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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
六章 純白の花嫁と新宿の幻影
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六章二節 前を向く


 地下通路を抜け、地上へと登った天童、ハート、暁の3人はノラと言う裏切り者の抹殺を失敗した事と―――ノラが裏切ったと言う事実を伝えるために本部へと向かう。

 3人の足取りは重く、暁とハートが思うに天童がノラの両足を削ぎ落としたと言う発言は嘘だと一瞬で分かった。

 天童の実力であれば、両足所かノラと言う存在でさえも再起不能にさせることが可能。

 黒が別次元へと行ったとしても、天童の切り札と言える力は黒の魔物である黒竜経由で依然として届いていた。

 つまりは、黒が魔力を失わず生存している事を意味している。


 なので、天童もハートも黒の身の安全はあまり気にはとめていない。

 それよりも、黒が姿を消した事によって生じた1つ目の危機。

 ――黒焔存続の危機が迫っていた。


 簡単に説明するならば、宇宙のさらに先や別次元から異形の驚異から身を守るために造られた『聖獣連盟』と地球の国や人々の団結によって生まれた『世界評議会』

 ――そして、誰の指図も命令も聞かず、ただ悠々と時代と共に生き人知れず死に世代を越えても、その生き方は変わらず存在が既に驚異であるこの世で最も魔物に近しい存在『世界第魔十王』

 魔十王には、『十王』や『魔王』などの多くの呼び名があり、世界第魔十王と言う名称も本当の名なのか既に知り得ない。

 しかし、一説では十王が世界の均衡を陰ながら保ち、連盟と議会が表から均衡を保つ。

 元老院が2つの機関の力を均等に保つ『助言機関』この3つの組織と十王が互いにバランスを保つことで、世界は混乱しなず異形との戦いを行ってきた。

 そして、3つの組織に属し、大勢の騎士達や人々から皇帝と呼ばれる者達がいた。

 現在の皇帝が力を均等に分けることで、騎士団同士の派閥を抑えていた。

 しかし、2ヶ月前の大規模作戦を期に騎士団同士での小競り合いが頻繁するようになった。

 原因としては、騎士団同士の闘争を抑制する圧倒的な力を示した皇帝の不在である。

 十二皇帝の内、力を見せ付けることで他騎士達の闘争を抑制し、万が一にも衝突した際には武力行使で――()()()()()()()()

 そんな役割を担っていたのが、黒と翔であった。


 「あの騎士団。武装を蓄えてるって話だぜ……」

 「うちらの騎士団長…。女の事しか考えてねーからな」

 「あの騎士団、少し有名だからって少し調子乗り過ぎじゃない?」

 「アイツら、小規模だからって少数騎士団を見下しやがって……」


 不満や他騎士団の嫌な噂や黒い話で、現在の騎士の仲は最悪と言っても良い。

 騎士団同士で手を組むことで、依頼や防衛任務を一手で担うことで、大量の依頼金を独占する。

 いつかの黒焔と同じやり方をする者達が一気に増えた。


  ――そして、さらに世界を震撼させる出来事が舞い込み、騎士団同士の争いに火種その物が大きくなった。



 『――我が国に、騎士団を所有したい』


 どこぞの裕福な軍事国家が、防衛設備だけでは飽き足らず騎士団と言う対異形部隊を造り出す始末。

 それを期に、各国でもより知名度や戦力を誇る騎士団を国の専属部隊とし雇う依頼が増えた。

 その為、国が求めてる戦力基準に達していない少数騎士団に議会や連盟からの依頼や、人々の個人的な依頼が殺到した。

 団長が不在である黒焔も、ある程度の戦力を持っている事から依頼や防衛部隊に押したいなどの各国からの要請が止まない。


 最もな原因は、鴉達異形種の活発化によって各国の連携は途切れ、自国を守る事を優先してしまった事が主な要因だ。

 約半数以上の騎士団は、国の特殊部隊へと様変わりし異形種関係の依頼はある程度の戦力を持たない少数騎士団に回される。

 少数騎士団では、手が回らない事案は放置され事態は悪化する一方。

 四大陸の連携は崩れ、鴉の封印から解放され増えた都市国家や集落の増加によって、防衛設備や騎士団の手は足りなくなった。



 「で……。俺達()()()()騎士様に依頼か、ボーイ?」

 依頼者の身分が低いと分かると、騎士は態度を変えお金を持った子供を見下ろす。

 「お願いします…騎士様…。村の皆守って下さい。もうすぐ異形が僕達の村に……」

 服には泥や土汚れが目立ち、袋から取り出した金銭は数える程度。

 騎士達は、床に金を撒き散らし子供を一蹴りする。

 「んな安い依頼金で動くかよ。村を救ってもなんの得にもならん。帰れ」

 「そんな!どうかお願いします。村の仲間達を助けて下さいッ!」

 本来なら、大きな騎士団が常駐し大小構わず依頼を請け負う騎士団が存在していても、それはかつての話。

 今では、力を持った無法者達の溜まり場や住みかと成り果て、依頼を頼みに来た者達を狙っては高値で請け負う。

 底辺達が集まり、国や小規模都市の治安はさらに不安定となり果てた。






 現在、大和に新設された騎士団を統括する大和支部では、議会や連盟の依頼に加えて、大小構わず依頼を請け負う事を目的とした新たな支部が生まれた。

 ラックを支部長に、大和を中心に邪馬国の騎士団を全て完全に掌握し纏め上げたラックの前に、邪馬国の国王とその娘が鎮座していた。

 邪馬国国王と娘の『邪馬 緋音(やま ひいね)』の正面に、黒焔の代表である未来と側近として名乗りを上げた2人の騎士が睨みを効かせる中で話は進む。


 「ねー……。共子もナドネも、もう少し魔力を抑えて……国王陛下だよ。それも……邪馬台国とシャルデーナ皇国の皇后もいらっしゃるデスヨ……」

 2国の国王を前に、固まり変な言葉を発する未来を置いて、共子とナドネの2人は2国の王を前にしても依然として睨みを効かせる。

 「うーん?……多分だけど、共子ちゃんもナドネちゃんも未来ちゃんが陛下達よりも上だと思ってる?」


 「「――はい」」


 2人の息の合った返事に未来は項垂れる。

 元々、交流が深い邪馬国の王に比べて、皇国の皇后両陛下とは面識は無い。

 黒でさえも、面識が無い2人を前に共子とナドネは未来中心思想に取りつかれている。

 そんな未来を気遣ってか、邪馬国の国王とラックは自然な話題で未来と皇后両陛下の中を取り計らった。

 何気ない話のお陰か、未来は皇后両陛下と自然と話に混ざる事が叶い、緊張が解れた。


 「さて、肝心の要件だが…。まずここに集まって頂いたのは他でもありません。我が国『邪馬国』と『シャルデーナ皇国』の()()()()を築きたい」

 邪馬国現国王からの提案に、皇国の皇王が驚く中でラックは笑みを浮かべている。

 このご時世で、他国と共存共栄を志す者は頭がイカれてると思われるだろう。

 他国の為に、膨大な防衛設備を貸し与え共有するなどの考えをするとは、思っても見ないだろう。

 自国を守ることで手一杯な他国の国王とは違い、邪馬国の国王は――自国の防衛よりも他国との関係維持に力を入れた。

 対して、シャルデーナ皇国は他国に比べて防衛設備は整っていない。

 この話を受けるのは、有益以外に他ならない。


 「……邪馬国の王よ。なぜ、我々なのだ?他にも、我が皇国よりも勝る軍事力を持つ国はある筈だ。あなた方損するだけではないか?」

 「それで良いのです。損得の話よりも、他国と協力する事が大事なのです。多くの民達が暗い世界を見て、不安で仕方がないでしょう。だからこそ、シャルデーナ皇国が持つ魔導師の力と我が国の騎士団が力を合わせる必要があるのです」

 邪馬国の国王はシャルデーナ皇国の皇王の手を握り、協力関係を持ち出す。

 無論、シャルデーナの皇后は二つ返事で良好な関係を持つことを決める。


 「あー……。何か話がまとまったみたいで良かったんですけど、自分と黒焔からの話も良いでしょうか?」

 ラックがリラックスした表情で、現状解決しなければならない事案を提示する。

 『黒竜帝の不在』『雷帝の不在』『多くの騎士団の不在』『増え続ける異形の出現報告』それらをまとめて、最も必要で優先的に解決しなければならない問題を告げる。


 「正直、シャルデーナ皇国と手を組んだのは騎士団の不在を解決する為に必要だからです。そして、皇帝の除籍処分も後回しで……。早期解決が最も必要なのは、異形の対処です」

 ラックは三千年前の人間であり、鴉との戦いで既に敗れ死の間際まで一時期陥った。

 何とか命を取り留めたラックは、自分の魔物の力で三千年の時間を越え鴉達の戦いを止めるために力をこの世界に集めることを決めた。


 「私の妻……。マルグス・ネルベスティの元に集った異族達と共に、三千年の時間を越えて世界を守ることを決めた。……僕が時間を越え、橘の当主にして初代黒焔の団員だった『橘空』を含めた仲間の協力で、3人の時間を越えた――」

 ラックの壮大な話に、5人は目を回すが一つだけ言える事があった。

 未来は胸に手を当て、自分が所属する騎士団の重さを実感する。

 「僕はこの肉体で時間を越え、空は時間を越える際の負荷に耐えれないと知り、一旦魔法で肉体を保護して時間を越えた。意識が戻らず…黒君経由で意識を強制的に回復させた時は驚いたけどね……脱線しちゃったね。まず、シャルデーナと邪馬の力である鬼人を探して欲しいんです」

 ラックが一呼吸付き、その人物の名を告げる。


 「なぜかこの世界に存在しないにも関わらず、名だけが継承され続けている、閻魔……『閻魔大神(えんまのおおかみ)』の所在を知りたい。彼の力が無ければ、次に鴉達と同等の力が一斉に攻めてきたら、現在の席が少なくなった12の皇帝トゥエルブ・エンペラーだけでは、対処しきれない可能性がある」

 「鬼人ならば、ウタカタさんや暁さんの出身地を辿れば……掴めるんじゃないですか?」

 邪馬国国王の娘である緋音がラックに尋ねるが、ラックは首を横に振る。

 「暁君にも、ウタカタさんにも聞いたけど……閻魔の称号は代々継いでる物らしく。暁君の出身地では、閻魔は鬼人族の祖先としか聞いてないらしい」

 「ホントに実在するのですか?その、鬼人の神とやらは?」

 シャルデーナの皇王が尋ねると、ラックは実在する胸を告げる。

 三千年もの時を越え、多くの文献や情報を探った際に記憶が改竄され十王の情報がほとんど消されていたが、確実に『鬼王』と呼ばれる鬼の王が存在した。

 そして、何より黒の持っていた神器が証拠となっていた。


 「十王の一人に数えられているのは不可解だけど、黒君が持っていた神器【黒幻刀】は元々空の神器であり……()()()()が造り出した一振り何だ」

 空がこの戦いのために頼んだ神器が空の手に渡る前に、三千年の時を越えて黒の手に渡っていた。

 未来が腰に下げた真っ黒な刀を見て、ラックは考え込む。


 「であれば、人相などは分かるか?邪馬国の情報部隊に探させよう 」

 「シャルデーナも協力は惜しまない…。だが、力になれるかは分からない」

 「その気持ちだけで、十分です。閻魔の捜索はお任せするとして、シャルデーナ皇国の皇王には…ある人物を国の防衛の要として呼び戻して頂きたい。その者の名は――」

 「――俺か?いや、必要なのは俺達の力か?」


 突如開かれた扉を潜ったのは、タバコを咥えてボサボサになった髪型を軽く整える男がいた。

 「話が早くて助かりましたよ。――()()()()()()()()()()久隆 禅(くりゅう ぜん)』さん」

 「てわけで、陛下の前で無礼かもしれんが……。俺達警備会社の者に、皇国の警備は任せて貰って良いか?」

 「構わないが……前任の警備責任者と話をしないと」

 皇国の警備責任者に就任した久隆を見て、国王達は一旦話を終える。


 「大和の支部長殿。少し話を良いか?」

 邪馬国の国王が呼び止めたのは、気だるそうに部屋を退出したラックであった。

 「皇国の警備を久隆殿に任せるのは良い案だが、それで、騎士団の不在が解消されるのか?」

 不安げな国王を前に、ラックは肩を竦める。

 「僕の知る久隆と言う男が、噂通りなら……シャルデーナの警備は万全となり、皇国近辺の集落や都市を起点に警備拠点を築くと思います。それで、異形や不正に金品を集める騎士達も同時に潰すと思おます。そして、訓練とか何とか理由を付けて、部下に依頼を請け負わせれるだけ請け負って、荒稼ぎすると思います」

 ラックは笑みを浮かべ、その場を後にする。

 ラックの頭に浮かべた計画は、シャルデーナと邪馬で国との関係を強固にすると同時にこちらが扱えるカードに、久隆と言う男を確保する。

 現状は、連盟と議会の信用は落ちる一方であり、鴉の手によって操り人形となっていた元老院は騎士からも敵意を向けられている。

 このまま事態が悪化するとしたら、考えたくはない最悪の事態となり。

 連盟も議会も手に負えない、国同士での戦争と発展する可能性が高い。

 騎士団を自国の防衛の要として雇う市場が造り出され、国同士の戦力の奪い合いと発展する。

 いまだ発見されていない隠された神器や古代兵器などを求めた奪い合いが起こり、国その物が敵となる。


 「皇帝と言う力の象徴でさえも、歯が立たない敵を前に……連盟と議会の抑止力は皆無となり。人々は身を守る事に固執する」

 ラックは考えに耽りながら、通路を進むと大慌てで人を探す茜の姿が見えた。

 「ん?……何かあった?」

 ラックが手を挙げるよりも先に、茜の魔物である爛陽竜(ルビア)がラックの胸ぐらを掴む。

 竜人族である彼女が魔物の力をプラスした脚力で通路を走り抜け、有無を言わさす翔の眠る地下へとひた走る。

 大扉は全開となり、メリアナと赭渕の心配な表情とは別に翔へと魔力を流す空はどこか嬉しそうだった。



 「なるほど……空ちゃんが翔を起こすと言って、聞かず。心配になって僕を連れてきたと……。風圧で両肩の位置が可笑しくなっちゃってるんたけど?」

 ラックの両肩が奇抜なファッション並みに変形している最中でも、空のは魔力を抑え気味で翔へと送る。

 「ラック。……黒くんが十五解禁の反動を無視した仕組みって分かった?」

 空の先程の笑顔とは別に、真剣な眼差しがラックへと向けられる。

 ラックは少し考え込むと、空の質問に答える。

 「多分だと思うけど、橘くんの場合は――未来さんの空庭で、魂と肉体が分かた事のより反動が2つに分散し、さらに人形を介して魂と肉体への負担がさらに激減した。そして、人形での生活の中で魔力を自身で回復し。人形と肉体、魂の3つへと徐々に分散し回復することで魔物へ渡した魔力分を回復したと思う……。僕の考えはこんなところ」

 それを聞いた空は笑みを浮かべる。


 「赭渕さん、メリアナさん。私はまだ魔力を自力で回復出来てないから…。代わりに2人で話にあった、魔力回復の中間点の人形と魂の役割を担って……」

 空はそれだけ言い残すと、糸が途切れた様に後ろへと倒れる。

 駆け寄った碧が受け止めると、その身体は汗で濡れていた。

 関わりも無ければ、初対面でもある筈の者達の為に身を犠牲にしてまで尽くそうとした空を見て、赭渕は翔へと魔力を流す。


 (魔物が魔力を取ったから、自力で回復するのに相当な時間を要する。なら、私が翔の分まで魔力を与えれば――)


 赭渕とメリアナが魔力を与えると、翔の左腕の義手モデル神器が黄色く発光する。

 それを見たメリアナは、手を下ろし赭渕だけに翔を任せる。

 次第に赭渕の魔力が翔の身体へと行き渡り、神器に魔力が灯る。


 凄まじい雷光が部屋を満たし、神器が強い光を放つ。

 すると、翔の身体から魔物である建御雷神(タケミカヅチ)と思われる雷神が姿を顕現させる。

 魔力体と思われるその姿は、金色の雷であるが所々は透けて今にも消えそうであった。

 『汝らのご助力感謝する。我が主の魔力も回復してきた。しかし、依然として意識は戻らない。それは、精神的な物だと思う』

 現れた雷神が直ぐにボロボロになり、魔力の粒へと変わる。

 『心配はするな。これは主の言葉……また……内…戦…』

 最後まで雷神は何かを伝えようとはしていたが、そんなことはどうでも良いと赭渕は両頬を強く叩く。

 「翔が起きるまでに、私はこの世界を守る。折角起きて世界が目茶苦茶とか考えれないからね。……碧ちゃん茜ちゃん。翔をお願い」

 部屋を出た赭渕に続くように、メリアナが赭渕の隣へと駆け寄る。

 「んで、陽葵ちゃん。先ずは……どうするの?」

 赭渕の隣へと駆け寄ったメリアナが後ろに手を組んで、陽葵の顔を下から覗き込む。

 その表情は、嬉しさと涙で満たされていた。

 「……赭渕陽葵」

 メリアナが突然赭渕の名を呼び、赭渕の一歩手前で真剣な眼差しを向ける。

 その姿は、先程までのような年頃の女性らしくも元気いっぱいなメリアナではなく。

 12の皇帝と呼ばれた12人の頂点に立つに相応しいオーラと、凛々しい立ち姿であった。

 「陽葵ちゃんの言いたいことは、代々分かったつもりだよ。今の皇帝の中で、私が一番長い付き合いだからね」

 メリアナが陽葵へと手を差しのべ、腰に下げていた王冠を頭に乗せる。



 「――騎士団は既に散り散りとなり、戦力も国の大きさによってバラバラ。戦力が乏しい騎士団は孤立し、国の国境から離れた町や集落は異形達の恐怖に怯えている。ならば、我々のすべき事はただ一つッ!」

 「……分かってるよ。残りの騎士団を全て束ね、力を持たない都市や集落の保護。大小構わず騎士団への依頼を請け負う巨大な組織を造り、皇帝達と協力してすべての人々を私達の庇護下にする」

 メリアナが先頭に立ち、その後ろに赭渕が付いて歩く。

 どこか懐かしいような気持ちになったのは、メリアナだけでなく。

 赭渕もどこか、懐かしさを噛み締めるような笑みを浮かべ2人で笑い合う。

 どうしようもない程目立ちたがりな男と、力を見せ付ける事しか頭に無く無計画な男の2人を足せば―――メリアナと赭渕達だけの4人だけの皇帝が出来上がる。



 「皆には、私から連絡するよ。たまには……序列1位の力を見せて挙げないと」

 胸を張るメリアナと笑みを浮かべて赭渕の2人が、この世界を守ろうとした皇帝2人の意思を継いで、バラバラに崩壊する世界を繋ぎ止める一歩を踏み出す。







 暁とハート、天童の3人が本部へと戻ると、目の前で仁王立ちしている女子2人を前に暁とハートは身を強張らせる。


 「…暁。どこ行ってたの?」

 「ハートくんも、どこで油売ってたの?」

 こめかみに血管が浮き彫りになっていることから、相当お怒りだと見えるマギジとミシェーレを前に、曉は目線を反らす。

 「ハートちゃんが……」

 「言い訳はどうでも良いよ……。どうせ、天童が遊ぶに出たのに暁も便乗したんでしょ?」

 マギジの凄まじい眼光が正面で目線を反らし続ける暁を睨み続ける。

 「ハートくんも……。私に仕事を任して、何遊んでるの?良いご身分ですねー…」

 「いや、ミシェーレ…。別に遊んでた訳じゃ……」

 ミシェーレの砂鉄が今にもその場から逃げ出そうとしたハートを拘束し本部内へと引きずる。

 同じく、暁もマギジに頬をつねられたまま本部内へと入っていく。



 「……はぁ…。薄々感付いてても、別に可笑しくはねーよな。風式(ふうしき)、ユタカタ、氣志真(きしま)…。翔の容態はどうだ?」

 「……だめ…起きない…。……団長よりも…掛かる」

 「佐奈さんの言う通りです。魔力は一時的に安定しましたが、依然として意識だけは目覚めないそうです」

 マフラーで口元を隠し、エントランス前の階段に座り込む佐奈はどこか寂しさを醸し出していた。

 そんな佐奈を見て、ユタカタは側によりその身体を抱き締める。

 「橘の初代当主様が言う話でしたら、意識が目覚めても可笑しくはないらしいですよ」

 「橘の初代当主?誰だそいつ…」

 天童が首を傾げていると、天童の背後に音もなく忍び寄った者の殺気を感じ、反射的に拳を振り抜いた。

 凄まじい衝撃がエントランスに響き、驚いた天童は自分の振り抜いた拳を片手で止めた自分よりも小柄な女性を見下ろす。


 「ん……。すごい力だね、お姉さん驚いちゃったよ」

 「その割には、全く微動だにしていないな。ホントに驚いたのか?俺から見れば、気遣いにしかみえねーぞ?」

 拳を下ろした天童に、空はお返しとばかり拳を天童の顔に叩き込む。

 衝撃も音も何もなく、叩き込まれた天童だけが視界に一瞬だけ写った空の拳を目に焼き付ける。

 力の差があるないの話よりもまず、空が天童の顔に風を送っただけで天童は動かなくなった。

 少しの殺気と風で、天童の動きを完全に掌握した空の強さを前に天童は頬をつり上げていた。

 

 「改めまして…。ラックくんと同じく、時間を越えて三千年後の世界に降り立った。橘家初代当主にして、碧ちゃんと茜ちゃんの遠いお婆ちゃんに当たる……橘空ちゃんです。初代黒焔の団員にして、刀の達人です!」

 どや顔で胸を張る空の態度になぜか、天童はイラついてしまった。

 半ば八つ当たり気味の力で、天童は空の頭を無言で掴むと力一杯指で頭を押す。

 「ちょっ……止め。止めてーッ!無言でアイアンクローとか、痛すぎ…痛いって、いたたたたたたたた―――」

 涙目の空を前にしても、天童は一向に力を緩めず大輝とウタカタが止めに入った時には、既に空は泣いていた……。


 「……天童…。初代様泣かした……幼女…泣かした」

 「自分よりも背の低い子を、全員幼女って呼ぶなッ!佐奈ちゃんは背よりも()()()()()()()()――」

 佐奈の胸があまり恵まれてい無いことについて、空が口走ると天童に続いて佐奈のアイアンクローが空の頭を潰し、ミシミシと音を挙げる。

 「ちょっと、からかっただけでしょ。それなのにこの扱い…。もっと……年長者を労れ―――ッ!」

 悲痛な空の声が大空へと木霊する。





 天童が嗚咽混じりに涙を流す空を横目に、ユタカタと佐奈の3人で本部内部を歩く。

 先に用事があると一足先に出ていった大輝だが、それは、大泣きしている空を天童に押し付ける口実なのでは……と、天童は疑う。

 案の定、周囲からの目線は痛いほど天童に突き刺さる。

 初代当主だの初代黒焔団員とは言え、年齢は天童と大差無いかもしれない。

 流石に、どや顔で偉そうにしている空の態度にムカついたからと言って、泣かせるのは良くなかった。

 少々後悔気味の天童に、追い討ちとばかりに――橘の姉妹が4人の前に現れる。

 待ってましたと空は心の中でガッツポーズし、周囲の目も気にしなず泣きわめいた。


 「初代様、うるさいです」

 「空姉は、イタズラし過ぎだよ。天童さんもウタカタさんも困ってるよ」

 あまりにも予想外な反応に、空は膝から崩れ落ちる。

 「なるほど…。嘘泣きか、良い根性してんなー」

 両手の骨をゴキゴキ鳴らしながら、崩れ落ちた空を見下ろす天童が不気味な笑みを浮かべる。

 空の甲高い悲鳴が本部内に木霊し、ハートと暁がその悲鳴を耳にしている頃―――本部内の大会議室には、未来と未来の側を離れない2人の女性が立っていた。


 「共子…ナドネ……。少し離れよ…近過ぎる気がするんだけどー…」

 「気のせいです」

 「気のせいです」

 共子とナドネは満面の笑みで未来の側を決して離れない。

 端から見れば、親離れ出来ない子供の様にも捉えれるが、十二単将の役割を果たしていると捉える者も少ないながらも存在する。

 四天が最強の()()()()とすれば、十二単将は()()()()()()()

 攻守の存在がハッキリとした部隊の存在は、この先の戦いで大きな士気の変化に繋がる。


 ミシェーレに連れられてハートが、マギジに連れられて暁が大会議室へと入ると、共子とナドネの鋭い眼光が2人の身を強張らせる。



 「えーと…、ううん…。まず、今回2人に集まって貰ったのは――新しい団長に付いて話をしたくて――」

 「なら、もう決まってるんでしょ?」

 未来の話を遮るように、ハートが暁の肩を掴む。

 「翔が目覚めれば翔が団長に、十二単将が認めれば未来に、そのどちらも不可能な場合は――暁だ」

 「自分が入って無いよ?ハートちゃん。それに、僕が団長だなんて……皆を率いる資格なんて」

 暁が不安げな表情な中で、未来は手を叩く。


 「黒ちゃんだって『無責任だ』って言われても仕事を適当にこなして、皆に丸投げしてたでしょ?率いるってのは……心の支えになることだと思うの」

 未来が胸に手を当て、黒ならばこうするかな――っと考えてみる。

 暁もハートも、そんな未来の姿を見て、自然と互いに苦笑いを浮かべる。


 ――黒なら、『んなもん…。やりたい奴にやらせとけ、俺は勝手にやるだけだ。勝手にやって勝手に満足する……自己満足の塊だ』



 「僕が引き受けるよ。でも、僕は――黒ちゃんが帰ってくるまでの代理だよ?」

 「そんなの、知ってる。黒以外に任せたら、黒焔の『黒』要素が皆無になっちゃうよ」

 「確かに、黒ちゃんは絶対帰ってくる。それまで、私達は戦力の増強と平行しつつ各国の連携を強める活動を頑張ろうよ」

 暁の承諾と共にハートの軽いジョークが場の空気を変え、未来の考えた方針がまとまる。


 「なら、まずは貯まった依頼の消化作業を全団員に手伝って貰おうか、そして……他の騎士団に見せ付けるんだ。皇帝が不在であっても、黒焔は黒焔なりに、前を向くと」

 暁が立ち上がり、新団長の初命令が下される。



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