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俺と勇者

朝とても目覚めが悪かった。

もともと朝が強い訳ではないが、ここ最近で一番悪い目覚めだ。


その理由は明確だった。

外の様子がやけに騒がしい。

元々静かな村だから朝は鶏の鳴き声で起きる。それがいつもの朝。


だけど聞こえてきたのは明らかにざわざわと人が何やら騒ぐ声。


俺は大きなあくびを一つし、半ば滑り落ちるようにベッドから降りた。

軽く顔を洗い、いつもどおり適当な服を着る。

ここ最近おしゃれとかしてないな。

好きな子なし、もちろん彼女なしな俺にはおしゃれは結構無縁な世界になってきた。


でも俺だって一応年頃の男子だし、かわいい子がいれば努力はするさ。

けどうちの村には若い女の子は数えるくらいしかいない。

村のほとんどが年寄りだ。


まぁ、そのお陰で孤児の俺をすんなり受け入れてくれて小さい頃は色々世話してくれたから感謝してるんだけど。


それにしても普段大人しい村のじいさん達が騒いでるってよっぽどだな。


ちょっとした好奇心を持ちながら俺は家のドアを開けた。






「村長、こんな朝っぱらからなんかあったのか?」


俺はまた大きなあくびをする。


「おぉ、セトか。えらいことになったぞ!」

「えらいこと?」


村長は明かに興奮して耳まで真っ赤だ。


「ついにこの村にも勇者様がおみえになったのじゃ!」




………え?



「勇者様は旅のお仲間になる人間を探してるらしい。うちの村から勇者様のお仲間が出るとなればワシも鼻が高いぞ!」




うちの村に勇者が来たことなんて過去一度もなかった。

まぁ、こんな辺鄙な村にくる勇者なんてよっぽどの変わり者だ。


しかもどう考えてもうちの村に勇者の仲間になれそうな人間はいない。

完全に勇者の無駄足だな。


「それよりセト、お前も勇者様に挨拶しなさい。」



俺は興奮冷めやらぬ村長に腕を引っ張られながら人の輪の中へ入っていった。



「勇者様、こちらは村一番の若者でございます。どうぞお見知りおきを。」


村長がうやうやしく頭を下げる。





目の前の少女に。




金髪の髪を腰まで伸ばし、深い青みがかった瞳を持ち、何て言うか…かわいい。

というかかなりタイプだ。



この子が勇者?

んなバカな。

あり得ないでしょ。明かに俺より弱そうだし。



こんな華奢でかわいい子が勇者な訳ない。




「あー…村長?誰が勇者だって?」

俺は小声で村長に質問する。

「ばかもん!目の前にいらっしゃるではないか!」

村長はそう怒鳴ると、俺の頭を鷲掴みして無理矢理頭を下げさせる。かなり強い力だ。こんなに力があるんなら普段俺に薪割り押し付けんなよ…。


「申し訳ございません勇者様。礼儀を知らない大馬鹿者でして…」

「村長、そうかしこまらないでください。特別扱いされるの苦手なんです。」



その少女、いや村長いわく勇者か。とにかくその子ははにかみながら俺達に頭をあげるように促す。

声もかわいい。

村にこんな子がいたら俺の人生変わってたな。


髪も服もちゃんとしてくればよかった。

第一印象最悪なんだろうな…。



「はじめまして。私はリアナと申します。最近勇者になったばかりなんです。あなたのお名前は?」

「えっと…セトです…けど。」

「あなた、魔王討伐には興味ある?」

「いえ、全く…痛っ」

隣にいる村長に脇腹をおいっきり小突かれた。

でも村長には悪いけど、正直なのが俺のモットーなんでね。


「討伐の報酬や賞金にも興味ないの?」

「あー、なんていうか命かけてまで金ほしくないっていうか…今の生活で十分満足してるっていうか…勇者とか魔王とか馬鹿馬鹿しくて…」

村長に怒鳴られたが俺は話を続けた。

「魔王討伐に何人費やしたって話ですよ。だってそうでしょ。毎年何人も戦死してる。それに、魔王が暴れてたのはもう何年も前の事ですよね?」

「馬鹿者!お前が言っている勇敢なる戦死者はすべて魔王とその配下に殺されておる!」

村長は堪えきれずにまた俺に怒鳴る。

「それは人間が先に攻撃するからだろ!」

つられて俺も怒鳴る。


実際魔王が大人しいのも事実だ。

今の魔王は土地を侵略してきた者は容赦なく殺しているが、それ以外は村を襲ったりしていない。

そのせいか、皆が言うように魔王が極悪人とは思えなかった。





俺と村長のやりとりを聞いてリアナは考えるように少し眉間にシワを寄せた。

当たり前だよな。やっと着いた村にいた若者がこんなヘタレだったんだから。




「決めました!」


リアナはいきなり大きい声でそう言った。


「私の仲間になってください!セト!」



…え?…今なんて…


俺を仲間に…?



「村長、彼を連れていったら何か支障はありますか?」

「いえいえ!生意気な若造ですが勇者様のお役に立てるならこやつも本望!是非連れていってくだされ!」



俺の返事より先に村長とリアナ、そして回りを取り囲む村人達は大盛り上がりだ。


待て待て、俺は行く気は全くないし、リアナが勇者だって信じた訳じゃない。


「ちょっと待てよ!俺は行くなんて一言も言ってない。」

「あら、両者合意の上で旅立ちたかったんですが…」

「さっきの話聞いてただろ。命を捨てに行くような所になんで行かなきゃ行けないんだよ。」

「でも私はあなたがいいんです。」

「俺は行かないぞ。」



周りは明かに不穏な空気になった。

人の気も知らないで。

お前ら命かけれんのかよ。



俺とリアナはど無しばらく無言だった。

村長ははらはらと事の成り行きを見守っている。



そして長い沈黙の後、諦めてくれると思っていた俺にリアナはため息混じりにこう言い放った。


「不本意だと思いますが、仲間になってもらいます。」


そういってリアナは懐をごそごそと探る。

出てきたのは金色のエンブレムだった。無駄な装飾はなく、気品あるデザインだ。エンブレムの中央には剣を持った騎士の姿が刻まれている。

勇者証だ。写真で見たのと全く同じ。


リアナを本物の勇者だと認めざるを得なくなった。


「勇者特権第三条に基づき、あなたを魔王討伐の同行者として任命します。」



勇者特権とは勇者にだけ与えられた特権の事だ。

各地の危険地域の立ち入り許可や国王の謁見優遇、宿屋の無料宿泊など旅に役立つ特権が勇者には与えられている。


そしてリアナが言った特権第三条とは同行者任命権の事だ。


勇者はさまざまな街や村を訪れ仲間を探すことができる。

任命された者は余程の理由がなければ拒むことはできない。


そう、今の俺の様に。






「出発は明日の朝にします。それまでに最低限の荷物を用意してください。しばらくは帰ってこれませんから、皆さんとのお別れも忘れずに」


リアナはそう告げると、背を向け宿屋へと向かう。


「待てよ!なんで俺なんだよ!」

一方的な言い方をされ、拒否権がないとわかっていながらも俺は納得できない。

俺より強いやつはいっぱいいる。俺より頭の切れるやつだっていっぱいいる。俺より魔王と戦いたいやつだっていっぱい…。




リアナは少し振り替えると、少し悲しい顔をして呟いた。



「すべてを終わらせたいから。あなたはそれができる。」


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