夏休みの作戦
ふと、思い出すんだ・・・夏になると
あの日僕に起きた大冒険の始まりを
僕の名前は結城ヒロ
これは僕が小学6年生の頃のお話
ここは新潟県中越にある広神村という小さな、小さな村
今年の蝉はいつになくうるさい
寝ている部屋の窓に止まって、けたたましく鳴かれると
気が狂いそうになる程だ
今年は小学校最後の夏休み
僕は仲の良い友人3人に声をかけ、大きな思い出を作ろうと計画していた
その友人というのは、喧嘩は強いが勉強はダメ、典型的ガキ大将デブの大山浩太
その逆に勉強は学校一だが運動がからきし、ヤセの田沼裕二
そして、1年生の頃からの大親友、上田拓だ
僕らの計画、それは、僕が生まれる前から家のガレージに置いてある
忘れされたトラック、見たところ外国製の深緑の車体に
大きなボンネット、運転席も4人乗りの、今思えば無免許で運転するには些か過ぎた車体だった
僕らはこれをレストアし、村中走り回ろうというのだ
夏休みに入る前から夜な夜な4人で集まり
裕二の持ってくるノートパソコンで調べながらコツコツ頑張ってきた
1年生の頃から貯めてきたお年玉はとうとう底をついたが
なんとか夏休みの計画には間に合いそうだ
浩太『だーかーら!!』
浩太『ブレーキがスカスカだから、まだ走らせたら危ないって』
裕二『でもさ、オイルは入れたし漏れもないから、問題は無いはずだよ』
この二人と言わずに僕らの言い争いは絶えなかった
拓『それなら、ゆっくり走りだして、止まらなかったらサイドブレーキを引けばいいよ』
僕らの言い争いの仲介に入るのはいつも拓だった
拓は勉強もできるし運動もできる、女の子にもモテるという
僕らからすればこの上なく完璧な少年だった
喧嘩っ早い浩太も拓の言うことにはいつも素直に従った
僕らの関係は大まかに言うと四すくみの状態で
裕二は浩太に弱く浩太は拓に弱い
そして拓は何故か、僕の言うことだけは絶対という感覚が我ながらにあった
その理由はさておき、トラックのレストアも迎えるところバッテリーの交換だけになったのだった
ヒロ『はぁ~~~・・・』
ヒロ『まさかトラックのバッテリーがこんなに高いなんて・・・』
ネットで調べて、中古でも2万は下らなかった
お年玉は全員そこを付いてるし、大きな壁にぶち当たった気分だった
浩太『あ・のさ・・』
浩太『どっかから盗んでこようぜ』
僕らは全員目を見合わせた
実を言うと全員同じ事を考えていたのだ
考えてはいたが、口には出せずにいた
それを浩太が代表して述べたのだった
裕二『僕は、・・・嫌だな』
しばらくの沈黙の後、裕二が口を開いた
裕二『無免許で運転するだけでも犯罪だよ?』
裕二『それは事故さえ起こさなければ人にかかる迷惑は最小限で済むけど』
裕二『物を盗めばそれだけで大迷惑だ、・・・反対だな・・』
浩太『じゃあ、お前どうにかできんのかよ!!』
浩太『大体お前は、いつもいつも・・・・』
また二人の言い争いが始まった
ヒロ『待てよ・・・盗む・・・』
ヒロ『・・・そうだ!!』
全員が僕を見た
ヒロ『なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだ!!』
僕はガレージの端に置いてある布を大きく振り払った
『おやじの車!!ここからとっちゃえば、終わった後に返すだけで誰にも迷惑かからないよ!!』
全員が歓喜の声を上げた
と同時に拓だけが悲しそうに目を伏せた
僕の親父はその頃、半年前から行方知れずだった
家族に何も告げず、家を出たっきり半年が過ぎていた
ヒロ『拓、今はいいんだそんな事、それより親父が居ないおかげで、バッテリーをゲットできた事を喜ぼうぜ』
僕は小声で拓にそう言うと、家の中に車の鍵を探しに行った