五章二十一節 繋がる想い
数週間だけの休暇ではあったが、まるで数ヶ月もの間が空いたような感覚にも思える。
ロークは目的である『黒焔騎士団』の本部へと向かう。
近々始まる大規模作戦に向けて、様々な所から物質が搬入されている。
現状を簡単に説明すれば、大和に駐在していた『騎士団』とその騎士団の1つである黒焔と現元老院が火花を散らしている。
何の意図があってかは知らないが、奴等は障害となり得ると感じた要素を消すために多くの人や種族を跨いでの記憶を改竄し、世界を我が物としようと動きだした。
2年前に一度黒と衝突し、なぜか劣勢だった黒焔を見逃し2年と言う猶予を与え、再度黒焔と対峙した。
普通であれば、力を失った黒焔を直ぐに倒しに掛かればそこで元老院の勝利となっていた。
――まるで、何かを待っていたかのような行動に意味が分からない。
旧黒焔であった暁達反逆者の記憶を改竄し黒焔と敵対させ、偽りの記憶で『天城 未来』の死を偽装し、暁に未来を殺されたと錯覚させ黒の暴走を促した。
だが、記憶の改竄には矛盾点が存在した。
『黒が殺した未来』『暁が殺した未来』実際は、未来は生存し黒が死んだ。
死んだと言っても、仮死状態との事であった。
多くの記憶を改竄し、新たな記憶に書き換えると言ったこれまた手間の掛かることをする理由が分からない。
初めから、黒や騎士団の記憶を抹消することで、自分達の障害は消え、今すぐにでも世界を手中に納める事など造作も無いだろう。
計画を阻もうとする脅威その物が、自分達の存在を忘れただの民間人と成り下がるのだから――。
多くの疑問点がある中で、黒率いる騎士団は大和で用意出来得る物資と設備を持って、元老院との戦いに終止符を付ける事を決めた。
この休暇中に分かった事ではあるが、どうも大和以外の騎士団や騎士は何も無いかのように、普段と変わらない平和な生活を送っている。
反逆者と報道されていた暁と黒焔との戦闘であれほど騒がれていた事実も、まるで最初から無かった様に静穏な日々が訪れている。
大和に住まう者達だけが、恐怖と不安の中で生活しているのが馬鹿らしく感じる。
長距離移動によって体力が尽きたのか、ロークはバス内で眠ってしまう。
バスがトンネルを抜け、窓から差し込む朝日によってロークは目を覚ます。
バスを降り、支部へと向かう道を静かに歩く。
多くのコンテナや搬入されてくる木箱が、山積みとなった本部前には本部職員が慌ただしく動いていた。
搬入された物資と名簿を照らし合わせ、直ぐ様倉庫へと物資を運ぶ。
武装した見慣れない騎士は、きっと大和に駐在していた騎士団だろう。
アーマージャケットとプロテクターで全身を固めている騎士達が、列を成して本部の外周を回る。
事務職の者達と物資搬入の邪魔になら無いように、外周を走り続ける。
そこで、見知った顔を見つけ声をかける為に、数歩前へと進む。
「――おい。ここは民間人立ち入り禁止だぞ!」
ロークの肩が後ろへと勢い良く引かれ、ロークは倒れそうな姿勢のまま数歩後ろへ戻る。
数名の男達は皆それぞれのサイズに適したアーマージャケットを着用し、首や頬が汗で湿っていた。
「悪いが、子供が生半可な気持ちで出入りして良い場所じゃない。とっとと失せな」
男が伸ばした腕をロークは払いのけ、体の捻りを利用して男の首に蹴りを入れる。
プロテクターとアーマージャケットの装甲からカン高い音と壊れた装甲の破片が辺りに散らばる。
白目を向いたまま崩れ落ちるように膝を突いた仲間を見て、男達が腰に携帯していた小型の棍棒を振りかざし、ローク目掛けて振り下ろす。
獣魔法で常人の域を遥かに超越した動体視力が可能にした、目にも止まらぬ速さで繰り出された殴打。
男達のアーマーを吹き飛ばし、プロテクターで守られていた肌を露出させる。
凄まじい轟音が辺りに響き渡り、作業をしていた者達はその手を止めて、音の原因に目を向ける。
散らばった破片を踏みつけ、ロークは静かに目線の先に待つ者の元へと向かう。
倒れた騎士の元へ、医療部隊の隊員が駆け寄る。
「――丸くなってると思ったのに、何も変わってないんですね」
黒焔のローブを纏った女性が、手に持っていた端末を部下に押し付ける。
「ただの休暇だぜ? 休み貰っただけで大袈裟過ぎなんだよ。相棒はどうしてる? ワヒートとイチャイチャしてんのか?」
ロークがローブを受け取り、直ぐに羽織り、女性の後ろを着いて歩く。
二人が早足になると、大勢の騎士で込み合っていた通路が混んでいるのにも関わらず。
二人の覇気に圧倒され、道を譲る。
書類を持たされ、雑用紛いな事を強いられていた志願兵の青年が上官に訪ねる。
「――なぁ…あの人達何者なんだ? 趣味悪い黒一色のローブに、年上の上官を顎で使うあの女も――」
「お前みたいバカな志願兵でも、ここ居れば自然と分かるだろうと思ってたが……アイツらは、特別何だよ。今じゃー……俺らの上官が女だ」
女性は、華麗にターンをし来た筈の道を戻り横の通路へと進む。
「……ま、少しおちょこちょいらしいがな」
書類と箱の山を通り抜け、本部内で最も立ち入りが制限されている『大会議室』の前で二人は足を止める。
ゆっくりと開かれた扉の先では、暁と天童がホワイトボードの前で敵の行動予想に着いて、作戦を練っているのが目に入る。
アルフレッタと大輝が地図と名簿を広げ、ユタカタが用意したお茶を片手にアリスと五右衛門で配置する手筈の騎士をリストアップしていた。
笹草と紅が溜め息を溢し、翔とハートの二人に挟まれて、全軍の指揮を取っている黒の目の前で膝をつく。
「戻ったか……ローク。ステラも悪いな、事務処理と牽引で自分の隊の指揮も任して」
「気にしないで下さい。団長は団長にしか出来ない事を、私は私にしか出来ない事をしますから」
黒に頭を下げ、ステラが早々に会議室を後にする。
「――驚いたか? お前らの同期で、ステラだけが軍を率いる隊長だぞ? あの年で、隊長の席は大変だ。お前らが支えろよ?」
「確かに…影ではステラが隊長ってのに、異を唱えてる奴が数名いる。自分達よりも年下の女に命令されるのは、我慢ならんのだろう」
ロークの元へと歩み寄った翔とハートは、ロークの背中を力強く叩く。
咳き込むロークではあるが、そんな二人に怒る所何一つ変わらずに接してくれる二人に感謝すら覚える。
黒の正面で座るロークは、自身の掌を黒に向ける。
「二人とも…頼めるか?」
『むん……。コイツは、妾の魔力ではないな』
『てことは……儂か? それは、面白い! 儂が二人になった気分だ!』
黒は瞳を紅に輝かせ、ロークの掌に触れる。
一瞬の間を開けて、ロークの首や頬に広がり始めていた紋様が黒に吸われるよう両左腕に収束する。
燃え盛る炎のような紋様が両腕に集まり、ロークの瞳が鬼極と同じような紅色へと変化する。
呼吸が激しくなり全身を襲う鋭い痛みが、遅れやってくる。
「…面白い。団長の魔力が俺を試そうってんだ……俺もお前の力を試してやる――ッ!」
ロークが全身から汗を滝のように流し、翔とハートの肩を借りて半ば強引に歩いて、本部から出る。
アーマージャケットや支給された装備に慣れようと、動く騎士や志願兵が抱き抱えられて歩くロークに視線が集まる。
「全員、速やかにこの場から離れろ! この場に立てる資格がある者は、各部隊の隊長のみだッ!」
暁が声を上げ、翔とハートが抱えていたロークを草原の中央辺りに寝かせる。
十分な距離を置き、翔とハートが黒の近くに着く頃には、暁と天童。
佐奈とアリス、ユタカタと大輝、アルフレッタと笹草などの隊長が見守る中で、ロークを中心とした草原が凄まじい熱気に当てられ発火する。
その炎は勢いを増し始め、高く上がる火柱がロークを包み込む。
炎の中から赤黒い巨腕が現れ、二本の角と深紅の瞳が印象的な巨大な鬼がその姿を現す。
「さて……ロークは自分を保てなかったか?」
黒が黒幻を抜刀し、構える。
鬼も黒の構えに反応し、雄叫びを挙げて隕石並みの大きさの拳を黒の頭上に振り下ろす。
捲れ上がる地面と亀裂が生じた地面からは、鬼の雄叫びに反応するように地面が刃の様に黒を襲う。
何もない空中に身をさらけ出す黒に、先ほどの一撃よりも力が籠った拳を叩き付ける。
空気を叩く拳と拳と拳に押された空気に弾かれた黒は、空気を切り裂くような音を挙げ山を数個越える。
空の彼方へと消えた黒の姿をしばらく見ていた鬼が、次に標的として定めたのは鬼と黒から遠く離れた二人。
――翔とハートであった。
地面を踏みつけ、勢い良く跳躍する鬼が遥か彼方から襲い掛かる黒い流星に弾かれ草原に頭から落ちる。
身を翻して、直ぐ様起き上がった鬼に反撃の隙を与えない攻撃の速さに着いて行けず、腕を闇雲に振り回すだけであった。
「――喰らえ【鬼極丸】」
鬼の遥か頭上から落下する黒は、鬼極の力を解禁し、透かさず空気を蹴る。
音よりも速い速度で黒は落下し、鬼の角を掴み草原に着地すると同時に鬼の頭を力強く叩き付ける。
鈍い音と爆風が一瞬で草原に広がり、砂煙と共に黒がボロボロになった上着を脱ぎ捨てる。
白色のシャツは土で汚れ、頬や腕から少量の血液が見て取れる。
「綾見の時と全く違うな。コイツは、相当やべーぞ?」
翔が黒の肩を軽く叩き、砂煙の方を指差す。
ゆらゆらとゆっくりと立ち上がったロークが、真っ赤な眼光を黒に向けていた。
先ほどのような巨体ではなく、ローク自身の体で煙の中から黒に向かって一歩一歩確実に進む。
赤黒い色の皮膚は腕だけでなく、全身を真っ赤に染めている。
上半身の服が破れたことにより、炎を模した紋様が両腕から肩へと伸び。
肩から背中へと回り、全身へと紋様が転移していた。
ロークとしての意識は既に存在しておらず、ただ『目の前に立つ者を殺したい』そんな闘争本能のみが今のロークを動かしていた。
口を開き、真っ白な息を吐く。
水蒸気のような息が、ロークの真っ白になった口内から高密度な魔力反応に全員が固まる。
一瞬の油断が招いた危機、既に現れた死神は自分達の首に鎌を押し当てている状況。
翔やハートが魔物の力を解禁するよりも速い速度で、ロークの口から放たれた高密度な魔力が、黒達に命の危機を知らせるよりも速い速度で草原一帯を吹き飛ばす。
やや上向きに飛んで行く魔力が、上空で弾け飛び霧散する。
目の前で魔力の塊を発射されたのにも関わらず、平然と正面で伸びているロークを見詰める黒。
背中越しからでも分かるが、黒以外の者達はその場から一歩以上動いている。
翔とハートが遅れて背後から魔物を展開し、恐る恐る黒の目線の先を見る。
ロークと似たような変化を、両腕のみに限定させた綾見が息を荒くしたままロークを見下ろしていた。
全身に広がっていた紋様が徐々に両腕へと戻り始めた事を確認した黒は、地面に倒れたままのロークを見下ろす。
「どうだ鬼極…負けたか?」
『いや、ロークは負けてはいない。――が、勝ってもいない。未だ儂の魔力と戦ってる最中だ』
綾見が深呼吸をし、両腕の紋様と真っ黒に変化した皮膚を元の人間の腕へと戻す。
「どうだ? 愚者魔法は慣れたか?」
「いえ、まだまだ【黒竜】の魔力を完璧制御した訳じゃない。その証拠に未だ両腕の変化だけです。これ以上力を求めたら、残り少ない命が魔力に食べられて、ホントに魔物化しちゃいますよ」
苦笑いを浮かべた綾見に黒も笑みを返す。
医務室に運ばれたロークと付き添う綾見を通りすぎ、血相を変えたステラが小走りで黒の元へと向かってきていた。
「やっぱり来るか…予感はしてたよ。ステラさん…私に何か用ですか?」
こめかみをひくひくと痙攣させ、黒の態度に怒りを覚えるステラ。
「ロークさんも綾見さんも、ふたりともまだ小さな妹さんがいます! そんな小さな妹を残して、死ねと言うんですか!?」
「誰も死ねとは言ってねー。ただ、死ぬリスクが高いだけだ」
「同じことです! お二人の命を軽々しく見ないで下さいッ!」
ステラが黒の上着を掴むと声量を徐々に上げ始め、周囲の目も気にしなず。
綾見とロークに与えた禁忌魔法の使用を今すぐ止めさせるように黒に猛反発する。
無論、既に禁忌に手を出した二人は助かる事はない。
「第16戦闘部隊所属。隊長『ステラ・ハルベーゼ』――くどい」
黒が先ほどまでとは違って、暗く低い声でステラを睨む。
その威圧はステラでけでなく、周囲の騎士達をも震え上がらせた。
「分かるぞ、お前の言い分は理解している。命と力を天秤に掛けたような魔法である『禁忌魔法』使えば使うほど魔物に命を食われ、最後は魂すらも食われ魔物へと変貌する。だが、そんなことアイツらは知ってるし、俺も知ってる」
「では、な―――」
「『なぜ』…と聞いたステラ、お前に問う。二人は泣きながらこの魔法を受け取った様に見えたか? お前は、大切な物や居場所を守ろと必死になって、足掻いて力を求めているアイツらが可哀想に見えたか? ――騎士団の『仲間』や自分の『家族』を守ろうと決めた二人の決意をお前は否定するのか?」
黒は固まったステラの胸ぐらを掴み、そのまま力任せに持ち上げる。
「団長!」「橘様ッ!」
騎士や志願兵がその様子を伺っており、危険と判断したのか黒を止めに入る。
「……私は…二人の命を犠牲にしてまで、戦いに参加してほしくはありません。伸ばせば手に入る幸せを、自ら手放そうとする二人を止めるのが仲間です!」
ステラの決意が瞳を見れば、頑なな事など容易に想像出来る。
「ステラ……この大規模作戦が始まる前に、二人から最後の意思確認をお前が聞け。参加か不参加だけじゃねー…。――魔物になる覚悟を聞け」
ステラが咳き込み、お尻から地面に落ちステラの静止を聞かず黒は本部へと戻った。
黒焔騎士団の本部である橘支部内は、未だ作戦のための準備で大忙しであった。
あまり使われる事の無い医務室には、今日は珍しく二人の若者が傷を癒していた。
普段の支部であれば、上の医療設備が整った『橘総合病院』で傷や体を治療する。
現在作戦準備中のため、病院に送るための人材もその手続きを行う事務員も準備で手が離せない。
大和市内で買ったリンゴなどの果物の盛り合わせを片手に、ステラが医務室の前で立ち止まる。
すると、ステラの肩に優しく触れる人に触れられるまで気付かなかった。
「リーラさん殺女さん、それにヘレナさんまで……医務室に用ですか?」
3人が医務室へと用事があると思わせ、リーラがステラの手を握る。
「勝手に無理して、抱え込まないで……お願いだから」
気付けば、ステラの頬からは涙が溢れていた。
「そうよ。もう、私達は他人じゃないの……仲間――家族なんだから」
泣き崩れてしまったステラを優しく抱き締める殺女とリーラを見て、ヘレナは医務室の扉を叩く。
涙を慌ただしく拭うステラよりも先に、扉が開き綾見とロークが申し訳無さそうにそっぽを向いていた。
「いの一番に相談とか話をしないといけないのは、ステラやお前らだったのかもな……悪い」
ロークがその場に屈み、涙で濡れたステラの頬を優しく触れたローク。
腕には、紋様が色濃く残りその範囲は肩まで伸びていた。
「黒の忠告を無視して力を使ったのは、俺達の意思だ。ただ後戻りも戦場から逃げもしない」
「でも、戦えば戦うほど……力を酷使すればするほど、2人の寿命は――人間でいられる寿命は短くなる! 死ぬと分かってる人を戦場に…私は連れて……行けない……」
大粒の涙を流すステラがロークの手を取り、両手で固く掴む。
普通に考えれば、分かることである。
ステラはまだ二十歳を越えてもいない、学生と言える年齢である。
家族から化け物と蔑まされ、話し相手ら魔物だけの孤独な一人旅を繰り返し、生まれ育った国を出る。
ローブ集団に捕まり監禁され、初めて伸ばされた救いの手を掴み。
今や、黒や黒焔がステラの家族であり心の底から安心出来る居場所。
――だが、ステラが心を許した仲間の中からこの作戦が終わったら、目の前から消えるかも知れない者がいる。
やっと手にいれた心の底から笑い合いながら、未来を語り合える家族を手離したくない。
――隣でいつまでも笑っていて欲しい。
「私は! 自分の部隊から見す見す隊員を死地へ送り込みたくないッ! 黒団長は覚悟を決めても……私は決めれない! 死ぬと分かってる二人を死なせたくない……」
「――ステラ」
「――ステラさん」
ロークと綾見の二人が立ち上がり、手を差しのべる。
いつかの黒のように、魔物の力を恐れ化け物と蔑すむことなく、笑って手を差しのべる。
「俺も綾見も覚悟は出来てる。ただ、この騎士団を守るために――」
「この団は、俺にチャンスをくれた。一人の人に戻してくれた大きな恩もある――」
「「俺達は、自分の仲間や家族を守るために……この力を受け入れた」」
ステラの手を二人が掴み無理矢理立たせると、涙ぐみうつ向いたままの頭を優しく叩く。
「だから……お前らだけじゃなくて、俺らにも守らせてくれ」
「ロークや俺だって…死ぬとは決まってない。ステラや…俺を支えてくれた家族を一緒に守らしてくれ」
ステラの隣で同じく涙ぐむ殺女とリーラに思わず、笑ってしまった綾見とロークに二人は怒り逃げ出した二人を追う。
「ステラさんは、あの二人を信じられない? ステラさんと同じ様に、あの二人も貴方達―――家族を守りたいのよ」
優しくヘレナがステラの背中を擦り、溜まっている涙を全部流させる。
こんなにも暖かい人の優しさに触れ、ステラはますます涙が止まらなくなった。
「何とかなったな。ステラも最年少で隊長入りとか言われてるけど、ただの女で……俺らの後輩だからな」
翔が曲がり角からステラ達の姿を見て、笑みを浮かべる。
満足そうに通路を進む黒の後ろには、翔と暁やハート達が続々と並び。
大輝と佐奈がさらに横から入り、アリスと天童に続いてアルフレッタと笹草達も後ろに並び、黒の後ろ着いて歩く。
武装した志願兵と騎士が黒の歩く道を開き、物資と兵器が並ぶ補給地点を過ぎ、遠い彼方の空が黒く濁っている事を確認する。
「――行くぞ」
黒のたった一言で、その場にいた騎士達が声を挙げて自ら士気を高める。
この戦場が初めてとなる志願兵達に、騎士が背中を叩き合って鼓舞する。
「騎士が動きました。鴉さま、いかがいたしますか?」
「当然、迎え撃つよ。シエル……今度は、殺してよ?」
死酷刀と呼ばれる太刀を掴み、シエルと呼ばれた女性はモニターに映し出された黒の顔を見詰め、頬が釣り上がった事に気が付く。
「楽しい……の…かな? 私が…笑ってる何て……橘君……」
死酷刀を担いだシエルは、開いた扉から早々に飛び出し身一つで空を飛ぶ。
飛ぶと言っても、ただ強風が吹き荒れる空中を落ちているだけであるが――
「かーらーすー……これで終わらせる気? 三千年の悲願達成って感じ?」
「蠍か? 悲願じゃねーよ。元々三千年後に、俺の手の中に世界は入ってる。そう言う計画だ……順調過ぎて怖いぐらいだ」
鴉と呼ばれている波瀬が椅子の上で不気味な笑みを浮かべる。




