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闘気の修行

 家に着き、過保護なメイド達とラグニスによる念入りな手の診察が終わった後。俺はソファーへ座ったラグニス抱き抱えられていた。


 男として、これは恥ずかしいなと、顔を赤くした俺の顔をラグニスが心配そうにのぞきこんできた。


「レウルどうした? まだ手が痛いのかい」


 そう言いつつも、俺の手を水属性の魔法でずっと冷やしているラグニスへ。違うッ、そうじゃない! と、怒鳴りそうになりつつも何とか冷静に返事したが。


「いえ、手はもう大丈夫です。

 父様に先程の模擬戦の注意点などを訊きたいなと思いまして……」

「もちろんだよ! まず、レウルの最初の構えは知っていたけど、とても完成度が高かったなぁ。

 他にも、レウルの足運び一つ一つも綺麗で思わず見惚れそうに――」


 ラグニスが大袈裟に()めるから、恥ずかしくて余計に顔が赤くなってしまった。

 そのまま暫くラグニスの評価を聴いていたが、特に悪い点は無いようだった。


 ある程度喋った後、ラグニスは此方を向いて。


「そう言えば、レウル最後のヤツは何をしたんだい?

 急にレウルが視界から消えたんだが」


 と、質問をしてきた。

 恐らく、かなり気になっていたのだろう。とても綺麗な笑顔を貼り付けていた。

 ――話は変わるが家にいる人達は全員世間一般で美男美女言われるような人達だ。

 その中でもラグニスとミエールは飛び抜けて顔の造りが整っている。


「あぅ……」


 そのため、ラグニスの笑顔を同性にも関わらず顔に見惚れてしまい思わず(うつむ)いてしまった。


「どうした? レウル、大丈夫か」


「ッ!」


 そうして、俯いているとラグニスが俺の顔をのぞきこんで来たため。

 急いで顔を上げると先程の模擬戦でやったことについて説明を始めた。


「えぇと、模擬戦の最後にしたことですか。

 少し、構えを変えて屈んで近づいただけですが」


 俺の説明が終わるとラグニスが納得したように頷いた。


「成る程、構えで太刀筋を分からなくした後に体格差を逆手にとって死角に入りこんだのか」


「そのため、僕はレウルの姿を見失い懐に入り込まれ、太刀筋が分からない状況でレウルの木刀を受けなくてはならなくなったと」


 ラグニスはそのまま納得したようだったので、俺も気になることを質問することにした。


「父様、質問なのですが父様はどうやって木刀を弾き飛ばしたんですか?」


「あぁ、簡単だよ。

 木剣を少し早く振っただけだよ」


 あぁ、成る程木剣を少し早く振っただけなんだ――って、え。


「えぇ、それだけですか!」


「それだけだよ?」


「……」


 淡々といった様子で不思議そうに返事をしたラグニスに押し黙った。

 ラグニスの言う通りならば作戦でもトリックでもなく単純な早さで敗けたことに気が付いたからだ。


「……はぁっ」


「あぁ、レウル明日から新しい修行を始めるからね」


「本当ですか!」


 俺は余りの差に溜め息を吐いていたが、ラグニスがとても魅力的なことを言うと急に機嫌をよくした。

 ラグニスはそんな俺の姿に苦笑した後。


「明日からは闘気(とうき)の修行を始める」


 大きな声でそう宣言した。









 翌日、俺はラグニスから闘気を習うために再び庭へと来ていた。


「レウル、これから闘気の修行を始めよ。

 まずは僕が手本を見せるからしっかり見とくんだよ」


「はい!」


 俺が返事をすると、ラグニスの体をゆっくりと透明な炎のようなものが覆っていった。


「なっ」


 俺が驚いていると、ラグニスの体を完全に透明な炎が覆った。


「レウル、闘気は纏えば身体能力を強化して攻撃からは鎧のように体を守ってくれるんだよ」


 ラグニスはそう言うと手刀を庭にあった大きな石に叩き込んだ。

 すると、石は文字通り真っ二つになった。


「ッ!」


「ね、何ともないでしょ」


 ラグニスはそう言うと手を開いたり閉じたりしながら見せてくれた。

 驚いたことに石に叩き込んだ筈の手には傷一つ付いていなかった。


「……」


 俺がその事に戦慄(せんりつ)していると、ラグニスは此方を向き。


「どうだいレウル、これが闘気だよ」


 と、言いながら笑顔を向けてきた。

 俺はラグニスの方を見ると唇を震わせがら。


「と、父様。

 いえ、師匠! 修行宜しくお願いします!」


 ラグニスへと土下座をした。

 ラグニスは多少驚いた表情をした後。


「分かった、でも師匠と呼ぶ以上は本気で鍛えるからね!」


「はい! 分かりました!!」


 俺にそう言うと、闘気を引っ込めた。


「まぁ、こんな感じかな。

 レウルも実際にやってみようか」


「はい!」


 俺はラグニスへと返事をした後、ラグニスの指示に従って闘気の修行が始まった。







「レウル、その調子だ!

 そのまま、闘気を安定させるんだ」


 修行を始めてから半年が過ぎた頃、(ようや)く俺の体を不安定な炎が覆っていた。


 何とか、闘気を安定させようとしたが、闘気は一際大きく揺らめくと消えてしまった。

 闘気が消えるのと同時に俺は地面へと大の字に倒れた。


「ハァ、ハァ」


「レウル、大丈夫かい?」


 ラグニスは息も絶え絶えな姿を見かねたのか、俺を抱えて日陰へと連れていくと果実を絞った飲み物を飲ませてくれた。


「し、師匠。

 ありがとうございます、もう大丈夫です」


 俺は飲み物を飲ませてくれたラグニスへ感謝しながら、今日までの修行を思い返していた。








 闘気の修行を始めた後、ラグニスは言葉通り一切手を抜かずに指導をしてくれた。

 ただ、闘気の修行は中々難しく大変だった。何故かと言うと闘気は魔力を全て自力で操作しなくてはならないからだ。

 例えば、攻撃魔法である『ファイア』を使う際は火の玉を頭の中で『イメージ』する。

 その後は魔法を発動するのに必要な魔力の流れや量を『詠唱』によって操作する。

 これが魔法を使う際の手順だ。


 闘気が何故難しいかと言うと、闘気は『イメージ』だけではなく本来は『詠唱』でやる魔力の流れや量の調整を全て自分でやらなければならないことだ。

 そのため、魔力の操作とイメージの両方をしなくてはならない闘気の修行はかなり苦労をした。


 近頃は不安定とはいえ、闘気をだいたい五時間ほど維持することが出来ていたが。

 闘気を上手く安定させることが出来ず行き詰まっていた。

 

「レウル、」


「はい! 師匠なんでしょうか?」


 そうして、過去を思い返しながら悩んでいると、ラグニスに話し掛けられ振り返った。


「闘気の修行は行き詰まっているようだし、明日の修行は一旦休んでレウルの剣を選びに行かないかい?」


 一瞬、予想外のことを言われたために思わず固まったが。

 ラグニスの言った意味を理解すると、俺は嬉しさから大きな声で「はいッ!!」と返事をした。


 ――だが、俺は忘れていた。

 買い物をする際の悪癖(・・)を。そして、そのために面倒ごとに巻き込まれるなんて、この時の俺は思いもしていなかった。

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