第三章 シルク争奪編 始まりの出逢いと奪われる哀しみの巻
ついに第三章がはじまりました。
皆様、宜しくお願いします。
シルクが異世界ドタバタから帰ってくる少し前・・・
「貴公か・・・我が愛娘をそそのかした人間は」
その声は凛として威厳があり鷹揚な声だった。
シルクがアラハ先輩に首根っこを掴まれて102号室のドアに放り込まれてから数時間。
地獄の特訓が始まった。
もうそれは・・・思い出すだけでチビってしまいそうだ。
腰を使って縦縦横横丸書いてチョンゲームなどはぎっくり腰寸前まで追い詰められ、甘くて蕩けそうなチョコレートゲームでは全身に蜂蜜を塗って異世界の蜂族? の森に放り込まれて女王蜂らしいおっぱいの大きかった女王のお尻をタッチして『甘く蕩けそうなチョコレートみたい』と叫ぶ、変態すぎる訓練。
何故かわからないが、女王蜂に気に入られて結婚を迫られたことはみんなには内緒である。
と、言う訳でアラハ先輩に訓練と銘打ってしこたま虐められて性も根も使い果たした。
今は訓練室の床に這いつくばっている。
ああっ、床ってこんなにひんやりして気持ちいいんだ。
そして非常にヘビーな平日の昼に突然知らないおっさんにいきなり糾弾された。
「真昼間から怠惰なアメーバの如く床にゴロゴロしている輩に大切な愛娘がそそのかされ・・・あまつも600年守り通しているはずの乙女の初めてを奪われ・・・飽きたからと言って金を稼ぐために肉体労働の出稼ぎにまで駆り出されているのか・・・許せぬ・・・この下郎が!」
うぉぉぉぉ!
いきなりおっさんが僕の肩をぐいっと押さえつけて・・・ってその手に収まっている怪しい紫色の妖気が漂っている小刀はなんですかーっ!?
なんて馬鹿力だ! 僕は身をよじって抜け出そうとするがまったく動かない。
それどころか掴まれている肩からうっすら血が滲んでいる。
「許嫁どもと婚約を決める大会まではしばらく自由の身を与えた愛娘がこのようなだらしない人の子にたぶらかされようとは」
うおぁぁぁ、なんなんですかーっ!? 憎しみ率120%の瞳で睨まないでーっ!
面識もないおっさんから殺人鬼も真っ青な眼光を浴びせられている。
「そこまでにしていただけるかしら」
見るに見かねてだろう、訓練室の隅っこのソファーで最近お気に入りのローズティを優雅に飲んでいたアラハ先輩がトコトコと僕の傍らにくると肩を掴んでいたおっさんの手を持つ。
『うちの部下に何をなさいますの!』と言う意味合いを含んだ強い殺気をまとい、窮地の僕を開放してくれた。
「よろしいこと、ここは、由緒正しきたんぽぽ荘家賃徴収第一部隊が管理している第一たんぽぽ荘。そこにノックもなしに土足で踏み入るとはどういうご用件かしら?」
立ち上がった僕の見たものは怒気を纏った土偶と対面しているダンディなおっさんだ。
ただ、何処かシルクに似ているような端整な顔立ちに違和感を覚えるが着衣している衣服がひと目でわかるほど高級感満載の逸品。
おっさんがアラハ先輩を見ると可笑しそうに唇を歪ませる。
「その土偶の出で立ち、日ノ本の国にて千の眷属を束ねる土偶神アラハ殿とお見受けいたす」
「その通りですわ。わたくしは美しすぎる神様、アラハですわ。たんぽほ荘家賃徴収第一部隊を取りまとめる長ですわ。そこにだらしなく骨なし軟体スライムゴッコをして這いつくばっていたのは部下であるリンですわ。わたくしの名を言い当てる前にまずは身分を名乗られることが紳士の勤めだと思いますわよ」
「確かにアラハ殿の言うとおりですの。目の前の不届きものを・・・いやリンと申す、淫行魔を微塵切りにして地獄の餓鬼どものエサにしてやろうと血気がはやりました、これは失礼」
「なんで僕が淫行魔なんですか!?」
「そうですわ、このリンは童貞エロチンコ魔人であって淫行魔などではないのです。そんな粗チンならわたくしはわざわざ、お風呂をこっそり覗きにいきわしませんわ」
「わーっ、お風呂で食い入る視線を感じると思ったらアラハ先輩だったのですか!?」
「うふ、はたして、わたくしだけかしら?」
「まだ仲間がいるのですかーっ!」
「何、童貞なのか・・・シルクの貞操に手をつけておらんと・・・昨日は我も偵察のために覗いておったかいがあったわ、だが、貴様の罪は地獄に移住程度ではすまされんぞ」
「あんたも覗いていたんかい!」
アラハ先輩もこのおっさんとんでもないこと言っていますよーっ!
もう、シルクにお仕置きされたときに逃げ込んだ地獄はメロンパン事件の時で懲り懲りしているぞー。
僕に対して視線を厳しくして睨んでいた瞳に冷静の色が宿ると「コホン」と一つ咳払いをして恭しく土偶神・アラハ先輩に頭をさげた。
その姿、とても洗練された仕草で僕は見入ってしまった。
「我が名は篝火、アジア・ユーラシア大陸の厄災神を取りまとめる神、この度、失踪中の愛娘であるシルクの居場所を突き止めたので連れ帰るためにやってきた」
右手に握っていた妖刀が禍々しく紫に輝く。
「愛娘シルクのわがままを聞いて一時的とはいえ自由を与えたことは我が失態。すぐに連れて帰って許嫁どもの中、トーナメント式闘技大会を開きもっとも強大な力を持つものと夫婦の契を交わさせる」
おっさんは悔しさを滲ませたように唇を噛み、僕を一瞥する。
「篝火殿が赤貧の神・シルクの父上殿であることは理解しましたが、だからといってリンの処遇を決める権利は持ち合わせていないはずではありませんか? リンはわたしくの所有物であり、玩具であり、クリスマスの聖夜に狙う性夜の対象」
「ほほう、そこまで土偶神であるアラハ殿にかわれる人の子が存在するとは、では、手ぶらでは帰れぬ故、我が愛娘シルクは連れて帰る」
そう言うと微粒子が空に舞うようにおっさんの姿が消えていった。
いかがでしたか?
次回からたんぽぽ荘の秘密や各キャラクターの秘密などが少しずつ明かされていきます。
今後共、皆様のご声援を糧に頑張りますので宜しくお願いします。




