02
バカをやりました。01は短編登録してしまいました・・・orz
今のあきらは午前中を勉強にあて、午後をキッドとの格闘訓練にあてていた。
ディランやDr佐和が云った通り十歳にしては早熟なほどの知性と認識力を持っているあきらは、同世代の子供とでは同じ勉強は出来なかった。言語や各国の政情までを驚くべき勢いで吸収して行く我が子にキリ-は呆れたように笑いながらも詰め込めるだけ詰め込んでいたし、格闘訓練では今ではアリスと対等に仕合っていたが、徒手を中心にキッド譲りの小太刀や棍まで使いこなすあきらに先月アリスは自分からの卒業を言い渡した。
『次はキッドに習え。まさかこんな事を云う日が来るとは思わなかったが・・・俺が教える事はもうない。卒業おめでとう。』
型も間も反射も何一つ問題は無い。体格は今の時点ではどうしようもなかったし、育つのを待つしかないのが現実だった。アリスに出来るのは可愛い弟子を次の段階に送り出してやる事だけだった。
だから今はキッドがあきらの師匠となっている。
『教える時は師匠と弟子だ。決して母ちゃんとは呼ぶなよ。』
学業も格闘訓練もこの一年は一人で受けていたが時折教室に遊びに行った。つい最近までコロコロ一緒に育てられた友達や、キッドが拾ってきた孤児達と遊ぶためだったがその日の教室は何処か様子がおかしかった。
「ちび。」
いきなり結衣が腕を掴んで廊下に連れ出す。
「日本に行くって本当?」
「・・・いや、まだ行かない。誰が云ったんだ?」
「ホセが・・・」
「ちび!」
振り向くと痩せてはいるが既に大人並みの背丈を持つホセが其処に立っていた。
これぐらい大きければいいのに、と見上げたあきらにホセは咬みつくように喚いた。
「日本なんかいくな! お前は此処で生まれたんだ!俺達と一緒に此処で暮らすんだ!!」
「まだ行かない。それと私に指図はするな。」
酷く冷静な言葉と表情にホセはたじろいだ。
あきら自身に違和感は無いし周囲の大人たちも慣れていたが、子供と云われる年代にとってあきらの奇妙な成熟度はどちらかと云えば畏怖の対象だった。五年前に二親を失って死にかけていた処をキッドに拾われたホセは、あきらと兄弟の様に育てられたが十五歳の今は青年団で暮らしていた。十三歳から二十歳までの身寄りのない男子が其処に入る事になって居て、その後は独立してフェニックス基地で働くか外に出て行くかを選択する。
基地は規則は緩やかだったが幾つかの決め事を破るととてつもない罰則が待って居た。
概ねキッドが出張る事となるから実に犯罪率の低い集団である。最近では二年前、あきらの誘拐事件で五人の男達が捕まり全員を相手の大立ち回りの挙句、全員が半殺しになった。キリ-が止めなければ殺して居ただろう事は基地の総ての人間が解かって居た。
(尤もそう簡単に人を殺すことなど無いのだが、あえて訂正する必要はない。
そう思わせておけば問題の大半は手を下すことなく片付く。)
キッドを怒らせると恐ろしい。
そしてなお恐ろしい事に止めたキリ-はキッドよりも強いし、一番格闘は不得手だと自ら公言するエラ-でさえも大の男三人を平然と叩き伏せる実力を持っている。
如何に血気盛んな若造でも、ごり押しの強いメキシコ人でも、G倶楽部相手に喧嘩を売る大人は居なかった。
「なあ、どうして日本に行くんだ?」
ホセは下手に出たがあきらは意にも介さない。
「お前には関係ない。」
「遊びに行くんなら俺も連れてってくれ、日本語も少し覚えたぞ。コンニチハ、アリガトゴザマス、クイタイデス・・」
あきらは今朝のディランを真似て両手を腰に当てて溜息を吐いた。
「お前は腕力以外に取り得は無いのか。もう少し脳味噌の使い方を覚えろ。」
三年も日本人家庭で暮らしながらそれしか覚えて無いのか、まして正しい日本語でも無いじゃないかと切り捨ててあきらは背中を向けた。
「結衣、また来る。」
どうも今日は碌な日じゃない。きっと月が出て無いからだな。
呟きながら帰ったあきらでは有ったが、最大の厄介事は夕飯の後に正装でやって来た。
ノックの音にキッドがドアを開けると立っていたのはホセだったが、キッドはまじまじと見つめてしまった。
「いったいどうした、葬式か。」
誰かに借りたのか身体に合わないスーツ姿で、手には一輪の薔薇の花を持っている。
「ちびに・・・結婚を申し込みに来た。」
長い時間キッドは硬直していたがキリ-が持ち上げて退かし、やっとホセは室内に入ることが出来た。
「とにかく本人に云うべきだろう。」
「十歳児にか・・・いったい今日は何の厄災日だ。」
こそこそと囁く二人の前でカチコチに緊張したホセがあきらの前に立った。
薔薇の花を差し出して一言。
「結婚してくれ。」
「済まない、お前と結婚することは出来ない。」
「せめてもう少し考えてくれないか。」
「同じだ。」
「じゃあ・・・付き合ってくれ、そうすれば俺の良い処も判るだろう。」
「お前が嫌いなんじゃない。良い処も知ってる。でも駄目だ。」
「お、お友達でも良いから。」
「もうお友達だろう。」
「・・・・・・・・・・・理由を聴かせてくれ。」
「やりたい事が有る。でもそれ以上にお前と結婚しようとは思わないんだ。私の中ではお前は兄弟だから。」
「俺は・・・初めて此処に来た時からお前と一緒になる心算だった。いつかキッドとキリ-の様な夫婦になってこの基地で暮らそうと思っていたんだ。」
「悪いな。」
「諦めないぞ、俺が好きなのはお前だけだ。」
ホセが帰った後、テーブルに残された薔薇を手に取る。
「フェニックスの街まで買いに行ったのかな。」
基地にこんな花は無い。
それを思うと気の毒にはなったがあきらは似合わない溜息を吐いて花をコップに挿した。
その話はキリ-やキッド、無論あきらが広げた訳では無くホセ本人が触れ回っていた。
曰く、今は子供だがゆくゆくはホセとあきらは結婚してG倶楽部員になる・・・全く事実と異なる内容だったが大人たちは驚いて、その噂は基地内を素晴らしい速さで駆け巡った。
だがどう云う訳か子供たちは誰一人信用しなかった。子供たちはあきらが自分たちとは違う人間だと知って居た。両親がG倶楽部だからでは無い。あきらがいずれG倶楽部に上がるからでも無い。
あきらと云う個体が完全に自分たちとはかけ離れた種類だと本能と直感で知って居たのだ。
おそらく知らないのは本人とホセだけだろう。
キッドとキリ-は聞かれると正しい答えを告げたからその噂は短い時間で消えたが、ホセがあきら狙いだと云う事実だけは残った。
ホセは人気は有った。短気で押しこそ強いが明るく、良く働くし自分の仲間には優しい男だった。
親分肌なのだろう。だから当然女子にも人気は有った。
二.三歳上から二.三歳下の女の子たちはそろそろ目を付け始めていたし、誘いも掛けていたのだがホセの宣言に潮が引くように消えて行った。
彼女達の眼は実にシビアに現実を見ている。
キッドのたぐい稀な美貌を最近形の整ってきたあきらが引き継ぐのは判り切った事。
敵わない相手と争う気も無い。
あきらに余計な虫が着かない様に手を打った結果、自らの首を絞めたホセであった。
ヤケクソなのか腹立ち紛れかは知らないがホセは毎日あきらに付きまとうようになり、ディランとの勉強中もキッドとの訓練中も暇さえあれば顔を出した。
「ホセ、此処は立ち入り禁止だ。」
G倶楽部の敷地内とディランの自宅に禁止が宣言されるとあきらの自宅前で待ち伏せた。
「しつこい男は嫌われるぞ。」
「それだけお前が好きなんだ。」
「最近は教室にも行って無い様だな、仕事はしてるのか?」
都合の悪い質問には答えないがキッドが顔を出して、
「ホセ、晩御飯食べて行くか?」
「勿論。キッドの飯は美味い。」
如何にも嬉しそうに食卓に居座ってきちんとしたマナーで食べ始めた。
此処に来た時はガツガツとした行儀の悪い子供だったがキッドの厳しい躾はどうやらまだ忘れて無い様だった。
キリ-もキッドも久しぶりの養い子を歓迎していたし、食事時は楽しく過ごすべしと云うキッドの持論に従ってあきらも機嫌良く食事を済ませた。
問題はその後だった。
「さてホセ、最近教室に行って無い様だな。」
キッドの言葉にホセは蒼褪めた。
「畜舎の掃除もこの十日行って無いと聞いたぞ。」
キリ-の気圧の下がった声に更に顔色が無くなる。
珈琲を淹れながらあきらは表情ひとつ変えず聞いていた。
「お、俺はやりたい事が出来たんだ、だから・・・」
どもりながらも言抜けようとするホセにキッドが小首を傾げて尋ねる。
「ん? 何がしたい?」
「・・・・・・・日本に行きたい・・・」
一瞬黙った二人はその後怒涛の様な攻撃を開始した。
「日本だと?日本語も話せないで何をしに行く気だ。」
「日本でどんな仕事をする積りだ。」
「大学は今のお前のレベルじゃ入れてはくれないぞ。」
「此処で通用しないで何が出来る。」
「女の尻を追いかけるだけがお前の目的なのか。」
「お前は馬鹿だ。そんな奴に書類なぞ誰が造るか。」
淹れた珈琲を三人の前に置いてあきらは自分用のミルク珈琲をこくりと飲んで告げた。
「意思の表明をするなら、反対意見への傾向と対策は常に考えて置くものだ。まだまだ甘いな。」
十歳にしてそれを思い知らされたあきらは、おやすみなさいとにこやかに告げて自室へ向かった。
二人の説教はその後も続いたようだった。
身長は確実に伸び、それに比例して知識も深くなる。
十二歳の今ではキッド相手の戦闘訓練を受けるまでとなった。
ダガーと銀線、小太刀の腕はキッドに勝るとも劣らないがやはり体格の不利は今の段階ではどうしようもない。
徒手は時折キリ-も見て呉れて速さと切れに問題は無い。
「参るな、戦闘兵士の雛どころかまさに若鶏だな。」
珍しくディランが訓練所にやって来て嘆息した。
「うちのミイちゃんは諦めて無いぞ、未だにIQを調べたいと昨日もせっつかれた。」
十歳宣言後にDr佐和がキッドに申し入れ、蹴られた事案をまだ諦めて無い事はキリ-も知って居たが、
「それを調べても本人や俺達に何の変わりも無い。おかしな数値に捉われてちびの自由が無くなる方が俺としては恐ろしいんだ。」
我が子ながら凄まじい勢いで吸収して行く様は、事在る事に眼を奪う。今もキッド相手の戦闘訓練で対等に試合っていた。
「俺もそう云ったんだが・・・あぁ、良い動きだ。お前達の子だな、こうしてみると。」
「ああ、後は実戦デビュ-をさせないと。」
ディランの表情が変わった。
「本気か。まだガキだぞ。」
「すぐじゃないが大事でのデビュ-はきついだろう。
俺とキッドが着いてやれて、十分な援護体制を取れる案件で考えている。今の状態はキッドの初陣当時より上だ。」
キリ-の眼は戦闘兵士としてのあきらを見ていた。
それが羨ましいのか、はたまた悔しいのか・・・
ディランには子供が居ない。G倶楽部として生き、其処で死ぬつもりでいたが追いかけて来たDr佐和にしてやられた。ベルリンまで来られてはディランとしてはどうしようもなかった。
おそらくジ-ンはそれを見越してDr佐和にディランの所在地を教えたに違いない。
お節介な野郎だと思いながらも結局は落ち着いてしまったのが良いのか悪いのか。
それでも子供を作る気にはなれなかった。
Dr佐和が了承してくれたのは彼女の優しさ、自分の引きずる思いを解かってくれる女性で良かったといくら感謝しても足りない。だからこそ死に損なったモクの気持ちは良く解かった。
抜け出せない底なし沼に嵌まり込んだまま途方に暮れている男の気持ちは同じ思いをした者にしか解からないだろう。ディランにDr佐和が居た様にモクにも誰かが居たならきっと随分と変わって居た筈だが・・・
このまま行けばそれは今、眼の前で着々と実力を付けて来たチビガキになりそうな気配であった。
モクがどういう積りでちびの面倒を見ていたのかは判らないが、ディランが見る限り単に機嫌を取っているだけで無い事は解かった。僅かひと月で見違えるほど人間の子らしくなったのは事実。
ふたりの会話を聞いてると対等の人間として扱っていたし、ちびが驚くほどの知性を持っていた事に素直に驚いたのも確かだった。
モクがこんな仕事に不似合なほど優しい男なのは知って居たが、だが。
(・・・幾ら俺より五歳も下とは言っても・・・そりゃぁ無いよなぁ・・・)
本人が望みキッドとキリ-が認めるなら仕方が無いとは言えどうにも疑わしいディランであった。
「まだ日本に行くと云ってるのか。」
「ああ、毎日身長を計っている。」
片頬で笑いながらキリ-が呟いた。
「ちびが決める事だ、俺達は何処ででも生きて行けるように鍛えてやるしかない。それに・・・ホセより良いだろう。」
ホセなど端から問題にはならない。
「論外だ。あれにやる位なら俺が貰う。」
ディランの掟破りな発言にキリ-は爆笑した。
あきらの初陣は十三歳の時だった。
エルパソ近郊で起こった小規模な暴動は、当初フェニックス基地所属の陸軍だけで片付くはずが予想外に長引きG倶楽部に出動要請が出された。
基地司令キリ-が揃えた顔触れはキリ-以下、キッド、アリスとあきら。割り込んだのはディランとイヴ。
「おい、幾らなんでもエラ-一人で留守は気の毒だぞ。」
ぼやいたキリ-を笑ったのは当のエラ-だった。
「ギャラリーが多いのはお前のAチームなら当然だろう。」
かつてキリ-が担当伍長を勤めたAチームは話題性満載でG倶楽部の総帥ジ-ンからローワンは当然として、下は尉官クラスから上は将官まであらかたの部署の責任者が見学に来ていた実績がある。
それを思い出して苦笑が漏れたがキリ-はその表情を引き締めた。
「では、行こう。」
エルパソ郊外とは言え市街地を巻き込んで居た為、州警察と軍は強大な軍事力を使い切れていないのが長引いた原因で有った。
「首謀者はあのビル内を占拠している、人質は二十名は下らない筈だが、あれだけでは無く周囲の三つのビルも占拠していて近づくことが出来ない。」
日本陸軍フェニックス基地統括責任者の太田中尉はチラリとあきらを見下ろした。
「班長・・・ちびの初陣か。」
「そうだ、宜しく頼むな。」
横からキッドとイヴが顔を出す。
「御幸ちゃんと組めてちびもラッキ-だよ、宜しくね。」
「親子二代と組めるなんてさぞかし嬉しかろう。」
太田御幸陸軍中尉は大きな溜息を吐いた。
周囲のビルの制圧はアリス、ディラン、イヴがそれぞれ二子分隊を率いて受け持ち、本拠地はキリ-とキッド、あきらが太田中尉以下の精鋭と組んで担当する事となった。
「一気に落す、行け。」
走り出したあきらは多少の緊張を感じていた。
独りで戦うだけでは済まされない、人質を無事助け出して初めて任務が成功と云えるのだと解かって居た。
五階建てのビルの階段を敵を制圧しながら駆け登りキリ-と左右に展開して一気に踏み込んだ。
驚いた敵の顔など見る余裕も無い。手足が動くままに叩き伏せ気がつくと終わっていた。
人質はキッドとイヴの同期、太田中尉の指示で既に階下に向かっていた。
四つのビルの制圧に掛かった時間は十五分弱。銃弾は一発も使用されないばかりか敵に許す事も無い。
完勝だった。
テキサス州、ニュ-メキシコ州の州警からすれば驚くべき事態であったが、さっさと引き上げるフェニックス基地所属日本陸軍の中に弱冠十三歳の初陣を飾ったあきらが含まれていた事など知る由も無かった。
「今日は何をしていたんだ?」
「外回りだ。」
「問題でも有ったのか?」
「この周辺には無い。」
「それは良かった。明日は何をするんだ?」
「外回りだ。」
「大変だな、基地内の見回りはしないのか?」
「来週だ。ホセ、毎日同じこと聴くな。」
「じゃぁ、結婚しよう。」
「駄目だ。」
あきらは十四歳の春、正式なG倶楽部員として認められた。初陣以後、大半の事件、案件に出動し場数も踏んで来ているし、最近では単独での任務も危なげなく熟していた。
小さな身体で平然と敵を叩き潰す姿に陸軍兵士から敬意を込めてオセロット-小山猫-の呼び名がつけられたが、コールネームはフレア。揺らめく炎であり太陽の異名となった。
今ではキッドの代わりとして外のパトロールも仕事に入っている。
そしてホセは相変わらずあきらの周囲に出没し、事在る事にプロポーズを繰り返し断られていた。
「これから何をするんだ?」
「秘密だ。」
それはG倶楽部としての仕事、エラ-に着いて情報機器を扱う仕事だった。仕事と云っても今のあきらには総てが教育、育成に他ならない。覚える事は限りなくある。
未だに語学、政治経済、世界情勢を習い続け戦闘訓練もキリ-に付けて貰っていた。
一般の子供とは遥かにかけ離れた存在では在ったがG倶楽部の申し子としてはある意味当然な事。
以前Dr佐和が云ったようにフェニックス基地の希望の星である事に違いは無い。
だが、やはりホセにはそれが理解出来て居なかった。
だからその事件を起こした時もホセは自分なりの言い分を振りかざしたのだが・・・・
あきらがエラ-の情報室を出たのは気持ちの良い初夏の夜、新月で星だけがちりばめられていた。
星明かりは影を作るほど強くは無いが慣れた道に恐怖など感じる事も無い。
まして戦闘兵士としてフェニックス基地には知られたあきらでは。
油断と云うならそれも仕方が無い。
知らない顔ならあきらも警戒はしただろうがホセではその必要も感じなかった。
自宅までもう何分も掛からないG倶楽部の訓練所の陰からホセが現われて手招きをする。
「何だ、どうしたんだ?」
踏み出した脚が何かにつまずいて気を取られた瞬間腕が捕まれた。転ばない様に支えてくれたのだと思ったのも相手がホセなればこそ。それが間違いだと気付いたのはそのまま押し倒された時だった。引き裂かれたシャツに思わず身が竦む。はだけられた身体から作業パンツに手が掛かり手荒く引き下げられた時になって初めて何が起こったのかが判った。
「止めろ!」
だが馬乗りになったホセの体重はあきらでも跳ね返せないし、両手を頭の上で抑えられては身を捩る事しか出来ない。
恐怖に眼が見開かれた時、ホセの身体が弾け飛んだ。
「馬鹿ガキが!」
エラ-があきらに背中を向けてホセに向かっていた。
そのまま着ていた自分のシャツを脱ぐと振り返りもしないであきらに投げて寄こす。
コールを出したのだろう。シャツを着る間もなくキリ-とキッドが駆けつけ、直ぐにイヴとディラン、アリスが走って来た。
ディランが携帯端末でDr佐和を呼び出す間にキリ-がアリスに命じた。
「その馬鹿の処分は明日付ける。隔離して放り込んでおけ。」
その氷点下の声、怒りに満ちた響きにホセはG倶楽部全員の逆鱗に触れた事に初めて気づいた。