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こちら陽気なたんぽぽ荘 ~大家と店子の家賃戦争~  作者: かきくけ虎龍
第一部 たんぽぽ荘の家賃徴収人のお仕事編
43/162

片腕少女奴隷と忠誠心の巻

こんばんわ、しっかりと執筆いたしました。

宜しくお願いします。

さて、ぼくにとって生涯で一番大きな買い物になりそう、初めてのマイホームです。

 古ぼけながらも精緻な彫刻が施されているとっても大きな正面の門を開いてみる。


 ギギギーッ――


 やはり錆び付いているなぁ。

 敷地内に足を踏み入れてみるとそこは広大な中庭だった。

 荒れた花壇や木製のベンチなどが置かれて、かつては贅沢なほど人の手が入っていたらしき残滓が見え隠れする雑草が生い茂る中庭を石畳に沿って歩いていくと古びた扉が見えた。

 何処の中世ヨーロッパの貴族なのですかーっとツッコミたくなる年季が入った豪奢な作りの扉だ。


 ギギギーッ――


 玄関扉を開くと御影石がびっしり敷き詰められたただっ広い玄関ホールだ。

 居心地良さそうな装飾品が並ぶ玄関ホールを抜けると平原の喧騒が嘘のように思えてしまうほど洗練されて廊下に続く。

 廊下を彩る赤絨毯。

 年輪を積み重ねたのだろう、たっぷりと埃の断層ができている。

 ここっていつから人が住んでないねん!? とツッコミたくなるぞーっ。


 さて、僕は屋敷内を一通り見回って、一階の左奥、広間の一室に来た。

 広さは一般家庭のリビングほどの広さの部屋に幽霊奴隷専門店ちちくりマンマン亭でヘタリアを購入したおまけでもらった死にかけている欠陥奴隷を休ませていた。

 部屋に入ると、そこは簡易ベッドが六個と簡素な棚がある。

 他の部屋に比べて質素なのはおそらくは使用人が寝泊まりしていた部屋だったからかも。 


「・・・我々をどうするつもりだ」


 僕の姿を見つけるなり片腕の亜人の少女が詰問するように問いかけてくる。

 亜人の少女以外はベッドに倒れ込んで動かない・・・あれ、ゴホゴホしている少女がピクリともしていないぞーっ!


 正直なところ、お部屋の危機迫る奴隷たちの緊迫感にドキドキしてしまうシチュエーションだが、臆病で小心者という僕がバレないように余裕の態度をとっている。


 亜人の少女の目の奥に鋭い光りを宿す。

 そう、諦めない、そして、誰も信じないといった光だ。

 こんなの冗談が言える状態じゃないぞーっ。

 安堵の息を吐くこともなく片腕の亜人は僕を値踏みしている。


「君たちをどうするか・・・うーん、そうだなぁ、まだ使い道を考えてないなぁ」


「そうそう、しっかり聞いたかヘッポコ片腕奴隷! オイラのご主人様はまだ複数変態プレイしか考えてないんだぞ、ふんす」


 ヘタリアはふんふんと鼻息荒く亜人の少女にがぶり寄る。

 ただ、亜人の少女もそれに耐えうる胆力をもっているようで一歩もひかない。


「誰が複数変態プレイやねん! ヘタリア、ちょっと黙ってさっさと成仏してくれないか」


「むへへーっ! ついに呼びましたな、オイラのことを愛情たっぷりな口調で、へ・た・り・あ・・・と。むふーっ、ついに名前で呼んでくれた」


「うおぉーっ、スライムみたいなヨダレを絨毯にたらすなよ!」




「私は見ての通り・・・傭兵崩れだ・・・騎士団とつるんでいた悪質な盗賊団に捕らえられ、地獄のような不衛生な洞窟で盗賊たちの慰めものにされて・・・遊びといって片腕を切られ。もう、傭兵として・・・いや、一人の亜人として真っ当に生きていけない身体にされて・・・」


 回想するように何処か悲しく言葉を吐き出す亜人の少女。

 その覇気を宿した瞳とは裏腹に身体はやせ細り、極度の栄養失調だどすぐにわかる。

 ただ、それを思わせない気迫がそこにあった。


「そんな私に利用価値があるのか? この壊れきって腐れ切った私の肉体に価値があるのか? もう、性奴隷にもなれない私に。誰も助けてくれない、信用できないこの世界にまだ、私の価値が見いだせるのか?」


 その声はすがるような、助けを求めるような。

 自分の存在がまるで異端と言っているような。

 亜人の少女は辛そうな表情で唯一残った右腕で自分を抱く。

 とても痛々しく混乱した亜人の少女のその行動に僕は胸がグッと痛んだ。


「価値基準なんて千差万別、僕はキミを見捨てたりしない。だから・・・新しい価値、僕と一緒にみつけてみないか」


 僕の言葉が予想外だったのか亜人の少女は少し驚くとボロボロの上着の裾をグッと握りしめてこちらをすがるように見つめる。

 まるで、僕の言葉を待っているように。


「主人として命令します。僕ともにその身が朽ち果て、魂が天に召されるまで僕に仕えてください」


 僕の言葉に亜人の少女は大きく目を見開く。

 そして、大切に言葉を紡ぐように。


「・・・はい」


 亜人の少女は太ももに片手を添えて、その場に膝まづき、恭しく、そして深く頭を下げた。 


「私は・・・フレアルージュです。この身、片腕の手練なれど、魔物が跋扈する魔大陸にて必ずご主人様の剣となり盾となり、その御身、守ってみせます」


 フレアの胸の奥から熱い想いが溢れ出した。

 奴隷に堕ち、酷くおぞましい存在である自分(忌み嫌われし者)を受け入れてくれた。

 瞳にじわりとうかびでる涙。


 ま、魔大陸だってーっ!


 フレアの感動に反比例して僕は顔が引きつってしまった。

 だって、ここは魔大陸なのだよ。

 奴が・・・奴がいる魔大陸だよ。


「ここ・・・魔大陸なの?」


「はい、魔大陸北部、アササイ地方だと思います」


 僕の慌てふためきにフレアとヘタリアは怪訝な視線を向けてくる。


「奴が来る!」


 僕が気づいたときは遅かったらしい・・・屋敷のまわりには沢山の気配がする。

 そうもうとっくに『奴』に包囲されていた。

 さて、皆さま・・・耳をすまして聞いてみましょう。


 「ここからご主人様の臭いがプンプンするあるよーっ!」


 「「「あんぱーん」」」


 うおぉぉぉぉっ! やっぱり嗅ぎつけられたのですねーっ!



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