六章十節 神の槍が雲を裂き、天を穿つ
眠気を誘うような優しい風と暖かな太陽の光、自然の営みに身を委ね安心しきって油断していた。
天童とエイカーズが城から少し離れ、ユリシアの元を離れた一瞬の隙を突いて、鳴りを潜めこれまで長い時間潜入したいた大勢の刺客達が城内を一斉に駆け巡る。
刺客の姿に驚いたメイドの悲鳴に、天童が真っ先に気付き城内へと向かって芝生を蹴る。
少し遅れて、エイカーズが付近の警備隊に命令を飛ばし、天童同様に芝生を蹴る。
(何としても、花嫁は死守しなければ……。時が満ちるまでッ!)
城内で待機していた少な過ぎる警備を掻い潜り、刺客達は花嫁と呼ばれるユリシアの元へと向かう。
「――ダーメ。花嫁は、白く無くちゃいけない」
刺客達が扉を蹴破る寸前で、宙を舞った4刀の細剣が続けざまに刺客の身体を切り裂いた。
突き一つで身体に穴を穿ち、剣先で撥ね飛ばされた腕や脚が壁や天井を真っ赤に染める。
腰に下げていた鞘に4刀全てが収まり、あれほど存在していた刺客の尽くが里緒菜の前で切り捨てられた。
力の差はほぼ互角と言え、圧倒的な人数差で押しきることも可能であったが、彼らと里緒菜の間には決して埋まることの無い深い溝が存在した。
圧倒的な経験の差と、警備を掻い潜ってへた一瞬の油断が勝負を決した。
「刺客にしては、弱すぎる。使い捨ての寄せ集めを向かわせたのかな?」
里緒菜の目の前で絶命した者達を踏みつけながら、来た道を戻る。
一足遅く到着した天童とエイカーズを横目に、里緒菜はその場から立ち去る。
「エイカー…。万全所か、穴だらけだったな」
「…うるさいよ天童…。確か……放棄区域にまだ僕に逆らうゴミが居たよね?――ゲルマン、タムネ。どんな手を使っても構わない。見つけ出して、全員殺せ。タリストとネレバは、放棄区域以外のゴミを掃除しろ」
怒りを露にしたエイカーズが、自身の親指を力一杯噛み、爪を親指の肉諸とも粉々に噛み砕く。
流血していても構わず親指を噛み、自身の親指を骨ごと千切って床に吐き捨てる。
しかし、消えた親指は次第に血液が巻き戻り、親指の形に変化し何事も無かったように親指が再生する。
命令を受けたゲルマンとタムネ達による、放棄区域内の反抗勢力の一斉排除は極めて残酷であった。
ただ見せしめにするために、生きたまま全身の肉を削ぎ落とされ壁に晒される。
顔の原型が無くなるまで、その場にあった廃材やパイプなどで死ぬまで殴られた者達。
武器を取って迎え撃つ時間や、荷物をかき集めて逃げる時間すら無いまま一夜にして、放棄区域内の反抗勢力の一斉が幕を閉じた。
返り血を全身に浴びたゲルマンとタムネが死骸で溢れた放棄区域の闇市にて、近くの売り場にあった果実を小腹の足しにしていた。
「ゲルマーン…。えっちゃんの敵ってコレで全部かなー?」
「いや、確か……天童だっけ?アイツのもと居た騎士団が、俺らを潰しに掛かってる。先日相手した奴らも、その騎士らしいぜ」
「てことは、またあの子と遊べるのかな?――楽しみーッ!」
食べ掛けの果実を後方へと投げ捨て、全身を捻って三奈との戦いを思い出して悶絶する。
歪みに歪んだその顔は、狂気と快楽で満ち溢れていた。
「だが、まだエイカーの力が貯まってねー。流石に、この状態でやり合ったら……ストックが無い。復活無しの一発勝負だ」
「そっちの方が断然良いよ!だってあの子達だって、ストック無しの一発勝負でしょ?…なんか、私達だけ卑怯だよ?」
頬を膨らませて、タムネら亡骸の上を歩きゲルマンの側へと寄り、崩れ掛の階段で休憩していたゲルマンの背中に抱き付く。
鬱陶しそうにタムネを引き剥がしたゲルマンは、タムネと共に放棄区域を後にした。
一方その頃、タリストとネレバは与えられた命令を実行するために、ふたてに別れていた
ネレバが統括区域を隈無く確認し、リストアップされた反抗勢力の幹部らを晒し首にして回った。
「あまり、私はこう言う仕事は得意じゃ無いんだがな…。エイカーズ様の命令なら、仕方ない…」
ネレバがコンクリートを蹴り、空高く舞い上がると大気を踏みつけ空中で停止する。
空を埋め尽くす星空を仰ぎながら、ネレバは頬を優しく撫でる風に身を委ねる。
「――平和だな…」
ネレバが人差し指を標的へと向け、乾いた破裂音が人差し指から響き、壁や窓などの障害物を貫いて、ネレバが狙った標的の頭蓋を吹き飛ばす。
力無く倒れた骸に慌てふためく一般市民に脇目も振らずその場から立ち去ろうとする。
しかし、そこで、ネレバの視界に一度だけ移った人影は、壁や窓越しに姿を隠しているネレバを貫いた穴越しに見つけ出し、ネレバに向けて人差し指を向けていた。
――バーン―
笑みを浮かべる人影から、殺気を感じ取り反射的に建物の影へと入り込む。
万が一ネレバ同様に、指先から空気の弾丸を放っていたのであれば、ネレバの頭蓋は瞬く間に吹き飛んでいた。
跳ね上がった心拍と乱れた呼吸を落ち着かせる為に、ネオン看板の上へと着地し、看板から下へと流れるように人混みに姿を隠す。
人混みと薄汚れた路地裏へと逃げたネレバは、全身から滝のように溢れる汗に、先ほどの人影に心底自分が恐怖を抱いていた事に気付いた。
彼らが、エイカーズと新宿を狙っている敵勢力である『黒焔と竜帝』と呼ばれる騎士団なのだろうか――…。
「ゲルマンとタムネのストックを消費させたって話は…本当だったみたいだな。天童と同等なのがゴロゴロ存在していると言う話も…信じたくはないな……」
路地裏で一人踞ったネレバは、新宿の空を多い尽くす星空を仰ぐ余裕は無かった。
ネレバがエイカーズの命令に従っている最中で、タリストはある場所へと向かっていた。
『タリスト…。お前にその時その時命令を出しても、全てに従う必要は無い。だが、一つだけ従え。――天童が一人でいた場合、怪しい素振りを見せ次第直ぐに殺せ。…言わば天童の監視だ』
タリストは疼く胸の傷を押さえ、通路をただひたすら突き進む。
目前に控えていた扉を蹴破り、ユリシアとそのメイド達が驚いて全員がタリストの方へと振り向く。
「――天童は何処だぁッ!」
その言葉を発するよりも先に、タリストの身体は通路の壁に背かを打ち付け、殺気を乗せた蹴りを顔面に受ける。
城内の壁が吹き飛び、顔から流血したタリストが粉々に砕けたメガネを投げ捨て、目の前の男を睨む。
「――その胸の傷。カッコいいなぁ…どんな戦いしたら付くんだ?」
「記憶にすらねーってか……調子に乗ってんじゃねぇぞ――ッ!」
タリストが腰のホルスターか取り出した拳銃が火を吹き、鉛弾が天童の眉間に向かって放たれる。
だが、眉間に着弾するよりも先に天童の素早い手刀が弾の尽くを両断し、タリストの間合いに一瞬で詰め寄る。
硬直しているタリストの肩に手を置き、タリストの身体が反応できない程の速度で放たれた指による刺突攻撃により、全身の関節が外れ筋肉が一斉に痺れたような感覚にタリストは見回れた。
「少量の雷魔法で、お前ごときカスは容易に制圧出来る。無理に動けば、全身の筋肉に電流が走る。外れた関節を筋肉で無理矢理戻す事も不可能」
天童が、その場で座り込み全身に電流が走る中でも立ち上がろうとするタリストに天童は思わず拍手を送る。
数分間の激痛に耐え関節を戻し、全身の筋肉から魔力を利用して電流を弾いたタリストが満身創痍な身体で立ち上がる。
(殺す殺す!)
既に命令である天童の監視すら忘れ、天童に対する憎悪のみでタリストは立ち上がる。
(――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す………ブッ殺す―――ッ!!)
殺意と憎悪によって思考回路を埋め尽くしたタリストは、充血した眼と獣のような形相で天童に飛び掛かる。
「――身のほどを弁えろよ」
冷たく冷静な天童の言葉と共に、芝生を蹴って放たれた天童の蹴りはタリストの顎を砕く。
そのまま蹴り飛ばされたタリストの頭は、砕けた顎と後方へと折れ曲がった首から察するに脊髄も損傷し、振り子のように動く首と痙攣を続ける体がその直ぐ後に芝生の上へと倒れた。
緑色の芝生が赤く染まり、亡骸となったタリストへと冷たい目で見下ろす天童。
その瞳は、黒焔に居た際の優しい瞳は消え果て、冷酷で水のように冷たい眼差しがそこにはあった。
肉塊である筈のタリストが飛び散った血液が、次第に集まりタリストの首を再生させる。
骨と肉が生々しい音を上げて、目と口から血液を滴らせたままのタリストが地面を蹴る。
「―――!―――!!―――!!」
既に獣と相違無いほどまで理性を失ったタリストは、人間では聞き取れない雄叫びを放って天童に襲い掛かる。
冷静にそして、確実にタリストとと言う獣と成り下がった敵を葬る為に、懐のホルスターから拳銃を取り出す。
タリストの両腕が地面を叩き、後方へと退いた天童が放った弾丸がタリストの首に2発と顎の右下と左頬を撃ち抜く。
充血した瞳は焦点が合わず、地面を叩いた際に折れた両腕は使い物になっていない。
しかし、それでも、タリストは天童に襲い掛かるのを止めず。
大きく開いた口で、天童へと噛み付こうと飛び掛かる。
「だから……身のほどを弁えろって、言ったよな?」
タリストの目の前に投げた爆弾を、タリストの口に押し込みその場からタリストを蹴り飛ばす。
口から手榴弾を吐き出そうと口に手を入れたタリストに向けて、天童は銃口を向ける。
「流石に爆散すれば、死ぬだろ?」
引き金を引きカン高い発砲音と共に手榴弾が爆発し、タリストの上半身をバラバラに吹き飛ばす。
城内から顔を出したユリシアが一ヶ所だけ、吹き飛んだ芝生と所々に点在する血痕から、結末は容易に想像できる。
ホルスターへと拳銃をしまった天童は、焼け焦げた服からタリストの持ち物と思われるドックタグや身元を証明するような物を手に取る。
「――タリス…焦げて読めんな。てか、元少尉だったのか…。元兵士が堕ちたもんだな」
天童は、焼け焦げた服の胸ポケットへとドックタグなどをしまうとその場から立ち去る。
城内の管理を担当している黒服の男達が、芝生近辺の掃除とタリストの遺体の処理を始める。
「……殺す事は無かったんじゃないの?天童」
「いや、長引く程…タリストと言う名の兵士は、過去に捕らわれる。もっと早くに決着を着けて、先に進むべきなんだよ」
天童が城内でくつろいでいると、エイカーズの命令を実行してきたと思われるタムネとゲルマンが到着した。
ここを出た時とは2人とも服装が変わって、揃いのスーツ姿に変化していた。
里緒菜とシキと呼ばれた女性も同じくスーツに身を包み、ネレバが少し遅れて、エイカーズの手下が揃った。
「集まったか……俺の手下と…命令を聞かない狂犬くん」
「エイカー…。お望みなら、狂犬らしく噛み千切ってやろうか?」
天童の瞳が赤く染まり、ゲルマンとタムネが肩をびくつかせ、シキとネレバが後ろへ一歩後退する。
「冗談もその辺にしといくれ、タリストを殺しておいてまだ殺したり無いなら、黒焔の騎士を殺してくれ…。出きればの話だけど」
エイカーズの冷たい目が天童を見下ろし、玉座として置かれた王の席にエイカーズは座り、平伏するように天童とユリシア以外の者が膝を折って頭を下げる。
「これより、作戦は第2段階へと進行する。邪魔な騎士団が来る前に、急ぎ新宿にて隠された古代兵器を奪取しろ。新宿の市民や企業家共を黙らせるために多少の血は、致し方無い。邪魔な物は全部蹴散らせッ!」
一斉にエイカーズへの忠誠を宣言した者達をみて、天童は自分のすべき事を再度思い出す。
(……ここからは、俺一人。騎士団とエイカーズを相手に、ユリシアを守る。そして、古代兵器の核を奪う)
天童が拳を強く握り、ユリシアが天童の手に優しく触れる。
「お願いだから、危険な事は止めてよ?」
「分かってる。親父とユリシアから貰ったこの命…。そう簡単には、無駄にするきはない」
ユリシアと天童の様子を横目に見詰める里緒菜は、拳を強く握りしめ、細剣に伸びる手を必死に押さえる。
「ねぇー…。天童は、私を守る為に来たって言ってたけど、それだけじゃ無いよね?他にもやることがあるんでしょ?」
「まぁな…。ユリシアの保護は、エイカーが古代兵器を手に入れる為に必要じゃないが……俺を釣る為に必要だっただけの存在だと思う。こうして、黒焔を裏切るようになったのもエイカーの手の中にユリシアが居たからだ」
長い通路を二人して歩き、ユリシアは天童の目的を興味津々になって聞き入る。
黒焔を裏切った原因がユリシアの安全である事を聞いて、うつ向いたユリシアの頬を軽く叩く。
『元々、古代兵器を手に入れる名目で、騎士団を裏切る手筈だったんだ。ユリシアが気にする事はない』天童はそう言って、ユリシアの手を優しく握る。
一瞬戸惑ったユリシアを抱き寄せてから、天童は城内の壁を黒竜の力で破壊し上空へと飛翔する。
不振な動きをした天童を狙うエイカーズの手先でもなく、放棄区域のエイカーズの反抗勢力でもない。
そして――騎士団でもない。
「第四勢力か?…ユリシアと俺のどっちを狙ってるかは知らんが…。好かれたもんだな」
天童が瞳を真っ赤に染め、お姫様抱っこのままなユリシアに耳元で『多少揺れる。でも、安心してろ』とだけ残し、魔法で空へと飛び出た全身鎧装備の集団を前に、天童は笑みを浮かべる。
一斉に天童へと飛び掛かる敵を前に、天童の背中から出現した液体は液状化した黒竜の魔力であった。
敵がその歪なまで禍々しい魔力に気付くよりも先に、身体がバラバラに引き裂かれている。
自分の直ぐ真横から襲い掛かる漆黒の両翼が、視界に一瞬だけ映ると強固な鎧だろうと鍛え抜かれた屈強な肉体を有した戦士でも、例外無く――視界は真っ黒に染まる――
血液と切り裂かれた肉塊による血の雨が城壁を真っ赤に染め、次々と襲い掛かろうとした敵の戦意を根刮ぎへし折る。
上空にて、じぶんたちを見下ろす天童は決して手を出しては行けない圧倒的な脅威となって彼らの視界に写っているだろう。
一挙手一投足が自分達の未来を決める。
――否、自分達の明日を運命付ける――
「動いたら、殺す――。…俺は優しいからな、今すぐ逃げるってんなら、見逃してやる。だが、2度同じチャンスは無い――」
天童の冷たい瞳が彼らの背筋を凍らせ、汗腺が一気に開き頬を伝う汗が恐怖を駆り立てる。
―――おい――
天童の――おい――と言うたった一言で、城内や城壁に集まっていた敵性存在の悉くが形振り構わず逃げ惑う。
自分の命欲しさに武具をかなぐり捨て、空高くに位置する城から飛び降りて、魔法にて空を翔る。
無論行き先は安全な所である。
それは、新宿ではない全ての国々や町が彼らにとっての安全圏であった。
しかし、それでも立ち向かおうと怯まず天童に向かって飛び掛かる者達も少なからず存在していた。
そして、全て天童が放った拳と両翼によって、その命の灯火を散らした。
「敵性存在の殲滅を確認。ユリシア……下ろすぞ。それと、服に返り血が……悪い」
「気にしないで…。私や天童に返り血が付くって事はそれだけ、天童が平和ボケした生活してたって証拠だよ。今度、天童の奥さんと子供に合わせてよ」
笑顔を見せるユリシアに、天童は平和ボケしていた日常を思い出す。
笑みを浮かべてこちらにゆっくりと歩み寄る愛娘と、優しく握る微笑む妻の姿。
そして、自分の今の姿を見て、天童は空を仰ぐ。
「ゴメンな…パパは……真っ黒になる運命なんだよ」
背中から出現している両翼と返り血を振り払った両腕は、液体ではなく竜のような鱗を形成し、天童の背後から現れた敵を軽く腕で叩いただけにも関わらず、その肉塊を易々と破壊するほどの力を見せ付けた。
まるで、元12の皇帝で序列第3位の位に付いていた。
黒き竜帝を彷彿させる戦いぶりや、その圧倒的な力さえもが頭を過る。
皇帝の中でも最強と呼べる力と兵力を兼ね揃え、その竜の力は四大陸を越えて、異種族達の星にまで轟き一時期世界を恐怖と武力によって支配した。
漆黒の皇帝の再来とも言える存在が、目の前に立っている。
「……天童…。その力は、一体何だ?」
顔を真っ青にしたエイカーズが惨殺された敵の亡骸を片手に、天童へと歩み寄る。
周辺の魔力を探ると、エイカーズとその配下によって、天童が見逃した敵以外は全てエイカーズ達の手によって葬られていた。
またいつ戦いが起こるかは分からないが、一時の安全は保証された。
「その力があれば……古代兵器と合わせて、俺は世界を手に入れる事が可能だッ!」
天童の肩を叩きながらエイカーズは満足した表情で、終始笑いながら城内へと消える。
「ユリシア…。お前は黒焔が攻めてきたら、真っ先に黒焔に保護を求めろ。流石の俺も…お前を釣れて任務をこなせる自身が薄れてる」
「分かってるよ。保護を求めるけど、一応……戦えるんだからね」
不満そうに頬を膨らませるユリシアに謝罪を述べると、天童は両腕に巡らせた魔力を両翼へと回し、遥か上空へと飛び上がる。
(さぁ、来いよ…。ハート、暁。新宿に隠された古代兵器が掘り起こされる前にお前らが来れば、俺の仕事は幾分かはやり易くなる)
天童が大和の方角を見詰め、下へと降りようと高度を下げようと気を緩めた直後――天童の両翼が一瞬で吹き飛んでいた。
天童を掠めて、空へと伸びていく光の曲線に天童は見覚えがあった。
「……ハートの野郎。マジかよ……」
魔力を足場に空中で落下を止めた天童は雲を切り裂き、雨雲を吹き飛ばして太陽を拝むことを可能にしたハートの一撃に、エイカーズを含めた配下が驚きを隠さずに空を見上げる。
「戦神魔法――【神の槍】」




