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家の匂いじゃない。
洗剤でも、木でもない。
石と、香の匂いがした。
「……ここは、どこ……?」
知らない場所だった。
高い天井。冷たい床。
そして、私を囲む男の人たち。
全員が、呆然として、私を見ていた。
「お兄ちゃん……」
声に出してから、自分でもおかしいと思った。もう、そんな呼び方はしていないのに。
それでも、口が、勝手にそう呼んだ。
男の人たちをかき分けて、一際、目を引く人が、私の前に膝を付いた。
手を差し出され、その綺麗な顔に気圧されて、思わず、手を取った。
「アルヴェインだ。……怖かっただろう。もう大丈夫だ」
覗き込むように、目を合わせてくれた。
宥めるような、その声は、落ち着いていた。
「……はい」
なんて言えばいいのか分からなくて、ただ、頷いた。
アルヴェインと名乗った人は、少し、困ったように笑った。
子供をどう扱えばいいか、迷っているみたいな顔だった。
「ここは冷えるから。場所を変えよう」
取った手をそのまま引かれて、歩き出す。
アルヴェインさんが前を歩いて、私を挟んで、他の人も着いてくる。
守られている、というより、連れていってもらっている、という感じだった。
それが、少しだけ、ほっとした。
少し先で、同じくらいの年の男の人が、角をそっと覗いた。
廊下の様子を確かめるみたいに、首だけ出して、すぐに戻ってくる。
「……大丈夫。誰もいない」
小さくそう言ってから、その人が先に歩き出した。
それを見てから、アルヴェインさんが、私の手を引いて続く。
こっそり、という言葉が、ぴったりだと思った。
みんなが息を殺して歩くから、私も真似をした。
靴音が、やけに大きく聞こえる気がして、何度も足を止めそうになる。
誰ともすれ違わずに着いた先は、教会……のような場所だった。
高い天井と、細い窓。
さっきの部屋よりも、ずっと静かで、空気が澄んでいる。
「ここなら、大丈夫だ」
小さく、そう言われた。
扉が閉まる音がして、廊下の気配が、遠くなった。
繋いだ手を、少し、強く握った。




