世紀の大発明
携帯投稿です。多少の読みづらさはご愛嬌です。
「カトウくん来てくれ!」
博士に呼ばれた。カトウは研究室のドアを開いた。
「どうしたんですか?」入るなり声を掛ける。
博士は三十年間ある発明を研究していた。カトウはその助手である。
「ついに完成だ。三十年間研究してきた望遠鏡が完成したんだ」
そう、ある発明とは望遠鏡である。通常、望遠鏡は口径というレンズの大きさで見える倍率が変わるのだが、発明した望遠鏡は口径は僅かながら、数百億光年先も見えてしまう、まさに世紀の大発明なのである。
「やりましたね博士! 私も三十年間尽くしてきたかいがありました」
カトウは現在六十歳、博士は七十五歳である。ニ人とも一般企業であれば定年退職している年齢である。しかしこの歳になっても研究を続けたのにはある理由があった。
「これがあれば宇宙の起源まで遡ることができます。天文学界最大の謎を解明することができます。ノーベル賞確定ですね」
カトウがそういうと博士はぽかんと目を丸くした。
「君はなにを言っているんだ」
思わぬ反応にカトウも目を丸くした。
「え、博士はそのためにこれを作ったんじゃなくて? じゃあ博士は何のためにこれを作ったんですか?」
「決まってるじゃない」
博士はもったいぶるようにタバコに火をつけ煙を吐いた。
そしておもむろに口を開いた。
「ノゾキだよ」
「え? ……え?」
カトウは思わぬ答えに聞き返すしかない。なにを言っているのだろう、このハゲジジイは。
「あの、私の耳に狂いがなければ、博士がおっしゃったこの望遠鏡を作った意味は『ノゾキをするため』だということですが」
「ああ、喜べ。君の耳は正常だ。たしかに私はそう言った」
博士はタバコをふかす。煙が部屋に充満し始めた。カトウは窓を開けて喚起する。
「しかしこの望遠鏡を作るとき、博士は私に『人々の役に立つ発明をしよう』とおっしゃいましたが、これでは博士の欲しか満たされません」
「いや、最初に君に言ったのは『世界中の男の役に立つ発明をしよう』と言ったんだ。ノゾキを通じてな」
カトウは混乱する。自分の人生の三十年間、ノゾキのために費やしてきたことになる。
そしてカトウはある結論に至る。
どうせ三十年かけたのだから、最大限ノゾキを楽しんでしまえばいいのだ、と。
「じゃあ向かいのホテルを覗いてみるかの」博士がいう。
そうですね、とカトウも乗り気だ。
ホテルまでの距離は数十メートルから数百メートルと言ったところか。この望遠鏡をもってすればなんてことはない距離だ。
「うほう、よく見えるぞい。大鮮明動画じゃ!」
「博士、あまり変な言葉は使わないでくださいね。今の所セーフですが行き過ぎると怒られます」カトウが注意する。
「しかしそこまですごい望遠鏡とは思いませんでした。やはりこれは天文学界最大の謎を明かした方が……」
いや、と博士は声を上げる。
「君はなにもわかっとらん。第一わしは天文学者じゃない。ただの天才エロ博士じゃ」
「ただのじゃないと思います」カトウが冷静に言う。
「しかし、そんなに素晴らしい望遠鏡なら、何かに使いたいですね」
「ふむ」博士が唸る。「男として長年の謎だった、アレの中を覗いてみるか」
「あ、アレ……ってええ!」カトウが声を上げる。
「そのためには電車に乗らなくてはならない」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! それ犯罪ですよ!」カトウが止めに入る。
「関係ない。この天才エロ博士をもってすれば警察なんて屁の河童じゃ! じゃ! じゃ! じゃ……」
「次のニュースです。昨日朝◯◯線で痴漢騒ぎがあり、都内に住む自称研究家の江口博士容疑者を逮捕しました。江口容疑者は『わしが天才江口博士じゃ!」と容疑を認めており、警察は…」
カトウはテレビを消してため息をつく。そして机に置いたままにされてある望遠鏡を手に取った。
「そろそろ記者会見か。三十年間の集大成だ」
そう呟いて部屋を出た。
まあ、男ですから。