残酷な現実と琴線の巻き
こんばんわ、本日2話目になります。
楽しんでいただけましたら嬉しいです。
「こちらの部屋でございます」
廊下の突き当たりを右に曲がり三つ目の部屋の前でうさぎ亜人の店員は立ち止まった。
諦めたように溜息をつきヘタリアに引っ張られた僕が店の奥に足を踏み入れてから三分。
うさぎ亜人の店員がドアを開けたとたん、淀みきった空気が溢れ出す。
粘ついた空気。
肺が呼吸を拒否するほどの淀み。
この部屋は明らかに衛生なんて言葉も概念の欠片もない腐敗臭がただよう部屋だ。
蛆が湧いた朽ち果てた死体も転がっている。
「臭い・・・」
気分が悪くなる鼻につく臭い。
シルクの臭さとは違う死肉が腐敗した臭いや汚物などの匂いが混沌としている。
もう、帰りたいぞーっ。
「どうぞおはいりくださーい」
「はいはーい。この部屋に転がっている奴隷は皆使い物にならず死にかけていますけど、掘り出し物はあるかも。ここの奴隷から一つプレゼントします、よければそこの蛆が沸いてる死体でもよいですよ。欲しければ全部持って帰っていいですよ」
この複数の腐った死体が横たわる悪臭の部屋でうさぎ亜人がコホンと一つ咳をおくとにっこり営業スマイルで僕に微笑む。
ここの奴隷は死を待つ者たち。
正規品の奴隷とは扱いが違い、人目を避けて隔離されているようだ。
息がある奴隷の数は4体、死体は白骨も合わせると数が多すぎてわからない。
奴隷は皆、うつろな目だ、逃げられぬように手足に枷をつけられ、ぐったりと倒れている。
「ここはおいらが説明してあげるのだ。この小汚すぎる部屋は奴隷流通のなかで病気になったり怪我をして感染症にかかって使い物にならなくなった廃棄処分の奴隷置き場なのだ」
僕は心苦しい、僕もかつては同じ立場だった、ひもじくて、苦しくて・・・絶望に彩られて。
僕は苦しい心を押し殺して、生気もなく転がる奴隷を観察した。
まず一人目は人型、幸薄そうな脂ぎったパサパサの白髪が痛々しい小柄の少女だ。
全身がひのきのぼうのようにやせ細り、ピクリとも動かない・・・明らかに栄養失調だな。
くの字に横になったままこちらも見ずに時々、コホコホと咳をしている・・・もしや、結核?
二人目と三人目も人型だ・・・もしや親子かな。
貧しさ故に奴隷に身を落とした感満載の雰囲気。
弱々しくうなだれる小柄な少女を守るように抱える母親とおぼしき者が虚ろな瞳で僕を見ている。
もはや、子を守る本能だけで意識を保っているようだ。
三人目は亜人の少女だ。
片腕がない・・・不衛生な包帯をグルグルに巻かれた左腕がとても哀れだ。
ただ、獣のような鋭い瞳。
まだ、死んではいない何らかの意思を見ることができた。
「ここにいる奴隷は皆、生身の肉体持ちですわ」
「衛生環境が悪すぎないか?」
「この者たちは倒産した奴隷商人から譲り受けた汚物(商品にならない奴隷)です。どうせ廃棄処分するなら、魂だけ抜き取って当店の商品にしようとおもっていましたが・・・ヘタリアを貰って・・・いえ、買ってもらえるのですから大サービスです」
「それにしても・・・」
僕は口と鼻に布を当てる。
とても耐えられる臭いではない、死臭、汚物や嘔吐のあとが悪臭がひどすぎる。
「お客様、この乱世は弱肉強食です。金があるもの、権力があるもの、力あるものが幅を利かせて、弱きものは死を待つのみなのです」
「そんなに命は軽いものではないとおもうのですが」
「お客様はどちらの御出身かはしりませんが奴隷の命の価値は軽いものです。どれほど魂を磨いても、奴隷は所詮は奴隷・・・生きる価値を抵当にその身を売ってしまった家畜なのです」
その言葉・・・うさぎ亜人店員のその言葉がかつての僕の姿とダブつきしまいこんでいた心の琴線が揺れてしまった。
あるがままの心が僕の次の一手の布石となるのであった。
いかがでしたか?
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