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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
六章 純白の花嫁と新宿の幻影
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六章八節 お前の選択


 大和近郊に急接近する反応の対処として呼ばれたリーラとステラの両名は、新規武装のテストと題して新たなプロテクターと刀剣型ドライバが支給された。

 「ステラさん…。この新しいプロテクターって……少し重すぎませんか?」

 「そうですね。少し…重たいですけど、強度面に関しては安心ですね」

 プロテクターを装着し、互いに手の届かない所を助け合って何とか装着し終える。

 女子更衣室のスピーカーから、ミシェーレの声が聞こえると二人は背筋を正す。


 『えーと、そうだねー…。2人とも確認された敵が2人だけだと思って侮らないようにね。そのプロテクターも強度重視だから、いつもより動きにくいのは承知してると思うけど…。新規武装のテストも兼ねてるから、自分がヤバイと思ったらいつでも逃げて貰って構わないからね』

 リーラとステラの2人が渡されたジュラルミンケースを受け取り、ミシェーレからの新規武装の説明を受ける。

 新しいドライバではあるが、未だ改良の余地があり実戦データを集める丁度いい機会であった。


 「何か…敵が攻めてきたって雰囲気じゃないですね。何だか…実戦を兼ねた演習みたいですね」

 「演習って……見せ物だよね?」

 2人が更衣室を出て、無駄に長い通路を抜けると白衣に身を包んだ大和支部の『技術顧問』と黒焔騎士団の両立しているミシェーレが手を振っていた。

 未だ多くの不安が残る現状で、大和市民を守るためや今後増え続ける他国からの亡命者のため、様々な防衛設備の研究を担っている彼女。

 茜と共に神器やドライバの研究を共同で行いつつ、その延長線上に大和やゆくゆくは列島全域への防衛設備の導入を模索している。

 そんな彼女が研究し、製造に関わった新規武装は2人に安心感を覚えさせる。


 「新規武装の簡単な説明をすると、プロテクターは強度重視の『重量型』に仕上げてある。以前のような旧型である『軽量型』のような身軽さは無いけど、プロテクターが重りの役目を果たして衝撃や多少の反動を地面に逃がしてくれる。まぁ簡単に言えば、攻撃や自分の攻撃の反動を肩代わりしてくれる武装だね」


 ステラとリーラが小走りになって、通路を進む中でもミシェーレは顔色一つ変えずに2人と並走している。

 一般的なイメージでは、研究職やそう言った技術者方面の者達はあまり戦闘向きの事は苦手なのがイメージである。


 騎士団全体の序列が高い方に連れて、そのイメージは強く技術や研究関係の団員は後方から安全を確保した上で、最適な支援をする。

 しかし、そんなイメージを吹き飛ばすイカれた戦闘狂騎士団が、存在した。

 武装用の素材やテスト用の素材などで、魔獣や秘境にある希少鉱石を求めて、ここ数日で列島の東西南北を駆け回っていた。

 戦闘狂ならぬ研究狂となった彼らは、あまりの執念深さと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――夏菜率いる第十二師団であった。

 公明とリーラが属する師団だが、公明は参謀として全ての訓練に参加せず夏菜の相手(お茶の相手)をしていた。

 リーラも同様に『神器所有者であり他の師団の援護や他にも動ける場面がある』と言った理由から、身体能力向上と神器と魔物の力をよりコントロールする鍛練に集中した。

 その為、他の師団員から少し浮いていると思ってしまっている。


 ――無論、浮きまくっている。


 それなりに、技術者としての能力や素質のあった物が夏菜による超スパルタ軍隊式訓練を経て、軟弱な技術者から強靭な技術者として進化した。

 ミシェーレと彼ら十二師団の叡智と努力の末に生まれた新規武装の能力はリーラ達の予想を遥かに凌駕していた。


 大和市内から離れ、ゆっくりとだが確実に大和へと進行する適正存在を前に、ステラとリーラは緊張で硬直していた。



 「頑張れよー!お嬢ちゃん達ッ!」

 「大和を潰そうなんて奴ら、逆に潰しちまえ!」

 「今日の酒の肴には、丁度ええかな?」

 「おい、どっちに賭ける?」

 「そりゃ、当然ステラちゃんだろ」


 大和市民がこぞって集まり、2人の戦いを見物しようと中継されているモニターにかじりついていた。

 大和に張られた結界付近には、大和の報道機関と思われる人が集まっていた。

 ステラが見上げると、頭上にドローンと思われる小型機が2人の姿を撮影していた。

 「完全に…見世物ですよね?」

 「ほんと…大和の皆さんは、異常な日常に慣れすぎです」

 十二師団の訓練や大和の防衛設備の建造などで、魔石や魔獣などの素材が運搬されている最中に獲物を狙った魔獣の群れや、山一つ越えた先では訓練と題した戦争紛いな事が毎日決まった時間に行われ、平和とは掛け離れた生活が続いた大和の人達はそんな異常さになれてしまっていた。

 鴉達の侵攻で、既に地獄を見た彼らは大和支部長であるラックの言葉を信じている。


 『僕達が、皆さんを必ず守ります。そして、この大和が日本と呼ばれた島国の最後の希望なのです。きっと…皇帝(エンペラー)が世界を救う…。その日まで、諦めず前を向いて行きましょう――』





 ステラとリーラの姿を視界に捉えた敵性存在が、雄叫びを挙げて2人への飛び掛かる。

 大咆哮と共に凄まじい大きさの魔力砲が、2人の姿を覆い隠す。

 砂煙とパラパラと降り掛かる地面の破片が、大和の市内へと降り掛かる。

 既に人としての感情も人間性も存在しない哀れな怪物と成り果てた者達にステラとリーラは、同情すると共に一撃でその命を刈り取る。

 それが、非道な人体実験によって産み出された者達への最大限の慈悲である―――

 首を切り落とされた化け物が地面に膝をつき、微かに動く身体で両手を合わせて2人に感謝を見せる。

 切り裂かれた頭部からは、一筋の涙が溢れるとその身体は燃えるように消えてなくなった。










 「新規武装のテスト……。結果はどうなの?」

 パソコンのキーボードを叩くミシェーレにシャルルが興味津々にその画面を覗き込む。

 報道機関が撮った映像よりも2人の動きを捉えた映像には、幾つもの数字が浮かんでは消えてを繰り返していた。

 その数字全てが、ステラとリーラが断続的に発していた魔力量や濃度が数値化されていた。

 攻撃を受けた際のプロテクターへと流れた魔力や全身に鎧のように纏わせた魔力の数値から、プロテクターにどれ程の魔力が流れるのか、どれ程の魔力で防ぎながら。

 防壁に使用した魔力が霧散せずに残り、その分を無駄に浪費した魔力量など事細かに計算していた。


 「……頑張るのね…。プロテクターのペラペラに薄い鎧なんて、意味を成さない程異形も強くなったし、異形だけが敵じゃ無くなるのよ。あなたが兵器を造り出したら、それに対抗しようと他国がそれを上回る兵器を造り出す」

 「――『負の連鎖』だって言いたいのかな?異形は滅ぼさない限り、増え続ける兵器。…人間は、海を隔てた遠い存在。腹の底は見えない相手との戦いよりも、顔色や姿が見えない相手との戦いの方がよっぽ難しい……」

 シャルルがいつの間にか淹れたコーヒーをミシェーレが受け取り、立ち上る湯気を二人は見詰める。


 「……ミシェーレ。ここには、誰も居ないし…誰も来ないよ…。ぜーんぶ、吐き出しても良いんだよ?」

 シャルルがコーヒーカップをテーブルに置き、ミシェーレの頭を優しく撫でる。

 次第に震え始めたミシェーレがシャルルの胸に顔を埋めて、小声で啜り泣く。

 茜とは違って、神器やドライバなどの研究に天才的な才能は無いがや茜以上に多種多様な研究と論文を読み漁り。

 他国や列島全域の力の分配などを少なからず把握しているミシェーレだからこそ、()()()()()()()


 「私が…私がもっと頭が良くて……パパみたいに何でも造り出せたら…神器の少ない現状や戦力の乏しい状況を打破できる案が浮かぶのに……」

 「うんうん…それで?」

 「皆が必死になって、未来お姉様や大和を救うために戦ったのに……神器もドライバも満足に扱えない私は……みんなの…ハートの力になってあげれないのかな…?」


 黒と翔と言った戦力を頼れない状態の現状では、神器所有者と魔物所有者が戦力の鍵である。

 しかし、そう言った名のある者達は一人残らず海を隔てた他国に身を置き、世界を守るために力は振るわず。

 自己の安全を守るための力となってしまっている。

 連盟も議会もほとんど機能を失い、同じく元老院も先の戦いによって心を大きく傷付けたシエラが立ち直らない限り、立ち上がる事はほぼ無い。

 ミシェーレが幾ら幾度と無く計算し思考を巡らしても、変わらぬ結果がミシェーレの心を締め付ける。

 「――死ぬのかな?僕達は…」

 「可能性として、高いだけでしょ?」

 ミシェーレがシャルルの胸から顔を勢い良く上げると、笑顔で手を振る2人の姿が見えた。

 「暁君もハート君も……女の子の泣き顔を覗き見るとか…最低」

 涙を袖で拭き取るミシェーレはすぐに笑顔を作り、その場から逃げようと扉を潜る。

 そして、そんなミシェーレの腕を掴んだハートは普段とは違った優しい目ではなかった。


 「シャルル。暁…。ここは、私に任せて欲しい」

 「うん…。頼んだよ?ハートちゃん」

 「しっかりね。泣いてた女の子を慰めるのは男の子の仕事だからね」

 去っていく2人を見送ったハートは優しい手付きで、ミシェーレの頭を撫でる。

 一言も言葉を交わさずに、ミシェーレの頭を撫でるハートが鬱陶しいまでにミシェーレの頭を撫でるので、ミシェーレがハートの手を払い除ける。

 「いい加減にして……そうやって昔から子供扱いする。私は、私だけはみんなの足を引っ張れないって知ってる癖に!」

 「お前さ…覚えてるか?…黒の所に初めてお前を連れていった時の事」

 黒が目につく異形を殲滅して回って各地を火の海に変えていた時、ジャンク街の闇市で知り合い。

 共に街のゴロツキ達を支配し、余所者から街の支配を守り続けたハートにミシェーレは少しずつ想いを寄せていた。

 優秀で天才な父の紹介によって、ジャンク街での生活とハートの補助だけの筈が、次第にハートの力となりたいと言う一心で父の反対を押しきって、ジャンク街の裏を仕切った。

 その頃余所者としてジャンク街に現れた黒と翔に、やられジャンク街の治安は悪化した。

 そして、ミシェーレと共に多くの仲間を引き連れて、黒と翔の前へと立つ。

 反抗した仲間達を威圧一つで無力化した翔を前に、ミシェーレは力無く膝を折った。

 それでも、ハートは二人の前に立ち続け、2人の下に着いた。


 ジャンク街は以前にも増して、治安は良くなりはしたがハートのは違って平和的な思想を持たない勢力を増えた。

 あの場で、ミシェーレだけでもハートの為に立ち上がっていれば、ハートの大好きな街はハートの支配下であった。

 だからこそ、心に誓った。


 ――『次は、足を引っ張らない』


 ハートが守りたいと思った存在を守り抜く為に自分の全力を捧げる。

 しかし、ハートの力になる所か自分は戦力としてすら数えれていない。


 「バーカ…」

 ミシェーレの額を小突いたハートが優しくミシェーレの頬を摘まむ。

 「…頼むから、笑っててくれ。確かに、お前は戦力として数えられていないかもしれない。でも、それがどうした?」

 ハートは満面の笑みを浮かべて、その場にしゃがみミシェーレを見上げる。

 先ほどまで泣いていたためその顔は少し腫れた目元が残っており、目元を隠したミシェーレだが、ハートはそんなミシェーレのもとから離れる。


 「せっかく可愛い顔してんだ、泣いて台無しにするなよ。それに、私じゃ力になれないって……戦う力以外にも力ってのはあるんだよ。黒も暁も同じだ――」

 ミシェーレから距離を置いたハートが振り替り、小声で呟く。

 「――自分の命よりも、大切な誰かを守りたいって気持ちだけで……人は強くなれる。決して折れない剣でも、持ち主の方が先に心が折れる。でも、……お前居れば、それだけで――()()()()()()()…」


 「何か……言った?」

 すぐ真横に近付いていたミシェーレに驚いたハートが、苦笑いを浮かべて首を横に振る。

 いつの間にか機嫌が良くなっているミシェーレはハートに頭を撫でられたのか。

 それとも、ハートの独り言を耳にしたからなのかは、定かではない。



 シャワーを浴びて、ラフな服装へと着替えたリーラが女性用更衣室から出ると目の前のソファーで制服姿のステラが星零学院の課題を取り組んでいた。

 「リーラさん、私達の本分は学生です。ラフな格好なのは、構いませんが…もっと緊張感を持ってですね…?」

 ステラがレポートを閉じて、ただ呆然と立っているリーラにステラが手を目の前で振るが反応が無い。

 疑問に思ったステラはリーラと同じ方向に振り向くと、微かではあったが強烈なまでに脳裏に焼き付いた魔力を感じた。

 周囲を圧倒し続ける強さと死を間近に感じさせる恐怖を兼ね揃えた、自分達が仕える――()()()()()()――


 リーラとステラが感じ取った魔力は、当然他の者達も感じ取っていた。

 暁や十二単将が微かに感じた魔力を追跡し、茜の指示が飛ぶより先に技術者達総出で、魔力の解析と追跡を始める。

 本部内は一時期大慌てで職員達の怒号となった言葉の嵐と、駆け回る騎士達の足音は――地下深くまで響いた。


 「うーん?…物凄く大慌てで仕事してるね。そろそろ目を覚まさないと…お祭りに参加し遅れちゃうよ?」

 地下の大扉は人一人入れる位のスペースが開けられ、常に監視の目が鋭く光っている。

 そんな地下で、目覚めたての身体を解す為に橘 空(たちばな そら)と言う小柄な女性は、黒曜石のような黒さに艶やかな髪を靡かせながら眠り続ける翔の隣で本を読む。

 徐々に元の身体に慣れてきた空ではあるが、刀を持って戦う程とは言えない。

 魔法も魔物の力を行使する事すら危険なため、身体を動かしては魔力を貯めている。

 いつ如何なる場合でも、自分の力は必要になり現在の黒竜帝の役に立つと信じている。

 職員達が大慌てで動く最中で、何とか新宿から離脱し情報を持ち帰った。

 三奈、渚、佐奈の3名が目を覚ますと大輝達四天や未来が病室にお見舞いに来ていた。

 佐奈は目を覚ます事は出来たものの、全身に魔力酷使による影響で、ダメージが想像以上に蓄積していた。

 中でも、姉である三奈を庇って全身に火傷と深い傷を受けた渚は喋る所か指先一つ動かない状態であった。

 そんな2人に比べて、軽傷な三奈がデータてしてまとめた新宿に関するデータを未来に手渡す。


 看護師や医療部隊の騎士は、ほぼ全員大和市内の応援に向かっている。

 その為、手の空いていたユタカタと笹草の2人が傷を負った佐奈や三奈の身の回りの世話をしている。

 「良いよ……2人とも…私の世話しなくても…2人は、大事な戦力…だから」

 「女の子なんだから、いつまでもベッドで寝てないで。早く一緒にお出掛けしたいじゃん」

 「そうですよ、ユタカタ様の仰る通りです。いつまでも病室で生活していたら、気が滅入ってしまいます」

 花瓶の水を交換したり、お見舞いとして貰ったリンゴの皮を剥いては食べさせてくれる。

 仲間想いではあるが、佐奈からすれば惨めでしかない。

 天童の力を借りて、何とか新宿から離脱したとしても持ち帰った情報は少ない。

 戦力として申し分無い三奈や渚を守れず、傷を負って命からがら逃げてきた自分が恥ずかしい。

 仲間を守る盾にすらなれずに、敵を前に背を見せた自分よりも、仲間を守りきれなかった事が悔しくて仕方ない。

 布団を力一杯握る佐奈に、笹草は笑みを浮かべる。

 すると、勢い良く開かれた病室の扉を全開にして暁が佐奈達の前に現れる。


 「――()()()()()()()


 そんな感情の欠片も籠ってない言葉ともに、先ほどの化け物を使った宣戦布告紛いな物とは別に、()()()()()()()()()()()()()大和の遥か上空で魔力が弾ける。

 十二単将の全員と数名の黒焔団員達が、紛れもない天童の攻撃だと理解した。



 周囲には人は見当たらずただ一人、頬に風を受けてハートが霧散していく黒のような漆黒の魔力を見詰める。


 「……天童。お前がホントにそっち側なら、俺はお前を―――()()()()()()()――」




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