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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
最終章 極東十王領域
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最終章二十四節 足元にも及ばない『目標』


 未来の登場――それは、予想外な出来事であり、黒が最も避けなければならなかったシチュエーション。

 この女、四大陸側に属している皇帝の一人で、最も警戒すべき最重要人物……。


 



 ――不味いぞ。未来がここに来る事は予想出来たが、僅かに来ないと思っていた……。

 黒が目の前に写る自分の失態に嘆きつつも、至る所に潜ませていたぼた餅に魔力を巡らせる。

 だが、黒はぼた餅を全てを手元に戻し戦う意志が無いことを、葵に見せる。

 見せるという表現だが、既に葵の視界に写っているのは黒などではなく。


 ――未来一人であった。



 「お……お久しぶりです。お姉様…。体調に変化は? 大陸側にも多くの戦いの記録があります。どこか怪我とかありますか? 私…昔よりも治療系統の魔法を極めました。小さな傷から大きな傷まで、何でも治せます。怪我や傷はありますか? 言わなくても大丈夫です! 恥ずかしい傷もあの男に傷つけられた傷も私が治して上げますッ! さぁ、服を脱いで――全身隈無く診察しますッ!!」


 押しが強いなどと言う言葉で片付く物ではないその勢いを前に、黒は溜め息を溢す。

 コイツを未来に会わせたくなかったのは、その異常なまでに大きく重い――愛だ。


 教え子であった時はあそこまで異常では無かったが、日に日に月日が流れると共に黒埼の異常さに拍車が掛かっていった。

 それこそ、未来の生活空間に入り浸るほどにまで、進化した時は流石に未来も寒気がしたと話していた。

 だが、未来もそんな黒埼の異常さを理解し、ほどなくして母性のように黒埼の異常さを優しく包み込んだ。

 現に、今も聞いているこっちが何を話しているのか分からない程の早口とセクハラに近い変態オヤジの手付きをした黒埼に、未来は一歩も引かずに手早く対処した。

 慣れた手付きで黒埼の手を幾度も払い、早口の変態的な発言を適当に受け流す。


 未来も未来だよな……。拒絶する事なく、本当の妹のように接している。

 暁や翔も顔だけは知っているが、彼女がこれ程までに異常でコレでも皇帝なのは流石に知らない筈だ。

 ハートはどこで何をしているか知らないが、昔一度だけ彼女と話した事のあるハートと未来ぐらいだろう。この異常な彼女を止める事が出来る人物は――…。

 もしも、他にこの女を止める事が出来る強者がいるなら出て来てくれ。

 そして、コイツを遠くに連れていってくれ……。だって、俺はコイツが――嫌いだからな。

 

 「――そう言えば、葵ちゃんは何で本部に来てるの?」

 「それは、当然――。お姉様に会うためですッ!」


 未来に抱き付き、胸に顔を埋めて未来の香りを堪能している。

 端から見れば、キモいの一言だが未来は既に慣れているのか5秒だけ待ってから黒埼を引き剥がす。

 そして、にやけきった黒埼の両頬をつねって強引に目を覚ませる。


 「まぁ……。冗談はこの辺で……」

 「嘘付け、本気だったろ? あわよくば、って思惑が見え見えだ。昔から、そうだよな――」


 黒の指摘に黒埼が苛立ちを抑え込むのは、きっと、大好きなお姉様の前なので、喧嘩腰だと思われたくないのだろう。

 黒埼は未来が好きで、未来は黒が好き――。

 未来の隣をキープするには、必然的に黒と親しくならなければならない。

 だが、黒埼は黒の性格が好きではない。


 それは、学生時代の頃に遡る。

 その頃の黒埼は、実戦経験はなくとも成績や演習実績は高く『優秀な生徒』であった。

 教師の推薦にて、念願の未来とお近づきになるチャンスが訪れた。

 ――が、そこには大きな壁が存在した。

 本来ならば、先輩の『教え子(弟または妹)』となるのに、推薦状など必要ない。

 しかし、未来の世代は当時から絶大な力で他を圧倒していた騎士が多く存在する世代であり。

 『黒竜帝』と『雷帝』など、学生にして金騎士などの騎士が大勢ひしめき。

 黒の騎士団への期間的の入団とは言え、教師の推薦が必要な騎士団も少なくなかった。

 だから、黒埼は努力に努力を重ねて、晴れて未来の側に立つ資格を得た。


 ――が、そもそも学生で実戦経験が乏しい黒埼と、学生の頃から実戦を重ねてきたスペックが大きく異なる黒達の後ろを付いて歩く事は、その頃の黒埼には不可能だと誰もが分かっていてた。

 それでも、黒埼の未来の側に立つ欲求が勝っていた。

 だからなのか、未来との魔法の勉強は至福の時間であり、未来から黒埼の経験になればと提案された黒との戦闘訓練は――地獄であった。

 憧れであり目標のお姉様から提案ゆえに、断れない黒埼に黒は加減無しで魔力を纏わせた木刀を振るって、黒埼を叩きのめす日々――。


 ――それが、黒埼が黒を嫌う理由であった。


 黒は黒埼の実力を理解し、本気では無いにしろボロボロになるまで、相手をした。

 黒も黒埼が自分を嫌っている訳の1つに、黒埼との戦闘訓練が大きな要因なのだと知っている。

 

 「……何ですか? 昔から昔からって、過去の話しに囚われ過ぎ何ですよ。そう言う所がホントに嫌い――」

 「大した実力も無いのに、先輩に対するその上から目線な態度と言葉のお前が昔から、嫌いだったよ――」


 いがみ合う2人に未来が笑顔でお茶を渡し、昔の思い出話に花を咲かせる。

 時折見せる未来の笑顔に黒埼も頬を緩ませ、途中から未来と黒埼だけの会話となる。

 一人除け者となった黒は窓から小さなぼた餅を外へと投げ、カラスへと変化させたぼた餅で周囲の偵察する。

 四大陸側とは言え、未来大好きな黒埼が未来に危険が及ぶ事は決してしない。

 もしあるとすれば、それは黒埼が所属する国や組織が勝手に行った事で、黒埼に非はない。

 ――ゆえに、支部を囲むように配置された隠密部隊を佐奈や五右衛門達が所属している『隠密部隊』や翔の部下によって構成された『始末組』で、一人残らず潰しても何一つ問題は無い。

 お茶を飲み干し、楽しく談笑する未来と黒埼を離れて見ている黒は肩に止まったカラスの見た光景をテレパシーのような物で見る。


 ――逃げた者は無し…だが、指揮官らしき人影が見当たらない。多分だが、兵隊を動かす前に逃げたか保険として姿を隠したかだな。

 黒がぼた餅を操り、範囲をさらに拡大し逃げたと予想される範囲を絞って敵の痕跡を探る。

 放たれた数十匹のカラスに変化したぼた餅を警戒し、指揮官らは草むらを這って進む。

 四大陸へと帰還する為にあらかじめ設置していた帰還用の裂け目を起動し、指揮官達は大勢の兵士を残し倭から離脱する。

 開かれた空間の裂け目が閉じる音と僅かな魔力の揺らぎに気付き、カラスが一斉に集まるが既に敵は去った後であった。



 「……黒焔全隊に通達、敵指揮官の離脱と思わしき魔法の発動を確認した。以降の戦闘は限りなく低いが、各自警戒と……捕らえた兵隊を地下に連行しろ」


 通信を切断し、黒が短く息を吐くと未来が黒の顔色の変化に気付き、側に寄る。

 驚く黒に微笑む未来だが、未来の死角から牙剥き出しの獣のように唸り声を挙げ嫉妬している黒埼が黒の視界に入っていた。

 嫉妬した女は怖いものだが、黒埼の嫉妬は一般人の嫉妬とはレベルが違う。

 寝首すらも危うい状況なので、黒埼に本部内部を案内するように未来に提案する。

 未来も快くその提案を引き受け、未来とのデートとなった黒埼は頬を赤く染め、未来に付いていく。


 ……一先ず危機は去ったと言っておこう。

 現状、未来が隣にいれば黒埼が敵対する可能性は少ない……。

 それに、先ほどの敵が必ずしも黒埼が所属する国や組織とは限らない。

 探った情報では、黒埼が所属する国は比較的穏やかで他国と進んで戦争をしようとする国ではない。

 それに、黒埼は国の重鎮とも関係は良好と思える。

 国王や重鎮達も黒埼が望まない事をして、黒埼の信頼を喪失させ倭を敵に回すメリットは少ない。――いや、無いに等しい。

 となれば、他国が黒埼の入国と同時に動きまるで、黒埼の兵隊を扮して接触したと考えれば、黒埼と俺との関係を悪化……元からしているから、変わらずだな…。


 「――まず、間違いなく。他国が黒埼ちゃんの国と倭をぶつけるための工作だよね?」


 黒が外を眺めていると、暁が瞳を赤く染めた状態で黒に笑みを向ける。


 「……暁か…。お前もそう思うか?」

 「多分だけど、地下に入れた兵隊は発見される前提の捨て駒だったよ。装備も粗悪……マスクを取ったら、人間じゃなくて異種族だったよ。それも、何も知らない異種族――」


 異種族を捨て駒として使う国など聞いた事はないが、連盟や議会がこの地球で機能しなくなった今では、地球に残った倭以外の異種族はどういう扱いを受けるかは、他国によって異なる様だ。

 頑丈で力のある異種族であれば、労働力として扱われる可能性もあり得る。

 今回のように、殺される危険のある作戦や元より捨て駒として捨てる役目に、異種族はピッタリであった。

 四大陸の国々では、その地に住む人族の顔立ちでどの地域所属かある程度予想が立ちやすい為、顔からどこ所属か判明するのが難しい異種族の者達を使ったと思われる。


 だから、指揮官は早々に倭から消えた……。そう言う事なら、ミシェーレやマギジに魔法の解析を頼むべきだな。

 丁度、暁もマギジが席を置く『研究チーム』の元へと顔を出すとの事なので、次いでに解析の件を頼んでおく。


 規模が増えた黒焔には、十二単将を『戦闘部隊』としてそこから、隠密作戦や情報収集に特化した部隊の『隠密部隊』や情報解析や様々な魔法などの研究や特殊な事柄に対応する『特殊部隊』この3つが存在する。

 暁や副団長の未来が主となって、この3つの組織に分けられ、団長の黒でさえもその存在を知ったのは、妹で特殊部隊に配属された(みどり)(あかね)からの話で知った。


 碧曰く、黒が適当に作った前の組織図では無駄が多く情報伝達に難があるとの事で、未来が作った新たな組織図の3つに分けられた。

 未来の新たな組織図が功を奏したのか、過去に一度だけ、碧が団長として黒焔を背負った際に起きた他団からの内部分裂などの策略の対処として、3つの部隊に分けた事で一人一人の動きが分かりやすくなり裏で暗躍する者達を処分出来た。

 少ないながらも、倭を警戒し他国から幾度も邪魔が入るが、そのほとんどを未然に防いだ。


 他国の奴らも、倭を一つの脅威として認知し探りを入れつつ、あわよくば内部分裂――って感じか……。


 黒が静まり返った星空の下で、夜風を肌で感じる。

 周囲に山が多く近くを流れる川や滝の音に耳を澄ませば、風に靡く葉の擦れる音が響く。

 未来は黒埼と共に、大和市内でショッピングなどを閉店ギリギリまで楽しんだ為、未だ本部に帰還していない――。


 上位の者達が狙う標的に未来や自分がリスト入りしているのは、予想できている。

 そして、影から忍び寄る複数の魔力に気付き、黒は笑みを浮かべる。


 「やっぱ、未来よりも俺を優先するか? とんだカス野郎だな……。複数人で袋叩きにすれば、勝てるとでも思ってんのか?」


 影から飛び出した目で追えただけでも、6つの影が一斉に黒へと手に持った刃を振り下ろす。

 ――だが、黒の指先に纏わせた魔力が刃を全て砕き、あっという間に間合いを詰めた6人を屍に変える。

 黒の指先から滴る真っ赤な血液と返り血で頬が赤く染まった黒が月明かりに照らされ、不気味に写る。

 影や物陰に潜んだ数はおよそ――7……。


 隠密重視の構成か? 気配はバラバラで、どこに居るかまでは分からないが、なんとなく予想は出来る。

 ――もっとも、それが陽動だと言う可能性が非常に高いがな……。


 隠密重視の構成で組まれた即席の部隊や隠密部隊との戦闘では、バレたら終わりと言う訳ではない。

 暗殺などの裏に徹する事が求められる場面で限り、隠密で存在を知られるのは避けるべきである。

 だがそれは、あくまで影に徹する時のみの話であり、千年前や百年前の戦いではどうだったかは知らないが――今は違う。


 仲間を呼ばれるから逃げる――……。

 存在を知られたから逃げる――……。


 そんな物は単なる『逃げ』であり、隠れて気を伺う隠密部隊が正面から敵と戦うと、影に身を潜め気配や存在をわざと察知させ、油断を誘う。

 何も影に隠れるだけが隠密ではない、気配を分散させ敵の懐へ潜り込めさえすれば良いだけの事。

 単純に、敵の視線や意識を別の方へと移して、その間に殺せれば仲間を呼ばれようとも、存在が知られようと関係ない。


 影から全員を殺せば、それで全て片付くのだから――。


 影や草木の中へと潜んだ敵の気配や僅かに残留する魔力が邪魔をし、黒に正確な位置を掴ませないように7人が動く。

 だが、黒は敵に囲まれた現状でも、水魔法で指先や頬をの血液を流し、再び夜空を見上げる。

 誘っているのか定かではないが、7人が同時に動いた。

 全員ではなく、一人でも猛毒を仕込んだ短刀の刃先が黒に掠れさえすれば良い。


 ただ、それだけであったが、余裕を見せる黒を狙って四方から飛び出した7人の刃は揃って、黒から一定の距離に達すると手から落ちて行った。

 正確には、手から落ちたのではなく持っていた手が切り刻まれ、指と共に刃が地面に落ちたのだ。

 自身の切り落とされた手を見て目を丸くする7人だが、黒の腕が揺れると身体から血が噴き出している事に気付いてから、自分達は既に殺されたと理解した。


 「にしても、暁考案の糸魔法のドライバは使い勝手が良いな。普段は手袋として使え、武器と思われない。場所も取らず瞬時に着脱可能なドライバ……。完璧だな――」


 黒色の手袋を装着した指先からは、半透明な糸が魔力によって生まれ、糸の性質や切れ味などは装着者の魔力によって変化すると事前に告げられていた。

 テストとして使用した物のその性能は凄まじく、暁考案と信じたくはないほどであった。

 泉のジジイがこれを見たら、対抗心を燃やして実験やら開発などで連れ回される景色が目に浮かぶ。


 いや、まだジジイだけなら、マシな方なのかもしれない。

 ――兄の頑丈さや魔力の多さを理解しつつ実の妹と言う事で、多少の無茶を強いる茜とタッグを組む可能性を考えてしまうと……止めておこう。


 夜空を照らす星を見上げつつ、黒は暁から試作品として預かった新型ドライバを懐にしまう。

 床に散らばった死体を丁寧に扱うぼた餅達が、所々で合掌しながら処理をしている。

 時折思うのだが、ぼた餅は黒竜が魔力を用いて1から造り出した魔力の塊だ。

 そこに思考や心と言う物があるのか最近になって、疑問になり始めた。

 今まさに、始めの一回で問題ない筈の合掌を幾度もして、作業をする。

 彼ら、ぼた餅の間では合掌がブームなのか? この前までは黒鬼とポーカーして連戦していたが、黒竜が操っているのかぼた餅がここに意識を持っているのか不思議でならない。


 『むん…。意識などがあるかなど、些細な事だ。奴らは妾が生み出した存在。――言わば、妾が母体となった新たな魔物(ギフト)に近い存在よ。このまま長い時を経て、意識を宿し心を持てば………新たな魔物が誕生するやもしれんな』


 どこからともなく、人の頭の中を覗き見した竜が話し掛けてきた。

 だが、そのおかげかぼた餅がここに意識があるのかはハッキリした

 憶測だが、母体である黒竜の魔力によって生まれたぼた餅達は黒竜の思考を学習し、それをトレースしている。

 合掌やポーカーも黒鬼や俺の視界から得た知識がぼた餅にトレースされ、そのまま動いているのかもしれない。

 だが、本当に意識を宿していてもおかしくないクオリティのぼた餅達だ。

 だが、やはり思ってしまうのだ……。


 「……先から、何回合掌してんだよ」


 こくりこくり――と、まるで頷いているように幾度も動きを止めて、全員をが揃って合掌する。

 その為か、一向に作業は進まない――…。








 大和市内での久方ぶりのショッピングを楽しんだ未来と黒埼が、並んで笑顔で本部へと歩く。

 未来を思って、ナドネと共子の2人がビルの屋上と背後の人混みから監視もとい盗撮をして、未来の後を慎重に付けて行く。

 ナドネが屋上からズーム機能やら多くの機能が付いた橘製のサングラスをかけて、共子に指示を飛ばす。

 ナドネの指示を受けた共子が道を歩いていく黒埼と未来を狙った男達を影から排除する。

 時にナイフで脅し、時に近くのゴミ箱や電柱へと投げて片っ端から怪しい男達を排除する。

 無論、黒埼は未来とのデートで浮かれに浮かれそんな事には気付いていないが、未来は途中どころか市内へと向かう時から2人に付けられている事に気付いていた。

 道行く人は女性か親子しか見当たらず、歳が近い男性やナンパ目的の学生が1人も見当たらない。

 未来は、顔立ちも良くスタイルも嫉妬してしまうほどな黒埼と並んで2人で歩いているので、ナンパの1回や2回程度想定していた。


 ――でも、今まで1回も無いって事は、2人が裏で何かしてたんだよな……。きっと、そうだよね!?


 未来も学生ではないにしろ、胸の大きさや容姿に対する事には敏感で、髪の毛や香水に気を配って黒を振り向かせようと日々奮闘している。

 ナンパもされれば、怖いが黒埼と並んでいて自分の容姿に自信がもてなくなりつつある未来は自分がナンパされないのは、2人が裏でこそこそとしているためであって、自分に魅力がない訳ではないと言い聞かせる。

 もちろん、未来の容姿が多くの男性の胸を射抜けない物ではなく。

 強いて言えば、とても可愛らしい顔立ちに整った髪とクールそうで愛らしい未来は世の男性のナンパ対処であった。

 ――その背後に潜む()()()()()()()()()()為に、誰一人として未来や未来と歩いている女性にはナンパが出来ない。


 未来が学生であった頃には、四大陸から来た大和の暗黙の了解を知らない者達が未来を執拗にナンパし、未来に相手にされず何度も強引に詰めよっていたら、いつの間にか強面の男性に連れられていたと言う話があるほどであった。



 (私って、魅力ないのかな……)


 少し落ち込む未来を隣で見ていた黒埼は意を決して、本来の目的を告げる。

 それは、黒埼が倭と四大陸を繋げる為の計画であり、それは橘黒と言う存在があってこそ成し得る。

 倭を少なからず敵視する四大陸の多くの小国の国王や権力者達を黙らせ、1つにまとめる可能性がある1つである。


 そして、――失敗すれば計画その物によって倭が滅びる可能性すらもありえた。


 倭屈指の実力を持っている黒や翔、メリアナや赭渕達皇帝やハートなど皇帝に引けを取らない猛者揃いが居る事を知っている黒埼は、未来に提案する。







 「――未来お姉様から、先輩にお伝えください。議会も連盟も機能しな現在…。上位だけでなく、他の神達がここ下位を狙わない保証はどこにもありません。今こそ、他の皇帝や四大陸を――」

 「その先は、言わなくて良いよ。きっと、黒ちゃんは葵ちゃんと同じ考えだよ。今のままだと、いつ崩れるか分からないお皿の上……。崩れる変わらない場所で、下位と上位の存続で天秤する事はないよ」


 未来は星空を見上げつつ、葵に『明日になったら、全て分かるよ。本部に停まってく?』とだけ聞くと、一足先に本部へと帰還する。

 1人残された黒埼は震えた端末に視線を落とし、人混みから逃げるように人気のない路地裏にて、探りを入れさせた兵隊を待っている。

 砂利を踏む足音に気付いた黒埼の前には、赤い瞳を光らせた天童と暁の2人が気を失った兵隊を担いで現れた。

 2人の威圧に怯えつつも、実力ならば五分である2人ならばと懐に隠した拳銃に手を伸ばすが、暁は人差し指を黒埼へと向ける。

 左右に軽く揺らし、黒埼の行動が意味を成さないことを告げ、気を失った兵隊をゆっくりと下ろしその場を後にする。

 目を覚ました兵隊に黒埼が何があったかを尋ねると、口を揃えて『天童と暁は底が見えない。……黒竜帝が、爪を隠さないのは懐刀が何十とあるからだ』と告げ再び意識を手放す。

 

 そこで、黒埼がこの倭に『気付かれても構わないから、僅かでも奴らの実力を証明する証拠を探れ』と、国王から告げられた意味がようやく理解できた。

 国を任された国王は、倭を守護する12人の皇帝とその影に潜む存在を見抜き、警戒されている黒埼自らにその敵を見定めさせた。

 他国はどうか知らないが、黒埼が所属する国王は理解しいた。


 ――敵となり得るのは『倭』であって、『皇帝』でない。


 黒や翔達だけを警戒していた黒埼は自分の未熟さを痛感した。

 黒や翔が強いのは、当たり前だ。自分が過去に目指した目標で、自分が目標の彼らに追い付こうと鍛練した時間、黒達も死線を潜り抜け力を得た。

 1が10へと至る為の9段階を登る間に、10は21の向こうへと向かっている。

 追い付けない存在の者達がいれば、自分のように彼らの強さを求めて彼らの元に集う存在が必ずいる。


 「………陛下は、ここまで予想していたのですか…? 皇帝にしか目が向いていない私を覚まさせるために、この倭に私を送り込んだと…」

 

 黒埼は―――震えた。

 恐怖とでも言うのか、今まで見繕っていた自信と言う衣が倭に来て、容易く剥がされた。

 黒と対峙しても五分か勝てると言う過度な自信があったにも関わらず、先ほどの天童と暁を見て自信が消えた。

 何故なら、彼ら2人を率いているのは――橘 黒(たちばな くろ)だ。

 四大陸で聞いた噂や情報と異なっているほどに、異常であった――。


 その気になれば、四大陸など力と恐怖で一晩で支配できるほどの猛者達がいる。

 それでも、手を取り合う彼ら倭に()()()()()()()()()()

 必ず、裏があると思ってしまうほどに恐れを抱き、倭の目的が理解できない。

 ―――だからこそ、この計画なのだと黒埼は理解した。



 流石は、私の憧れたお姉様です。きっと、先輩もお姉様と同じ考えだった。……これじゃ、私何かじゃ足元に及びませんよ――。




 

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