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取り戻した日常(仮)

それは何のことはない、どこにでもあるような、兄と妹の平凡な会話だった。



「良く聞け妹よ。実はお兄ちゃん、異世界で魔王を倒してきて、ようやくこっちの世界に帰って来られたところなんだよ」


「あっそ、朝ごはん出来てるよ。食器は自分で洗っといてよね」



目が覚めた時、悠斗は自分が夢を見ているのだと思った。

白い壁紙に囲まれた狭い部屋。紺色のカーテンの隙間から朝日の光が漏れ、棚に飾られたフィギュアを照らす。壁のいたるところに張ってあるお気に入りのアニメのポスターに囲まれ、そして、唯一の出入口であるドアの前には、仏頂面の妹が立っている。


ーーーそんな光景は、もう二度と見ることは出来ないと思っていたから。



「・・・なに?そんなに見ないでよ。なんか目付きが怖いんですけど」



怪訝そうな顔をしながら、自らの身体を守るように抱き締める妹。それに苦笑いを返しながら、悠斗は布団から抜け出す。



「おいおい、仮にも勇者であるお兄ちゃんに向かって、その言い種はないんじゃないか?」


「病院行けば?」



ーーそれは何のことはない、どこにでもあるような、兄と妹の平凡な会話だった。


その平凡さが、悠斗にとっては何よりも愛おしく感じられた。


1年。『あちらの世界』 での冒険は約1年ほど。この少年、北沢悠斗の人生において、これ程濃密な1年間は2度と訪れないであろうと断言できる。

なんの前触れもなく呼びつけられ、文字通り命を懸けた闘いの渦に身を落とし、傷つきながらも、仲間との絆を深め、やがて人々を救い勇者と呼ばれるようになった。


たが、たかだか高校生の子供が背負い込むにはその宿命はあまりに大きすぎる。幾度重圧に押し潰されそうになったか分からない。

そんな時、心の奥深くで悠斗を支え続けたのは、他でもない家族の記憶だった。


どんなに挫けそうになっても、家族の顔を思い描くだけで、必ず生きて帰ると決意出来た。その心に火を灯し続けることができた。



そんな愛しい愛しい家族である妹にようやく会えた喜びを、一体どうやって表そうか。そんな事を考える間も無いほど、悠斗の身体は迷いなく動く。



「・・・んえ?」



華奢な柔らかい身体を、強く、だが壊さないよう優しく抱き締める。



「ちょ、ちょ・・・おに、え?えええ? な、なにこれ、どうなってんの? どどどどうしたの? ほんとに頭ぶつけたの? だ、大丈夫だよ? 最近は医学も発達してるっていうし、不安なら、ほら、私も一緒に検査受けてあげるよ。うん、そうしよ、ね?」



兄の奇行に対応できず、しどろもどろになる妹。あたふたしながら口走っている内容は、もはや自分でもよく分かっていなかった。

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