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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
最終章 極東十王領域
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最終章最終節 変わらない未来視


 別の星、別の次元から現れた異族と呼ばれる者達と地球の人間が接触して、数千年以上の時が経過した現在――。

 『倭』と呼ばれる島国と『四大陸』と呼ばれ、4つからなる大陸の大小様々な国が揃う。

 連盟や議会が機能していた以前でも、2つや3つの国家や組織の長達が会した事は何度もあった。

 ――だが、国家の王達が集う事よりも遥かに稀で、恐らく歴史に記されるほどの事態が起きた。


 倭と四大陸の合計――()()()()()()が、一ヶ所へと集結する。


 多くの市民が、その会合を静かに見守る。

 それは、倭と四大陸の今後の関係を決め付ける大事な話し合いの場であり、自分達の今の日常が様変わりする可能性のある場であり、日でもあった。



 倭所属の皇帝の1人で、現在の最も戦力と力を有している最強と呼ぶに相応しい騎士の1人が、栗色の髪を揺らす女性に手伝って貰いながら、堅苦しい軍服へと袖を通す。


「……堅苦しいな。別に、皇宮の制服でも良くね? アッチの方が、動きやすいんだよな」 


 そう言って、動きにくい軍服に愚痴を溢す黒髪の男は溜め息を溢し女性に横から頬を突かれる。


 「黒ちゃん。黒ちゃんは、倭の騎士として今日は居るの。なのに、竜人族の装いなんかしてたら、皇宮の印象が全面に出ちゃうでしょ? 我慢して、私だって胸苦しんだよ?」


 男性は黒を貴重とし、女性は白を貴重とした軍服をそれぞれが着ていた。

 色分けの意味は、男女の区別だけでなく黒白の軍服姿の者達は、倭として認識され、それ以外と分けられた。

 騎士であろうとなかろうと、その日だけは掃除の従業員でさえも軍服を支給された。


 今日の為にと倭の技術者が造り出した巨大な船の内部に、円卓が置かれ、そこに多くの国王やその側近が付いた。

 もちろん、その後ろや隣には皇帝の者達が付いている。

 国の方針なのか、席に着かせているものや騎士などと同じ扱いなのか立ったままで国王達の横にいた。

 船の内部には、黒と白の軍服を身に付けた騎士と各国のSPのような者達や騎士が護衛として、船へと乗船する。

 倭の騎士以外は、ドライバや銃などを身に付けているにもか関わらず倭側は丸腰である事に各国の国王や騎士は驚いていた。


 「フンッ……当然の処置よ。我々を敵かもしれぬ者の船上へと呼びつけたのだ。丸腰で敵意が無いことを証明するのは、必然よ」


 きらびやかな装飾を身に付けた丸みのある体型の男が葉巻を吹かしながら乗船する。

 倭の騎士を睨んだまま円卓のある会議場へと向かうのを騎士が見送り、その後ろをよそよそしい騎士が主の非礼を詫びつつその後を追っていく。


 「……あの女性も大変だよな。太っちょな主君に使えるとか」

 「俺なら、ノイローゼになって辞めるわ」


 小声で話していた騎士の2人に、最後に乗り込んだ倭の騎士達がその前を通る。

 2人の騎士が急いで背筋を正すが、メリアナが2人の口元に指を軽く押し当てる。


 「今から、大事な大事な会合だよ? 君達は各国の重鎮や王を身を呈して守る側だ。私語は慎みたまえ――」


 スキップで上機嫌でその場を後にしたメリアナを見て、2人の騎士は生唾を飲み込んだ。

 そして、メリアナと同じ円卓の騎士団に入れた事に感謝した。


 1人遅れる様に、黒とその隣に静かに未来が付いてくる。

 今回の会合を提案したのは、黒であるが黒であるからこそ――聞き入れられない事もある。

 だが、四大陸の王達が一致団結しなければ、上位の侵攻を食い止め、僅差で勝利を手にしたとしても甚大な被害によって、倭以外が滅んでは意味がない。

 だからこそ、和平や同盟など言葉による話し合いにて、親交を深め、手を取り合うしかない。


 「――力による支配は、簡単…。が、真の意味で力を分け合う事ではない」

 「うん、そうだね。四大陸は大陸間で繋がっている箇所が多いし、連携は比較的取りやすい。倭と連携すれば、全方位に騎士を配置できる予想だよ。……その後は、任せて良いんだよね?」


 未来の心配そうな目を見て、黒は微笑む。

 全ては、この会合にて7割以上の賛同が得られればの話だが――。





 黒と未来が開かれた扉を潜り、円卓に並んだ大勢の各国要人と皇帝を横目に席に付く。

 ――が、先ほどまで不機嫌であった太っちょな男が葉巻を握り潰し、黒に食って掛かる。


 「おいおい……。倭の騎士団長さんは、遅れた詫びの1つも無しか? 人を呼びつけといて、待たせるだけ待たせる。どういう神経してんだ?」

 「ちょ……。陛下……落ち着いて――」

 「黙ってろッ! 皇帝だが何だか知らんが、ただの騎士風情が、俺に命令するなッ!」


 握り潰した葉巻を床へと投げ捨て、懐から新たな葉巻を取り出す。

 短い脚を机に置いて、葉巻に火を付けると白い煙りが天井へと昇る。


 「倭じゃ、どうか知らんが……。客を待たせるのはどうかとおもうわけよ。こっちはお前に呼ばれて来た者だぞ?」

 「それは、悪かったな。と言っても……。俺はお前より()()()()()()。三下共の予定なんて、いちいち配慮してられるかよ」


 黒の男を下手に見る態度に、未来が青ざめ周囲の王達や皇帝も顔を強張らせる。

 当然の如く、男は新しい葉巻をまたしても握り潰し、隣の女性が捨てられた葉巻の火を急いで消して、片付ける。

 苦労が絶えないのか、溜め息が溢れる。


 「テメェ……俺が三下だと、聞き間違えたか? こっちは王で、お前は1騎士だぞッ! 本来なら、対等に言葉を交わす事すら有り得ない身分の存在だぞッ!」


 男は顔を赤く染め、座っていた椅子ひっくり返し立ち上がる。

 気分を害した事に腹を立て、退出す?意思を見せる。

 だが、その隣に待機していた皇帝である女性は、男の命令を頑なに聞こうとしない。

 『帰る』と言っても首を横に振り、自分に逆らう態度に男の怒りは頂点に達し、その場で怒鳴り散らし女の髪を掴んで力一杯に引っ張ると、黒の投げた閻魔が男の鼻先を掠めて壁に突き刺さる。



 「……お前だけだよな。この場で、現在俺らが置かれている状況を理解してないのは…。その子が不憫で仕方ないわ……」

 「お前……国の王に手を挙げたのか? 国際問題じゃ済まされないぞ?」


 男の威圧に屈する事なく、黒は閻魔を手元に引き寄せ、話を始める。

 そして、見る見る男の顔色が青ざめていき、それとどうよに各国の王達が脂汗を垂らす。

 それは、黒が今現在対立している組織の正体と、異形を操る者達の力がどの様なものなのかと言った情報であった。

 それは、各国が予想していた話を上回る物で、事態は四大陸で対立している所の問題ではないと理解した。


 「おい……。おい、ソレサ……。お前は、皇帝だったよな? あの男と同じ…皇帝だ。お前なら、俺の国ぐらい守れるよな?」

 「……まず、先に進言しておきます。()()()()()()()()()()()()()()……。ゆえに、()()()()()()()()のです。元より私達は倭に協力するのではなく……。庇護下に入るための会合と言っても過言ではありません。四大陸で最も力を有している。4国以外は、倭に協力せざるを得ません…」

 

 ソレサと呼ばれた女性皇帝が王である太っちょ男にそう告げ、男が青ざめ冷や汗を流していき自分の置かれている状況を理解し始めた。

 元より、相手にならない敵ゆえに団結し、守りを固める事で頑固な守りを徹底する。

 倭の指折り騎士を筆頭に皇帝の中で、選抜された皇帝か攻めに転じる事が出来ず。

 四大陸と協力して、守りを固める為にこの会合がありその枠組みに加わるかの同意を確かめる()()()()会合。


 そのため現在置かれているの自分達は守って貰う側の人間で、黒がわざと遅れたのも本国や大臣などの幹部と連絡を取って、最終的な判断をするための時間であった。

 その場にいる国王達は、震える手で書類に名を書き記す。


 倭の庇護下に入りつつ、協力を惜しまない契約書という内容だが、王からすれば……。

 ――『可能な限り異形の脅威や上位の侵攻行為から助ける。だが、倭と関わった事で敵に狙われる事となっても、仕方ない事だと認める』――……。

 そう言った文だと感じてしまうほど、王達のペンが鈍い。


――それもそうだよな……。国やそこに住む民達を異形だけであった筈の脅威に、上位種族とでも呼べる強敵が加わった脅威から極力守るが、それで標的にされる可能性だってある訳だ。

 来るか分からない敵に怯え、守れない敵の侵攻をされるがまま指を咥えて見てるか……。目を付けられるデメリットと庇護下のメリットの天秤を掛ける。

 ただの精神状態じゃ、まともな判断も決意も揺らぐ――……。

 我ならがら、酷い話だと思ってしまった――。


 円卓に集った各国王達はそれぞれが苦しい表情で、ペンを握りながら本国から時折くる連絡と側に控えた皇帝と言葉を交わす。

 元は平和に手を組む必要があったが、それは別の奴らに任せる。

 自分は他国から見て、畏怖の存在であれば良い。

 決して敵に回してはならない存在と認識させておけば、他の騎士が幾分か友好的に見える。

 友好関係を築いて、四大陸と倭の橋渡しは赭渕やメリアナに任せておけば良い――。


 俺は、目の前の敵だけを潰す事だけを考えろ――…。



 円卓に集った王達が名を記した書類を手に、黒はある人物達を待っていた。

 他の王達との話しは終わり、後はメリアナ達に一任した。

 自分がすべき事は、ソレサと呼ばれていた皇帝が溢した『力を持った四国』――彼はをこちらに率いれる為に、黒は真剣な眼差しで書類に目を通す。

 しばらくし、黒の静かな時間に終わりを告げるように、ゆっくりと扉が開かれる。

 四大陸でそれぞれ最も戦力を有している大規模国家の代表格と呼べる4人の王達――。




 「あら? 黒竜ちゃんが先に来てるなんて、先の会合は芝居かしら?」


 真っ赤なドレスに片目の傷を隠す長い前髪と、黒色の手袋が指にはめられた金色の指輪を引き立てる。

 腰まで伸びた長い髪と相手を見透かすような鋭い視線の女が、椅子に座っていた黒を見下ろす。


 「さて、黒竜のご指名だ。うまい話なのは助かるな。こちとら、経済状況が悪いからな。……それなりに、金になる話を期待したいね」


 着崩したスーツに、まとまりのないボサボサな頭を掻きつつタバコの火を消した男が後ろで控えていた騎士に持っていた灰皿を渡す。

 身だしなみが整っておらず、どこか適当な感じがある男だが、扉を潜って直ぐにこちらで用意した監視カメラを全て見抜いた。


 「ほぅ……。まさか、これほどの猛者揃い。ただ事ではない予感よのう……」


 長く伸びた白い髭に中華衣装に身を包み、隠しきれない強さを黒に見せつける。

 腰が折れて、杖を突いて歩いてるにも関わらずその老人から燃え盛るほどの熱と覇気が感じられる。


 「……お三方共に、わざわざご足労頂きありがとうございます。時間もありませんし、四大陸で最も力を持っている4名の王に、個人的な相談と()()がある――」


 黒の声音がガラリと変わり、4名と言いつつこの場に呼ばれた者は3人しか居ないことに不思議に思っていると、黒と向かい合うように円卓の席に付いていたナハヲの存在に気付いた3人がナハヲの不気味さに驚き、思わずその場から退き身構えた。

 肌を切り付けるような鋭く鋭利な魔力と威圧から、実力者である筈の3人を容易く凌駕する力に黒は今一度ナハヲの異常な強さに冷や汗を滲ませる。


 「――流石は、四大陸で五本指に入る巨大国家の王だ。この程度じゃ、膝を屈することはねーか?」


 ナハヲ手には自身の称号にもなっている戟が握られ、席を立つと閻魔を既に抜刀した黒がナハヲに合わせるように立ち上がる。

 閻魔を抜いた右腕で、ナハヲの座っていた席へと刃を向け、再び座るよ様に鋭い口調で告げる。

 ナハヲが笑って、再び席に付くと3人がそれぞれナハヲを見て、理解した。


 「この魔力――。既に、黒竜ちゃん以上ね。あの子には、荷が重過ぎるわね」

 「並みの魔力では、到達出来ぬ境地じゃ……」

 「まさか、上位の手がここまで回ってるとはな。努力して、手に入れた力が及びないと知ったら、うちの皇帝泣くぞ」


 3人がナハヲの魔力を目の当たりにし、悲観的になりつつも決して勝てないとは断言しなかった。

 力が僅かにでも及ばずとも、信じている事が分かる。

 確かにナハヲや創造神(ザース)が新たに従えた兵隊や聖職者(エクソシスト)共はさらに力を付け強敵となっている。

 その上、こちらの戦力と思っていた皇帝の内1人に魔神の1体を奪われ、戦力が極端に減少した。

 黒自身魔神の力がどの様な物か、深く理解していない為にどれ程の力があるか断言は出来ない。

 だが、相手に渡った色彩神(リム)の恩恵である『魔神』と創造神の恩恵である『聖痕(シンボル)』を宿したナハヲは、強敵以外の何者でもない。


 「それで……。橘くんは、僕や上位に勝てる確証があるのかい? まぁ……無くとも戦うのが――(難攻不落)だよね」


 微笑むナハヲを横目に黒は閻魔を鞘へと納め、ナハヲが黒にヒラヒラと手を振りながら開いた空間へと身を投じる。

 完全に魔力は消え、ナハヲの存在が消えた事を確認した黒が3人とこれから起こる大規模な戦いに対処する為の名案を話す。





 ――会合が終わって、一週間が過ぎた皇宮内部の一室では、慌ただしく書類を持って何度も往復する従者と他竜人族の長達と電話会談する――椿 羽織(つばき はおり)の姿があった。

 倭と四大陸との会合により皇宮にも影響が現れ、皇宮の領土以外に点在する小さな部族や山や海をいくつも越えた先にある国の長達と時間のある今のうちに連携を取るべく。

 日々を忙しく過ごしつつ、羽織は女帝として皇宮をより良い未来へと導いていた。


 「――姫…。将軍の皆様がお集まりになられ、現在応接室にてお待ち頂いております」

 「えぇ…分かりました。直ぐに向かいますので、直ぐに作成した書類を用意して……それと橘様から頂いた書類も同じく」

 「既に、抜かり無く――」


 従者が部屋を後にすると、羽織が一度深呼吸してから息を整え応接室へと向かう。



 皇宮の最大戦力と呼ばれる竜人族で、最も力を持った四家――『(ゆずりは)』『辻川(つじかわ)』『鈴業(すずなり)』『(たちばな)』の将軍階級の竜人が顔を突き合わせる。



 「竜玄(りゅうげん)……。また、テメェ所の長男だよ。双子ってのは驚いたが、それならもっと強くなるよな? 長女と俺の孫ってのは…どうだ?」

 「静清(せいしゅん)殿……。前も碧との縁談を持ってきて、梓にお孫さんを叩きのめされた記憶はありますか? 碧が良いと言えば構いませんが……母を説得するのには、骨が折れますよ?」


 静清と呼ばれた白髪の老人が扇子を扇ぎつつ、立ちはだかる梓と言う壁を前に唸る。

 竜玄も碧が良いと言えばそこまで否定的ではないが、将軍家の男に娘をやる気は毛頭ない。


 「辻川の男は出会い頭に、この見合い話を持ち掛けるのか? 些か気が早くないと私は思うが?」

 「乃和(のわ)よ。そうは言うがな……ガキ共の成長など、あっという間よ。だからこそ、早めに候補を絞っておくだけよ」


 鈴業の現当主であり、乃和が一代で築いた会社は皇宮でトップの財力を有する。

 四代将軍の中で一番の富豪であり、皇宮のドライバや装備を製造する工場の7割を持っている。


 「辻川様も鈴業様も、お見合い出来るだけの相手が居て……良いですね。私なんか、私なんか……」


 蒔絵(まきえ)の地雷を踏んだと静清と乃和が口を塞ぐが、時既に遅し――。

 涙を浮かべた蒔絵には、竜玄も苦笑いを浮かべる。

 年齢は四代将軍の中で一番若く、若くして当主となり将軍を勤めるその手腕は恐ろしい。

 杠家が所有する山はどれも険しく、橘の門下生以上の門下生を束る『武力』最強の名は、伊達ではない――……。


 だが、武力最強の名を持つ故なのか、杠家の跡目問題は想像以上に難攻していた。

 竜人族では、二十を迎えれば自然と見合いの話や学生時の延長線で、そのまま婚約など珍しくもない。

 黒も二十を過ぎ、未来と正式な婚約を結んだが、周囲の杠家の第一印象は『厳しい』『掟が窮屈』と言った偏見が絶えず。

 二十を越えてからの見合いは全て、惨敗している。

 中には、顔を合わせただけで逃げ出した者もおり、その時はショックのあまり寝込んだほどだ。


 「……周囲の目が良くないからな…。一度でも、本家に行けば印象は変わるがな」


 竜玄の言葉に全員が頷く。

 他人から見れば、門下生の熱や山籠りと言った厳しい印象だが、本家に掟のような物はなく。

 言ってしまえば、物凄く緩く適当な家だ。

 蒔絵の祖父にして、先代当主も書類仕事が嫌で、年に5回は家出をし、山中を走り回るなど日常茶飯事だ。

 周囲の目と真実は全く異なるが、蒔絵の見合い話は……当分の間は禁句であろう。


 竜玄が出されていた茶を一口飲み、羽織の到着と共に会議が始まる。

 黒の提案した議題も当然可決され、皇宮と倭の関係がより一層結び付きが強固となった。






 黒焔騎士団(クリムゾン・ノワール)の本部内にて、黒を抜きとした幹部達の会議が催され、未来を中心とした上位幹部と幹部の全員が賛同し、話は終わった。


 会議が終わり、直ぐに慌ただしさが戻った本部内では、新兵器と言われる兵器の製作が戦艦発着場の拡張と同時進行で着々と進められている。

 本部の最上階のテラスにて暁と翔の2人を交えて、黒は他愛ない話をしている。

 未来とマギジ、その後ろから赭渕の3人がテラスへと上り、系6人が他愛ない話で笑い合う。


 「ここに……ハーちゃんとミシェーレちゃんが居れば…昔のメンツが揃ったのにね」

 「昔って、古くさい言い方。でも、もうそれだけ経ってるもんね」


 暁とマギジが少し寂しそうに、うつ向くと未来がマギジを抱き締める。

 暖かな温もりを確かに感じて、未来は黒の言葉を待っていた。

 きっと、この場にいる5人が黒の言葉を理解している。

 それでも、黒から直接告げる言葉を待っていた。


 ――2年前、いや、既に3年半が過ぎようとしている。


 記憶を改竄され、一度黒焔を解散した時と似た心境だ。

 ただの例外もなく、仲間の未来を見据えて1人決断した。

 今回もそうだ。……仲間の未来を考えれば、危険は最小限に落とす命も最小限――。


 「……もう、知ってるよな? 四大陸の騎士候補生を聖零学園で一手に担う。1つに纏めることで守るべき箇所を1つにして、未来ある若葉達を守る。この先、四大陸や皇宮から色々な種族も性格も履歴も異なる騎士の卵が集まり、倭はさらに戦火に晒される。――お前らで、守ってやってくれよ?」


 黒が本心を告げずに、去ろうとするのを未来が止めるために、黒の手を掴む。

 未来が下を向いたまま黒の言葉を待っていた―――。

 ただ一言、未来を安心させるための言葉を――…。




 「――誰も聞かねーんだ。なら、俺が聞いてやるよ……」

 「ちょッ! 翔……」


 赭渕の言葉を遮って、翔は黒へと向き直りそのまま尋ねた。

 そして、案の定帰ってきた言葉に翔は安堵した。


 「――俺が遥か先の未来視で見たのは、俺と翔の死に様だ。血だらけになって、地面に倒れている。近くには未来や赭渕の姿があって、俺と翔はバカみたいに、笑ってる。……多分だが、世界は守れたんだと思う。まぁ、俺か翔は死ぬかもな……」


 暁の険しい表情を横目に、黒は未来の震える手を優しく握る。

 翔も椅子から立ち上がり、黒の隣に立って、下を向き続ける未来を見詰める。


 「まぁ、俺らが死ぬかもしれないってだけで、ギリギリ生きてるかもな。俺も黒もゴキブリのようにしぶといからな」

 「翔ちゃん……。みんながみんな、翔ちゃんみたいに前向きに考えれないんだよ……。特に、未来ちゃんは――」


 翔の前向きな考えを否定するように、暁がうつ向きつつそう告げる。

 黒の見た未来視は、おおよそな予測と言うだけであって、決して変わらない未来ではないが、それもおおよそである。

 未来が変わる事があってもそれは、黒と翔のどちらかが『死ぬ』か『生きる』――…。

 または、2人が『死ぬ』か『生きる』か――その程度の違いだろう。


 だからこそ、未来は顔を上げれないでいた。 


 ―――大好きな人が、あと数ヶ月か半年近くで()()()()()()()()()かもしれないから……。






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