代兵器は調査部隊の手で発見された。
碧が目を覚ますと白色の天井と懐かしい香りがした、温かくて安心する匂い。
碧がベッドから身を起こすと、全身に電流が走った感覚に襲われベッドで安静にするため布団に入ろうとしたが。
「バァ!」
ベッドの横から突然、赤紫色の眼鏡を掛けた女性が碧の前に顔を出すと。
「おはよう……『茜』ちゃん」
茜のドッキリにすら反応しなず沈黙が続いていたが、茜が何事も無かったように白衣を直すと。
「おはよッ!お姉ちゃんッ」
満面の笑みで挨拶をする茜を見ていた碧は思い出したかのように茜に尋ねた。
「兄様は?」
茜の肩を貸りながら車イスに座り、病室から出ると病衣姿の黒が立っていた。
「大丈夫か碧?」
碧は黒の笑顔が妙に心地好く感じた。




