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執行前夜


 誰でもよかったのよ。




 薄暗く、冷たい石造りの牢。そこに手足を繋がれて収容されている女が蔑むような笑みを浮かべて呟いた。

 かつては太陽に愛された娘、大輪の薔薇のように美しい女性と呼ばれ、誰もがうらやむ様な婚姻をした女。


「……なぜですか……。なぜ、こんな事に」


 牢に縋るようにして座り込み、綺麗な制服が汚れるのも気にせずに膝をつく騎士にも女の表情は揺るがない。

 かつては美しかった髪も、陶磁器のように艶やかで雪のように白かった肌も潮風と日光で痛み、薄汚れている。捕まった時に来ていた服も、かつてからは想像もできないほどのものだった。


「だって、誰も私の事を理解してくれなかったじゃない?」


 鉄格子の隙間から伸びた手が、俯く男の頬を優しく撫でた。その手もひび割れや傷跡がある。


「一番近くて私を見ていた、貴方ですら……」


 その言葉に男ははじかれたように顔を上げた。


「それはっ」

「誰もが羨むなんて嘘。私は望んでなんかいなかった。……だからあの日あなたに……。いえ、過ぎた事はもういいの。確かなのは、あの人だけが私の苦しみを理解して、あの地獄の様な場所から助け出してくれたのよ」


 女の言うあの人は、もうすでに民衆の前で首を吊られた。

 明日はこの女の番。


「さぁ、もう行きなさいな。あなたの中にいるかつての美しい娘なんてもう死んでいるのよ」

「……私は……」


 何か言いかけた男に背を向け、女は無言で男に出ていくように促した。

 やがて足音が響き、扉がしまる。

 男が出て行ったのだろう。



「私を助けだしてくれるなら、誰でもよかったの……」




 嘘。

 本当はあなたに助けてもらいたかった。

 でも、それはもう叶わない。

女:誰もがうらやむ結婚をしたけれど、本当は不幸だった元貴族

男:当時女の護衛を務めていた

あの人:女をさらった海賊


的なイメージ~

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