異世界の常識はこちらの常識とは違うのですの巻
こんばんわ、皆さま如何お過ごしですか?
楽しんでいただけましたら嬉しいです。
「ご、ご主人様ぁーっ! 大変です、は、箱の中に人族がいます。小人族が右手に金属らしき武器をもってピーチクパーチクうるさいのです……とりあえず害なす者は滅殺します」
「うあぁぁぁ、常人からかけ離れた握力でよそ様の部屋のテレビ片手で楽々と抱え上げないで! おろして、おろすんだ、元の位置に懇切丁寧に壊すことなく戻すんだよ!」
「こんな小人族の住処程度にそこまで慈悲を!? さすが、私を拾って傘下に加えていただけるだけの度量の持ち主むです。もう、慈愛の神ジアイダーZほどの慈悲深いご主人様なのですか」
「その厨二病残念ヒーローみたいな名前の神様が慈愛の神様なの! 僕は壊して弁償したくないだけだよ」
テレビの画像に敵意むき出しだったフレア。
画面に映る、ニュースキャスターを見たフレアの言葉・・・まさしく異世界人ですよね……とてもシンプルでいて大胆な主張と行動力です。
速攻即使の行動。
そうでなければ、異世界ではすぐにモンスターのエサになってしまうからでしょう。
さて、唯一映った番組……何処かの自衛隊基地からだろうかニュースキャスタの後ろを自衛隊員が武器を持ってガヤガヤしている。
そんなニュース曰く・・・この世界はゾンビ病によるパンデミック状態らしい。
ネーミングが安直すぎてセンスがない『ゾンビ病』。
生き残りの市民は自衛隊に保護されて防衛拠点で守られているようだ。
ただ、避難活動中もゾンビに襲われて多大な犠牲を出したことを映像付きでネットに出回っていた。
無論、逃げ遅れた市民などを救うために自衛隊が奮闘しているようだが予想以上のゾンビの行動と数に思うように市民救出は進んでいないとニュースキャスターが言っている。
「まだ街にて生き残っている皆さま、明日、少しでも救出するために都内市役所をゾンビの手より奪首して自衛隊の一時的な防衛拠点にします。現戦力からして防衛できる日数は一週間。何らかの手段で市役所に来る、もしくは連絡をつけられましたら自衛隊が救出に向かいます。最後の一瞬まであきらめないでください」
テレビの中で熱弁するレポーターを訝しげに見つめるフレア。
まだ、小人がテレビの中にいると思っているような瞳だ。
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらパソコンをアップしてインターネットにつなげる。
少しでも情報がほしい。
この世界は僕やシルクが貧乏すぎる旅をしてたんぽぽ荘に行き着いた日本とは明らかに違う。
「ここがご主人様の故郷なのですか?」
肩を竦めてしまいそうな返答しかできそうにない僕の瞳をグググッとがぶり寄るようにフレアは接近する。
「僕には故郷はないよ」
僕の言葉を素直に受け取ったフレアは「私と一緒ですね」と小さく呟いた。
そうだ、すっかり忘れていたが・・・フレアはどうしてここにいるんだ!?
そんな言葉がポロリと出そうになったとき、フレアは僕から視線を逸して警戒しながら話しかける体勢でこの世界の元凶となる名を口にする。
「玄関扉の外に……イツ、ムー、ミー……六体のゾンビがいます。こちらには気がついていませんが、何かを……いえ、人型の獲物を追って、上層階に向っているようです」
当然ながらまったく状況を把握していない僕は攻撃をしてこないゾンビに対して反撃の機会を伺うこともなくソファに座った。
そんな僕の想いをくんだフレアは気持ちを整えるように小さく呼吸を整える。
育んできた経験則からだろう、フレアは次の指示を仰ぐように僕の顔を覗き込んでくる。
なので僕はもっとも言いにくい指示を出すことにした。
「すぐにお風呂に言って身体の汚れを流してきなさい」
「汚れを落とす……これから夜伽ですか?」
「今は太陽がのぼり立てですぞーっ、というか、とっても臭いだけです。なので、さっさとシャワーを浴びてきてください。服着はその辺のタンスから着やすいものを拝借して」
「臭い……ですか……了解いたしました……ご主人様……ひとつ質問が」
シルクはキョトンとしながらクンクンと自分を匂ぎ、僕に質問をしてきた。
この死滅的悪臭ををクンクンするなんて……なかなかの強者だな。
「何ですか?」
「お風呂やシャワーって何ですか……教えていただけましたら幸いです」
そうですよね、ここはシルクにとっては異世界だったもんね。
僕は妙に納得しながらフレアを浴室に先導するのであった。
いかがでしたか?
次回よりゾンビ世界の冒険がはじまります。
リンとフレアコンビ、そして、奴隷少女Aに期待していただけましたら嬉しいです。
次回は間幕、シルク編を入れる予定です。
拙い作品にお付き合いいただき、ありがとうございました。




