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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
最終章 極東十王領域
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最終章二十二節 白銀の竜に次期神候補


 目的は、達成した筈だ――。

 にも関わらず、自分はなぜ拳を納めずに再戦を提案したのだろう。

 単純に、どれ程までの強さであるのか試したかったのかもしれない。

 それとも、安心したかったのかもしれない――。


 『任せても良いのか』『背中を任せて良いのか』……自分がこれから戦うであろう相手達は、後ろを気にして相手が出来るとは限らない。

 だからだろうか、自分の背中を任せて安心したかったのかもしれない。

 多分、それが一番の理由だろう――自分の力をより理解する為だとか、朧気に見えた者の正体をハッキリさせるとかはきっと、ただの口実だ。

 本心は、ただ安心したかった……。

 心の奥底に眠る不安を取り除く為に、妹を利用して仲間達に丸投げしたのかもしれない。


 ――俺の仲間は、強くなろうと必死だ。だから、より強い力を見せ付ければ……。もっと強くなろうとする筈だ――。


 自分が楽しようと考えた『浅ましい奴』だと、笑われ軽蔑の目が向けられるかもしれない。

 浅ましいと蔑まれても、アイツが笑えるのならば――進んで泥を被って笑われよう……。

 全てはアイツの笑顔の為に、可能な物は全て切って、万全な準備で戦い挑む為に躊躇も怠ってはいけない。

 そうしなければ――笑顔が雲ってしまう気がした。





 「――だから、白……。俺を殺す気で掛かってこい。そうでなければ、覚醒したとは言えない…」


 黒が小声で呟いた言葉は向かい合った妹には聞こえず、乾いた風が2人の間を抜ける。

 小石が風に吹かれ、転がると同時に2人は間合いを詰めて、白の魔力を纏った掌底と黒の掌底が空気を押し出し衝突する。

 目にも止まらぬ速さで次々と繰り出される殴打と空気が押され、

破裂音が響く。

 黒の魔力も白の魔力も、双子故なのか質も濃度も似ていた。


 幾つもの修羅場と戦いを経験した黒だから、白とは差があると思われていた。

 だが、白も上位領域での戦いや多くの同胞達との修練を重ねていた。

 そこには、大きな経験の差は存在するが、白の天性の才能と言うに価するその学習能力と技量が黒と同等の戦闘技術を可能とした。

 そして、その力は黒との戦いの最中でも発揮される。

 黒の動きを分析し理解し、次の攻撃を何十通りも予測計算し、白の拳が黒の硬い魔装の薄い部分を的確に狙った。


 その戦い方を黒は知っている――。



 心の底から守りたい存在であり、きっと戦いの渦中に放り込めば幾度の傷を伴って大きな力を手にすると直感で分かった彼女と同じだ。


 ――天城 未来(てんじょう みらい)――も、白と同じかそれと似た才能を持っている。

 未来は根が真面目で嫌な仕事も進んでやって、そつなくこなすほど器用で要領が良い。

 時には失敗もするが、それを踏まえても白と未来は似ている。――酷く似ている…。


 未来も白と同じく、戦いを経験すればするほど強くなり得る。もっと場数を多く経験すれば、あるいは皇帝にだって至れる。

 いや――きっと、俺以上の脅威と判断され上位共の手が向かう可能性すらあるだろうな。


 間合いを詰めた白の飛び蹴りを片手でいなし、開いた脇腹に飛び膝蹴りを叩き込む。

 思わず力んでしまった黒だが、白は魔装を纏った両腕で黒の膝をガードしていた。

 膝を押し退け、身を翻して距離を取った白を見ていて、黒はその高い戦闘能力に笑みが溢れた。

 予想よりも強く伸びしろが大いにあった事に喜んだのか、本能的に強い者との戦いに興奮したのか差だかではない。

 だが、黒は本来の目的を忘れて、黒竜の力を解放する。

 足下から広がる闇から、幾つもの刃が白へと飛来する。

 地面や壁に突き刺さった剣を巧みに避けつつ、黒の死角から飛び付いた。

 黒が白の攻撃に反応し動いた一瞬を狙って、白は空気を蹴って背後に回る。

 黒が反応するよりも早く、その背中に蹴りを叩き込む。

 目映い光と共に蹴りが放たれ、黒がまたしても壁へと叩き付けられ体を瓦礫に埋める。


 ――軽かった。反省点はそこかしら? 隙を狙って予想通りに動けたとして攻撃がちゃんと入らなければ、意味が無い…。



 瓦礫を押し退けて立ち上がった黒が髪や服に付いた砂や小石を払い落とす。

 その瞳には、青く光る竜の瞳が健在であった。

 すなわちそれは、魔力をそれほど消費せずに魔装を維持している証拠で、白が持たない技術の差があった。

 黒は魔装を出来る限り維持して戦って、白は防御時や攻撃時に魔装を纏ってその魔装による上乗せされた破壊力と防御力で戦っている。


 単純に、戦闘経験が豊富な黒は強い……。力で僅かにうわまわったとしても、それをカバー出来る程の経験が黒にはある。


 黒の攻撃を警戒しつつ、出方を伺う白が扱い方をよく知らない魔物の力を両腕に纏う。

 光を放つ白と闇を放つ黒の相反する2つの魔力が会場内部を満たす。

 肌を切り付けるピリピリとした緊張感と、2人の魔力に刺激され多くの竜人族が瞳を魔物の瞳に変化させる。

 無意識の内に内に宿る竜と共にその戦いを見詰めて、自分達が魔物を守り共に戦う為に造り出された存在――。


 ――竜人族――である事を再認識させられる感覚に、碧と茜は生唾を飲み込む。


 「……次で、決着か――」


 辰一郎が溢した言葉が引き金なのか、2人は地を蹴って間合いを詰めるとその膨大な魔力を拳へと集中させ、一点に凝縮して放った。

 白と黒の凄まじい魔力が会場に張られていた結界を容易く破壊し、余波と高濃度な魔力が場外へと流れる。

 梓と薫の結界術と防壁魔法で、余波と魔力を間一髪で防ぎ2体の竜が咆哮を挙げる。

 白と黒の叫び声が、竜の雄叫びに聞こえるほどの声とぶつかり合う2つの魔力が生み出した1つの力が、雷を天から2人へと落とす。


 2人の間に割って入るかのように雷が地面を穿ち、砂煙が晴れると紫色の瞳をした2人と、白のような白髪をした黒と黒のような黒髪をした白の2人中央に穿たれた雷を境に互いに互いの顔を見詰めていた。


 ざわつく観客と辰一郎や梓達もその2人の変貌ぶりに言葉を失った。

 それは、見た目が反転したかのような状態だからではなく。―――2人の中央に生まれた――()()()()()の存在に言葉を失ったのであった。

 その力は、竜人族であれば知らない者は居ないと言ってもおかしくはない力と瓜二つであった。

 竜人族の国である皇宮の女王でもあり、十王の一人――竜王『椿 羽織(つばき はおり)』に宿りし、竜達の祖である竜魔物――……。


 ――白銀の祖巨竜(アルビ・テイオン)――。


 その力とほとんど似ている魔力とその白銀の鱗に周囲の竜人は思わず立ち上がり、その神々しい鱗の光を放つ竜に釘付けとなる。

 黒と白が紫色の瞳を輝かせ、膨大であった魔力がさらにその量と濃度を増し、2人の内側から熱く滾る感覚に揃って驚く。


 どうやら、本当だったみたいだな。まさか、双子だから……魔物も1人1つに別れる――なんて、アホみたいな仮説が証明されるとはな……。

 黒が紫色に光っている瞳を手で覆い隠くし、再び自分の目の前に突如現れた白銀の竜を見上げる。

 俺ら双子が元の一体から力が分かれ、別々の2体の魔物に力が平等に分配された。そう考えれば、リーラがなぜ2体もの魔物を有して、2体とも同等な力だったのかも辻褄が合う。


 ――条件は『双子』である事なのは、容易に想像が付くが竜人族の

双子も他種族でも双子などは、そう珍しくもない。

 だが、ここで黒が導きだひた答えに、内側に宿した黒帝竜が反応した。


 『むん……。そう、答えを急ぐものではない。まずは、妾の母と言葉を交わす事が先と思うが? まぁ、全てを答えるかは……保証せぬがな』


 黒帝竜の指摘に我を取り戻し、見上げた白銀の竜にその紫色の瞳を向ける。


 『……どうやら、私が寝ている間に…。自身の力に目覚めたようですね。我が愛しき子を宿しし黒髪の竜人よ』


 神秘的なその声は、まるで歌姫のような透き通る声をしており、聞き入った者達を虜にするほどに美しい声であった。

 黒が白く変化した髪に気付き、それが魔神との戦いでも同じような変化であった事に気付き、あの戦いで力を貸し与えたかを問う。

 黒の問い掛けに対する答えは、半分正解であり半分間違いてまあった。

 黒に白銀竜の力を貸し与えたのではなく、正確には力に共鳴しその力が呼び覚まされ、白銀竜から僅かばかり奪ったのが正しかった。

 黒が黒竜の魔力と眠っていた白の白竜の魔力を呼び覚まし、混ざりあって僅かに繋がった白銀竜の繋がりから、魔力を奪い取って勝手に利用した。

 白銀竜も黒の内部へと移動する為に、魔力の一部に自分の存在を隠して移動し、黒の力を僅かに操作して魔神と戦った。

 余計な手出しをしてしまった事を謝罪するとともに、黒をあの場で失う訳には行かなかったと言う考えを告げた。


 『私は、現在の十王と呼ばれる。竜の祖先『祖巨竜(アルビ・テイオン)』の直系に当たる魔物です。直系が分からぬ者達も居ますでしょう。直系とは……すべての魔物が持つ、序列のようなもです。皆等しく母体に近い系統であればあるほど、その受け継ぎ複雑化した力はより強くより巨大になる。そして、その直系に近い序列の魔物を宿したあなた達は、私の母に当たる十王に()()()()可能性があります』


 「……十王に匹敵する力…。祖竜の直系である彼女と、その直系である……。私達の力」

 白が黒く染まった髪の毛を弄りながら、内側に感じる魔物の力を深く意識する。


 ……これで、ハッキリとした。なぜ、上位領域の奴らが俺を必要以上に狙って、標的にしたのは…色彩神(リム)のような神や十王達とまともにやり合う事が出来る可能性があって、危険だからか――。

 よくよく考えれば、普通じゃ十王や神クラスの者達に牙を剥いて歯向かう事など頭で不可能だと分かる筈だ。

 だが、俺は同等とは行かなくともそう簡単には負けないと本能で分かって戦っていた。

 今でこそ創造神(ザース)と敵対しているが、本来ならば簡単に捻り潰される存在なのはコチラだ。

 どれほど神の恩恵があろうともまともにやり合うには、素の差が計り知れない。


 「十王ってのは、確か色彩神が造り出した存在だよな?」

 『それと、竜人族も神自らが作りし存在。言わば――次世代の神候補……。とでも言えましょうか』


 なんとか無くだが、色彩神が幼い俺に自分の力の一端の『庭園(エデン)』を与えたのもこう言った経緯からか……? それとも、本当に、俺を限界まで神の恩恵増し増しにして、ナハヲとぶつける気か?

 黒が紫色に輝く瞳で、気配と魔力を完全に遮断してコチラを見詰めていた色彩神に向け斬撃を飛ばし、その鼻先をわざと掠めさせ張っていた気を緩ませる。

 光学迷彩のような膜が消え、姿を現した色彩神に白銀の竜は丁寧にお辞儀する。

 白もそれに習って思わずお辞儀するが、その隣の黒はと言うと手に持っていた閻魔を色彩神に投げつけ、色彩神が白刃取りをした隙を付いて神の顔に蹴りを叩き込む。



 「痛いな~……橘くん。今の力は僕じゃなかったら死んでるレベルだよ?」


 ケラケラと笑って閻魔を黒へと投げ渡す色彩神が服の埃を払う。

 その場の観客全員が静まり返ったのは、自分達の神が蹴り飛ばされた事ではなく。

 その蹴り飛ばした男から漏れた殺気による物なのか、静まり返った会場に黒の舌打ちが鮮明に聞こえた。


 「首をもぎ取るに蹴ったつもりだったんだけどな……。神様ってのは、見た目に反して……頑丈だな」

 「もしかして、怒ってるの?」


 色彩神の問い掛けに、黒の冷めきった黒色の瞳が色彩神を睨む。

 問い掛けの答えかのように、黒は色彩神の首を跳ね飛ばす気で、血燐一刀を振る。

 血燐の刀身を人差し指と親指で摘まんだ色彩神は、依然として微笑んでおり、その笑顔がさらに黒の神経を逆撫でする。


 「……何を企んでいる。まさか、他の神とやり合うのに……白を利用する訳じゃねーだろな?」

 「まさか……。でも、保険とでも言っておこうか…。あくまで、保険であり――君の代用品だ」


 ――代用品――…。その言葉を聞いて黒の頭に血が上り、白や多くの者達が悲鳴や黒を止めようと手を伸ばすが、黒は血燐に力を込めた。

 刀身に魔力による血管状の紋様が浮かび上がり、黒の瞳がさらに青く光る。

 一言だけ、白や白銀の竜に向けて『邪魔だ』と告げると、閻魔の刀身に魔力を巡らせその刀身を深紅に染める。


 「……俺の家族は、お前の駒じゃねーんだよ。駒は、俺1人で十分だろが」

 「分かってないな~。相手は、僕よりも神様してる神様だよ? 12人程度の駒で、戦争が出来る訳は無いでしょ~?」


 色彩神が地面の砂を摘まみそれを掌で練り込むと、少量の砂から両刃の剣を創造し黒へと振り下ろす。

 2人の魔力が衝突し、凄まじい風圧と高濃度な魔力が辺りを巻き込む。

 濃縮された猛毒となんら変わらない高濃度な魔力が会場を包み込む。

 咄嗟に梓が指を合わせ会場を覆う広範囲かつ強力な結界で、黒と色彩神の魔力を観客に向くのを防ぐ。


 ――強力…。何て、言葉で現す事すら必要無いほどに絶大な力を秘めている。

 指を合わせたまま額から汗を滴らせる梓がその会場全体を飲み込むほどの魔力の渦に、恐れを抱く。

 我が孫ながら、立派に橘の血を継いでいた事に少し嬉しいのか――結界に力が入る。




 「……神殺しってのが、正直どんな物なのかは……。この際どうでも良い。ただ、白や未来を巻き込む事は許さない」

 「巻き込むも何も……。既に巻き込まれてるでしょ? ――違うかな?」


 低い色彩神の声に、黒は少し戸惑うと共に背後から忍び寄って来た存在に気付いて、閻魔と血燐を鞘に納める。

 色彩神と黒の2人が揃ってこちらへと歩いてくる人物が笑みを浮かべ、肩に担いだ大きな戟の刃が光を反射し2人の前で戟の矛先を地面に突き刺す。

 戟を地面へと突き刺し、2人の前に現れた存在こそが現在の黒と色彩神が最も警戒する強敵―――。


 『剣戟(ジャオロ・)森々(クアリス)方天画戟(ホウテンガゲキ)』そう称される上位領域きっての実力者にして、下位領域に存在する皇帝の1人――ナハヲであった。



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