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始まりの聖女 ─彼女が呼ばれたわけ─   作者: はたの


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2


中は、思っていたよりも、ずっと小さかった。


長い椅子が、何列か並んでいる。

でも、広い教会みたいに、ずらっと、ではない。

少人数で使うための場所、という感じだった。


床は石で、ところどころ、すり減っている。

誰かが、何度も、同じ場所を歩いた跡みたいに。


壁には、色の薄くなった絵がかかっていた。

何の場面なのかは、よく分からない。

でも、祈っている人たちがいる、ということだけは、伝わってくる。


ろうそくの匂いと、さっき嗅いだ香の匂いが、まだ少し、残っていた。

家の匂いじゃないのに、なぜか、落ち着く。


窓は高くて、小さい。

外の様子は見えないのに、昼だということだけは、分かった。

光が、細く、斜めに差し込んでいるから。


椅子に座るように言われて、腰を下ろした。

木は、少し、冷たかった。


ここは、知らない場所なのに。

さっきの部屋よりは、ずっと、安心できる気がした。


「ここならとりあえずは……」

「人は来ないだろう……」


ひそひそと、何人かが話しているのが聞こえる。

私がいるのは、まずい……らしい。


私は縋るように、アルヴェインさんを見上げた。


「あの……」


すぐに、アルヴェインさんが、私の方を見た。

さっきまで周りを警戒していた目が、私を見ると、少しだけ和らぐ。


「どうした?」


声は低くて、静かだった。

私にだけ、向けられているみたいな声だった。


「まだ名前を聞いていなかったね」


私は、一瞬だけ、言葉に詰まった。

自分の名前を言うだけなのに、急に、現実のことみたいに感じて。


「……朝倉紗和です」


彼は、少し考えるように目を細めた。


「紗和、でいいか」


頷くと、彼はそれ以上深くは聞かなかった。


「ここは、どこですか」


「ここは、小礼拝堂。今は新しい礼拝堂が出来たから、ほとんど使われていないんだ」


そういう事じゃなくて。


喉まで出かかった言葉を、無理やり飲み込んでから、聞いた。


「ここに、私は、どうやって来たんですか。……帰れるんですか?」


思わず、涙声になった。

喋っているうちに、不安が、どんどん重なっていく。


匂いも、声も、空気も。


全部、知らない。



泣かないでいようと思っていたのに、気づいたら、声が震えていた。


隅で話していた男の人たちが、私の前に並んで、バッと頭を下げた。


「……ふざけてた、っていうか……」

「本当に、試してみただけで……」


「こんなふうになるなんて、思ってなかったんだ」


言葉が、途中で途切れる。


アルヴェインさんも、私の横で頭を下げた。


「……俺が、止めるべきだった」


声は、低いけれど、強くはなかった。

少しくぐもった声で、続ける。


「場所を使わせたのも、俺だ」

「だから……責任は、俺にもある」


……つまりは、事故だったということ?


胸の奥が、ひどく冷えた。

でも、誰かを責める言葉は、出てこなかった。


「……そう……」


それだけ言って、私は、目を伏せた。



それ以上、何も言えなかった。

言ったら、きっと、泣いてしまう気がした。





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