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下を向いたまま、ロクな返事をしない私に、みんな焦っているようだった。
「小礼拝堂には、休憩室があるんだ。清掃はされてるし……仮住まいにはちょうどいいと思って……」
アルヴェインさんは、言いながら、私の顔色をうかがっていた。
必死に宥めるみたいな口ぶりに、兄を思い出してしまう。
ふっと、笑みが漏れた。
アルヴェインさんが、あからさまにほっとしたのが分かった。
さっきより、ゆっくりとした口調で、
「君を帰すまでの間、ここで暮らして貰いたいんだ」
と言った。
「……分かりました」
納得は、していない。
でも、帰れないなら──
この人を頼るしかないんだと思った。
「しばらくの間、よろしくお願いします」
そう言って、私は、小さく頭を下げた。
少し遅れて、周りの人たちの空気が、ふっと緩む。
何とかなった、という顔だった。
そのまま頭を下げたまま、少しだけ、間が空いた。
ちゃんと顔を上げるのが、怖かった。
顔を上げたら、ここにいることが、本当になってしまう気がした。
ゆっくりと顔を上げると、アルヴェインさんは、ちゃんと、私を見ていた。
逃げ場を塞ぐみたいな視線じゃなくて、それでも、目を逸らさない、という顔。
——ああ、この人は、私を「厄介なもの」じゃなくて、「預かったもの」として、見ている。
そう思ったら、胸の奥で、なにかが、静かにほどけた。
まだ、安心なんて、できない。
でも。
この人のそばなら、泣き崩れずに、立っていられる気がした。




