1. 異世界の果て、アスファルトの露 。異世界の果て、高額な蘇生代金
「成功だ……。ついに、ついにやったぞ!」
歓喜と誇らしさに満ちた荒い吐息が、薄暗い小さな部屋に響き渡った。アップフェル村の十八歳の青年、コリンは、手の中にあるものをまるで世界で最も価値のある宝物でも見るかのように、瞳を輝かせて見つめていた。そこには、淡い光を放つ銀色の金属で作られた腕輪があり、その表面には繊細な魔力の波動を放つ複雑な刻印が施されている。
「まさか、魔導師の塔の片隅で見つけたあの古本が、これほど分かりやすかったなんて。難解な用語ばかりの分厚い魔導書より、ずっとシンプルだった」
コリンは、仕事で荒れた指先で愛おしそうに腕輪をなでた。数ヶ月の間、希少な材料を探し、指示通りに調合し、呪文を唱え続けた日々。そして今、伝説にしか存在しないと言われる「異次元へ転移する魔道具」が完成したのだ。
期待と不安で震える手で、コリンは腕輪を装着した。深呼吸をし、起動の鍵となる最後の呪文を唱える。刹那、黄金の光が全身を包み込み、激しい風が吹き荒れた。体全体が見えない力で引っ張られるような感覚に襲われ、次の瞬間、部屋の中からは青年の姿が完全に消えていた。
意識が戻ると、コリンは見知らぬ深い森の中に立っていた。村の木々よりも高く、密度も濃い。空気もどこか違い、ひんやりとしていながらも嗅いだことのない不思議な香りが漂っている。
「ここは一体……」
慎重に周囲を見渡していると、突然、空から聞いたこともないような轟音が響いた。どんな猛獣の咆哮よりも巨大な音だ。
(ヒュォォォォ……ブゥゥゥゥン!)
コリンは反射的に茂みの中へ身を隠した。心臓が口から飛び出しそうなほど激しく脈打つ。息を殺して空を仰ぎ見ると、彼は驚愕のあまり目を見開いた。
「な、なんだ……あれは!?」
澄み渡る青空を、光り輝く巨大な金属の塊が浮遊していた。奇妙な形をしており、上部では羽根のようなものが高速で回転している。あの轟音の正体はあれだ。(ヘリコプター)
「翼もない鉄の塊が、空を飛んでいるのか……? これが本当に異世界なのか? それとも、ここに棲むモンスターの一種なのか?」
冷や汗が全身を伝い、恐怖で膝が震える。村の老人たちの話では、場所が変われば未知の危険が潜んでいるという。ある場所での日常は、別の場所では最悪の恐怖になり得るのだ。
「もしあれがモンスターなら……なんて奇妙な姿なんだ。口も爪もないのに、雷のような声を出して飛んでいる」
コリンは震える体をなだめるように自分に言い聞かせ、その物体が雲の向こうへ消えるまでじっと息を潜めていた。
安全を確認した後、コリンは森の中を歩き始めた。魔導書の記述を思い出そうとするが、この場所に関する記録はどこにもなかった。数時間歩き続け、ようやく木々が開けた場所に辿り着いた時、彼は再び絶望的な衝撃を受けた。
「道……か? でも、真っ黒だ。表面が溶けた石のように滑らかで硬い」
彼はしゃがみ込み、指先でその道をなぞった。「僕の村は土や砂利道だし、都会でも石畳だ。これもこの世界の特徴なのか?」
立ち上がって道に沿って歩き出そうとしたその時、遠くからさらに激しい地響きのような音が迫ってきた。
(ブゥゥゥゥン! キィィィィン!)
慌てて巨木の陰に隠れると、赤い光沢のある物体が猛スピードで目の前を通り過ぎた。車輪のついた鉄の箱のような形をしており、凄まじい風を巻き起こしている。そして何より驚いたのは、その中に「人間」が乗って操縦していたことだ。(自動車)
「おお……なんてことだ。馬も引いていないのに動く鉄の馬車か? しかも人が乗っている……。ということは、あれはモンスターではなく、僕らと同じ人間が作った道具なんだ!」
恐怖は次第に、燃え上がるような好奇心へと変わっていった。この世界は素晴らしい。自分の常識では不可能なことが、ここでは当たり前のように存在している。
コリンは勇気を出して隠れ場所から這い出した。彼は道の真ん中に立ち、また同じような乗り物が来るのを待った。近くで観察したかったのだ。人が操縦しているのなら、悪いようにはされないだろう――そんな甘い考えを抱いていた彼は、自分に迫る死の影に気づいていなかった。
反対方向から、白い巨大な車が高速で走ってきていた。運転席に座る「ジョコさん」という男は、連日の長時間運転で激しい眠気に襲われていた。意識は朦朧とし、視界は霞んでいる。彼は道の真ん中に立つ青年の姿に、全く気づいていなかった。
コリンは笑顔で手を振り、その瞬間――。
(ドォォォォン!!)
凄まじい衝撃音が静寂を切り裂いた。コリンの体は布切れのように宙を舞い、硬いアスファルトに叩きつけられた。鮮血が路面を濡らし、手足はありえない方向に曲がっている。彼は声を上げる暇もなく、深い闇へと意識を失った。
トラックの中、ジョコさんは冷水を浴びせられたように飛び起きた。顔は土気色になり、ハンドルを握る手は激しく震えている。
「な、なんだ!? 今、何かに当たったか……!?」
急ブレーキの音が夜の闇に響く。彼は震える足で車を降り、衝突現場へと駆け寄った。
血溜まりの中で動かなくなった青年を見たジョコさんは、パニックに陥り、自分の頭を何度も叩いた。
「クソッ……なんてことだ! なんでこんなことに!」
彼はコリンの体に歩み寄った。
「おい、生きてるか? 返事をしてくれ……、お兄ちゃん(坊や)!」
胸に手を当てると、鼓動は今にも消えそうなほど弱い。全身の傷は見るに堪えないほどひどかった。
「勘弁してくれよ……。なんでこんな道の真ん中に立ってたんだ!? 自殺でもするつもりだったのか? 死にたいなら他を当たってくれよ、俺を巻き込まないでくれ! ただでさえ生活が苦しいのに、これ以上問題を抱え込むなんて……」
ジョコさんは泣きそうな声で、怒りと悲しみが混じった独り言を吐き捨てた。周囲を見渡しても、家も街灯も人影もない。ただトラックのヘッドライトが、残酷に現場を照らしているだけだ。
最悪の考えが頭をよぎった。
「もしこれを通報したら、俺は間違いなく刑務所行きだ。家に残した妻や子供たちはどうなる……? しがない運転手に、高い賠償金なんて払えるわけがないんだ」
ジョコさんは、罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、動かなくなったコリンの体を抱きかかえ、道路脇の小さな森の中へと運んだ。彼は大きな木の下に、トラックに積んでいたスコップで深い穴を掘った。
遺体を埋め終えた後、彼はせめてもの供養として、手持ちの「チョコパン」一袋と「コーラ」の缶を土の上に置いた。
「許してくれ、若いの……。俺にはこうするしかなかったんだ。家族を守らなきゃいけないんだ。ここで安らかに眠ってくれ。俺を恨まないでくれよ……。あんたが天国へ行けるように祈ってるからな」
震える声で祈りを捧げると、ジョコさんは一度も振り返ることなく、逃げるようにその場を去っていった。
暗く冷たい土の中で、コリンの体は静かに横たわっていた。加害者が残した奇妙な供え物と共に。しかし、ジョコさんが去って間もなく、奇跡が起きた。
土の中から、眩いばかりの黄金の光が溢れ出したのだ。その光は森全体を昼間のように照らし出し、さらに輝きを増した後、一気に収束した。再び静寂と闇が戻った時、そこにはコリンの体も、供えられた物も、跡形もなく消え去っていた。
「死の淵からの生還、おめでとうございます、お客様(お客様—sama)。」
穏やかだがどこか冷徹な響きを含んだ声が、コリンの意識を覚醒させた。ゆっくりと目を開けると、そこにあったのは暗い土の中ではなく、美しい彫刻と心安らぐ黄金の光を放つ魔導具に彩られた聖堂の天井だった。目の前には、清潔な白い法衣を纏った神父が立っており、すべてを見透かすような慈愛に満ちた微笑を浮かべて彼を見つめて tengah.
「あなたは生者の世界に戻ってきたのです。こちら、綺麗に洗浄したあなたの衣服です。それから、死の間際に身につけていた所持品もすべてこちらに戻っておりますよ。」
神父(神父—sama)はそう言って、ベッドの脇に整えられた衣服と私物を置いた。その中には、あの異世界で手に入れた「チョコパン」と「ソーダの缶」も混じっていた。
コリンは恐る恐る体を動かしてみた。驚いたことに、あのアスファルトに叩きつけられた凄惨な傷跡は、最初から無かったかのように完治している。彼はゆっくりと起き上がり、自分の両手を見つめた。
「生きてる……。僕、本当に生き返ったんだ……。」
呟いた声に喜びの色はなかった。そこにあったのは、深い絶望と悲しみだ。他人から見れば、蘇生は至高の奇跡だろう。しかしコリンにとって、それは長い苦難の始まりを意味していた。
コリンが感情に沈んでいると、神父はまるでものすごく良い知らせでも持ってきたかのように、満面の笑みを浮かべて一枚の上質な紙を差し出した。
「そしてこちらが……当神殿が提供した『蘇生術』の請求書でございます。金額が記載されておりますので、よくご確認ください。」
震える手で紙を受け取り、コリンはその数字に目を落とした。書かれた金額を見た瞬間、視界がぐにゃりと歪み、再び意識を失いそうになった。
「金貨一万枚……っ!? どこに、どこにそんな大金があるっていうんだ!」
悲鳴に近い叫びが、涙と怒りと共に漏れた。彼はしがない村の青年に過ぎない。金貨百枚集めるのだって数年かかるというのに、この金額は王国中の富をかき集めたような天文学的な数字に思えた。
神父は、そんな不平不満は聞き飽きたと言わんばかりに、平然と頷いた。
「確かに大きな金額に見えるでしょう。しかし、これは数千年前から決まっている不変の理なのです。どこで死のうとも、あなたは蘇生される。ただし、その代価は決して安くはない。中には、あまりの借金に絶望して、そのまま冥界に留まることを選ぶ者もいるほどです。言ってみれば、これは世界で最も確実で高価な『生命保険』なのですよ。」
神父は落ち着いた口調で説明を続け、色鮮やかなパンフレットをコリンの手に握らせた。
「ですがご安心を。我々も、これほどの大金を即座に用意できる者が少ないことは理解しております。ですから、分割払いのシステムをご用意しました。一、二年で完済する短期プランから、最長十年にわたる長期プランまでございます。こちらの規約をお読みください。」
コリンは震える手でパンフレットを握りしめ、神父の顔を怯えながら見上げた。
「もし……もしこの借金を払うのを拒んだら? 僕はどうなるんですか?」
神父は相変わらず笑っていたが、今度の笑みにはどことなく恐ろしい気配が混じっていた。
「もし支払いを拒否したり、あるいは分割払いが期限を一日でも過ぎて滞ったりした場合……。お客様の体は、ごく短時間のうちに内側から爆発します。逃れる術はありません。その『債務縛りの呪印』は、すでにあなたの魂に直接刻まれていますから。」
神父は、今日の天気でも話すかのように淡々と告げた。
「私からのアドバイスとしては、お客様のような境遇の方は、長期プランをお選びになるのが賢明かと。それならば、今後十年にわたり毎月金貨百五十枚を支払うだけで済みます。他のプランに比べれば、負担は軽い方ですよ。」
その数字を聞いて、コリンは激しい頭痛に襲われ、頭を押さえた。
「毎月金貨百五十枚!? この国で最高峰のフェニックス魔法アカデミーの入学金が金貨百枚なんだぞ! それを貯めるのにだって五年は死ぬ気で働かなきゃいけないのに、たった一ヶ月でそれ以上を稼げっていうのか!? そんなの、ゆっくり殺されるのと同じじゃないか!」
絶望が胸を締め付ける。これから十年間、自分の命を繋ぎ止めるためだけに馬車馬のように働かされる未来。
神父は少し考える素振りを見せ、ベッド脇に置かれたコリンの持ち物に目を向けた。そして、奇妙な文字が書かれた、鏡のように光る銀色の金属筒——ソーダの缶——に目を留めた。
「ふむ……。それでは、こうしましょう。」
神父は人差し指でその缶を指した。
「その奇妙な品を、私に譲っていただけませんか? 非常に興味深く、希少なものに見える。私なら、それを金貨百五十枚で買い取りましょう。」
コリンの目が大きく見開かれた。彼は慌てて、液体が入ったその薄い金属の塊を手に取った。
「これが? 蘇生した時に一緒に運ばれてきたものだけど……正直、どこで手に入れたのかさえ記憶が曖昧なんだ。」
「お客様もこれが何かご存知ないのですか?」
神父が身を乗り出し、瞳を輝かせて缶を観察する。この世界において、これほど薄く滑らかに成形され、鏡のような光沢を持つ金属は、高位の魔導具を作るための極めて高価な素材でしかない。
「あなたは一体どこで死んだのですか? これほど見慣れぬ貴重品を持ち帰るとは。」
コリンは言葉に詰まった。異世界から来たなどとは、口が裂けても言えない。
「あ、ああ……よく分からないんだ。ただ、すごく奇妙な森に迷い込んで、恐ろしい鉄の怪物たちに遭遇して……。」
コリンは震える声で嘘を混ぜた。
「でも、もしあなたがそれを欲しくて、その値段でいいなら……。売るよ! 持っていってくれ!」
「商談成立ですね。お買い上げいたします。」
神父は満足げに、ずっしりと重い金貨の袋をコリンに手渡した。
「さあ、これで今月分の支払いは完了です。いいですか、来月は遅れないように。一日でも遅れれば、縛りの魔法が発動して……ドカン(BOOM)! あなたの体は塵になります。ですから、急いで稼いでくださいね。」
今月分の支払いを済ませたコリンは、逃げるように神殿を飛び出した。
彼の脳裏には、あの異世界の光景が浮かんでいた。あそこには、他にも高く売れそうな「奇妙なもの」が溢れていたはずだ。
コリンの瞳に、絶望に代わって燃え上がるような野心が宿った。
「あそこに戻るんだ……。僕は異世界の骨董商になってやる! そうすれば、十年の借金なんて数ヶ月で完済できる。それどころか……僕は、大金持ちになれるはずだ!」
彼は強く決意し、再び歩き始めた。
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