地獄の一丁目編……リリスとリン、そしてテンプレーションの魔力は大人のい・ろ・か?
こんばんわ、楽しんでいただけましたら嬉しいです。
ごつごつとした岩場の上からこっそりと僕と極丸が見下ろす荒れ果てた地獄の世界。
残酷な沈黙が支配して、ただただ呆然としてしまうほどの灼熱と亡者の阿鼻叫喚。
ここが噂の地獄の一丁目、泣く子も黙る地獄秘境温泉の名所・血の池地獄温泉……そんな会話の糸口も沈黙させるほど圧倒的な世界観にのまれている、こんばんは、僕です。
「これが地獄の本当の姿でおじゃるか……仲間たちから聞いた噂以上に辺鄙で残酷な場所でおじゃるなぁ」
極丸さんはすーっと切れ長な瞳を細めて、人差し指で前髪をかきあげると「ふぅ」と小さく嘆息する。
あれっ? ため息をスタートにして意識的にすりすりしてませんか? 気のせいだろうか極丸さんがごく自然な流れで身体をすりつけてきていませんかーっ!?
「これが灼熱の炎が燃えあがる阿鼻地獄」
「おや、リン殿は物知りでおじゃるなぁ、ついでに一つ面白いことを教えてあげるでおじゃるよ、上を見上げるでおじゃる」
こらーっ! 極丸さん、右手で僕のお尻を触りながら左手で上空を指差してなにしてるのですか!?
身体を触られるぐらいならまだマシなので(過去の体験談に基づき)気にせずに極丸さんが指差す方向を仰ぎ見ると大きな雲が。
「あの乗りごごちが悪そうな大きな雨雲で雨を降らして炎を沈めて、亡者たちを仏像から放つ光で救済しているものたちが羅漢でおじゃる」
「羅漢?」
「そうでおじゃるなぁ……リン殿は六道って知っているでおじゃるか?」
「六道? 初めて聞きます」
「おっほん、ならば麻呂が懇切丁寧に教えてあげるでおじゃる」
極丸が間近の岩場にぺったんこと座るとパチクリとウインクをして何もかも見通しているような眼差しをこちらに向けてくる。
「六道でおじゃるが、人間界、すなわち生前の行いによって選別され、生まれ変わり続ける迷いのない世界のことでおじゃるよ、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天の六つの世界からなるものでおじゃるが……時代の流れでおじゃるかな、最近はもう一つ世界が増えたと聞いたことがあるでおじゃる」
「もう一つ?」
「そうでおじゃるが……今は厄介な奴がここを嗅ぎつけて迫ってきているでおじゃる」
極丸はあたかも女性らしい仕草で顎に手を添えて「ふぅー」と再び溜息を吐くと眉をしかめて岩場の真下を覗き込んだので僕もつられて覗き込む。
『女だ! 柔らかい肉の女だ!』
『生者かぁ! この地獄の最果てに生者がいるぞ』
『羅漢に保護される前に捕らえて! 犯して! 喰ってしまえ!』
身体中爛れたゾンビみたいな奴らが必至な形相でこっちに登ってきますよ! 極丸さーん、あいつらいったになんなのですかーっ!?
「あいつらがこの地獄に住み着いてエンジョイライフをおくっている亡者たちでおじゃるが……リン殿が無意識に放つ妖艶な色香の能力に引き寄せられてきたのでおじゃるな」
「僕が放つ色香?」
声に出すまいと心がけていたが……たしかに今の僕は絶世の美少女と言っても過言ではないと思う。
なんて言ってもリリスと僕の遺伝子が融合したみたいだしなぁ。
「リン殿は気がついてないでおじゃるか? リン殿の肌から漂う場違いすぎる甘美な香りを嗅ぎつけてきたのでおじゃるよ! 麻呂は下等なメスどもにはまったく興味がないでおじゃるが、リン殿を見たでけで下半身がグレートホーンの暴れ牛でおじゃるよ。今だけはスコーピオンキングにもどるでおじゃるからお尻のお菊さまを貸してほしいでおじゃる。そうすれば責任をとっていつでも結婚するでおじゃるよ、キラリン!」
「その発想! 亡者よりもあんたが恐ろしいワーッ!」
僕たちの目と鼻の先の岩肌をごちゃごちゃに重なり合い殺し合いながら駆け上がってくる亡者のしわがれた声が地響きのように伝わってくる。
「リン殿……麻呂から離れないようにでおじゃる……永遠に、フフフ……」
親しみのこもった声の最後に願望をのせて優しく僕に語りかける極丸の表情が引き締まっていく。
過酷な砂漠でみせたあの極丸の表情がここにあった。
いかがでしたか?
今週はお仕事が忙しいので次話が少しおくれるかもですヽ(;▽;)ノ
皆様に少しでもクスっと笑っていただけたら幸いです。




