ゾンビの世界・・・そして慟哭の巻
こんばんわ、しばらくリン中心に物語が進みます。
とてもボロボロな姿の男は虚ろな視線を僕に向けてくる。
少しだけ寒気を覚えてしまう視線です。
毒気に蝕まれた肌は爛れ腐り、血混じりの口元が捕食された人間の悲劇を物語る。
目の下の窪みが人を捨てた化物として・・・死を超えた死を体現している化物。
そう、僕の視線の先に男のゾンビがいる。
「何をしている! 早く逃げろ!」
「えっ!?」
戸惑い気味に声の方向に振り向く。
男だ、迷彩服を着た男が手に持った銃をゾンビに向けて発砲する。
何発も何発も銃声は途切れない。
銃弾が空っぽになっても迷彩服の男は必死な形相で銃を打ち続ける。
その時だった。
殺戮の現場となるターミナル駅の改札口に柱の影に隠れていた女のゾンビが本能のままに迷彩服の男に襲いかかる。
「ぐあぁぁぁ、ぼうず、逃げろぉ!」
その声が迷彩服の男の断末魔となった。
食い破られる肩、腹、腕。
崩れ落ちる男の首筋が女ゾンビに食いちぎられると大量の血が吹き出す。
血の匂いにつられたのか静寂を突き破るほどのゾンビが迷彩服の男に群がっていく。
ゾンビたちが迷彩服の男に食らいつき鮮肉を貪る。
ど、とうなっているのですかーっ!?
僕の警戒度が一気に上がった。
血と硝煙の臭いが判断力を鈍らせるが人が目の前で食い殺されているのだよ。
こいつらは間違いなく人を襲うタイプのゾンビですよねーっ!
僕は無我夢中で徘徊しているゾンビを避けながら全力でターミナル駅から逃げ出すように走った。
かつては多くの人が行き交っていただろう交差点。
大人びた雰囲気が漂うショッピングセンター。
風をきって走っていただろう車が誰もいないボロボロの道路に投げ捨てられていた。
当たり前に人が溢れていた街は沈黙していた。
僕は無我夢中で走った。
空に陽がのぼりかけていた。
鼻腔をくすぐる死の香り。
僕の走る歩道は人肉と血を存分に吸ったようにどす黒く染まっていた。
街のどこだかわからない場所で銃声の残響が聞こえる。
長い長い時間がたったような気がする。
僕はゾンビから逃げるように細い路地に入り込み、知らないマンションの階段を駆け上がった。
運が良いのか? 悪いのか? 五階まで駆け上がった時、鍵がかかっていない開きっぱなしの部屋を発見した。
表札にはお洒落な横文字で斎藤と記してあり、その下には504号室とプレートが貼ってあった。
室内を覗く・・・無音だ。
いつでも逃げれるような体勢でリビング、寝室、風呂場などを見回る。
主人に見棄てられたように無人だ。
すぐに玄関の鍵を閉めて、チェーンをかける。
504号室は角部屋のためだろうか、ベランダは他の部屋と接していない。
すべての窓の網戸と鍵を閉めて、僕はリビングのソファにぺたりと座り込んだ。
もう力尽きたといってもよいだろう。
その時、あの声が再び脳裏に響いた。
いかがでしたか?
リンの過去が少しずつ明かされていきます。
楽しんでいただければ幸いです。




