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置き物

ブラックナイト田中さん

作者: 立花豊実

 

「電極はボクからあなたへ。はい、これどうぞ」

 差し出された豪勢な花束から、はらはらと花弁が落ちた。

 とりあえず受け取ってみると、添えられていたカードの存在に目がつく。ピンク色の地にやたら綺麗な字で英語の長文が書き連ねられ、ところどころ「LOVEっ!」「あはっLOVE!」「もうっLOVEたまらん!」とか書かれている。ばかだ。

「ええと……、これは?」

「惹かれあうように、ボクらは出会ったね?」

 アヤミの質問が頭に入らなかったのか、もともと日本語を解する能力に欠陥でもあるのか、その人は勝手に話をしだした。また突拍子もないバカが始まったな、と思った。

「バチバチ迸った電撃の快感を、ボクは未だに忘れることができない。そう、あれは聖なる夜のことだった」

「やめて。すとっぷ。聞きたくないよそんなの全然。……何しにきたのよ?」

 アヤミの自宅一軒家の庭先で、その男は「ふんどし一丁」で佇んでいる。何を隠そう、彼はアヤミの実家「矢芝家」のホームセキリティ・メンとして雇われていた「田中さん」だ。年齢は十九。アヤミより二つ上で、ムキムキの肉体は絵になるけれど、世間体というものがやはり気になるので「脱ぐな」といつも忠告している。

 ホームセキリティ・メンとはホームセキリティ会社「バッチコイ」に勤める社員で、特記事項は「強い」「責任感パない」「田中さんはイケメンだけどヘンタイ」等である。

 むしろ警察に突き出したほうがいいぐらい。

 けれど、田中さんは凄腕のホームセキリティ・メン。矢芝家にとって他を圧倒するそのクオリティは必要不可欠なものであったし、彼自身も身を挺してよく働いてくれた。ほんとに、命も顧みず戦ってくれた。

「君に会いたくてきたかった。けどね、きちゃった」

「おかしいよ日本語が。もう、勤めは終わったんでしょう? ……早く帰ってよ」

「すっごくさむいんだ。ガクブルなんだ。暖めてもらわなきゃ、がくぶるだ」

 そう言って自分を抱きしめてジタバタする田中さん。すごく変態っぽい。

「フンドシで来るのが悪いんだよ。見てるこっちが寒い」

 アヤミは「ふんどし」から目を逸らして、ロマン気のある空を見上げた。

 夜が透き通っていて星がとてもきれい。吐いた息が白く昇って、師走も終わりの頃合がよく身にしみる。

 祭りでもないのにフンドシなんて、やっぱりばかだなあ田中さん。

 アヤミはちょっと可笑しくなってきて、吹き出してしまった。

「お、その笑顔すてき。ボクへの求愛?」

「ぜったい違うと思うよ」

 でも面白くて、笑っちゃった。

 田中さんも笑ってた。

 しばらくは静寂。そしてアヤミが口を開いた。

「『変な男には惑わされちゃいけない』って。田中さん、私、ちゃんとできるようになったでしょ」

 言ってみると、田中さんは誇らしげにしていた。親指をおっ立て、

「安心した」

 もう「自分は必要ない」とでも言うかのよう。それが気に食わなくて、なんだか嫌で。

「ねえ、田中さん」

「ん?」

「私、いつかね……」

 自分の声が震えるのはきっと師走のせいだけど、今もどこかで、いずこのホームで、彼はきっと、誰かのためにセキュリティっているに違いない。


『ブラックナイト田中さん』


 完


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