プロローグ、はじまりの魔法は求人広告から
ついに新作でありんす。ほのぼのとした作品を作っていきたいと思います。
是非、皆さまの感想とうを聞かせて頂ければ幸いです。
コツコツ執筆していきますので、皆さま、気長によろしくお願いします。
たんぽぽ荘・・・どこにでもありそうな、けれど、どこにもない稀有なアパート。
都心から離れた田舎町、商店街の大通りの掲示板で見つけた残念すぎるほどセンスのない張り紙の前で季節外れのフード付きパーカーを羽織った小柄の少女が足をとめた。
「にいさま! 大変なのです」
「シルク、炎天下の下、路頭に迷って干からびそうな僕たちより大変なことがあるのかい?」
「ほらこの間のアマゾンぽいところで突然、空から文金高島田を結い上げた白無垢のゴリラがにいさまに発情して陰毛付きバナナをくれたときよりも大変です!」
シルクと呼ばれた小柄な少女がフードをとると大通りを闊歩していた小市民たち・・・特に男性たちがその場で金縛りにあっている。
無論、その視線はシルクに集まっていた。
ほら、耳をすませば聞こえる。
「うおぉぉぉ、可愛いーっ」
「よ、よだれがとまらないぞーっ」
「おれっちは彼女の匂いだけで御飯三杯はいける」
こらこら、このド変態ども僕の妹っぽいものをそんな目で見るな!
そんな見るからに冴えない野獣(人々)がシルクに見惚れている中、サファイヤのように透き通った瞳をウルウルさせる。
ペッタンコの胸元で両手をあわせて性根がひねくれていることを微塵も感じさせない不自然なほど愛らしい仕草で僕に「これを見て見て」と訴えかけてくる。
至急募集。
・家賃徴収管理人
・寮あり、六畳一間、トイレ・お風呂別、共同キッチン。
・年齢、資格は不問。
努力と気力と根性に自信のある方歓迎。
・給料は歩合制。
「にいさま、おまんまに! おまんまにありつけますのです。こうなったら行ってやるのです! コメです、住処と生活安定、貧乏と飢えからの脱出のチャンスなのです、流民生活とおさらばなのです」
「このタイミングで・・・もしや又、罠じゃないかな?」
訝しる僕の鼻っ先にピシッとしなやかな人差し指を押し付けて、「そんな我が儘許さないのです!」と決意を込めた視線を僕にぶつける。
「ここに行くのですーっ!」
シルクはうーんと背を伸ばしつつ、つま先立ちで募集チラシを掲示板からビリッと剥ぎ取るとニンマリホクホク顔でギュッとチラシを抱きしめた。
ふぅと溜息一つ。
僕は嗜虐的な笑みを浮かべて空を仰いで願った。
「運命の神様、もう七難八苦を与えないでください」
シルクはぼそりと口ごもった僕の手をグイッと引っ張る。
「ちんたらちんたら考えるだけ時間の無駄です! にいさま・・・いえ、リン君にいさまにはしっかりうっかり者で曲者もうちがいつもついているのです。だから新しい職場で安心して赤貧生活をエンジョイです」
「貧乏神が威張っていうな!」
「失礼なこと言わないでください、うちは貧乏神なんて道徳心のない輩ではないのです。由緒正しき赤貧の神なのですよ」
「一緒やんけーっ」
運命というか、神様の悪戯というか・・・これが僕とシルクがたんぽぽ荘に居着くことになるきっかけであり、一癖二癖どころか、人智を超えた店子たちとの家賃徴収戦争の幕を開けとなるのだった。