開会
どこかでオルゴールが鳴っている。そんな気がした。
* * *
目を覚ました僕が初めに目にしたのは、埃を被った机の列だった。その見た目から、もう何年も使われていないことが一目で分かる。
さらにその前方には、色の落ちた黒板や動かなくなった時計がある。
窓の外を覗いてみる。空には月が昇っており、その下には僕が通っている学校の校舎がある。どうやらここは、今は使われていない旧校舎のようだ。僕はそこの教室の一つで手足を縛られ、上手く身動きが取れない状態でいるのだ。
僕は唯一自由が利く首で周囲を見渡した。窓から差し込む月明かりが、教室内を照らし出している。そこには同じように手足を縛られ身動きが取れない男子生徒が5名いた。彼らはまだ目を覚ましていない。
「う・・・うう」
その時、1人の男子生徒が目を覚ました。
「こ、ここは・・・」
そこで、その男子生徒が手足を縛られていることに気づく。
「な、なんじゃこりゃ!?」
その大声で、他の男子生徒も次々と目を覚ます。
「なにこれ!?」
「はぁっ!なんですかこれは!!」
「動けないよ!?」
「ふざけんな!!」
今の状況を理解し、みんな口々に騒ぎ始める。うるさい連中だ。
と、その時。1人の男子生徒と目が合った。5人の中で一番初めに目を覚ましたあの男子生徒だ。
「おっ、シズカ!?お前どうしてここにいるんだ?」
その生徒、笹身蓮が僕の名前を呼ぶ。それを知りたいのはこっちだ。
笹身蓮とは同じクラスなのだが、そのチャラチャラとした性格が気に入らないため僕はあまり関わらないようにしていた。
「気がついたらここにいたんだ・・・」
こいつと話などしたくないのだが、無視するとしつこく聞いてくるので仕方なく答える。
「そうだったのか、俺もお前と同じだ。ヘヘヘヘヘ」
こんなときに笑えるなんてどんな神経してるんだ。
「おい、どうやらもう夜みたいだぜ」
一頻り笑うと、笹身は外を見ながら言った。
知ってる。
「おい、どうやらここは旧校舎みたいだぜ」
笹身は窓の外を見ながら言う。
それも知ってる。
「なんで俺たち、こんなところにいるんだ?」
だからそれを知りたいのはこっちだ。
これ以上こいつを視界に入れたくないので、僕は他の男子生徒の方を向く。
全員知っている顔だった。というか、クラスメイトだ。正直、こいつらもあまり関わりたくない奴らだ。この4人の名前は、林沢京也、九松海斗、天峰隆樹、柏銀二。
林沢京也はお調子者で、いつもみんなを笑わせるクラスのムードメーカー。星野芽衣という美人の彼女がいる。
リア充め!
九松海斗は委員長で、クラスのみんなをまとめている。何事もてきぱきと行動して女子からの評判も良い。
こんな奴のどこが良いのやら・・・。
天峰隆樹は小柄でスポーツ万能。クラスのマスコットキャラのような存在。女子からは可愛いとちやほやされている。
地獄へ落ちろ!
柏銀二は教師も手を焼くほどの問題児なのだが、思春期真っ盛りの女子達にはカッコいいと評判。
おかしいだろ!
ついでに当の僕はというと、根暗で女受けも良くない地の底の人間。
僕の中に、だんだんと負の感情が芽生えてくる・・・。はっ!いけない、いけない。
僕は思いっきり頭を振った。そして気分を変えるため、別のことを考える。
それは今の状況。どうして僕はこんな場所にいるのか。何者かに誘拐されたのだろうか?ここで目が覚める前、僕はどこで何をしていたのかを・・・。
必死に思い出そうとするものの、まるでその部分だけが切り取られたかのように思い出すことが出来なかった。
と、その時。教室後方の扉が大きな音を立てて開いた。
僕を含める6名の男子生徒がそちらを注視する。
「ヤッホ~!」
そう言って教室へと入って来たのは、制服姿の1人の女子生徒だった。
その女子生徒を目にした瞬間僕は、いや僕たち6人は、目を見張った。その女子生徒――星野芽衣は、そんな僕たちの表情を見て心底愉快そうに笑う。
僕たち6人は狐につままれたような気分だった。
「芽衣、どうして君がこんなところに・・・」
林沢が尋ねる。
しかし、星野芽衣は何も言わず笑ったままだ。
「おい!なに笑ってんだ、このアマ!!」
何も言わない星野芽衣に向かって、痺れを切らした銀二が怒鳴る。
すると、星野芽衣はとたんに笑うのをやめた。そして、耳がはち切れんばかりの大声を出す。
「かいか~い!!!」
その瞬間、今度は教室前方の扉が勢いよく開かれた。
そして、教室内へと入って来たのは、総勢36名もの女子生徒達だった。
「さぁて、あま~い夜を始めましょ」
星野芽衣と36名の女子生徒達が、一斉に微笑んだ。