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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
五章 虚ろな夕闇の摩天楼
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五章四節 竜人族が『最強』と言われる本当の由縁



 団員達の大部分が今から行くであろう、未知の場所へと向かう為の準備があらかた終わる。

 食料はほとんど持たずに現地調達と言う事で、緊急時用の装備と登山道具一式が主な装備品であった。

 碧が少し大きめのバックに、叔母である神影から手渡された紫色の奇妙な錠剤を兄である黒に隠れてバックに隠していた。

 「…碧姉。何をそんなにコソコソしてるの? …何かイケナイ物でもはいってるのかな~…?」

 茜が息を荒くしながら姉である碧に襲い掛かろうとする茜に碧は恐る恐るその場から後退る。

 しかし、茜の横を通り過ぎたアリスとヘレナの二人がハンドバック片手にエントランスを抜ける姿に茜は目を疑い、碧を襲う事を忘れ二人に意識が向く。


 「…えッ! ちょッ…! 二人とも、そんな軽装で行くの? 山を舐めてると痛い目に―――」

 茜が軽装な二人を止めようと、エントランスから出て行く二人の後を追う。

 すると、アリスが掲げた舶刀が光を放ち、レーザーのような円柱状の光が天を貫く。

 すると、雲の隙間を通り抜けて巨大戦艦がゆっくりと旋回しながら本部手前の草原に着陸する。

 本部内では、アリスの神器【巨大空海戦艦(オケアノス)】を初めて目にした団員達が騒いでいた。

 「まさか…歩いて秘境と言われる地に行くの? 私の神器ならあっという間に着くから、そんなに重装備じゃ無くても大丈夫よ?」

 バックやリュックに対猛獣用の殺傷弾や咄嗟に現れた異形用の銀弾などを大量に持って行こうとした団員は頬を赤く染める。


 しかし、団員や碧達が重装備なのは当然であった。 

 古来から『秘境』と呼ばれる地は世界各地に存在し、過去の資料では()()()()に利用されていた物が多く。

 異形の大量出現や大型異形種の進行により、地形が変わってしまうほどの大規模戦闘が各地で起こり。

 日本列島の約4割が未開の地へと変わり果てた事や、異形対策として行われた『領地案』と『対異形種特殊防壁』により様々な場所が手付かずになる。

 そして、いつしかかの観光地は、誰も寄り付かない。

 ()()()()()()()()『秘境』へと変わってしまった。


 しかし、そんな秘境にも適応する種族が存在した。

 異族最強と言われる竜人族と同等な力を有し、自らの生活領域を進んで危険と隣り合わせな過酷な環境下に身を置く変わった異族。

 その名を――『鬼人族(きじんぞく)




 アリスの神器に揺られる事約数時間が過ぎた頃、アリスの放送で団員達が甲板へと出る。

 そこには、、見渡す限りの星空に自前のカメラで写真を撮る者達が大勢現れた。

 足下には、巨大な防壁に囲まれた領地から目映い光が見え、領地に無数の炎が灯っているような光景に団員達は目を奪われる。

 本来の船旅ならば、バーやレストランなどの雰囲気のある場所から外の景色を眺めればコレほど素晴らしい景色を堪能出来る場所はそうそうない。


 しかし、アリスの操縦する者は【神器】で、異形種との戦闘を目的としているため娯楽施設などあるはずもない。

 存在するのは、巨大な榴弾砲と多種多様な砲台が所狭しと設置されているだけである。

 甲板から見上げた星空の直ぐ横に見えるのは、大型種の【ヘカトンケイル】や甲殻種である【バジリスク】の頭を一撃で吹き飛ばしその体を塵へと変える榴弾砲が視界に写る。

 その砲台は大型の異形種を一撃で仕留める事のみを追求し、その為特殊な銀弾を使用する。

 その銀弾は、1発の装填だけでも何十人もの作業員が装填作業を行い連続での使用が難しい代物。

 その反面火力は凄まじく、現在では異形用の防壁に備えられている程の名の知れた兵器。

 アリスの神器である巨大空海戦艦には、多種多様な兵器が備え付けられており、大規模戦闘では『地形を変化させた』と言われている物まで存在する。

 そんな兵器の横を、夜空を眺めながら揺られていると目的の場所が近付くにつれ、次第に空を覆う雲行きが怪しくなってきた。

 黒色の雲が戦艦を覆い、落雷や大粒の雨が突如降り始める。

 横殴りな強風と雨に、アリスがコントロールを奪われないように全神経を研ぎ澄ます。

 船体が右へ左へと揺れ動き、船内は騒然とする。

 そこへ、止めとばかりにアリスが握っていた舵輪がコントロールを失い、アリスを吹き飛ばす。

 舵輪が凄まじい速さで回り、それに合わせるように戦艦の動きもより速くなる。

 団員達がいち早く近くの物にしがみつかなければ、天井や床に叩き付けられていてもおかしくはなかった。

 雷鳴が至る所から響き、戦艦を打ち付ける雨粒は次第に勢いを増す。


 「――ッ! クソッ…!」


 黒が壁に背中を打ち付け、舌打ちすると同時に重力魔法で戦艦全体の動きを止める。

 直ぐ様アリスが再度舵輪を掴み、進路を取る。

 しかし、面舵を取った次の瞬間、聳え立つ山肌に戦艦が衝突し崩れた瓦礫と共に山の斜面を戦艦が滑る。

 アリスが直ぐにでも山から離れようとするが、戦艦のダメージが酷く全く動く気配がない。

 「――全員! 衝撃にそなえてッ!」

 アリスの声が船内に響き渡り、瓦礫が積まれた谷底へと戦艦が落下する。

 凄まじい衝撃と砂煙が上がり、船体がグシャリと潰れ爆炎が少し遅れて立ち上がる。



 ―――と、アリス達が覚悟したが船体は谷底へ落下する所か空中でピタリと止まっていた。

 不思議に思ったアリスや恐る恐る目を開けた団員達がゆっくりと船の下を覗く。

 そこには、目を疑う光景と一人の女性が目に写った。

 「その様子ですと…命からがらと言っても過言ではないですね?」

 目の前の女性は巫女装束姿の可憐な姿と変わり、肩まで伸びる緋色の長髪と一際目を引く二つの角。

 風に靡く緋色の髪と黒色の角が、彼女の可憐な姿をより魅力的に見せる。

 「お久しぶりです、アリスさん。それに、ヘレナちゃんに皆さんも…新人の団員さんもよくここに来ましたね。私も連絡を受けた時には、ビックリしましたよ」


 女性が船内へと立ち入り、左手を軽く挙げると船体がゆっくりと上へと動き始める。

 「ホントに、タイミングバッチリだな。―見てたのか?」

 黒が未だにふらつく足取りで、女性の元へと歩み寄る。

 女性は袖から取り出した扇子で口元を隠し微笑む、その微笑みの意味に黒は溜め息を溢す。

 「全く…趣味わりぃな。―――【閻魔(えんま)】」

 黒の口から聞こえたその名に、団員達は固まる。

 それは、彼女のような可憐な容姿の者が四天最後の()と事前に話されている。

 だが、目の前に立っている【閻魔】は()()であり、全くといって良いほどに『男』としての要素を持ち合わせていない。

 生物学的にどこからどう見ても、彼女は『女』であった。


 「…あの、閻魔って男性じゃ…無いんですか?」

 団員の質問に黒は、難しそうな表情をしながら頭を掻き黒と同じように、彼女も首を捻る。

 そして、彼女は手を叩き団員の質問にこう返す。


 『一度実際に見れば分かりますよ』


 そう言い残すと同時に、アリスとヘレナが彼女止めに入ろうと手を伸ばすが……一足遅かった。

 


 「久しいな、この感じはよぉ…。まるで、黒と初めて()()()()()以来だ…ギギッ…」

 目の前に立つのは、女性の体をした()であった。

 可憐な容姿の女性が逆立った緋色の髪を邪魔だと言わんばかりに後ろで束ねる。

 巫女装束姿の可憐な容姿は一変し、まるで獰猛な獣のような笑い方に女性とは思えない恥じらいを捨てた動きにアリスとヘレナが閻魔の体を拘束する。

 「なッ! テメェッ…! 人の体に何しやが―――」

 「黙れや…」

 殺意丸出しのアリスの目に閻魔は動く事を本能的に危険と判断し、動きを止める。

 そして、ヘレナが閻魔の肩を軽く揺すり、先ほどの女性の方を呼ぶ。

 「ユタ。ユタカタ出て来て、お願い」

 ヘレナの呼び掛けに応えるように、閻魔の逆立った髪が元の状態へと戻り先程の可憐な女性が現れる。

 「どうでした? ウタカタとお話出来ましたか?」

 ユタカタと呼ばれた女性は、何事もなかったかのように立ち上がり甲板へと出て行く。

 彼女『ユタカタ』には、もう1つの人格が存在し騎士として戦う際にはもう1つの人格である『ウタカタ』が表に出てくる。

 【閻魔】と言う称号もユタカタに授与されたのではなく、大半の功績はウタカタが成し得た事である。

 女性らしいユタカタと違い言動もそうではあるが、ウタカタの戦いを見た者達は口を揃えてこう述べる。


 ――『まさしく、()()の如き戦ぶり。まさに、地獄を統治する【閻魔】の様に猛者達をかの地に誘う』――



 黒やアリス達がユタカタの後を追って甲板へと上がり、先程まで視界を遮っていた雲が徐々に晴れて行き山の一角に広がる1つの集落に目線は釘付けになる。


 そこはまさしく秘境と言えるであろう、荒れ狂う天候と自然淘汰の末に生き残った強者として繁栄を許された動植物。

 それらを『狩り』その地での、生存競争の頂点に立つ種族『鬼人族』の集落が黒達の目の前に広がる。

 山の斜面を切り崩し建てられた住居は、何十もの柱で山肌に固定され、竹林が村の周囲を囲む。

 一度竹林から外へと出れば、過酷な生存競争がおこなわれている秘境の地が直ぐ近くに存在する。

 市場の様に様々な露店が建ち並び、そこには主婦が朝の買い物の最中であった。

 黒と碧と茜の三人は、団員達をユタカタの案内で通された大きな旅館へと残し、ある人物を訪ねる為に朝から鉄を打つ音と煙が周囲から立ち込める暑苦しい場所へと向かう。


 「二人とも、別に無理して来なくても良いんだぞ? ここは暑いし、男共の臭い汗が充満してんだぞ?」

 黒が一歩踏み込むと同じように、碧と茜が一歩踏み出す。

 「大丈夫です。多少の匂いなら、我慢します。それに……兄さんと違って『お前、臭い』何て失礼な事は言いません」

 「碧姉が言うとおり! 黒兄一人だと、直ぐに門前払いだよ」

 「全く…途中で帰りたくなっても、知らんぞ?」

 黒達は鑪ら場を通りすぎ、更に奥へと向かい山の頂上へと続く巨大な洞窟へと向かう。

 洞窟内は凄まじい程に蒸し暑く、洞窟の外で鍛治作業をしている者達よりも、洞窟内の作業場は騒然としていた。

 中には巨大なトロッコに乗せられた巨大な化け物の牙や爪などの素材と共に純度の高い鉱石が運び出される。

 正面に見える巨大な炉には、紅に燃え盛る石に石炭が投げ込まれている。

 炉の火を絶やさないようにしているのか、数人係で炉の番をしていた。

 巨大な炉を中心に、多くの加工場が建てられている。

 刀剣などの鉄製品を造るため、熱した鉄を力強く叩き伸ばす作業が目に写る。

 様々な鉱石や動物や化け物の素材を組み合わせ、時に混ぜ合わせて多種多様な武具を手作業で作っていた。


 「すごいですね。炉の熱もそうですが…鉄を打ち続ける。その職人の熱意も凄いですね」

 「何か、自分達が普段から何気無く使っている武具がああやって出来ると思うと……考え深いね」

 碧と茜が頬を伝う汗をハンカチで拭い、もう少し前のめりになって加工作業を見ようと足を伸ばす。

 しかし、二人の足下に突き刺さった大太刀が二人の動きを止める。

 黒や碧達の背を軽く凌駕する巨大な大太刀に、茜は言葉を失い碧は気配も無く近付き、背後に回っていた約二メートル近い巨漢の者に恐怖する。

 気配も無く近寄り、音もなく大太刀を碧達の目の前に突き刺す。

 並の者ならば、大太刀を突き刺さっている事すら気付かずにいるやも知れない。

 現に二人の体をその場から一歩下がらせたのは、二人が宿す【紫電竜(カムル)】【爛陽竜(ルビア)】の魔物だ。

 二人が数秒でも早く駆け出していれば、首を少しでも前に出していれば、その体は巨漢の持つ大太刀で両断されていただろう。

 碧と茜の首筋を伝う汗は、暑さなのかそれとも巨漢の恐怖から来るのか分からない。

 巨漢が大太刀を抜き取り、黒の元へと歩み寄る。

 大太刀が目の前から無くなった茜は、針積めていた緊張が溶け、その場にフラフラと倒れ込み。

 碧も同様に目線だけは、巨漢を捉えているが足は震え立つ事が出来ない。

 ふらついた足で碧は、兄へと近付く巨漢に手を伸ばすが黒が手を軽く挙げ、碧に『手出し無用』と告げる。

 「俺の可愛い妹二人を、傷物にしてみろ。殺すぞ?」

 黒が殺気を巨漢に向けて放つ、巨漢はフードを深く被っているため表情は見えない。

 しかし、黒の殺気に物ともしなずに立ち続ける。

 黒が腰に下げていた血燐一刀を男に見せ付けるように、帯刀ベルトから鞘を抜き今一度血燐の鞘を強く握りしめ、姿勢を低くし抜刀術の構えを取る。

 巨漢も大太刀を頭上に構え、下段の黒と上段の巨漢が対峙する。

 周囲からはいつの間にか鉄を打つ音は消え、全員が黒と巨漢を見詰める。

 中央の炉から火花が飛び出し、一人の鬼人が火花に驚き声を挙げる。

 次の瞬間、鬼人の声を開戦のゴングと理解した両者は同時に踏み込み、両者の立ち位置が反転する。

 巨漢の持つ大太刀の刀身が黒の真横に突き刺さり、黒は手元で軽く回した血燐を鞘に納める。

 巨漢は切り落とされた大太刀を鍛治作業中の鬼人族に投げ渡す。


 「――強度に些か不安要素がある。強度を高める事を意識して、再度作り直せ」

 巨漢の要望にその場の全員が反応し、切り落とされた大太刀の刀身も回収され再度鉄を打つ音が響き渡る。

 「来い…()()()要件があるのだろう?」

 黒は血燐を帯刀ベルトに納め、巨漢の背中を数秒見詰め背後に座り込んだ二人の妹達に『先に帰ってろ』と言い残し、巨漢の後を付いて行く。

 二人残された碧と茜は、長い溜め息を吐く。



 黒は巨漢の後を付いて歩き、鍛治作業をしていた鑪ら場を抜け、蒸し暑い空間を抜け、山頂近くにまでたどり着く。

 山頂から後ろを覗くと、所々に開けられた穴から鑪ら場の熱気や煙が外へと流れていた。

 その眺めは、活動している火山のようにあちらこちらで煙が昇る。

 「いつまで外を眺めている。()()がお待ちだ」

 巨漢は黒を残し、山頂への道を進み雲の中へと消えていく。

 「たく…眺めてたって良いだろ。秘境と言われる場所なんだからよ……」

 黒はその光景を目に焼き付ける。

 懐かしいそうに景色を眺めるが、黒にとって初めて見る景色である事は間違いない。

 しかし、忘れてしまっているのか、見に覚えの無い景色である筈なのにどこから懐かしく――胸の奥が酷く切なく苦しい。

 そんな事を思いながら、煙が立ち込める景色をただじっと眺めている。


 長老が待っていると言っていた頂上へと向かうが、その道のりは険しく、長い。

 道は続いていはいるが、大きな岩や巨大な樹木が邪魔をして簡単には頂上へと迎えない。

 そして、登っても登っても目的である場所に近付いているのか分からない感覚に黒の口から何度も何度も溜め息が溢れる。

 「クソッ……遠すぎる。どこまで登れば、辿り着くんだよ…」

 完全に山を舐めていた黒は、バックを持たずに来た為水筒を持ち合わせておらず、既に喉はカラカラであった。


 『バカじゃのぅ。山を登るのに、水筒の1つも持たぬとは……呆れる』

 『主殿は、山を登った事が無いのか? なら、良い経験になったろ?』

 2体の魔物が黒を笑うように、頭の中に直接話し掛けてくる事が、実に腹が立って仕方ない。

 と、事実を指摘されているので言い返す事など出来はしない。


 更に奥へ進むと、ようやく開けた場所に出る事が叶い目の前に建つ木造建築に驚き、声が出ない。

 「コレは…寺か? いや、社か?」

 山の頂上には、これまた立派なお社が建てられており、何よりも驚いた事と言えば――

 「コレは…『()()()』!? でも、俺の知ってる鬼嶽門は、泉本家に社として経ってる筈だ。――じゃ、コレは?」

 黒が社に近付こうと一歩踏み出すと、周囲から霧が立ち込みものの数秒で黒の視界を遮ってしまう。

 怪しいと判断した黒は帯刀ベルトに差していた血燐一刀の鞘を握り、霧目掛けて一閃する。

 黒の祖母である千湖から血燐一刀を譲り受けた際に、雲を断ち切った経験を生かし、霧を断ち切る。


 しかし、霧を払い除ける事は出来たが直ぐに元通りに戻り初め、霧が晴れることは無かった。

 それ以上に、血燐の刀身に巻き付く霧に黒は驚き血燐に魔力を巡らせ、力強く振り払う。

 爆風が辺りの霧を吹き飛ばし、砂煙が上がる。

 「わぁー…凄いね。驚いちゃったよ」

 霧が晴れていき、中から一人の青年が現れる。

 ユタカタ同様に額には角が生えており、口元から鋭く伸びる犬歯が見える。

 赤茶色の髪色とまるで、立合いを遊びだと思い楽しむその無邪気な所を見ると年下と思ったが、青年から感じる闘志からは年齢など関係ないと言ってる気がした。

 和服姿に、腰に下げていた刀から発せられる魔力と霧に含まれていた微量な魔力が青年の魔力と一致する。

 黒は血燐に更に魔力を巡らせ、血燐の綺麗な銀色の刀身に血管のように巡った魔力の道が浮き上がる。

 「へぇー……『()()()()』その名の通り、血が通ってる見たいに見えるね」

 黒は男の言葉に、驚き自分の右手に握り締めた血燐を見る。

 その刀身には、黒が巡らせた魔力が刀身を流れており、男の言う通り血液が通ってる様に見え無くもない。

 だが、黒が今まで血燐を使った戦いの中で、一度も血燐の刀身が紅に輝いた事は無い。

 黒は、気を緩め血燐に巡っていた魔力が刀身から徐々に消えていく事を確認し、血燐を鞘に納める。


 「あれ? ちょッ…何で? ねぇ、何で何で!? 僕と殺り合おうよ!」

 青年が黒の間合いを詰めた次の瞬間には、青年の天地が逆転しており、黒の後方に倒れていた。

 「これ大変失礼をしました。今後はこのような事が無いように、よく言い聞かせておきます」

 黒の真横には赤紅色の髪色をした女性が片膝を突いて黒に謝罪していた。

 気配すらない一瞬の動きは、佐奈と同等かそれ以上の速さを持っている。

 「ッ……! 痛いよー… 」

 後方へと倒れていた青年が立ち上がり、女性の元へと駆け寄る。

 「これこれ、客人の前じゃぞ? ささ…橘殿がここに来た理由も大体検討付きましたぞ?」

 いつの間にかそこにいた老人が、女性と青年の間に入りあまりに遅い二人を迎えに来たと見える。

 「えッ…そうなの? 僕と殺り合いに来たんじゃないの?」

 「この、バカは…客人がただ立合いを求めて、こんな秘境の地に来る訳無いでしょう」

 「……確かに」

 ここに来た理由は、四天最後の一人である閻魔こと『ユタカタ』と別人格である『ウタカタ』の騎士団復帰の有無を聞く為に来ただけである。

 それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 青年と女性の後ろを歩き、もう1つの目的を思い出そうと必死に頭を回す。

 過去に来た事も無い地で、泉本家に存在する社の鬼嶽門が目の前に存在する。

 そして、突然力を増した【血燐一刀】確かに謎を紐解く鍵があるのならば、それも目的であろう。

 だが、先ほどの老人が述べた『ここに来た理由』と言う言葉が妙に引っ掛かる。

 (それに……俺は、()()()()()()()()()?)

 碧と茜が隣に着いた来ていた時からの記憶が抜け落ちている。

 てっきり、二人の荷物持ちとして来ていたとばかり思っていた。


 「――記憶に無いですかな?」


 背後から声を掛けられた黒は、咄嗟に身を翻し声のした方に刀を向ける。

 目の前には先ほどの老人が立っており、黒色の煙が周囲を囲む。

 「…橘殿がここに来られた理由は、ご自身では理解していないとお見受けした。――では、()()()()()()()()()()()()?」

 老人の言う『答え』が黒には理解できないが、記憶にない景色を懐かしんだり、理由が無いのに勝手に足が動いていた現象が改善されるなら老人の『答え』と言うものを聞いてみたい。


 「教えてくれ…その『答え』ってやつを」

 黒は帯刀ベルトに下げていた血燐を強く握りしめ、正面の老人を見詰める。

 「あい分かった。だが、その前に我々の紹介から入ろう」

 老人が黒色の煙に向け、軽く手招きする。

 すると、煙の中から現れた三人の者達の中には、先ほどの二人の鬼人がいた。


 「まず、儂がここ鬼人族の集落で長をやっており、『鬼人戒(きじんかい)』に所属する鬼人を率いる。『(たたら)』である。そして、儂が持つ神器【霧生大椛(むしょうおおなぎ)】」

 鑪の背後から鎧武者の姿をした魔物のが現れ、腕組みをして黒を見下ろす

 『そして、我が鑪に宿った鬼【染候(しょうこう)】だ。よろしくな』

その鑪の横で軽くお辞儀をする女性が、頬を染めながら黒に挨拶する。

 「えっ……と…鑪が祖父。…孫の……『日咲(ひさき)』です。……神器は…この脇差し【飛車午丸(ひしゃごまる)】です…」

 人見知りなのか、直ぐに鑪の背に隠れる日咲に鑪は溜め息を溢す。

 すると、日咲の持つ脇差しが独りでに浮き上がり、日咲の背後から和服姿の鬼が現れる。

 『んで…俺様が日咲様に宿る鬼【桜花(おうか)】だ。戦闘面は俺が出るから、日咲様の戦闘力はこの中で断トツに下だぜ!』

 桜花に言われた日咲の顔が更に赤く染まる。

 だが、戦闘面では桜花に任せているとしても、その身から感じる魔力量は凄まじく。

 長の孫だからと言う物なのか知らないが、魔に対する力は絶大だろう。

 黒の知り合いには、家柄も凄く持って生まれた天才的な魔の才能や魔物を有した者が多い。

 いわゆる、『勝ち組』が多すぎる。

 日咲の魔物である【桜花】が、隣で片膝を付いている二人の頭を軽く叩く。

 『コイツらも紹介するぜ…あんたに、喧嘩を売ったのがコイツ晴明(せいめい)だ』

 桜花に叩かれた頭を軽く擦りながら、顔を挙げた青年は、腰に下げた刀を帯刀ベルトから取り出す。

 「ご紹介に上がりました。僕……私は『晴明(せいめい)』と言います。えーと…先ほどは大変失礼しました」

 晴明は深々と頭を下げ、相当怒られたのか反省の色が見える。

 晴明の手に持っていた刀が光を放ち、晴明の背後から幼女といって良いほどの低身長の鬼が現れる。

 「僕の神器は【七紋(ななもん)】で、こっちが僕の魔物の【山吹(やまぶき)】…です」

 『今身長低いって思ったでしょ? 失礼な男ね……くそガキッ!』

 小鬼が黒の足目掛けて力強く振り上げた蹴りを繰り出そうとするが、晴明が小鬼を掴み自分の横に座らせる。

 「実体化してたのか……にしても、何で姿を変えないんだ? 変えれば身長だって変えれるだろ?」

 それを聞いた山吹は、黒にその方法を聞こうと詰め寄る姿に晴明は再度深々と頭を下げる。

 そして、晴明のブレーキ係と思われる先ほどの女性が一歩前に踏み出し、頭を軽く下げる。

 「私は『峰親(みねちか)』と言います。そして、弓型神器【緋洒丸ひしゃまる】と魔物の【夜叉姫やしゃひめ】です。先ほどは、愚弟が誠に申し訳ありません。まさか、かの帝王の一人であられる橘殿に大変無礼な態度をとってしまい………」

 「あー気にすんな。帝王と言っても、今は名ばかりだ。それよりも、その鬼人戒の四人の紹介だけか? それだけなら、早く本題に入ってくれ」

 黒は畳の上にあぐらをかき、鑪の話を聞く姿勢を取る。

 「そうだったな。我々鬼人戒の精鋭であるこの三人を前に、橘殿は気圧されないようですね」

 「たりめーだ。こんな半端者に、気圧されてたら『帝王』何て呼びれてねぇ」

 その場は一旦静まり返り、鑪の述べた『答え』の話が語られる。

 しかし、現在の状況は話と言う生易しい状況ではなく。




 ――()()へと様変わりしていた。

 鑪の首筋に突き付けられた血燐一刀の刃先が、鑪の動脈を狙っている。

 一瞬でも怪しい動きをすれば、確実に鑪の頭が頭上を舞うだろう。

 だが、鑪に血燐一刀を向けているのが黒ではなく――黒の体を介して現れた、()()()であった。



 「話が違うんじゃねえか? 鑪の旦那よー……あんたらは自分らの()()()()を優先するのか? 俺は黒竜から聞いた話しか知らないが…初めは()()()()()を求めていた。我らの様な()()()でも、暁達()()()と目的は同じ筈じゃ? 違うか?」

 鑪は額から伝う汗の量が増えている事に気が付く。

 自身が死ぬであろう可能性の恐怖よりも、自身の命よりも優先しなければならない。

 鬼人族の――()()()()()()()が途切れてしまう可能性に恐怖する。

 黒の体を介している為、鬼極自身のアドバンテージである鬼人の戦闘能力をフル活用出来ない事が唯一の救いである。

 今すぐにでも暴れられても、鬼人族の数名は生き残る可能性がある。

 しかし、この集落の約8割は鬼極に確実に殺されるであろう。

 「では…お前達は、このまま自分達の宿主を利用し続けるのか? その先に、誰もが夢見た平和が必ずしも訪れると断言できるのかッ! 貴様らは成しえもしない理想を抱き、関係の無い橘殿の人生を無駄にさせる気かッ――!」

 鑪は畳を力強く踏みつけ、神器【霧生大椛】を鞘から抜刀し真横に一閃する。

 しかし、鬼極は鑪の一閃を避ける素振りすら見せずに、左手1つで霧生を受け止める。


 「なッ……バカなッ! 魔物とて、宿主の体を介して戦うとしても宿()()()()()()()以上の力は出せない筈だ! 竜人族とて、鬼人族の我々に腕力で勝る筈が無い!」

 鑪が大太刀に全身の力を入れる。

 鑪の太ももの筋肉は盛り上がり、両腕の筋肉も盛り上がりミシミシと畳が畳の重量に耐えきれずに陥没する。

 しかしそれでも、鬼極の足下は揺れ動く素振りすら見せない。

 それ所か、鬼極は溜め息を溢し右手で血燐を軽く回し、床に落ちていた鞘を上へと弾き、落下してくる鞘にそのまま血燐を納刀する。

 「…なんの真似だ…。まさか、神器無しで……この儂とやり合うとでも言うのか?」

 「それ以外に何があるじゃ? お前何か、()()()()()じゃ」

 次の瞬間、鑪の合図と同時に動いた日咲と晴明が鬼極目掛けて一斉に飛び掛かり、社から飛び出した峰親が神器に全魔力を集中させる。


 「――一点必中ッ!」

 

 峰親が放った一矢は、社を吹き飛ばす程の魔力を極限まで高めてある。

 流石の鬼極でも、と峰親が思うが予想を遥かに越える結果がそこには存在していた。

 日咲を残し、鑪と晴明の二人が地に伏し右手で峰親の矢を掴む黒がそこに立っていた。

 「まだ続けるか? あまり懸命とは思わんがのぅ……仕掛けてるなら、容赦はしないぞ?」

 鬼極は片手を軽く上げ、破損した社へと魔力を流す。

 すると、社が壊れた箇所に木材を嵌め込むなどの事故修復を始める。

 「この社は大事な物じゃ……()()()()()()()良いな?」

 鬼極が血燐を帯刀ベルトに差し込み、社から出ていく。

 「まぁ、目的の社の無事も確認出来た事だ。お前らの命は助けてやる。…だが、計画の事も何もかも我らが主殿の耳に入った時は容赦無く殺す。――鬼人族の血を一滴足りとも残さずにな…」

 そう言い残し、社から去ろうとした鬼極に意識を取り戻した鑪が尋ねる。

 「何故…ただの竜人族のその体で……お前本来の魔物としての力を発揮出来るのだ!」

 鑪は吐血しながらも、鬼極の元へと折れた左足を引きずって近付く。


 「簡単な理由である。竜人族が他の異族よりも突出して、最強の戦闘種族と言われる由縁は、別にドライバや神器の製作に長けているとかじゃない。その気になれば、他の異族でも製造可能だ。まぁ現に、最弱と言われていた人種が日本とアメリカって所で量産しまくったけどのぅ…」

 鬼極は鑪の体に治癒魔法を掛け、晴明や一応ケガはしていない日咲にも掛けておく。

 「――竜人族が最強なのは、魔物が生まれた時点で覚醒している事と関係あるんじゃ。疑問は抱かないかのぅ? 何故竜人だけなのかと、それは簡単だじゃ」

 鬼極は地面に1つの丸と複数の丸を木の棒で描き、説明を続ける。

 「数多の魔物を造り出した『魔術王』は、我が子同然の使い魔である魔物を古代兵器に入れ、永久的に封印しようとする。しかし、封印と言っても、誰かが見ていないと悪用されてしまう。そこで、ある使い魔()()()繁栄する力を与えた。それが、祖竜であり、祖竜と人間の間に生まれた子供達が更に繁栄した種族こそが()()()じゃ」

 

 

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