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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
最終章 極東十王領域
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最終章十二節 上位の領域


 鬼嶽門の奥地にて眠る刀塚には、他武具とは比べ物にならない一級品の数々が、その時が訪れるのを待っている。

 閻魔の元となった刀ですら、並みの騎士や鬼ですら扱うのにそれ相応の覚悟と力が求められる一級品。

 それに加え、十王の一人である閻魔自らが金槌を持って、力の全てを込め鍛えた代物――…。

 未来が手に持っている神器はただの神器ではない。

 神器でありながら、十王が鍛え神を退かせるほどの力を持った神器であり、刀剣神器の中では3本の指に入るほどの一級品の中の一級品である。

 2体の黒鬼が指差した閻魔に未来が視線を落とすと、その刀身から燃えるような炎と漆黒の魔力が溢れる。


 「これって、黒ちゃんの……魔力…?」


 未来が溢れた黒の魔力が道標のように光へと伸びていた。

 2体の黒鬼が未来を置いて、光の方へと歩くと未来も黒鬼の一歩後ろを付いて歩く。

 しばらくすると、閻魔から溢れる魔力が消え未来が刀身へと目線を落とすと前方に神社のような建物が霧の中から現れた。

 そして、2体の黒鬼が神社の鳥居の前で立ち止まる。

 すると、鳥居を中心に霧が周囲を包み込み霧が晴れると、周囲を森林へと変化させる。

 真っ白な空間から森林へと変化し、変化に付いていけない未来が見渡していると、社の中から巫女装束の女性が笑みを浮かべながら未来へと歩み寄って来た。

 「ふふっ…確かにそうですね。橘様の仰る通りですね、とても可愛らしいお方です」

 女性が口元を隠して笑うと、未来が少しばかり頬を赤く染める。

 だが、そこで未来は冷静になって、女性の傍らに付いていてる2体の黒鬼について尋ねる。

 その返答に答えるように、女性は右腕を真横に一閃すると遥か彼方へと置いてけぼりを食らっていた血燐一刀を手元に呼び寄せる。


 「――この黒鬼は、橘様のもう一体の魔物…『黒鬼(コッキマル)』様の力の一端です。その一端に私の力で自我を与え、橘様の身に危険があった際の保険として閻魔の内に潜めさせました。そして、あなたがここに来た理由も自ずと分かる筈です」


 女性が血燐を鞘から抜くと、2体の黒鬼が女性の背中へと吸い込まれる。

 女性の全身を包み込む漆黒の鎧と額に現れた対の角と、増加した魔力に未来が一歩だけ後退る。

 が、未来がその一歩を再び前へと戻し、閻魔を構える。

 「従わせろ……。つまり、今のアナタを倒して……黒鬼に認めさせろと言うことですね…。私の力をッ!」

 未来が腰を低くし相手の出方を伺うが、未来の反応速度を優に上回る彼女の速さを前に、絶句する。

 未来の視界から消えた彼女は、未来の首筋に人差し指を軽く当て『まず、一回』と呟く。

 ここでの一回とは、きっと殺された回数だと未来は思いつつ彼女との実力さをその身を持って理解する。

 そして、全身に魔力を巡らせ神経を研ぎ澄ます。

 未来に魔力が巡ったのを確認し、彼女は真っ赤な一本下駄を鳴らしながら後ろへと後退する。

 楽しむかのように跳びながら後退する彼女を目では追わない、神経を研ぎ澄まし足音を頼りに姿を捕らえる。

 下駄が地面を蹴る音が次第に未来へと近付き、一呼吸置いて放たれた斬撃が未来の頬を掠める。

 透かさず未来が閻魔を振ると、同じ質量の斬撃が放たれる。

 互いに互いの斬撃が頬を掠め、両者が同時に踏み込むと刀身が火花を散らす。

 深紅に染まった閻魔と同じく赤く染まった血燐の朱色の軌跡が弧を描く。

 未来が閻魔を握る掌に力が籠り、全身へと巡らせた魔力がさらに勢いを増す。

 目の前の女性が漆黒の鎧を靡かせ、未だ余裕の笑みを浮かべたまま未来の太刀を受け続ける。

 呼吸を整え、再び閻魔を押し込む未来が解放し顕現させた戦乙女(ヴァルキリヤ)の光剣と女性の背から顕現した黒鬼の薙刀が衝突する。


 「今のは、非常に良い一手ですよ。発動させた魔物に瞬時に攻撃へと転じ、直ぐ様閻魔の刃を私の喉へと突き付ける。ですが……私は3です。アナタは――()()()


 彼女の喉へと狙いを定めた閻魔は直前にして、もう一体の黒鬼が間一髪で防ぐ。

 未来が閻魔を振るい、黒鬼の鎧を幾度と打ち付け戦乙女も目の前の薙刀と火花を散らす。

 実力もそうだが、未来と彼女に魔物を用いた戦闘経験が他の差を抜いて存在した。

 魔物を2体所持しているしていないの話ではなく、単純に未来の実力と戦乙女の力が安定していない。

 魔物を荒く顕現した状態の為、魔力量が少ない未来は直ぐに行きが上がる。

 その結果、魔力が底をつき彼女の放った攻撃に対応出来ずに速度が落ちていく。

 ――そう彼女が判断し、油断から一瞬だけ黒鬼を解錠すると、未来は閻魔を手放す。

 彼女の顔色が一瞬で青ざめ、黒鬼を再度顕現させる為に要する約2秒よ刹那――未来の掌底が彼女の鎧を打ち砕き、凝縮された魔力が弾ける。

 鎧が打ち砕かれ、透かさず後退と黒鬼の薙刀で未来へと振り下ろすが、そこで未来の豹変ぶりに彼女は恐怖する。

 そして、戦いを経験しておらず戦場を知らないと油断し、開幕から黒鬼の魔装と顕現の同時使用をしていた自分の判断を後悔した。


 ――何故なら、天城 未来(てんじょう みらい)と言う女性騎士は、その生まれ持った魔力量をカバーする為に様々な武術や結界術などの高難度な術や魔法を黒の知らない所で取得していた。

 そして、梓との鍛練にて掴み掛けていた『魔装』と『調律』を今()()()()()()()()()――…。


 放たれた掌底と薙刀を紙一重で捌き、戦乙女の魔装と調律でさらに魔力コントロールして、圧縮した戦乙女の魔力が彼女の魔物と腕の鎧を吹き飛ばす。

 轟音が響き渡り、油断も隙も見せない未来は、砂埃の先で剥がされた腕の魔装を再度練り直そうとする彼女の首筋へと閻魔を一閃する。

 だが、やはり2体の魔物と言う優位性には勝てず、右半身に集中させて顕現させた黒鬼によって未来の刃は防がれる。

 弾かれた閻魔と初めての魔装と調律の負荷と魔力枯渇によって、未来は立ち上がる事が出来ずにその場で前のめりに倒れる。

 だが、その手からは閻魔は離されず未来の眼光は依然として彼女を捕らえ続けていた。


 「……一つ尋ねます。何故そこまで、力を求めるのですか?この力は確かに保険ですが、何も貴女が手にする必要はありません。同封された手紙にも、天城さんが絶対に従わせろなどとは書かれてません」

 彼女の暖かな魔力が未来の身体を包み込み傷を癒し魔力を全快へとする。

 立ち上がった未来が閻魔の刃先を彼女へと向け、曇り一つ無い瞳で彼女を見詰める。

 そこには、決して諦めないと言う意思の頑なさと覚悟が感じられる。

 ならばと、彼女は全身の魔力を極限まで研ぎ澄まし、血燐へと集中させる。


 「――天城未来様。この一撃で終わらせます。当然、貴女が耐え切るとは微塵も思ってません。その上、私は血燐の能力を用いてさらに魔力を研ぎ澄ます……」


 彼女の言葉通り、血燐の刀身に血管状に伸びる魔力と紅の刀身が息づくように脈打つ。

 そして、次第に集中する魔力の熱によって紅の刀身が深紅に染まり、血燐の刀身に凄まじい魔力が凝縮される。

 未来が息を整え、閻魔へと魔力巡らせ全身に戦乙女の魔装を纏う。

 未だ完璧な魔装ではないが、纏わないよりよか増しな程度の魔装と圧倒的な差が存在する魔力同士が衝突する。

 轟音が空間内部に響き、大気を震わせる。

 炸裂し互いの魔力が衝突する衝撃によって空間が歪み、亀裂が生じる。

 亀裂は収まる気配を見せず、未来が閻魔と共に空間から弾き跳ばされる。

 巫女装束の右半分を失った彼女は、笑みを浮かべたままその身体を光の粒となって消えて行く。


 『…これで、良かったのですか?……アナタ達の満足いく結果でしたか?』


 彼女の問い掛けに2体の黒鬼は静かに頷き、地面に突き刺さった血燐と閻魔を鞘に納める。

 ボロボロになって気を失った未来を抱え、2体の黒鬼は真っ白な空間を出て行く。

 次第に粒が散っていき、上半身だけとなった彼女の元へと見知った顔立ちの男が現れる。

 『あら、お久し振りですね、何十年ぶりでしょうか?』

 「お前のように、いちいち時間なんて覚えてねーよ。それよりも、あの刀…『閻魔』だっけ?――持ち主はあの子か?」

 男が彼女の隣に腰を下ろすと、崩れ行く空間を見上げる。


 「また、一人…。あの世に旅立つのか、俺を残して次々と消えやがって……」

 『いつか時が訪れます。私達が至れなかった頂きに、彼らならば至るでしょう。今は、それを信じます…』


 女が光となって消え、男が天を仰ぎながら崩れた空間にて笑みを浮かべる。

 どこか切なそうに、それでいてどこか嬉しそうな変わった男の笑みは空間と共に消える。





 未来が目を覚まし布団から起き上がると、梓の従者が未来が起きた事に気付き、梓達を呼びに廊下を走る。

 未来が痛む頭と全身から満ち溢れる魔力の強大さに違和感を覚えると、傍らに置かれた閻魔と血燐の2刀が目に入る。

 梓と辰一郎が部屋へと向かうと、未来の変化に言葉を失った。

 内側から戦乙女とは違った強大な魔力の塊が混ざり合う事なく、未来の内部にて、約3体分の魔物が宿っていた。

 その上、黒が閻魔から鍛え上げられた神器『閻魔』が未来の手にあり、閻魔が未来を拒む気配はなかった。

 刀身は深紅に色づき微かに熱量を持った刀身が美しく日を反射する。

 「その感じだと、手紙にあった黒の従わせろってのはクリアしたのかな?」

 「いえ、私は最後で負けてしまいましたから……。きっと、従わせる事は出来なかったと思います」

 未来が閻魔を鞘に納め、血燐と閻魔へと目線を落とす。

 この神器は黒のもつ神器であり、それぞれに黒帝竜と黒鬼の2体の魔力を巡らせ、魔物の力を発揮する事で黒が皇帝足り得る実力を発揮する。

 だが、未来はその力へと至れる魔物も魔力も持たず、2刀の神器は宝の持ち腐れであった。

 辰一郎や薫と言った自分よりも経験や力が揃った自分の方が持つべきだと、思っていた。

 だが、そんな未来の思いとは裏腹に、閻魔と血燐からそれぞれ2体の黒鬼がその姿を現すと共に、未来とその場に集まった者達を見下ろす。


 「――1つだけ、お前の考えを否定する。我らが主が従わせろと申したのは、我らではない。その刀剣『閻魔』である」

 「――我らは元より、結界発動と同時に結界内部へと引き込まれた者。その資格を有する者達を見極めるのが役目、お前の考えはそもそもが間違っている。我らが見極めるはその閻魔とこの血燐を持つに相応しいかである」

 黒鬼達は未来の前で跪き、間を置いて閻魔と血燐へと戻る。

 床に落ちた閻魔と血燐を手に取った未来の片目が紫色に色づき、未来の綺麗な栗色の髪の毛に微かだが黒と同じ黒色が混ざる。

 「黒の魔力を限定的に宿した影響なのかも知れないけど、未来ちゃんの身体にも僅かながら変化が起きつつある。僕が橘の血によって、半竜人族になった事で『黒鎧竜(ベリゼス)』に目覚めた事や身体の作りが竜人に片寄った様に……未来ちゃんも鬼人側に寄って行く可能性が十分ある」

 「なら、出来得る限り…上位との決着を急ぐべきね。本来、後天的に別の種族に片寄る何て、危険すぎる事よ。万が一身体が拒絶反応を起こしたら、未来ちゃんはタダではすまないわ」

 辰一郎と梓が未来の状態を危うく思う一方で、薫は自分の息子を信じていた。

 半竜人や半鬼人などの後天的に種族が混ざる事は、2種類の魔力や魔物を身体の中に直接取り込む事を意味する。

 黒の様に神器から時間を掛けて、身体に馴染ませる事が可能ならば、身体にも急激な変化は起こらない。

 だが、命の危機であった辰一郎や時間が限られた未来の場合は、身体への変化が引き起こり易い。

 加えて、その魔物の本来の宿主である黒が遠い土地に居ることは、不測な事態に対象出来得る者が居ない事も急がれる理由であった。

 万が一にも、未来の体内に限定的に宿った黒鬼が暴走しようものなら、現時点では止める手立てはほぼ存在しない。

 本来の宿主が直接宿った魔物の魔力やその残滓を残らず奪う事が1番の手立てであり、確実な方法である。


 「問題ありません。私が鬼になっても、何も変わりません。――私は私ですから…」





 未来が閻魔に認められ、梓や辰一郎の元で腕を磨きその時を待っていた。

 皇帝達もそれぞれが自分に足りない部分や、黒や翔のように十五解禁へと至る為に、十王や多くの騎士と刃を合わせる。

 倭に多くの騎士を残し、少数精鋭の可能な限り人員を限定した編成で上位へと乗り込む。

 上位へと到達するために、色彩神(リム)がゲートを造り出す。

 ゲートへと進む前に色彩神から忠告として、1つだけ心掛ける事を告げる。

 「奴らがそうだった様に、上位領域の者が本来とは違った世界である。下位領域に向かえば、上位で問題無く使えていた神の恩恵や魔力と言う物は使えにくくなるか、完全に使えなくなる。この2つだ」

 ゲートが組み立てられ、色彩神の両手が叩かれるとゲートが色を変え、上位へと繋がる。

 「魔物や魔力の消費は出来る限り押さえた方がいい。限りの無いこちらと違って、あっちでは魔力は限られる。極力戦闘は避けて、聖職者達から逃げつつ黒くんを探してね。黒くんを奪取したと分かれば…この僕が君達をこちらの世界へと強制的に戻すから安心すると良い」

 色彩神が胸を叩き、準備を整え終えた皇帝や未来達再三忠告する。


 「こっちで戦った聖職者達は、さっき述べた制限があってあれ程の力だ。――黒くんを奪取する間に確実に何人かは、僕の力で無理矢理でもこちらへ戻す……上位領域侵入と同時に集中して狙われる可能性も視野に入れて、頑張ってね」

 色彩神の造り出したゲートへ皇帝が進み、梓と辰一郎がどうしてもと聞かなかった碧と茜を連れてゲートへと身を投じる。

 その後に、従者や大勢の騎士に見守られ竜玄と薫が進み、十二単が未来の前で跪き未来と黒の帰還を願う。

 「我ら十二単は未来様のお力には慣れません。しかし、この身は未来様をお守りするためにあります。無理はなさらぬように……黒団長も、それはお望みではありません。くれぐれもご武運を――」

 「うん…。皆も頑張ってね」

 未来が腰に下げた閻魔と血燐に触れ、ゲートへと身を投じる。

 強力な引力に引っ張られるように、未来がゲートの中を進みゲートの外へと飛び出す。

 そこは、地中海の建物を連想させる統一された白い建物と肌を切り付ける殺気と魔力に、未来は閻魔を抜刀する。

 空を蹴って黒の魔力が感じられる場所へと向かうとするが、光の翼を羽ばたかせ聖職者達が未来達を狙う。

 「やはり来たのね。狙いは、お仲間でしょ?なら、私達とまともに戦いたくはないわよね――ッ!」

 フローデの光剣に弾かれ、真下の建物へと落下する未来を梓が受け止め、建物の間を縫って駆ける。

 上空のフローデや上位領域の兵隊達からの銃撃や魔法による攻撃から逃げつつ目的の黒の元へと梓と未来は向かう。

 


 「梓様…。他の皆さんは、もう既に到着してますか?」

 「どうやら、ゲートには時間差があってね。私と辰一郎が真っ先に侵入に成功して、警戒される前に身を潜めたけど……。後から来た薫さんや皇帝の子達は侵入に気付かれてね。実際は辰一郎だけが気付かれてないから、私達で撹乱して辰一郎が動きやすくする様に動いて――」

 梓が後方から迫る攻撃を結界で防ぎ、同じ進路を目指して走る皇帝や薫達に精神干渉の魔法で、未来に告げた事と同じ内容を告げる。

 建物の隙間を縫うように走り、上位領域の兵隊の攻撃を避けつつ黒の元へと進む。

 入り組んだ建物の間を走り、角や頭上から突如現れる兵隊達を躱わしながら、徐々に黒へと近付く。



 「――来ましたよ。どうやら、フローデさんは先に暴れている様子ですね。それほど待てないお相手でも居たのでしょうか?」

 「でもさー、彼女見失ってる…ぽくない?」

 「だな…。なら、俺らが出ても何も問題はねーな。見失ったフローデの落ち度だ」

 一際大きな塔の最上階から飛び降りた人影が、梓や皇帝達の進路を阻むように現れる。

 小柄な女、中肉中背な男、戦闘向きではない穏やかなシスターの3人が行くてを阻む。


 「よぉ…。歓迎するぜ、下位領域の騎士諸君――。遠路遥々、殺されに来るその精神…。仲間を見捨て無いって言うその仲間思いな所は評価するぜ」

 「フローデがあっちのネズミみたいに動く二人組で、私達はこっちの派手に動く方で良いよね?」

 「可哀想に…我らが主神に楯突くなど……。正気の沙汰とは思えません。抵抗すればするほど苦しむのはアナタ達なのですから、我らが主神の寵愛を受け入れるべきです……」

 3人の聖職者の前に、3人の皇帝が意を決したように立ちはだかる。

 「あまり、私達を見くびらない方が良いわ」

 「さて、逃げるのは他の奴らに任せて、俺はこっちで楽しませて貰うとするか…」

 「私もシスターですから、アナタの言うことは分かります…。ですが、アナタ方の主神の寵愛と言うのには、少しヘドが出ます。人々が欲しているのは寵愛ではなく、明日へと導いてくれる言葉と救いの手です。寵愛など、ヘドが止まりません――」

 皇帝である『ジェイク・ロトン』『御劔 桃子(みつるぎ とうこ)』『リベラ・ルージュ』の3人が聖職者の対峙する。

 聖職者の男が目の前で肩を鳴らす男を階段の少し上から見下ろし、ジェイクが男を見上げる。

 「名を聞いて良いか?…殺す前に聞かねーと、誰を殺したかみんなに自慢できねーからな」

 「おもしれー…だが、名乗る前に自分から名乗れ。まぁ、俺はお前らを倒しても何の自慢にはならねーけどな」

 ジェイクと男の拳が空気を叩き、激しい衝撃波と共に周囲の建物を吹き飛ばす。

 ジェイクの猛打に男も負けじと猛打で返す、激しい殴り合いにリベラと御劔が互いにため息を溢す。

 吹き飛んで来た瓦礫を避け、少し開けた場所で睨み合う4人がそれぞれの出方を伺う。


 「――私達も神の領域である上位領域に侵入したアナタ方の名前を知る権利はあると思うのです。我が敬愛する主神に対しての侮辱をしたアナタの名前を聞いても宜しいでしょうか?」

 「そうですね、挨拶は必要ですね。…申し遅れました。下位領域が皇帝の一人…【酔生夢死(メディ・グラーテ)眠り聖女(アトロンシスター)】の称号を有する。名を『リベラ・ルージュ』と申します」

 「ルージュと同じく、下位領域が皇帝――【堅忍不抜(レーガロ・ヴォンデ)一角獣(ストライカー)】『御劔桃子』…別に名前は覚えなくて良いわ…アンタ達の名前も覚える気はないから」

 リベラと御劔が背後から魔物(ギフト)を顕現させる。

 リベラは白く澄んだ色の聖母のような天使、御劔はウサギと大差無い大きさでありながら、異質な一本角を持ったウサギを肩に乗せる。

 2人が魔物を顕現させると、額から滲み出る汗がそのハンデの大きさを物語っていた。

 上位領域と言う場所だけで、かつてないほどのハンデを課せられ、その上相手の独壇場であるこの領域での戦闘は予想を遥かに上回るハンデであった。

 2人の額から汗が滴るのは、魔力の低下から来るものではなく。

 相手の独壇場であるこの上位領域にて、自分がどれだけ動けるか定まらない恐怖であった。

 だがしかし、自分達の目的は敵を倒す事ではない事が何よりの救いであった。

 自分達は、ただの囮であり目前の敵をこの場に留まらせれば良いだけの事だ。

 辰一郎や未来達が、黒とナドネの救出へと向かった今ならば、自分達のすべき事はただの引き付け役に他ならない。


 「…勝てると、本気で思ってるの?お前ら――バカでしょ?」

 女が両手を広げここが自分達の住む世界であると告げ、この世界に満ちた創造神(ザース)の魔力と恩恵を持ち得る自分達が圧倒的に有利だと告げる。

 「私の名前は――『エリーゼ・ミルフェネス』9の聖職者(シンボル・ナイン)の地位と聖痕を授かりし者だ。そして、お前達に神の鉄槌を与える者だ――ッ!」

 



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