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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
五章 虚ろな夕闇の摩天楼
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五章二十三節 動き出す戦況 (下)


 前線を安定し始めた所で、銀隠とステラの魔法で造り出された壁に集まる騎士達。

 騎士の後方から、補給品を乗せた運搬車が続々と前線に集結し、大量の銀弾と銀弾に適した銃器が運ばれていく。

 様々な掛け声や物資の要求などが飛び交う前線が、一瞬にして静まり返った。



 「マギジと殺女は、壁に近付く奴らを任せる。リーラとステラはアリスと五右衛門の援護と補助だ。――正面のデカイのは俺が貰う」

 「マジかよ。大きいのは、俺が欲しかったけど……状況が状況だしな。冗談でもこっちに流すなよ?」

 「銀隠! 負けて、こっちに流したら許さないからね?」

 銀弾を再度装填し直した銀隠に、五右衛門とアリスが釘を指すように念を押す。

 カトラスを構えるアリスと白無垢を構えた五右衛門が、銀隠の道を切り開く。

 真っ白な白装束に身を包んだ隊士が前線に向けて、一斉に駆け出す。

 アリスの号令で動きを変え、砲門から放たれる砲撃が激しさと頻度が増し、アリスの残存魔力が秒で消えていく。

 アリスよりかは未だ魔力の量では勝る五右衛門も、魔物を展開させた状態での戦闘は体力の消耗が激しい。

 ステラとリーラの援護はあるものの、この状況でさらに異形と隊士が現れたら、手に負えない。

 前線から離れた前方では、とてつもない強風と銀弾が迫り来る大型異形種数体を一瞬にして、灰に帰す。

 地面に足を付けず幾度も空中を蹴り、異形の一部を蹴り空を飛び跳ねながら大型異形種を相手取る。

 腰や懐に携帯していた銀弾入りの弾倉が無くなり、銀隠は指を鳴らし拠点に置かれていた弾倉と数個の銃を空に挙げる。

 身を翻し、飛び上がった銃を手に取り、異形に向け銀弾を浴びせる。

 銀弾が無くなれば、風魔法で異形を吹き飛ばし、代わりの銃と銀弾が補充されるまでの間を稼ぐ。

 始めに比べて、異形の数が多くなり侵攻スピードが比べ物にならない程増し始める。

 騎士や志願兵も絶えず銃の引き金を引き続ける。

 終わりの見えない作業の様な物だが、彼らとて一瞬の油断は許されない。

 第一前線の死を無駄にしないためにも、彼らは指から血を流しながら異形の止まない攻撃に晒されながら前線を守り続ける。



 「聖剣(エクスカリバー)――ッ!」


 遥か後方から光の斬撃が前線拠点の頭上を掠め、地面諸とも大型異形種を消し炭にする。

 上空から垂直に落下したハートは、地面に両刃剣を突き刺し光の魔力を地面に流し込む。

 亀裂が生じた地面が捲れ上がり、異形の足元から光の刃が発生し、異形を足元から切り崩す。

 「銀隠ッ! 大型異形種は、私も加わる。黒の予想通り……元老院の主力部隊が出てきた」

 空へと舞い上がった銀隠は、目を凝らし遠くから前線へと向かう集団に舌打ちする。

 その理由としては、現在の戦力だけで前線を守りながら敵を退かせる事が難しいからであった。

 「黒団長の判断は? 本部に残ってる奴でも来るか?」

 「黒の判断として、防衛に回ったのは……私とミシェーレだ。残りの数名だけで、隊士と敵の主力と当たる」

 異形を凪払いながらも、銀隠とハートは余裕な表情で話を続ける。

 しかし、2人とも顔には出ていないが、内心不安で仕方なかった。







 「佐奈とアルフレッタは左翼から、ユタカタと大輝は右翼だ。紅と綾見とロークで、正面の敵を退かせる。各員…防衛側に回ったハートとミシェーレに敵を向かわせるなッ! ここで、食い止めろッ!」


 黒の号令と共に、一斉に走り出した騎士が前線拠点を通過し、ハート達の間を一瞬で抜ける。

 佐奈のすれ違い様に両手に持ったナイフで異形を瞬時に切り付け、佐奈の後ろを着いて進むアルフレッタが佐奈の手際の良さに驚く。

 異形種の全てに、強度の差はあれど魔力と物理に対する装甲の様なものが存在する。

 破壊するには、銀弾や神器などの武装を用いて装甲を破壊するか装甲諸とも異形を倒すのが一般的だが、上級騎士の中には魔法や物理攻撃で装甲の耐久以上の力で捩じ伏せる事が出来る。

 銀弾でも1発で仕留めれる者は相当な手練れと言われているが、力で圧倒するには、それ以上の力が求められる。

 先程のすれ違い様の行動もドライバではなく、ただのナイフを巧みに操り少量の魔力を刃に乗せただけの攻撃。

 消費魔力を少なく抑えつつ、的確に異形を倒していく佐奈の背中を見詰めるアルフレッタも負けじと、炎を異形に放つ――。



 大輝の全身に巡った魔力が、獣染みた大輝の容姿をさらに獣へと近付ける。

 黄金色の毛並みは、続けざまに葬った異形の灰によって所々が灰色に染まっている。

 既に両腕は灰によって汚れ、魔物の力を使い続けた事で獣の持つ獰猛さが大輝の心を染める。

 鬼人族にも勝るとも劣らない身体能力と反射神経で、大輝の周囲囲む異形が行き着く暇もなく蹂躙される。

 たった一人の騎士に遅れを取る異形に、人型(ハンター)が我慢仕切れず一斉に飛び掛かる。

 大輝の左足が、あまりの力の強さに地面に沈み、地面を吹き飛ばして放たれた蹴りが飛び掛かった異形の身体を真っ二つに引き裂く。

 十二単将である『アッシュ』の救出作戦で、人知れず自分の力の限界を越え、八解禁と言う未だ誰も到達していない領域に一足踏み込んだ大輝。

 隣で大輝に寄り添うユタカタは、その怖いまでに暗くなった表情に、ユタカタは目を反らす。

 たまにズレたり、見た目も敬語に合わせて決めていても、内に眠る獣の様な雰囲気や感情は隠す事は出来ない。

 気を抜けば、雪崩れ込んでくる感情と殺意は大輝を呑み込み獣へと変貌させる。

 改竄された記憶がほぼ無くなったユタカタは、大輝の心が心配でならなかった。



 紅を先頭に、ロークと綾見は不安そうな顔で紅の背中に着いていく。

 馬を走らせて敵の姿があまり見えないとは言え、油断しきった雰囲気で途中から彼女からは鼻唄を口ずさんでいると思われる音色が聞こえる。

 物凄く不安を感じた二人ではあるが、魔力感知を習慣付いていない2人だからこそ、紅の余裕な表情に不安を抱くが3人の進む遥か前方では紅の魔力が宿った水流が既に前方の異形を呑み込んでいた。

 竜の形を成した水流が地盤を削りながら、異形を削り取る。

 1つの灰も残さずに水流は異形を蹴散らし、残るのは異形を呑み込んだ際に削られた地面の跡だけであった。

 そんな事をいざ知らず、ロークと綾見は手綱を握り締めたまま馬を走らせる。

 大勢の隊士が隊列を成して、右翼、左翼、正面を突き進む三ヶ所を数の暴力で一掃しようと進む。

 馬の背から飛び降りた紅に続き、ロークと綾見が拳に魔力を巡らせる。

 土埃と轟音が戦場に響き、隊士の軍勢が轟音と共に宙を舞う。

 正面では、先程まで先見隊を蹴散らした水とは明らかに比較にならない激流が隊士目掛けて押し寄せる。

 獣魔法によって人間の限界を超越した動きで、ロークは戦場を駆け巡る。

 獣の咆哮が隊士の鼓膜を振るわし、ローク自身を鼓舞させた咆哮によって生じた衝撃波は隊士を地盤ごと吹き飛ばす。

 青白い炎が地面を滑り、足下から隊士を焼き払っていく。

 綾見の蒼炎魔法を前に、大型異形種も単なる標的でしかなかった。

 息つく暇もなく押し寄せる異形の数に、ロークと綾見は焦りを抱く。

 自分達は、この量を相手取るのに精一杯である。

 もしかしたら、数体ウチ漏らしている可能性があるのではと、当然の如く数体もの異形と隊士を逃していた。

 2人合わせて、約30は下らない数の敵を逃した2人はさらに焦り、目の前の敵の動きを目で捕らえてすらいなかった。

 そんな隙だらけの2人を嘲笑うかのように隊士の軍勢が2人の間を突破する。

 紅が加勢しようと後退するが、隊士と異形によって道が閉ざされ、綾見達を突破した敵勢力が一気に前線拠点へと雪崩れ込む。

 自分の落ち度だと今さら後悔しても遅いとは分かっているが、綾見とロークは手を伸ばし、敵の背中にしがみ付こうともがく。


 「―――前を…見ろォッ!」


 空高くから声が聞こえ、凄まじい数の落雷が雷の雨となって雪崩れ込んだ敵を一人残らず消し去る。

 「前だけを見ろ! 万が一とかどうでも良い。逃したら逃しただ!――後ろの仲間を信じろ」

 上空から滑空してきた翔が、後方で奮闘するリーラ、ステラ、殺女、マギジ、銀隠、五右衛門、アリスを指差す。

 微かにしか見えない姿ではあるが、自分達の背中にはまだ仲間の姿があると思うと2人は身体の奥底から力が沸いてくるのを感じる。

 綾見とロークの背中を狙った数体の大型異形種を二人の拳が放った風圧で異形種が仰け反る。


 「行くぞ、綾見――ッ!」

 「あぁ、ローク――ッ!」


 膨大な魔力の塊が2人の拳から放たれ、巨大な砲弾となって異形種を消し飛ばす。

 翔が紅達の方へと加勢した事で、戦況はさらに有利となる。

 既に、隊士の数は始めに比べて激減したものの、わらわらと出現し続ける異形種に佐奈とアルフレッタは苛立ちを隠せずにいた。

 アルフレッタの背後から出現した炎神が炎で異形を凪払いつつ、左翼と右翼の両側から、殲滅される敵勢力を見詰める。

 そして、妙な違和感を覚え始める。


 (おかしい……。この戦況ならば、そろそろ元老院が持つ帝王を切って来てもおかしくない。だか、なぜ未だ大量の異形のみなんだ?)

 アルフレッタが胸騒ぎと違和感に耐えれず、炎を地面にむけ噴射し、遥か上空へと昇る。

 ただならぬ、違和感と胸騒ぎの正体はアルフレッタの予想を遥かに上回るものであった。





 「――本陣よりも、さらに後方に…敵勢力確認ッ!奴らの目的は、最初から俺たち、騎士何かじゃない!」

 アルフレッタの言葉に反応し、全員が後方を向き魔力感知を得意とする者達が大慌てで感知する。

 すると、大和近くの上空から空間の亀裂と共に大量の異形種と隊士が姿を現す。

 悲鳴にも似た声が拠点から上がり、翔と紅が大和へと向かおうと振り返るよりも先に、綾見とロークが地面を蹴り、大気を蹴り続け大和へと最短距離を進む。

 翔が二人を呼び止めるよりも先に、上空から降り立った黒が黒幻でシエラの死酷刀を受け止める。

 翔の魔力感知をくぐり抜け、一瞬の隙を着いたシエラの一太刀を受け止める黒。

 「翔ッ!目の前の敵に集中しろ! 前線拠点に、じい様とブェイを向かわせた。今は、目の前のコイツらに集中しろ!でねーと、前線所か騎士が一気に崩れるぞッ!」

 目の前の敵が空間から現れ、前線拠点と翔達の居る前線に敵勢力が集中する。


 「橘君に富士宮君……残念だけど…帝王の席………空いちゃうね?」

 踏み込むシエラと同時に踏み込んだ黒が、シエラの太刀を黒幻で受け止める。

 両者一歩も引かない互角な戦いを前に、翔は我を忘れている。

 「翔ッ!異形と隊士をここで、少しでも食い止めろ!銀隠と五右衛門の元に向かわせるな!」

 黒の言葉に我に帰った翔が両足に魔力を巡らせ、音速を越えた速度で横切った異形達を叩き上げる。

 「そっちは、任せたぞッ!―――黒ッ!」

 笑みを浮かべる黒に、シエラは眉を潜め死酷刀を握る手に力を入れ、黒の速度を上回る速さで太刀を振る。

 この前のリベンジを兼ねてか、シエラは前回に比べて黒への警戒を強め、油断を捨てた姿勢で黒と対峙する。

 華奢な女性が持てる訳もない、巨大な太刀をまるで自身の手足のように巧みに操り、黒の黒幻と火花を散らす。

 黒の本領と言える泉家の抜刀術を封じるように、黒から一定の距離を離さずに彼女は太刀を振るう。

 甲高い金属音が辺りに響き、二人の皇帝の戦いに水を指そうとする隊士も異形も存在しない。

 全く息を切らせずに、常人の息を凌駕した二人。

 魔力を全身に巡らし、魔法を使う隙すら存在しない戦いはもはや異質とまで言える。

 神器と神器、刃と刃、皇帝と皇帝の互角な戦いは熾烈を極めた。


 

 一瞬の油断が命取り、手を滴り落ちる汗が両者の剣先に弾かれる。

 たったの数分の間の戦いが、数十時間にも及ぶ感覚に2人は同時に刀を下ろす。

 黒の背後からは漆黒の竜が顕現し、シエラの背後からは純白な胴体に真っ赤な瞳をした人型の魔物が姿を顕現させる。

 軽く両腕を突き出し、空気を叩く音で黒と黒竜を威嚇する。

 ムエタイの様な戦闘スタイルでもありそうな真っ白な魔物が、黒に向けて手招きする。


 「――走れ【白兵(ウォーカー)】」


 胴体同様に真っ白な髪が、一瞬にして真っ赤に染まり、地面に一瞬で亀裂を生じたさせた脚力から放たれる蹴りが、黒竜の漆黒の鱗を粉砕する。

 鋭利な爪を軽々と躱わした白兵が、黒竜の腕を脚で受け止め吹き飛ばされる力を利用し、後方へと距離を取る。

 真っ赤な瞳が真っ青へと変化させ黒竜の放った火球を、パスを受けたかのように受け止め、ボールの様に操り黒竜へと投げ返す。

 投げ付けた火球に身を隠し、黒竜に向けて距離を縮めた白兵が今度は、緑色の瞳に変わると黒竜の身体は空高く放り投げられていた。

 黒竜が地面に着地すると、凄まじい風圧によって発生した砂埃が視界を奪う。

 「黒竜……本体だと、魔力を浪費するでそれと、動きの速い奴にはデカイ図体だと不利だ。……魔力体で相手しろ、相手が近接ならこっちも近接だ」

 『なるほど……。本体で戦うとなると、奴の速度に付いて行けない。魔力で戦うよりかは、物理だな』

 巨大な黒竜の全身に真っ黒な水が覆い被さり、黒竜の身体を少女の身体へと変化させる。

 抱き締めていたクマのぬいぐるみを持ち上げ、その場でターンを始める黒竜に、白兵が痺れを切らし突撃する。

 「むん…?我慢の足らん奴じゃのう」

 まるでヌンチャクのようにぬいぐるみを扱う黒竜が白兵の右脇腹と左足、右頬と左肩をほぼ同時にぬいぐるみで叩く。

 黒竜の魔力で造り出されたぬいぐるみであるため、形も固さも自由自在。

 しかし、黒竜はわざとぬいぐるみの質を鋼並みに変化させず、綿の材質のまま白兵を叩く。


 「白兵……一旦…距離を取って…」

 しかし、宿主であるシエラの命令に一切見向きもせず白兵は真っ赤な瞳を輝かせる。

 怒りからなのか、髪の毛が一瞬で立ち上がり地面を蹴り挙げた左足が、魔力体である黒竜の整った顔に蹴りを叩き付ける。

 目前に迫る脚に黒竜は、ため息を溢し青く色を変えた瞳が白兵の動きを凝視する。

 ぬいぐるみを白兵の脚に投げ付け、ぬいぐるみが蹴りの威力に身体が弾ける。

 透かさず弾け飛んだ綿が鎖へと変化し、白兵を捕らえる。

 「相手が常に、自分と同じ領域(フィールド)で戦うと思うな。むーん…」

 両腕と両足を重点的に捕縛された白兵が、拘束を解こうともがく。

 死酷刀を構え、魔力を巡らした脚力で一気に距離を縮めたシエラが黒の心臓目掛けて太刀の刃先を突き出す。

 空気を切る音が聞こえ、黒の羽織っていた黒焔の羽織が切り裂かれる。

 太刀で体勢が崩れた黒を叩ききろうと振り払うシエラだが、黒幻の刀身で太刀が流され、無防備となった脇腹に黒の魔力が打ち込まれる。



 ――ゲホ――ッ!


 激しい一瞬の痛みと、ジリジリと後に来る魔力の余波がシエラの身体全体に響く。

 「ただでさえ、人間と竜人では力の差がある。そして、華奢な女と男ではさらに、力の差は広がる」

 咳き込み、脇腹を押さえるシエラとシエラの集中が切れ、白兵がシエラの体内へと戻った事を確認した黒。

 黒幻の刃先を突き付け、シエラの顔を無理矢理挙げさせる。



 「橘君は…何か勘違いをしてる。私は…人族じゃない………()()()()()

 次の瞬間、シエラの背中から真っ白な妖精族の特徴である妖精の羽が姿を現し、シエラの背中から姿を現した白兵が黒幻で咄嗟に防御した黒を空高く蹴り飛ばす。

 「竜人が『魔物(ギフト)』鬼人が『力』人族が『科学力』ならば……妖精は何だと…思う?」

 太刀を片手で軽々と持ち上げ、打ち上げられた黒に刃先を向ける。


 「正解は………『自然』」

 太刀を真横に一閃すると、大気が勢い良く逆流し黒の周囲から酸素を蒸発させる。

 地面へと落下した黒を襲う強制的な真空状態は、流石の竜人ももがき苦しむ。

 さらに、二回程空気を切り、黒の周囲から魔力と重力を奪う。

 魔力も存在しなくなり、黒の体内から漏れ出た魔力はたちまち蒸発し、魔法すら発動出来ない。

 重力を奪われ、無重力となり地面にすら足が付かず空宙でもがくしかない黒は無力であった。

 (まさか……ッ!シエラが人間じゃなく、異族だったとは……人間らしくない力だけど…そう言う流派とか力だと思ってた……)

 『むん。不覚にも、形勢は逆転したのう……。鬼、力を貸せ』

 『少々……黒竜殿から命令されるのは、癪に触るが…。そうも言ってられぬ状況だしのう――ッ!』

 黒の両目か真っ赤に染まり、振り払った両腕が真空状態を弾き飛ばす。

 魔力無しの鬼人族特有の力任せな動きに、シエラは驚く。


 「――ゲホッ!ゴホッ!さーて、第2ラウンドと行きますかッ!」

 黒が黒幻から、血燐へと神器を持ち変え、シエラの死酷刀と刃を再度交える。

 鬼人族の里を訪れた際に見られた刀身に血液の様に走った現象は見られないが、黒は久々な鬼極の力を通してその予感は確証へと変わる。

 「鬼極…七解禁使えんだろ?今は、黒竜の力よりもお前が頼りだからな」

 『頼んだぞー』

 『何と!あの黒竜殿が、儂の力を認めるとは……俄然やる気が沸いてくるぜッ!心行くまで、堪能成されよッ…主殿ッ!』

 黒の額に現れた角と少し伸びた犬歯が、黒の驚愕な変化を象徴させる。

 「シエラ、覚悟しろよ? この戦いは、ケリが付くまで終わらないし。終わらせる気も俺は微塵も無い」

 「それは……私も同じ…だよ。橘君」

 両者が構え、魔力を全身に巡らし一時の静寂が二人の間を流れる。



 「…ここから先は、手加減無しだ―――ッ!」

 「ここで……君を倒す」

 両者同時に踏み込み、一瞬で間合いを詰め、常人の域を越えた戦闘が始まる。



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