最終章十節 彼方へ消える
だが――両者の魔力が衝突する事はなく、たった一人の力によって相殺された。
「――君程度の力で私達の足止めが出来ると、ホントに思っているのですか?」
ステラの放った一撃を突然現れた一人の男が片手で受け止め、その魔力をそのまま跳ね返し建物諸ともステラを吹き飛ばす。
残骸に埋められたと思ったステラが恐る恐る目を開けると、見覚えのある屋敷の居間であり。
マギジが持ってきた布で薄い氷を纏ったままのステラを包み込み、そこには瀬名と呼ばれる暁の従者と暁の母親がマギジの隣で不安そうにある一点を見詰めた。
従者持ってきた着物をマギジがステラに渡し、そこでようやくステラが一体誰と居場所が変わったのかを理解した。
「ま…まさか、暁さんがッ!?」
ステラの質問にマギジは無言で俯き、緋と瀬名が静かに頷く。
緋は不安と同じ位かそれ以上に、我が子の可能性を信じていた。
「ステラさん。混乱した状態で申し訳無いけど、聞かせて欲しい…。敵の数と所属は?」
緋の質問に対して、ステラは恐る恐る震える声で敵勢力の僅かな情報を語る。
ステラと入れ替わるように居場所を変えた暁が全身の沸騰するかのような熱量を持った魔力を放つ。
一瞬で目の前に姿を現した暁に驚くと同時に、傍らに待機していた部下と思われる上位領域の兵隊の約5割が一瞬で焼け死んだ。
互いに言葉を交わさずに、正面で睨み合う暁と男の凄まじい魔力と殺気に女はその場から数步だけ後退る。
「……『カレア・ヴァーレイン』ここは、1の聖職者であるこの私――『クラト・アーズヴィア』一人で足ります。アナタは、我らが主神から賜りし任を遂行しなさい」
カレアがその場から退き、生き残った部下と共に目的の元へと向かう。
「……一つ質問をお許しください。カレアさんが遊び半分で姿を現したにしても、ここまで対処が迅速なのか興味があります。私もこう見えて、1組織を統括する身ですから……。参考までに、お聞かせ願いますか?」
クラトが尋ねると、暁は神器【十國】を抜刀し灼熱に熱帯びた刀身の刀がその手に握られていた。
「ごめんね。今の僕には、世間話に付き合っている余裕は無い。それに、君達に対処の説明をしても…。僕にメリットもなければする――必要もない…」
暁が刀を振ると、クラトの視界を覆い隠す程の火柱が襲い掛かる。
その場から飛び退いたクラトに暁が寸分狂わず刃を浴びせる。
クラトの裾が焼け焦げ、暁の姿を視認する事で際一杯なクラトとは別に十國抜刀と同時に出現した巨大な太陽とその焼けるような陽光を浴びた暁は神器を振るう。
灼熱の刃と炎がクラトに恩恵も力も使う隙を与えないように、暁は目にも止まるぬ速さで動き続ける。
当然のように、恩恵を使えば下位とは違って1人1人に凝縮された恩恵の力は凄まじい。
だからこそ、暁は恩恵の力を行使する隙を与えずに刃を振るう。
微かな炎が軌跡となって空に弧を描き、クラトの動きを完全に制御するように暁の猛攻は勢いを増していく。
上位領域が警戒していた敵戦力には、暁の名は載っていない。
それは、警戒に値する者ではないと言う結論だからだが、それは大きな過ちである。
それは、新宿にて刃を交えたハートとエイカーズとのやり取りで挙げられた。
――皇帝足り得る能力を秘めた5人の存在であった。
その中に、暁は含まれておりその5人の中でも、一際潜在能力を秘めている者こそが暁である。
だが、潜在能力が優れているだけであり、その上には上がいる。
だから、自分がここで彼らに勝てなくとも決して問題はない。
何故なら、幼児となった皇帝も自分よりも遥かに強い仲間と10人の皇帝が控えている。
ならば、今まここで自分がすべき事は、黒達が目を覚ますまでの時間と仲間が逃げる為の時間を稼ぐ事だけである。
手に握る神器に魔力を巡らし、握る拳に力が入る。
クラトが恩恵を使おうと後退するが、それを追うように空を走る暁の凄まじい眼光にクラトは一瞬だけ恐れを抱いた。
何一つ警戒していなかった皇帝と呼ばれもしない1人の騎士にクラトは焦りを浮かべる。
この相手が黒や翔、メリアナと言った警戒対象ならば予想は出来る。
しかし、相手はただの騎士であり事前の情報でもそれなりの力を有しているが警戒する必要は無いと判断された。
だが実際は、何一つ自由に動けず防戦一方なのは自分であった。
クラトは一刻も速く、カレアが目的を達成する事だけを祈っていた。
(恩恵さえ使えれば、こんな騎士風情――ッ!?)
クラトが光の剣にて十國を正面から迎え撃つが、あまりの熱量によって光剣は弾け飛んでいた。
暁が横に一閃すれば、刀身から伸びる炎が雲を切り裂きクラトの体を焼き切る。
斬撃によるダメージと切られた箇所を焼く炎が波のように続けてクラトを襲う。
クラトがどうにか暁から距離を離し、恩恵の力を行使する。
「……あと一歩…。足りませんでしたね」
クラトの首筋の聖痕に光が灯り、創造神からの恩恵を受ける。
クラトの増大する魔力に暁は狼狽え、クラトに隙を与える。
―――そう、クラトは予想していたがそんな事など有りはしなかった。
目前まで迫っていた刀の刃先と炎の連撃がクラトの体に傷を刻み込む。
斬撃による痛みと炎による傷口を一瞬で焼かれる激痛が全身に襲い掛かる。
クラトが空を蹴ってその場から逃れるが、まるでそのタイミングを狙っていたかのように黒と同じ抜刀術の構えを取って、クラトが暁の目前に来るのを待ち構えていた。
防御する為に魔力を一点に集めようとしたクラトの一瞬を逃さず、暁は十國に魔力を集中させる。
刹那、放たれた斬撃は深紅に色付き閃光のように輝く光を放ち、目映い光と共にクラトの体は一刀両断される。
暁の背に召喚された太陽が陽光を放ち、暁の持つ十國が放つ炎と本来の太陽と言う。
この場にある三ヶ所の太陽が倭に住む全ての者達の視線を独占し、クラトの両断された体から暁の莫大な魔力が遅れて破裂する。
「模式泉流抜刀術…口伝奥義……【焔一花閃】…」
魔力が破裂し深紅に染まった蓮花の花が開花するの如く、魔力が形を変化させる。
暁が召喚した太陽が消え、滝のように流れ出る汗と荒くなる息と速まる鼓動。
神器解放時の力を一太刀に凝縮し、クラトを一刀両断した。
とても連発出来ない使い方に思わず苦笑いを浮かべる暁だが、その背中にのし掛かった歪な気配に気付くよりも先にクラトの光剣が暁を切り裂く。
肩から斜めに刃が暁の体を切り裂き、鮮血が飛沫を挙げる。
両断された筈のクラトの胴体が、ウネウネと独りでに動き傷一つ無く再生する。
元の状態へと戻ったクラトは全力を使って、体力のほとんどを使い果たした暁を見下ろす。
わざと恩恵を使わないように立ち回り、あたかも暁が優勢な状態であるように偽り。
暁に魔力を使わせ、弱った所を一撃で仕留める。
クラトのつり上がった頬が力無く地上へと落ちていく暁を嘲笑う。
(……ごめん…黒ちゃん。敵の作戦に、まんまと引っ掛かっちゃたよ)
重力に抗うこと無く地面に向けて落下する暁だが、その表情はどこか落ち着いていた。
その表情を見ていたクラトは暁が何かしらの仕掛けを施した事を経験から察知する。
直ぐ様その場から退こうと思いっきり空を蹴るが、気付いた時は既に遅かった――…。
視界を覆い隠す暗闇と立ち込める濃い霧の向こう側には、この倭の地が他国にて何と称されているのかをその身を持って実感する。
整列するように並ぶ巨大な十王と呼ばれる存在が四方八方から逃げ場の無いクラトに襲い掛かる。
馬王の蹄が地面を揺らし閻魔の燃え盛る拳が肉を焼く。
鯨王の起こした津波がクラトを呑み込み、翼王の鉤爪が海面へと浮上しクラトに牙を向く。
生き物の様に襲い掛かる樹木とその間から振り下ろされる巨大な両手斧が地面吹き飛ばす。
特大の魔力による魔力砲が妖精王の樹木と鯨王の海を蒸発させ、頭上から畳み掛けるように降り注ぐ竜の息吹きが暗闇が支配する空間を焦がす。
「……やはり、流石は十王と呼ばれる存在ですね。恩恵による保護が無ければ死んでいましたよ…」
ボロボロになった上着を脱ぎ捨て、光の剣を両手に構えるクラトだが、先程まで猛威を奮っていた十王の気配が完全に消えている事に気付く。
周囲に神経を研ぎ澄まし、敵意や殺気を探すが何一つ感じず完全に気配が消え、この空間にクラト1人と言う状況になる。
だが、何もクラトの仕事は彼らと正面からやり合う事ではなく、別動隊として動いている聖職者に回っている戦力を少しでも自分に向ける事である。
そして、今の状況が出来ていると言う事は戦力があちらに向かっているという事を意味している。
「彼女達はうまく行きましたかね?……さて、私もここら辺で帰りましょう。目的は達成したも同然です」
恩恵による転移にて、下位領域から消えたクラトを暗闇から見詰めていた暁はその深紅に染まった瞳で未だ虚空を見詰める。
カレア率いる別動隊の者達が目的の場所へと向かって突き進むが、それを阻む者達によって作戦は断念せざる得なかった。
「おいおいおいおーい…。聞いてねーぞ、あんな化物が揃って大切に守ってるなんてよ。それも10人近い人数で守ってるって…洒落になんねーよ」
カレアを先頭に以前は白のお目付け役であった男やレセプトやフローデ達の姿が確認される。
無口のザインが肩から流血しながらも、無言で廊下を突き進む。
しかし、ドライバを抜刀し既に臨戦態勢に移行した十二単将のナドネと共子が迎え撃つ。
ザインが別動隊の者達を庇うように、2人の前に立ちはだかるが真横から壁を破壊し現れたノルバの強力なラリアットによって窓ガラスを突き破って庭へと吹き飛ぶ。
「ナドネッ!共子ッ!お嬢の安全を最優先にしろッ!」
ナドネと共子が聖職者達に背を向け、未来の元へと駆け出す。
だが、聖職者の狙いが未来のように2人の行く手を阻むように、聖職者の1人が2人に向けて刃を向ける。
透かさずノルバが聖職者の腕を掴み壁に叩き付けたノルバの背中目掛けて、もう1人の聖職者が光剣が振り下ろす。
ノルバへと切り掛かった聖職者とノルバの間に、駆け付けたシャルルの水流が割って入る。
「ノルバ…。背中は任せて、貴方は目の前の敵に集中して」
「シャルル、ナイス援護。それじゃ、お言葉に甘えて――こっちは俺がやる」
ドライバを構えたシャルルとノルバの2人と光剣を両手に持った2人の聖職者が睨み合う。
ザインが飛ばされ開かれた窓からカレアが中庭へと降り、そのまま外からナドネと共子の後を追う。
だが、カレアの前に立ちはだかった十二単の1人であるクルムがドライバをカレアに向ける。
「これ以上先には、行かせれないよ~…。てか、俺らを無視すんなよ」
カレアが光剣を抜くよりも先に、クルムの抜刀術が一歩速くカレアの腕を切り裂く。
軽く舌打ちするカレアと冷静に光を灯さない冷血な瞳をしたクルムがカレアを視界に捉える。
「それほどまでに、守る価値があの女にあるのか?下位領域に生きる低俗な人間にはつくづく笑わせられる。あの女の利用価値を知らぬとはな……」
カレアがクルムを挑発するように未来を嘲笑うと、クルムの眉間に血流が集まる。
「――発言には気を付けろよ…。上位領域のイカれ信者共」
一歩踏み出した両者が互いの刃を交える。
ナドネと共子が廊下を走り、目的の未来が待つ部屋の扉を蹴破る。
「未来お姉様ッ!」
「姉さんッ!」
しかし、そこには未来の姿は無く荒らされた痕跡と、未来ご防御にと使ったと思われる微かな魔力の反応をナドネは察知する。
「共子――ッ!?」
ナドネの声に反応し共子がその場から飛び退くと、床を吹き飛ばして現れた聖職者の1人が共子に魔力を帯びた剣を向ける。
「……ナドネは、姉さんを追って…。ここは私が引き受ける」
「わかった……お姉様の事は任せて」
壊れた窓から飛び降りたナドネを行かせまいと、聖職者が動くが共子の後ろ回し蹴りが聖職者の顔に叩き込まれ、後ろへと吹き飛ぶ。
「……手加減は必要ないでしょ?多分私達と同等かそれ以上の力を元から持ってるお前らには――」
共子がドライバを抜刀し、殺気を込めた瞳で目の前の敵を睨む。
「――良い目をしている。女と言えど、強い者には礼儀を持って相手をしないとな」
男がローブを脱ぎ捨て、その傷だらけの素顔をを共子に曝す。
「……良かった。姉さんに、あんたのそのブサイクな顔を見せなくて…。ここで、その顔を最もブサイクにしてやるよ」
男の刃と共子のドライバが火花を散らし、2人の余波によって部屋の壁が弾け飛ぶ。
残骸が共子と男の頭上に降り注ぐが2人は残骸の中で、互いの刃を打ち込む。
部屋の外に飛び出し、互いに一歩も引かない目にも止まらぬ速さの太刀筋の2人が鉄鋼や壁を容易に切り裂きながら、刃を交える。
ナドネが微かな未来の魔力を頼りに未来の後を追うが、前方から阻むように現れた2人の聖職者達にナドネは舌打ちする。
だが、そんなナドネの両脇から夏菜とラ・ムーナの2人が聖職者と刃を交える。
「ナドネッ!ここは任せて、速く行けッ!」
「任務を実行する。――敵戦力の殲滅!」
2人の間を抜けナドネがそのまま走り、群がる大型や小型異形種をベルガモットとラウサーが引き受ける。
行く手を阻む聖職者の手下達を一辺に引き受けるアッシュの間を抜けて、ナドネは未来の元へと駆け寄る。
息を切らし、未だに幼児状態から解放されない黒を抱き抱え森の中を走る未来の傍らにナドネが合流する。
しかし、そこを狙っていたかのように、木々を薙ぎ倒しながら一気に距離を詰めた男によって、ナドネは吹き飛ばされる。
キリキリとした機械音と駆動音の両足を備えたその男を見て、ナドネと未来は絶句する。
「……ノラ…なの…?」
未来がそう尋ねると、白と大勢の手下を従えたノラが現れる。
「未来様…。黒団長の身柄をお渡し頂けますか?そうすれば、我々は身を引きます。無駄な争いや傷付く者が格段に減ります」
「私が……その提案を黙って、受けると思う?ノラちゃんも大分印象変わったけど、その優しい所は変わらないね」
未来が一歩一歩後退するのを手下の数名が阻止しようと駆け出すが、未来を庇うように前へと出たナドネがドライバを構える。
白が光剣を両手に構えると、目障りなナドネを睨む。
そんな白を横目にノラが手下達を静止させ、未来とナドネの前へと一歩進む。
「ナドネさん…。アンタも分かってるだろ?いや、自分が一番分かってる筈だ。十二単の中でも最弱で、その程度の力しか持たない自分が俺やコイツらに勝てないって事は……。無駄だろ、勝てもしない戦いを続けて、傷付くのはアンタらだ。さっさと、黒竜を渡せ…。命は助かるんだぞ?」
ノラが手を伸ばすが、逆らう様に未来は黒を抱き締め隠すようにさらに後退し、ナドネが乱れた呼吸を整えドライバを握る手に力が入る。
無駄とは言え、ノラ自身もかつての仲間を殺めるのには少しばかりの抵抗があった。
だがそれも、この瞬間を以て―――消え失せた。
正面のナドネに、ノラの義足が腹部へと叩き込まれる。
軋む音共にナドネの身体を容赦なく叩き付けるノラには、同情も無ければ慈悲すらない攻撃がナドネの腕を容易くへし折る。
微かな抵抗として、ナドネがドライバを振るがノラの機敏な動きからすればナドネの攻撃は止まって見える。
血を滴らせながらも、ナドネは未来の元から決して離れない。
勝てない相手であっても、ナドネは諦めずその瞳には決意の炎が灯っている。
白や手下達が動こうとするが、苛立ちを隠しきれなくなったノラが義足内部に収納されていた刃を展開し、ナドネの身体を切り裂く。
服が破れ肌が露出し、使えなくなった片腕と出血が酷い体に鞭を打ってでもナドネは立ち上がる。
これ程までの実力差が存在してなお、ナドネは立ち上がりその背中にある大切な存在を守る。
その姿に、ノラは更なる嫌悪感と憤りを感じさせる。
――それだ…。
――その絶対的な忠誠心だよ、俺をイラつかせる原因は…。
――お前らの犬のような忠誠心がムカつくんだよ…。
ノラが両足の義足に魔力を巡らせ、ナドネへとトドメを指すのを決意する。
だが、そんなノラの背後から大男が現れ、ノラからナドネと言う獲物を譲れと発言する。
無論、白とノラが受けた命令は黒の確保である為、その男にノラは手柄を譲る。
男の興奮気味な息づかいと肌が露出し、弱々しく女性らしい身体をしているナドネに男は興奮していた。
ナドネがドライバを向け男を睨むが、男の腕がドライバを容易く弾き遠くへと飛ばす。
抵抗する術を失ったナドネが未来を守ろうと、未来の前へと駆け寄るのを男は許さないとばかりにナドネの身体を掴む。
出血と全身の痛みによって力が弱まったナドネが、幾らもがこうとも男の力には勝てない。
ナドネが涙を流し喉を潰れようが構わず、ノラ達へと叫び声を挙げる。
――止めろ…。
――手を出すな…。
――許さない…。
ナドネの叫び声虚しく異形の咆哮や魔力の爆発音によって、ナドネの叫びは掻き消される。
未来がドライバを構えるが、野良と白の前に未来は絶望に染まる。
魔物やどらを持ってしても、戦闘経験が乏しい未来が黒を守りながら2人の強敵を相手出来る訳がない。
「おい…。その女を始末するなら、さっさとしろ……。泣き叫ばれて、耳障りだ」
「ノラ~。まだ、良いだろ?この女は、俺が持ち帰って壊れるまで遊ぶんだ。……お前には壊れた後に楽しませてやろうか?」
「ふざけてろ…。お前が遊んだ後には廃人になった女しか残んねーだろ?」
男の異質な笑みがナドネに恐怖を与え、ナドネの頬からは未来を守れなかった現実とこれから起こるであろう絶望に心が折れ、震える声で助けを呼ぶことしか出来なかった。
未来が抵抗するもノラと白の2人によって、未来の腕から黒は奪われる。
未来が白が放った光の魔法によって地面に縫い付けられ、未来が叫ぶがしろの腕の中で眠る黒が敵の手に渡る。
「やめろッ!黒ちゃんから……手を離せッ!」
未来が魔法による拘束を解こうともがくが、魔力に差がある白と未来では勝負にならない。
手下の者が開いた空間へと手下が消えていき、男と共にナドネが消えて行く。
白が黒をあやしながら空間へと身を投じ、ノラが涙を流し黒の名を呼ぶ未来を見下ろす。
「――そら、泣き叫べ…。大切な存在が消える恐怖と絶望を噛み締めて、無様に明日を生きろ…」
そう一言告げると、ノラは空間へと身を投じ空間は閉じてしまう。
魔法の拘束が解かれ異形が消えたと同時に、未来の元へと十二単が集まる。
だがしかし、未来は頭を抱え大粒の涙が張り裂けてしまった心と、届かない者の名前を絶望に染まった悲痛な声で挙げる――…。




