王都と馬鹿親子
トライデント王国の王都・ベルメーア。
極大の山脈を天然の城壁とした地形と南部に広がる海が特徴的なこの都市は、外部からの攻撃や侵入を防ぎやすく、水質資源が豊富なため。
他国との交易が盛んに行われており、別名・水の都とも呼ばれている大都市である。
俺達は馬車を王都の厩舎に預けた後、早速おじいさんへ会いに行こうとしたが。
おじいさんとは昼下がりに会う予定だとラグニスから伝えられたため、時間潰しに王都見物をしていた。
「……エレナ、大丈夫か。
辛そうだし、何処かで休むか?」
「大丈夫です、確かに体調は悪いですが。
休まなければならない程では――キャアッ」
俺は青い顔で歩いているエレナのことが心配になって休憩を取るか訊いたが、エレナは大丈夫だと言って速足で歩きだした後。
見事に足を縺れさせたため、俺は溜め息を吐きながらエレナを支えた。
「ハァっ――歩くことすら出来ないのに大丈夫、ね。
この嘘吐きめ、嘘を吐くのはこの口か? ふふふっ」
「いふぁいへふ! れふぁす。
ほべんなはい、もうひはいのでひるひてくふぁさいっ!!」
(痛いです! レウル。
ごめんなさい、もうしないので許してくださいっ!!)
「……」
俺はエレナが大丈夫だとバレバレな嘘を吐いで無理をしたことに青筋を立て、エレナの頬を引っ張りながら抓った。
すると、エレナは頬からの痛みに泣きながら謝ってきたが、俺はエレナが無理をしようとしたことがどうしても許せずに頬を引っ張り続けた。
「はははっ、レウル。
あ、あんまりやりすぎると可愛そうだよ、くくく、て、手を放してあげなさい、ぷぷっ!
うん、ミエールどうしたん――ギャァッ!?」
「ラグニス、一人の父親として、子供を叱る時くらいは真面目にしてください」
俺がそのままエレナの頬を引っ張っていると、ラグニスはエレナの歪んだ顔に爆笑しながら俺に手を放すように諭したが。
冷笑を浮かべながらミエールが使った風属性の巨大な追によって押し潰された。
「ハァっ――もういいや。
それにしても、前から思っていましたが、母様は風属性の攻撃魔法が得意なのですか?」
「いえ、私は防御魔法と治療魔法が得意ですよ、人を傷つけるのは苦手ですから……
まぁ、エレナちゃんやアイシャのように攻撃魔法の全属性を網羅しているわけではありませんが、風属性の攻撃魔法は少し人よりできますよ」
俺は二人の漫才のようなやり取りに気をそがれてエレナの頬から手を放した後、ミエールに以前から気になっていたことを質問したが。
ここまで使える風属性の攻撃魔法が得意ではないと返され、尚且つアイシャが攻撃魔法の全属性を網羅しているという予想外の情報に目を丸くした。
「えぇ~と、エレナが全属性を攻撃魔法を使えるのは知っていますが、アイシャもというのは初めて聞きました。
アイシャは何で使えるのを黙ってたんだろう?」
「ふふふ、きっとレウルに知られたくなかったのよ、あの子「初めて打算なしの笑顔を向けられました!」って喜んでましたからね。
自分のことを知られたら、レウルからの見方が変わってしまうかもしれないと思ったのよ」
俺は何で全属性を網羅していることをアイシャが教えてくれなかったのか首を傾げていたが、ミエールが教えてくれた理由に「そんなことで俺の見方が変わるか!」と心の中で叫びながら唇を尖らせた。
そうして、俺が不平不満を身体で表しながらそっぽを向いていると、ミエールが「本当に知られたくないことは恐らく”あのこと”でしょうが……」と小さく呟いたのが耳に入った。
「母様、”あのこと”とは何でしょうか? とても気になるのですが。
勿論、答えてくれますよねっ?」
「えっ――私はそんなこと言ってませんよ、恐らく聞き間違いですね。
そういえばここの近くにラグニスの親友が営んでいる鍛冶屋があるのですよね、会いに行きましょう? 面白いものが一杯見れますよ」
「……分かりました。
この質問はアイシャ自身に答えてもらうことにします」
俺は先程の呟きからまだ隠していることがあると悟り、ミエールへ”あのこと”についての説明を満面の笑みで求めたが。
ミエールは虚を突かれた筈なのに一瞬動揺しただけで、直ぐにラグニスの親友へと話題をそらしたため。
ミエールからこのことを聞きだすのは骨が折れそうだと判断し、質問対象をアイシャに変更した。
「母様、早く魔法を解除してください。
このままでは父様を助け起こせません、エレナも何時までも座り込んでないで手伝ってくれ」
「……魔法は解除しましたよ、それでは皆でラグニスの親友へ会いに行きましょうか」
「うぅ~、頬っぺたが痛いです」
俺は数日前に先触れとして王都へと旅立ったアイシャを問い詰めることを決意した後、頬を引き攣らせているミエールと頬を抑えて座り込んでいるエレナに協力してもらってラグニスを助け起こした。
そして、俺達は立ち上がったラグニスと共に、ラグニスの親友が営んでいるという鍛冶屋へと歩を進めた。
十分後、俺達は看板に大きく”鍛冶屋”とだけ書かれている店を訪れていた。
鍛冶屋の見た目は以前と同じで普通の建物だったが、置いてある武器や鎧の練度は前に訪れた武器屋よりも遥かな高みへと至っていたが。
不思議なことに置いてある鎧が僅かしかなく、鍛冶屋にも拘わらず服などが数多く置いてあった。
「父様、何故こんなに鎧が少ないのでしょうか? 以前訪れた武器屋はもっと多くの鎧が、もっと置いていた筈。
それに何でこんな沢山の服が? ――ハァっ、考えていたら余計に分からなくなってきた」
「レウル、この服は闘衣と言ってね、モンスターの素材で作られた特別な服なんだよ。
魔力を流すことで闘気の効果を強化できる上、とても軽くて機動性も抜群なんだ」
「それから鎧と闘衣の置いてある数の違うのは簡単に言うと、お客さんの種類が異なるからだよ。
例えば武器屋は冒険者などの剣闘魔法を使えないお客が多いから鎧の割合が多くなり、逆に鍛冶屋は剣闘魔法が使えて闘衣が使えるレベルに達しているお客が多いから闘衣の割合が多くなるんだ」
俺は服と鎧の釣り合いが取れていない奇妙な配置のことが気になり、服と鎧の謎について考えても分からなかったため。
ラグニスに鎧と服の謎について訊いてみると、ラグニスは服は闘衣という特別な服だということや鎧と服の謎について教えてくれた。
「おぉ~~!! 闘衣ってすごいんですね、俺も着てみたいですっ!
父様、俺は闘衣が欲しいんです……買って♪」
「そうかそうか、それじゃあ早速”クラリス”の工房から闘衣を一着貰おう。
5000000ゴーネぐらい置いていけばきっと大丈夫さっ!」
「はい! 俺もそう思いますっ!!」
俺は闘衣について知ると何時もの浪費癖が発動し普段ならば我慢するが、今回は心の底から欲しかったので遠慮なくラグニスに甘えた。
すると、ラグニスは予想通りに買うと言ってくれたため、俺はラグニスと一緒に鍛冶屋のドアへと向かった。
「「レウルッ!(ラグニスッ!)逃げてェェェッッッ!!!」」
「えっ?」「うんっ?」
俺達がラグニスの持っていた合鍵で鍛冶屋の鍵を開けてちょうどドアノブに手を掛けた時、後ろで話していた筈のエレナとミエールから逃げるように伝えられた。
慌てて周囲の気配を探ってみると、此方へ何者かが爆走してくるのに気が付き、馬鹿親子は闘気を纏って逃げ出そうとしたが、
「ダメに決まってんだろう! このバカ共がァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」
「「ギャァァァァァァッッッッッッ~~~~~~!!!!!!」」
時すでに遅し。
馬鹿親子は逃げることが叶わず、 ”亜 人の女性”が放ったドロップキックを食らうのだった。




