膝枕と悪臭・・・うそーっ、実技試験って家賃徴収ではないのですか!?の巻
マンホールの蓋が見事直撃! そんなこんなで僕は気を失い、意識の中で時が止まっていた。
死ななくて良かった・・・そんな言葉が無意識に溢れ出そう。
やがて僕は眠りから覚めるように覚醒していく・・・おや、後頭部に柔らかな感触よりも、いやぁーっとっても鼻腔を砕く悪臭がするぞー。
起床効果抜群の悪臭・・・どんな寝坊にもコレ一本! とキャッチフレーズでスーパーで売りだしたら売れるかな、などと金に困ったものの生活観念に囚われた思考のなか、ぱっちりと目を覚ました。
すると蒼い瞳が涙でいっぱい、申し訳なさそうにこちらを見下ろす悪臭の根源、いやいや、小汚い少女・・・失礼、101号室の店子トロロさんなに膝枕をされていた。
「よかった・・・目をさまされましたね」
その言葉の安堵感、本当に心配してくれていたんですね、と少しだけ嬉しくなる。
「ううっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
嗚咽まじりの言葉。
紅茶に入れた氷砂糖のような儚げな笑み・・・とても、嗜虐的て守ってあげたくなるような笑み。
「わたしの贖罪・・・に巻き込んでごめんなさい・・・この石銭を持って、早く、元の世界に帰られてください」
暗がりの窓、外にはもう人影も罵詈雑言もない。
意識がはっきりとした僕は目を凝らした。
灯火がない宵闇、気が付いた僕の顔を見て、ほっと安心したような、今にも泣き出しそうな複雑な相貌。
煤ばんだ頬、自信なさげな潤んだ瞳、栄養失調で華奢な肉体、だけど、暖かい想い・・・空腹でグーとなるお腹の虫が吠えるとトロロの頬がほんのり朱にそまる。
「あっ、それとこの手紙が」
僕は名残惜しいが膝枕から頭を離すと差し出された手紙を無言で受け取った。
どこにでもある茶色の封筒に便箋が入っているが・・・なぜかとっても悪意を感じるも、当然、悪意の根源はハニワ・・・いやいや、土偶・・・えっと、主にアラハ先輩だ。
「あの、お茶も出せなくてすみません。わたし・・・もう、行かなくちゃ」
トロロは少し苦笑いのまま身を固くし、やおら立ち上がると掠れ消えそうな小さな声で呟く。
ぼそりととても小さな声で僕に言葉をおく。
すると寂しそうな笑みをこぼした。
足元の蠢く埃を巻き上げゆっくり歩くと朽ち果てそうな扉を開ける。
「少しだけ荒っぽい言い方になりましが許してください・・・ここは現世な住人には不幸しか生まれない不遇の世界です。だから・・・帰ってください。お金は・・・必ず、払いますから」
あれ、トロロさん行っちゃいましたよー。
もしもーし、現世の世界? あれ、ここはたんぽぽ荘の101号室ですよねーっ!?
星霜の歯車が回り始めた、この異様な世界観に翻弄れつつも僕は茶色の封筒中身を見た。
うそーっ! やっぱり、見るんじゃなかったー。
手紙に書かれた戦慄の内容。
僕はぼんやりと立ち尽くしそうになる心を奮い起こさせてトロロさんを追うことになった。
そう、世のため人のためトロロさんのため・・・いやいや、何よりも自分のために。