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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
最終章 極東十王領域
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最終章二十三節 油断ならない強敵


 高濃度魔力領域が結界内部で蠢き、巨大な渦となって見る者を恐怖させる。

 もしも結界が壊れでもしたら、目の前の魔力領域がここ一帯を呑み込むのは確実だ。

 闇色の魔力に呑み込まれ、一般人や魔力が低い金騎士以下の者達はたちまち高濃度魔力領域の餌食になる。

 草木一つ残さず、無差別に力の無い者達から生きる資格を奪い取る万人が持つ最も効率的で操作不可能な――『広範囲殲滅魔法』――。


 この結界が崩れたら、最後――……。

 梓の脳内にあるのは、黒と色彩神の魔力領域が混ざり合ったこの強大な魔力領域を決して外へ漏らさない事だけだ。

 一ヶ所の綻びですら、致命的な問題である結界術に置いて梓の神経はいつも以上に研ぎ澄まされる。

 故に――頭上から襲い掛かる存在に誰よりも早く気付いた。


 「――薫さんッ! 空から魔力反応よッ!」


 梓が空を見上げると、開かれた空間の狭間から数多くの小型異形種が我先にと飛び出す。

 梓の言葉があったからこそ、その場にいた騎士が素早く敵を視認し構える事が出来た。

 地面に降り立った異形達の周りを武器を構えた騎士が囲う。

 飛び出してきた数百を越える異形達が一ヶ所に固まって動きを止めている。

 会場に集まっていた騎士とて、この数の異形が一斉に動き出せば全滅する可能性もある。

 頬から滴り落ちる汗と異形達の不気味な外見と恐怖を与える瞳が幾つも蠢き、騎士やゆっくりと避難する民間人を狙っていた。

 自分の鼓動が速くなり、手に持つ剣が手汗で滑る――。

 いつ動き出すか分からない異形を前に、騎士達は警戒し続ける。

 1人の子供とその母親が会場を後にしようとしたその時、1体の異形種が突然母子の元へ飛び出し、その鋭利な爪を振りかざす。

 それを合図に、全ての異形種が飛び出し騎士の真ん前へと牙と爪を立てる。


 ――が、空を切り裂く雷鳴と雲を突き抜ける光の刃が異形の頭上から落ちる。

 会場の外へと避難した一般人と避難誘導していた騎士を狙って会場の内部と外へと飛び出した異形の全てが同時に消された。


 「……少ないな…。目的は別と見て問題ないな?」

 「翔くん。少し腕あげた?」


 鼻歌混じりの上機嫌なメリアナと、予想よりも敵が少なかったに事呆れている翔の2人が会場の外に集まっていた異形と会場の上空から次々と現れた異形を塵1つ残さず消し去る。

 期待を裏切った異形に溜め息を溢した翔の背中をメリアナが叩き、梓に結界の一部を開いて欲しいと告げ、2人は高濃度魔力領域と化した結界へと侵入する。

 揃って結界へと消えた2人に続いて、大量の異形が結界を突き破ろうと結界に体当たりする。

 その意味することと言えば、異形の目的が外部の騎士や一般人ではなく内部に留まった黒と色彩神のどちらかと言うこと――ならば、梓達のすべき事は1つであった。


 薫が聖剣を鞘から抜き、避難を終えた騎士達へ配置の指示を飛ばし異形から梓とその結界を死守せよと声が飛ぶ。

 騎士が身構え、前方の異形達がゆっくりとコチラへと向き直る。

 騎士と怒号と共に異形の奇声が木霊し、両者が衝突する――。







 右へと視線を向ければ、この状況を予測していたとばかりに鼻を高くしたどや顔の色彩神が俺へとそのムカつく目を向けてくる。

 ―――結果としては、まずまずだが異形が来るのは予想外だった。

 目の前のナハヲも周囲に渦となって結界に貼り付いた魔力によって、状況は分からない様子だ。


 「これで、創造神の監視からは逃れた。後は適当に傷を負って出れば……。まず、疑わないでしょ」

 「たく……。どこから見てるか分からんから、密会するのにすら手が掛かる」


 黒が溜め息を溢し、色彩神が指の肉を噛みちぎり滴り落ちた血液が小さな文字となって、結界内部を漂う。

 色彩神の指から流れた途端に文字となって宙を漂う。

 異様な光景だが、神の御業と呼ばれる物なのだろう――。

 神の血を媒介とした超強力な結界術らしい……。魔力も神の持つ力すらも無効化し、完全に姿形をこの世から消し観測させない超凄い術らしい。

 ……らしい、と言うのもこの術は色彩神の持つ力をフルで使っているため、試した事はないと言う事だ。

 理論上では、完璧であるが相手は上位領域と手放したとは言えこの下位領域の2つを一から造り出した神様している神様だ。

 俺の隣でドヤッている神様よりも、神様している神様だ。


 「ホントに、失礼だね君は……」


 どうや、俺の心を呼んだらしい。

 人の頭の中を盗み見る良い趣味をお持ちのコイツが、ホントに創造神と同レベルの神様か疑う。

 黒と色彩神のやり取りを眺めつつ、頭上に開かれた結界の隙間から、メリアナと翔が揃うとナハヲは思わず頬を吊り上げる。

 それは、強敵との再会なのかさらに自分を楽しませてくれる存在の出現にワクワクしているのかは分からない。

 ―――だが、ナハヲはこれまで相手にしてきた敵とは、段違いの相手である。

 それは、メリアナも翔も黒がわざわざ言葉にしなずとも、魔物の本能や肌を刺す魔力を感じれば自ずと分かる。

 それでいて、肩に担いでるナハヲ曰く()()()と称される神器もまた――警戒すべき脅威であった。


 だが、ナハヲも黒も戦う意思はなく――。ただ、一言確認するだけであった。



 「「お前の目的は……。神殺しか?」」


 2人の思いもよらない言葉にメリアナや翔以上に、ナハヲと黒もそれぞれの問い掛けに驚いていた。


 ―――そうか、コイツは俺と同じ目的なのかも知れない……。それでいて、自分の目的の為に上位側へと付いている。

 それとも、俺の目的を理解して、自分の仲間へと引き込む算段でも立てる目的か……?

 ナハヲの心意が分からず、黒がナハヲを睨むと翔が黒の前に立つ。


 「何の目的があるかは、知らん。――が、俺らの邪魔をするなら容赦はしない。あぁ……安心しろ、お前らの神様もちゃんと俺の抹殺リストに載ってる」

 「それを聞いて安心したよ。もちろん邪魔はするよ。だって、そうアイツに命令されるからね……。でも、俺個人の意見は別に死のうが死ぬまいがどうでも良い。俺の目的が達成しさえすれば――な」


 ナハヲが神器を開いた空間へと投げ入れ、何か自分に得する物を得たように微笑みながらその場を後にした。

 翔やメリアナが魔力の欠片1つ残さずに消えたナハヲの言動に違和感を覚えつつ、対して深刻そうな顔をしていない黒と色彩神の2人に事の経緯を尋ねる。





 ――ナハヲと言う男は、創造神を利用している。

 それさえ分かっただけでも、潜んでいたナハヲと小型異形共を刺激してよかった。

 黒焔の一室にて、四大陸の地図を広げつつ現在の皇帝と他国の領土の状況を確かめる。

 大陸へと渡って情報を探っている佐奈や銀隠達の情報を元に、暁やメリアナと点在する皇帝の細かな情報と他国の勢力争い眺める。


 「……それで、黒ちゃんは一体どうする考えなの?」


 暁がマキジが淹れたコーヒーを片手に悩んでいる黒にこの先の事を尋ねる。

 もちろん、この先と言うのは皇帝が多く点在する四大陸との無益な争いではなく。

 上位の存在とさらにその上に当たる神々との戦いについてであり、暁には四大陸の皇帝は視界に入っていない。


 「……。佐奈達が調べた情報だと、今の俺と互角な戦いが可能な皇帝は2人。暁達には言ってなかったが、上位の手先として下位の皇帝の地位にいる――『ナハヲ』」


 黒の発言に暁の顔色が様変わりし、カップをテーブルへと置いて黒の話に耳を傾ける。

 1つの情報も取りこぼさないように、暁も黒が自ら互角と豪語した2人の存在が今最も脅威になり得ると理解したからこそ。

 ナハヲと少ないながらも対峙した黒が直感と魔力から推測したナハヲの実力は互角か少し自分が劣るか程度だが、それさえも宛にならないほどにナハヲは油断ならない敵である。


 「そして、もう一人は……。俺も未来も顔と名前は知っていて、未来は特に名前と顔を覚えていると思う」

 「それは、どういう事? あまり、騎士として前面に活動していなかった未来ちゃんが知ってるって事は何かしらある子なのか?」


 暁の疑問に黒が答える。

 その答えは、上がっての予想を上回り相手が強い弱いに関係せず、自分達にとって脅威ともなり得ると判断できた。




 「――アイツは…未来の妹(教え子)だ。それも、俺が未来と組んでいた時からで、教え子の中でも最も長い期間残ったのが奴だ」


 あまり戦闘に参加せず、後方支援を担当していた未来だが、魔法の知識や魔物の力など、より強くなる可能性やその技術を有していた未来。

 その未来に目を付け、長い間未来から魔法の知識を学び吸収してきた一人。

 未来がどういう人で、黒がどういう人なのか四大陸の皇帝の中で誰よりも深く理解しており、当然弱点にもなり得る情報も持っている。


 付け加えると、魔法の知識やドライバなどの知識は未来から教わり、嫌がらせ目的で体術の基礎的な事や戦闘技術を手解きした黒の教えもあってか、既にその時から竜人族である黒の動きに人間でありながら付いて来た――天才児であった。


 「昔の段階で、他とは違った天才。それでもって、倭最強(自称)の黒と互角……。神器と魔物の情報はあるの?」

 「……残念だが、あっちで佐奈達に探って貰ったが…。攻めてきた異形もドライバと魔法で倒してる。人族だから、神器や魔物を所有している可能性は低いが……。後から目覚める可能性もあるし、()()()()()()()()可能性もある。ホントに、油断ならない2人だよ」


 黒が溜め息を溢しつつ、星零学生の時に未来にイヤイヤ撮らされた3人の写真を端末から探して眺める。

 そっぽを向いて少し不機嫌そうな自分とは打って変わって、未来とその妹は満面の笑顔で笑っていた。

 皇帝てして実力を確実な物とし、味方にすらも自分の手を明かさない徹底ぷりは昔と同じであった。

 こちらの手は始めから対処され、こちらは対処の仕様がない状態。


 不利ではあるが、この2人を脅威として見れば他の皇帝はそこまで脅威ではない。

 だが、一度対面して話し合う必要がある。

 始めから力による征服ではなく、対話による和平も視野に戦う。

 それが、自分の取るべき選択であり、無益な争いと血を流す必要は最小限にすべきである。

 黒が雨なりながら、椅子の上で天井を見上げていると扉が叩かれ黒が返事をするよりも先に未来が入ってくる。


 「……ノックしたんだったら、返事を待ってくれよ。着替えの最中だったらどうすんだよ」

 「私は黒ちゃんの裸を見ても、何ら問題無いよ。それに、裸でも別に驚きもしないよ」


 そうじゃないんだよね。未来が恥ずかしくなくとも、俺は恥ずかしいし何より俺だけが居るとは限らない。

 そう言葉にする事はなく、溜め息を溢しつつ未来がここに来た要件を尋ねる。


 「――ふふッ…。用事がないと、来ちゃダメなの?」


 黒の隣に寄って、未来は黒の首筋に指を這わせ妖艶で聞き入りたい声を耳元で囁き、未来は黒の首筋に腕を絡ませる。

 未来が黒の腰の上に座り、頬を赤らめつつ黒の鼻先に息を吹き掛ける――。












 「―――調()()()()()()()……。教え子風情が、俺が幻術に堕ちるとでも思ったか?」


 黒が未来の首筋に魔力を込めた指先を向け、青く光る瞳で、未来に化けた者を威圧する。

 だが、相手も黒の威圧に恐れおののく事なく、黒の上から退くとまるで、蜃気楼を見ていたかのように姿が霞み始め、未来の姿から黒髪短髪の小柄な女性が現れる。

 ――魔力は人族にしてはやや高い分類に位置付けられ、何より未知数な魔物の存在と隠し持っていると考えられる神器の存在に、黒は完全に後手に回った。

 腰に下げている血燐一刀を抜刀する隙をこの女が与えるのか怪しい所で、指先から椅子の下へと密かに放った小さなぼた餅が無糾閻魔を取り出すまでの間を血燐1つで持ちこたえれるかが決め手。


 ……怪しい動きは無い。単身で乗り込んで来た余裕はどこから来る…? 俺を万が一倒せても、その後に暁や翔を同時に相手する事になる。

 ―――それでも、勝てる確証があるとでも言うのか……?


 黒が椅子から立ち上がり、腰の血燐に手を伸ばす。

 それを見てもなお、女は軍服姿で何一つ手に武器を持たない。

 武器を必要としないのか、魔物によるに立ち回りを基本とした戦いを強いるのか、情報が足りない。

 だが、そんな黒でも彼女に付いて1つだけ分かっている事がある。


 「――ここで、やり合えば…。未来を巻き込むぞ?」

 「知ってますよ。先輩……。だから、こうして足を運んだんですよ。先輩と2人っきりで話す為に――」


 口許を手で隠して、薄く笑ったその笑みは不気味であった。

 自分との実力さを理解していない無謀な馬鹿者とは異なり、実力さを理解した上でこの場に立っている。


 ――今の自分がかつての師と互角に戦えると、本気で思っているのだ。


 「……随分と生意気になったな。昔のお前は、俺に一方的に負かされてたのにな――」

 「いつの話ですか? 少し見ない間に、過去の栄光にすがり付く惨めな三下に成り下がる何て……。一体先輩の身に何があったのでしょうか……」


 冷静かつ気付かれない程度に魔力を巡らせ、一瞬でその生意気な口を黙らせる為に首を切り落とす。

 血燐へと巡らせた魔力を爆発的に解放し、鞘から引き抜くと同時に――一閃。

 鮮血が壁や天井などに血痕が付着するが、それは女の首を跳ねたからではなく。

 黒の右腕が()()()()()()()事による出血であった。

 黒が顔を歪ませると、女の腰に下げていた刀が――キンッ――と音を上げ、鞘に収まる。

 回復魔法で投げ渡された腕をくっ付け、女の微笑む様をマジマジ見詰める。

 腕を切り落とされたからか、さきほどの動きが一体何なのかは容易に理解できる。


 ――泉流抜刀術を編み出し1つの流派とした祖母やその先祖らは、剣聖と呼ばれる様々な武術や剣術と言った分類の最高位の位に位置付けられている。

 周囲が勝手に名付けたその称号のような異名は、剣術の強さを現していると言っても過言ではない。

 つまり、その泉流抜刀術の抜刀に反応出来る抜刀自分はこの世に存在しない。

 泉流を倒せるのは、泉流しかな無いと言う事――。



 「いつの間に、その技術をマスターしたんだ? 泉の門下生に皇帝がいるって話は聞いてないが?」

 「もしかして、忘れてます? 私がどうやってここに来たか……」


 女の体が蜃気楼に包まれたかのようにその姿を変化させ、黒の記憶にある一人の女門下生へと変わった。

 その姿で俺やババァから、技術と情報を盗んでた訳か……。

 黒が治療を終えた右腕を動かし、目の前の女を正面から睨む。

 敵意を見せた完全な殺気と、青く光る瞳で――。


 ――だが、一触即発の2人の前に予期せぬ人物が登場し、2人の間に割って入る。


 「はい……。喧嘩は終わり、昔から仲良く出来ないよね? 私が止めなかったらどうするの?」


 栗色の髪を靡かせ、黒と女の額を軽く小突いた未来に2人は思わず固まった。

 所属先を考えれば、未来は敵の前に敵意すらも持たず現れたのだから、2人が驚くのは無理もない。

 だが、未来は――敵意など持つ筈がない。


 「久しぶりだね。(あおい)ちゃん」

 「…み……未来…様……」


 葵と呼ばれた彼女は、涙を滲ませ未来の手を優し握る。



 


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