力の解放と裏の顔の巻
こんばんわ、やっと書き上げました。
今回は少しだけ残虐シーンがあります。
苦手な方はお控えください。
「生きることは許さない・・・うちの・・・この手で存在そのものを殺してやります」
――ドクリドクリ――
うちの心臓の鼓動が早鐘のように響きます。
こんなに高揚したのは久方ぶりなのです・・・妖怪如きが高貴にして序列上位に位置する厄災の神であるうちをなめんじゃないのです!
うちの手に闇の力が宿る・・・その澱んだ波動からウジが湧き、死肉の腐敗臭が放たれる。
この世を形成する憎しみや憎悪・・・怨嗟や腐敗・・・淀みきった疫病が蔓延する純粋な厄災の力。
この姿だけはあにさまには見せられない・・・うちの本性・・・。
手を血に染めて死肉を貪ることに戸惑いがなくなった・・・妙に不気味であり懐かしくもある。
うちはペロリと舌なめをするとボロ着を纏った小さな肉体がゆらりと陽炎のように揺れる。
猫のようなしなやかさで砂塵を蹴り上げるとその速さは疾駆する矢、年増(砂かけババア)めがけて飛びかかる。
狙いは右腕。
年増(砂かけババア)が仕掛けてくる砂塵の刃をひらりと身を翻して衝撃だけで大ダメージを受けたと錯覚するほどの厄災の波動を無意識にぶつける。
もはや肉眼では見えない無形の刃だ。
その刹那、戸惑いもなく年増(砂かけババア)の懐に入り込み大きく腕を突き上げる。
漆黒の蠢きが年増(砂かけババア)の右肩を捉えると爆音とともに血肉をはじけ飛ぶ。
うちの手に握られた血肉は鈍色の砂塵となったと同時に年増(砂かけババア)の胴体が両断されて蜃気楼のように血が吹き荒れ、すぐに鈍色の砂塵に変化していく。
「足りない・・・こんなちっぽけな血肉じゃうちを鎮魂するには足らない・・・牛チチ年増、うちを舐めているのですか? もっともがき苦しんでよ」
砂塵が集い、年増(砂かけババア)の肉体を形成する、その肢体にはうちがくれてやった傷跡は寸分もないのです。
ただ、グルグルめがねで隠れている瞳の奥に驚愕の揺らめきが見て取れます。
右肩をもぎ取られた衝撃も胴体を真っ二つにされた現実も受け入れられないといった瞳なのです。
「な、何をしたのじゃ・・・」
年増(砂かけババア)の硬い声音と引きつった表情を冷淡に一瞥すると日頃のうちでは絶対にお目にかかれないほどの毅然とした態度で澱んだ息遣いで穏やかにそして傲慢に語りました。
「うちにとって牛チチ年増は生理的に不愉快な存在なのです。そう・・・一個39円のあんぱんを買ったつもりが一口食べたらカエルの干物が混入していて良質なタンパク質ゲットだぜーっ・・・と思ってしまううちのピュアな心が嫌っているのです」
死の香りが漂う厄災の波動にあふれた丘の上でうちは肩を竦める。
答えなどない答えを無意識に見出そうとしているのかも知れない・・・うちがあにさまのことを愛しているが故の怒りをぶつけるように複雑な感情にゆれるように。
「何故、あにさまに手を出した? 身の程も知らずに何故手を出した・・・うちだけのあにさまに・・・うちだけの・・・」
金縛りにあったように動けない年増(砂かけババア)の直立不動だった二本足がブッ飛んだ!
太腿から大型肉食獣に食いちぎられたように血飛沫が上がる。
空中に取り残された胴体が地べたに落ち、這い蹲る。
恐怖のためだろうか? 年増(砂かけババア)の着物の生地が湿り気をおび、弧をかいて開く唇は艶めかしさの欠片もなく、ただ、動揺に震える声だけが漏れていた。
いかがでしたか?
シルクのもう一つの顔が見え隠れしたお話でした。
次回はコメディ調にもどりますので安心してください。
今回も読んでいただきありがとうございました。




