才能に嫉妬
才能に嫉妬
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
「違うんだ、違うんだ、俺じゃない、俺じゃない。」
「みんな、そう言うんだよね。」
110番を受けて、駆けつけた刑事は、そう言った。
「現行犯逮捕ね。君には弁護士を呼ぶ権利がある。で・・・ま、いいか。」
相棒の刑事が、立っている男からナイフを奪い、ハンカチでくるんだ。
男は、数人の警察官に囲まれて、パトカーに乗せられた。
「違うんだ、違うんだ、俺じゃない、俺じゃない。」
「はい、はい。先ず事情、を聞かせて貰うから。パトカーの座席より広い場所でね。今も言ったけど、弁護士は後で呼んであげるから。知り合いにいるかな?」
「相続の時に・・・。」
「ああ、その人でいいよ。後でね。」
男は、取調室で「事情」を話した。
「あいつは・・・花房は、会社の同僚なんです。ある日、会社の企画会議で、花房が企画を出したんです。ところが、その企画は俺が考えたものなんです。」
「盗まれた?それで、復讐したんだね。あるあるある・・・気持ち、判るよ。その企画書って、もう出来てたの?」
「PCで、ワープロアプリで書いたんです。」
「じゃ、それ、見せれば良かったんじゃない?」
「それが・・・会議の後、確認したら削除してあったんです。」
「確信犯だね。じゃ、花房がワープロメモリにコピーして削除したか、移動させたんだね。ついでに聞くけど、PCにロックするか、ファイルにロックしてた?パスワードで。」
「いえ。」「スクリーンセーバー起動してた?スクリーンセーバーにもパスワードでロック出来るよね。」
「いえ。」
「しょうがないなあ。パスワード書いて、PCに付箋貼り付けるより酷いなあ。」
「付箋?持ってません。」
取調室のドアがノックされた。
刑事と女性警察官が入口でこそこそ話している。
呼び出した人は出て行き、刑事が向き直った。
「ワープロファイルさ、作業場所間違えてない?他のPCで取り敢えず作業して、移すのを忘れたりして。よくあるんだよなあ、そんな勘違い。あ。こういうのもあるよ。取り敢えずメモリを保存場所にして、そのまま作業しちゃったとか。メモリにロックかけてる?」
男は考え込んでいる。
「トイレ、行かせて貰っていいですか?」
「いいよ。江戸時代じゃないからね。あ、『雪隠責め』とはちょっと違うか。でも、昔の刑事は、トイレ行かせなかったらしいよ。『事情』、聞き終わるまでは。」
書記をしていた刑事が、男を連れ出した。
トイレの個室で用を足した男が出てくると、書記の男は再び手錠をかけた。
取り調べ室に戻ると、刑事の姿はなく、女性警察官が対峙した。
「今、君の体内から取り出した、マイクロSDを解析している。金田寛一、通称、キム・カンカン。花房満子の体内から取り出した、企画書その他のファイルが入ったSDもね。確かに、花房を刺したのは、君じゃない。でも、君は、色んなものを盗んだ。社長は、君が産業スパイだと見抜いて花房を接近させた。身の危険を感じた花房は、人目が有る場所に君を連れ出し、わざと自らを刺した。生きてるよ、ちゃんとね。でも、色んな罪で裁かれることになる。時間稼ぎの積りだったんだろうが、君が接見を望んだ弁護士は君を知らなかった。でも、弁護は引き受けてくれるらしいよ。花房の才能に嫉妬して、余計なことをするから、こうなった。」
男が拘置所に連れて行かれると、入ってきた刑事に女性警察官は、言った。
「大曲。血の滴るステーキが食べたいな。」
「課長。俺、安月給です。」「知ってるよ、元カレ。」
―完―




