最終章十四節 僅かな希望であろうと
激しい戦いによって崩れた建物の瓦礫が積み重なった場所には、砂塵が風に煽られ吹き抜ける。
周囲は、瓦礫と半壊した建物で埋め尽くされ――そこに2人の男が時々雄叫びを挙げては、武器を持たずに戦っていた。
互いに笑みを浮かべ、まるで楽しむかのようにただただ殴り合う。
恩恵の力も魔物の力も無く、一切の魔力を纏わずに自分達の腕力と己の技量のみによる戦いが行われている。
骨が軋み鈍い音が響き、唾液と混ざった血液を地面に吐き出し、頬から滴る血を拭い休むこと無く戦いを続ける。
上半身裸の2人が真っ赤な血を全身から滴らせ、満面の笑みで互いを殴る光景はおぞましかった。
何が楽しくて笑いながら殴り合うのだろうか、2人は2人にしか理解出来ない価値観と時間を共有する。
拳の皮が擦り切れ、捲れ、激痛に苛まれながらも2人は戦いを全力で楽しむ。
瓦礫に血が飛び散り、2人の拳が交差し互いの鼻骨を的確に叩く。
2人が鼻を押さえ、流れ出る血を見てまたしても笑みを浮かべる。
「やっぱ、お前…最高だ……」
ジェイクが鼻を弄りながら、真っ赤に染まった手で対峙する男を手招きする。
「……良いね…。久しぶりだぜ、本気で殴り合ったのは…だが、ここで終わりだ――」
男が指の関節を鳴らし、強力な攻撃を想定し身構えたジェイクの間合いを一瞬で詰める。
それまでの速さとは格段に違った男の速度に、ジェイクは咄嗟に腕で防御しようとするが、ジェイクの咄嗟の判断は誤りであった。
ジェイクの防御の上から男は強力な殴打を叩き込み、ジェイクを瓦礫の山へと飛ばす。
瓦礫を吹き飛ばし、痛めた肋骨とあり得ない方向はと曲がった右腕を見て、ジェイクは口から大量の血液を吐き出す。
朦朧する意識と一度に大量に失った血液によって、身体が思うように動かない。
さらに重く速い一撃に反応所か、ジェイクの身体は限界が近付いている。
折れ曲がった右腕と肋骨の損傷はジェイクの想定しているよりも深刻なダメージであり、現状では男の攻撃全てが一撃必殺と言っても過言ではない。
瓦礫を飛び越え建物の影へと隠れるジェイクだが、男の放った魔力を纏った拳が建物を破壊しその影に潜んだジェイクもろとも吹き飛ばす。
迷路のようになった瓦礫と半壊した建物の僅かな間を抜け、限りある魔力による回復で脇腹のみを限定した回復魔法でどうにか治療をする。
本来ならば、脇腹と腕の治療が望ましいが脇腹のみの回復には、ジェイクの秘策とその条件を満たす為に必要であった。
「――クソッ!…だが、これで五分五分だな。それでも、五分か…。持久戦に持ち込めば、俺が不利かつ鈍い動きしか出来ない…。一撃で仕留めれば――…クソ……」
ジェイクが呼吸を落ち着かせるために、瓦礫の影に隠れ後方から迫っていた男の姿を確認する。
男がジェイクを見失った事に、ひとまず安堵するジェイクだが自分の頭上から振り下ろされた拳が凄まじい風圧によって、瓦礫を押し退けジェイクを瓦礫と瓦礫の間に閉じ込める。
身動きの出来ないジェイクを見て、男は悲しそうに天を仰ぐ。
「なかなか……楽しめたぜ。だが、逃げに転じたのは良くなかったな。あそこで逃げずに戦えば、苦しむ事はなかったのにな…」
「……ぐッ…そうか?俺は結果は同じと見たがな…。それに、俺も楽しめたぜ?」
瓦礫の隙間からジェイクが声を漏らすと、男は首に下げた十字架に口付けをする。
そして、心の中で『願わくば安らかな死と、幸福の来世を――』そう祈り、魔力を込めた拳でジェイクが閉じ込められた瓦礫もろとも消し飛ばす。
――が、瓦礫が消し飛ぶと同時に自身の視界を横切った人影に気付き、振り替えるよりも先にジェイクの右腕による強力な殴打が男を空高く打ち上げる。
男が血を吐き出し雲を突き抜けると、大気を蹴り付ける音が聞こえる。
太鼓のように低く重い重量感ある音と共に、ジェイクが空を駆け上がる。
「な――…なぜ、お前は生きている。それに、その右腕は何だッ!?」
男が驚きと肋骨を叩き折られた激痛に顔を歪めると、赤く膨れ上がり折れた筈の右腕を振り上げ、力に任せて男を地面へと叩き落とす。
陥没した地面とその中心に、地面深くに縫い付けられた男が全身血だけにし、地面から這い上がる。
大気を踏みつけてゆっくりと降りてくるジェイクの額には、対の角が見えた。
そこで、男は初めてジェイクが人間ではなく――鬼人族である事を理解した。
「……なるほど、人間であれほどのタフさは珍しいと思ったが…。まさか、人間じゃなかったか…」
「それほど問題じゃねーだろ?人だろうと鬼だろうと、本気で戦うのは当然で……奥の手を隠すのも戦術だ。違うか?」
ジェイクが赤く蒸気を放つ両腕で男を叩く、地面が弾け間一髪退いたが、男の反応速度を優に上回るジェイクの拳が男の脇腹や顔を叩く。
一切の隙を与えないジェイクの猛攻に意識を手放した男だが、その胸に刻まれた聖痕が光を放つ。
攻撃の手を緩めてしまったジェイクに、男は透かさず反撃とばかりにジェイクの顔面に拳を叩き込む。
骨の軋む音と噴き出す血を見て、男は頬を釣り上げる。
ジェイクを殴る拳が桁違いの破壊力を有し、ジェイクの魔力による防壁を容易く粉砕する。
意識の闇に沈みかけたジェイクに小さな手が救いの手を差しのべる。
ジェイクはうっすらと笑みを浮かべその小さな手を掴むと、ジェイクの内側から凄まじい魔力が溢れる。
男が攻撃の手を止めると、ジェイクは折れ曲がった鼻を片手で元に戻し、真っ赤に染まった顔を上げてジェイクは笑った。
そして、ジェイクの内から顔を出した童顔の小さな小鬼が手を叩く。
次の瞬間、男の腹部にめり込むジェイクの拳は先程までよりもさらに赤く色づき、男の皮膚を焼く。
激痛と熱による火傷によって、全身から汗を流す男がさらに嬉しそうに笑みを浮かべる。
「……俺の名は、『トレファ・エインス』12人いる聖職者の内の…10の聖痕を賜った男だッ!」
トレファが声を挙げ、全身に巡らせた恩恵の力を両腕に集中させる。
「ほぅ…お前で、10番…か…。上位だ下位などと、アイツらが柄にもなく警戒する訳が分かった。お前の実力で、俺よりも僅かに上ならば――この場で、俺の勝率は皆無だ」
「なんだ?俺に、その小鬼を見せて、たった一撃浴びただけでもう降参か?……もっと俺を楽しませてくれ、奥の手の恩恵まで使ったんだ。まだまだ俺と遊んで、壊れないでくれよ――ッ!」
トレファが両足に力を込め、勢い良くその場から飛び出し間合いを詰める。
だが、これもそれも全てはジェイクの罠であり、見た目や言動から良く勘違いされやすいが――ジェイクは黒よりも頭が良い…。
そして、黒よりも――瞬間的な火力が高く、最高火力に達するまでの到達時間は皇帝の中で『トップ』である。
それこそが『ジェイク・ロトン』と言う男が皇帝と呼ばれる由縁であり、黒と1つの位しか差がない2人である。
ジェイクの頭に乗った愛らしい小鬼が小さな手を叩く、トレファの意識が一瞬だけ小鬼に向くが、敵意も無ければジェイクの単なる従者やペット程度だと決め付け、小鬼に向けて意識を再びジェイクへと向ける。
その結論が大きな誤りであり、脅威ではないと結論を急いだ事で、トレファは上位と下位に存在する圧倒的な違いに気付かず、その違いが一体何を意味しているのかすらも理解出来ずにいた。
そんな判断ミスによって、トレファへと傾きつつあった勝利の女神は――ジェイクへと傾いた。
「――なぶり殺せ…『童子丸』…」
ジェイクの頭上で立ち上がった小鬼がその小さな手を再び叩き、掌と掌が同じ力加減にて空気を叩く。
手を叩いた音が周囲の地面や瓦礫などの物質に反響し、目蓋を閉じたジェイクの耳に反響した小鬼の音が聞こえる――…。
完全に敵との戦力差によって油断していたトレファが気付いた時には、自身の鼻先に迫るジェイクの音速を超越した拳がたった一撃でトレファの頭蓋骨を陥没させる。
鼻が折れ曲がり眼球が破裂し、下顎から抉るように叩き込まれた拳によって、上顎と下顎が砕かれる。
間合いを詰めるために、飛び込んだトレファにカウンターを叩き込んだジェイクが地面へとトレファを縫い付ける。
地面に亀裂が生まれ、瓦礫と半壊した建物が一瞬だけ宙へと浮き上がる。
瓦礫が砂埃をあげ小鬼がジェイクの肩へと移動し、真っ赤に染まった地面を2人は見下ろす。
地面へとめり込まされた肉の塊が徐々に集まり、元の人の形へと甦る。
「なるほど、恩恵の力で肉体の蘇生か……何でもありなんだな。流石は、上位領域の方々だ。下位領域の俺達じゃ、できねー芸当だ」
ジェイクがそう呟きつつ満足そうに笑うと、脳内に響いた色彩神の警告を聞き受ける。
それは、魔力の限界が近い証拠でありリムによる強制転移の対象となった事を現していた。
ジェイクが精神魔法による精神伝達にて、他の皇帝達に自分の退場を告げ光となって消え始める。
見下すようにジェイクはトレファを見下ろすと、殺気に呑まれたドス黒い瞳がジェイクを睨み付けていた。
「さて、俺の役目はこれでおわりだな。まったくやり易くて助かったよ。状況を最も良く理解した奴なら危なかったぜ。それが、俺とお前の違いだ。初めから、こっちは、一対一じゃねーんだよ。……勝敗なんざどうでも良い。お前とは初めから目的が違うんだよ」
「…役目だと?…まるで……正面から俺と殴り合って、戦ってたのも全部作戦であり…罠だった言い草だな…。ただ、俺をあの場所に留める為の戦いだったと言いたいのか――ッ!?」
叫ぶトレファに狂喜に歪んだ笑みを浮かべるジェイクと小鬼は、トレファの哀れな顔を見て笑い声を挙げる。
上位の猛者と下位の猛者同士の他では味わえない壮絶な戦いを求めたトレファの戦いに真っ直ぐな性格を逆手に取り、ジェイクはトレファをこの場に留まらせた。
単なる時間稼ぎの為に、わざわざ魔物の力を隠した上でトレファの猛攻を耐えた。
他の皇帝達に余計な戦闘を強いられない為に、ジェイクはトレファと言う邪魔な存在をわざわざ塔から遠いこの場で戦った。
初めから、塔から遠くのこの場に誘い込むためにトレファの猛攻からわざと逃げていた。
そして、ジェイクの全力のカウンターによって負わされた致命傷の回復に、大半の力を注ぎ込んだトレファ。
当然、今から塔へと向かおうにも体力も無ければ時間も足りない。
「……俺を負かせた男の名前が知りたい…」
トレファが力無く倒れ、ジェイクの下半身が光となって消えた頃に名を尋ねる。
ジェイクが渋々トレファの方へと向き直り、名を名乗る。
「――下位領域が皇帝…。『竜吟虎嘯の童子丸』の称号を有した…『ジェイク・ロトン』だ。そして、お前に実力を隠した上で負かせた男の名前だ。この名を胸に刻んで、再戦を待ちながら残りの人生を生きてろ――」
光の粒となって完全に消えたジェイクを見て、トレファは悔しさを晴らすために地面を何度も何度も叩き、喉を潰す勢いで空へと吠える―…。
粒となって消えたジェイクが閉じた目蓋を再び開くと、そこは医務室と思われるベッドの上で目を覚ます。
下位領域に残った円卓の医療部隊による精密検査が半ば強制的に行われ、苛立ちを隠せないジェイクが安静と言い付けられたにも関わらず。
病室を抜け出し外へと向かうと、下位領域と上位領域の2つの領域が色彩神の力によって繋がっている証拠に、空には色鮮やかなオーロラと雷鳴が鳴り響いていた。
「おや、目を覚ましましたか?」
「ん?……アンタは、確か評議会の元議長だよな……?なんで、こんな所で油を売ってんだ?」
ジェイクの素朴な疑問に藤十郎は、鯨王の骨を削って作られた杖に触れる。
分かる者には分かる異質なオーラを放つ十王の身体の一部を加工した物品と、それを何の代償もなく触れられるこの男の魔力の大きさ。
この年齢でも、守備としての能力の高さや他を圧倒する秘めた力。
「……まるで、夢のようだと思ってな…。かの十王が共にこの世界を守る為に立ち上がる。昔の仲間がこの景色を見れば、涙を流すだろうな」
「あぁ…あれか、じいさんの世代だと『異族支配計画』の解放軍出身者とかか?」
藤十郎が頷き、50年前の昔の記憶を昨日のように思い出す――…。
――『異族支配計画』――既に50年もの月日が経過し、その全貌を知る者は極僅かであり、真相を語る者など存在はしない。
かつて偉大な指導者の元に集まった危険思想を持った騎士による異族への無差別攻撃が発端と言えるテロ行為であった。
世界評議会と聖獣連盟との間により強い結束を作るべく、多くの異族と人族が結束を強める式典が計画されていた。
だが、その式典を良く思わない者による大規模爆発によって、多くの異族と人族が亡くなった。
後に、『自分達こそが、神に選ばれた異族を支配するに相応しい頂点の人種である』――かの指導者とその組織が掲げた言葉と共に、狂った騎士と騎士同士の大きな戦いは前代未聞であった。
「……当時は、十王と呼ばれる存在は伝承の中であった。だが、例え絵空事であったとしても、我々の中には異族と人間で手を組みそう言った王国や組織が出来れば現れると信じられていた。多くの仲間が傷付きつつも、そんな夢の世界を夢見ていた」
「なら、今の世界は夢と同じか?」
藤十郎が空を見上げ、その空高く飛行している翼王の微かな姿を見て、笑みを浮かべる。
だが、そこでジェイクはふと疑問に思った。
歴史に乗るほどの大事件でありながら、その指導者や細かな真相は誰も知らない。
ジェイク自身も調べたが、その全貌を掴む事は叶わず真相は闇の中へと消えた。
そして、誰もその話をする事は無くなった――…。
「……この病院は、上位領域から帰還する皇帝や橘の奴らの座標となってる。リムが転移させて直ぐに身体検査をするためと言われてるが、アンタは何の目的でここに居る――」
ジェイクが藤十郎の肩に手を当て、額に角を出現させる。
藤十郎が杖に触れつつ、かの戦いの指導者についてジェイクに語る。
その話を初めは聞き流すつもりであったジェイクだが、真相を耳にしたジェイクからは考えれる最悪な状況に悪寒ご止まらなかった。
藤十郎の口から告げられた真相は、この現状をひっくり返す可能性すら考えられるほどであった。
「――その指導者は名は無かったが、信仰者からは神のように慕われていた。そして、その者は同時では考えられなかった強力な魔物を多数所持していた。あの戦いは表向きには騎士と騎士と言われているが、実際は現在の倭と四大陸の数ヶ国と連盟とたった1人の戦いであった……」
ジェイクは腰を抜かして、芝生の上に座り込んだ。
流石の皇帝でも、倭や同時の四大陸や連盟とまともにやり合う事など不可能である。
それを簡単に実現し、互角に渡り歩いた者が――上位領域側に存在する…。
「名を――『神父』…。当時では、皇帝すらも凌駕した実力と反則に近い…いや、反則すぎる力を持っていた。もしも、上位に席を置き……かの神から恩恵を受けつつ、色彩神様の魔物すらも持ち合わせていると考えると…。考えたくはないな……」
「だがよ、それは単なる憶測だろ?確かな確証もねーだろ?」
「いや、そうとも限らん。判断材料としてあるのは、その男の戦い方と上位からの侵略者の戦い方が類似していた」
藤十郎が杖を握り、生まれて始めて見た議会求める議長の青ざめた顔はジェイクの不安を駆り立てる。
だが、藤十郎の不安は的中し、状況はさらに悪化するのであった。
「――皇帝の方々がご帰還なされましたッ!」
看護士の言葉に、藤十郎とジェイクが病院へと駆け込むと翔とメリアナ以外の8人全員がベッドに横たわっていた。
特に、磯部とイーサンの傷は深刻であり直ぐ様、集中治療室へと運ばれる。
かろうじて、意識を保っていた赭渕が藤十郎の懸念していた神父の存在を知らせる。
あまり聞きたくはなかった報告と、悪い状況に続けてさらに状況が悪化する報告をリムの口から告げられる。
「……クソっ…。どうやら、敵の術中に落ちたよ。橘の全員との接続が途絶えた。…現状で橘全員をこちらに戻す手が消えた…」
「それって、創造神が『橘の肉体』を欲しているって状況下で、橘の肉体をわざわざ与えた様な物だよね?」
指を加え、最悪の最悪にまで転がった現状を悔いるリムと空の2人が状況の打開策を見付けるために思考を巡らせる。
完全に上位領域の掌で転がっている現状に、全員が落胆する。
だが、僅かな希望があることを赭渕だけが知っていた。
それは、メリアナと共に上位領域へと侵入した際に話した事で、その時のメリアナは苦笑いを浮かべながら『万が一にも、私達の数人が戻れなくなっても…。焦らないで、私は死ぬ覚悟で仲間を助けに来たの』そう呟き塔へと向かって飛翔していくメリアナの後ろ姿を見詰める。
「……大丈夫です。神父がいかに強敵でも、私達には皇帝序列――第1位が居ます。それに、神父に弱点が無い訳じゃ有りません。竜系魔物の攻撃は防げませんから――…」
赭渕が僅かな希望を口にする。
全員が認め、世界からも認められる皇帝の最高位の女性と序列を無視する規格外以上の化物が眠っている。
きっと、目覚める事こそが自分達にとっての希望であり敵からすれば鎖で繋がれていた化物が内部から食い破られるような絶望が直ぐそこに迫っている。
だからこそ、赭渕の言葉を聞いてリムや空達は上位との接続の準備や万が一に備えて騎士を集める。
「…おい、赭渕…。嘘無しで答えろ…『神父』の力の正体を――」
ジェイクの問いに答えるように、赭渕がたった一言告げる。
「神父の力の正体は…。辰一郎さんと同じ『半竜人』――。それも、辰一郎さんよりも多くの竜人の血や身体の一部を組み込んだ。改造人間、保持してる魔物は数十体分の竜魔物を合わせた。ツギハギの竜系魔物――」
話を聞いていたリムや藤十郎が言葉を失う。
半竜人と言う状態も極めて成功例が少なく、辰一郎のように梓の血液だけでもどうにか拒絶反応が出ずに成功した。
それを神父は血だけでなく、脊髄や筋肉などの一部を取り込んでの竜人化である。
並みの神経では、拒絶反応に苛まれ心身共に壊れるものだ。
きっと、そこが神父の強さであり、厄介な部分であろう。
それでも、赭渕は期待を込めて祈るのであった。
僅かな希望であろうとも、大好きな友人と同じ竜の血族である『黒竜帝』達に、どうか勝利をと祈るのみであった――…。




