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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

訳あり少女ノエル、辛口AIとお気楽珍道中 〜体は小さいけれどチートスキルで生き抜きます〜

作者: 十六夜桜餅
掲載日:2025/11/08

 

 街道を歩き続けて三日目。

 小さな村の木の門を見つけたとき、少女は「おー、久しぶりの人里……」と小さく呟いた。


 村を見つけて喜んでいるのは、銀髪のショートボブに少し大きめのリュックを背負い、フード付きマントに身を包んだ、少し幼い旅の少女。


 久しぶりに辿り着いた人里は小さな村らしく、門番は立っていないようだ。門を通って村に入ると、のどかな風景がどこか懐かしく感じさせる。昼の少し前だからだろうか、あちこちから美味しそうな匂いが漂ってきた。


 キョロキョロと周りを見渡し村人を探す。

「第一村人発見」

 井戸のそばで洗濯中の腰の曲がったおばあさんがいた。近づいて行くと、おばあさんも私に気づいたようで声を掛けて来た。


「おやおや、この辺では見かけないお嬢ちゃんだね、その格好は旅人さんかい? ずいぶんと小さいが、こんな辺鄙なトコになんの用だい?」

「旅の途中に立ち寄ったんですが、少し休ませて頂ければと」

「ああ、それならほら、あっちの方にある少し大きな家が村長の家だから聞いといで。わからなければそのへんのもんに聞けば教えてくれるよ」

「ありがとうございます、早速行ってみます」


 おばあさんにお礼を言って教えてもらった方に歩き出す。村の中心に向かい、歩いている村人に聞きながら進むと周りの家より少しだけ立派な木造の家が見えてきた。他の家より一回りほど大きいので、ここが村長の家だろう。


 大きく息を吸い、扉を叩く。

「ごめんくださーい、旅の者ですが、村長さんいらっしゃいますか」

 少しして扉が開き、頭のてっぺんが寂しいおじいさんが出て来た。

「なんだね、ずいぶん小さい旅人さんだね。この村になんか用事でも?」



「村長さんですか?」

「ああ、わしが村長じゃよ」

「旅の途中でこの村に通りかかったのですが、ひと晩村の中で休ませて頂いてもいいですか?」

「ああ、かまわんがこの村には宿がないからのう……」

「いえ、隅の方にテントを張らせてもらえれば」

「おおっ、そうじゃそうじゃほれ、あそこに見える小屋。あれなら今は使ってないんで、あそこを使うといい、雨風ぐらいはしのげるじゃろ」


 村長の指さした先にちょっと……いやかなりくたびれた小屋があった。

「ありがとうございます、ありがたく使わせていただきます」


 村長さんの家を出て小屋に着いたが、やっぱりボロい。

 戸を開けようとしたが中々開かない、やっとの思いで開けると――

「おおー、ホコリでいっぱいだー」

 とりあえずホコリを掃き出そう。


 口周りに布を巻いて小屋の隅にあったほうきでホコリを掃き出していると戸の影に何かが動いて見える。

 ひょいと覗くと十歳くらいだろうか、村の子供三人が興味津々といった感じでこちらを見ている。


「お前誰だ?」

 リーダー格の男の子が話しかけてきた。

「旅の人?」

 可愛いおさげの女の子が恥ずかしそうに聞いてくる。

「こんにちは」

 大人しそうな男の子が頭を下げて挨拶してくれた。


 三人とも、性格は大分違うようだ。

「こんにちは、今日一日だけお世話になるノエルだよ」

 子供達は一斉に喋り出した。

「俺ジムって言うんだ、ノエルは旅してんの?」

「私はアン、女の子一人で怖くないの?」

「僕はケリー、僕らと同じくらいなのに凄いね!」

「私は家族が居ないから、ギルドのある大きな街まで旅をしてるんだ。冒険者になれば一人でも生きていけるかなと思って」

「すごーい!」


 アンが私を褒めたのが気に入らなかったのか、ジムがムッとして。

「ふんっ、俺達だって大きくなったら、三人で冒険者になるためにこの村を出るんだ!」

「まだ先の事だけどね、三人で約束したんだよ」

 なだめるようにジムの肩に手を置いてケリーが続ける。

 そんな話をしながら三人は小屋の掃除を手伝ってくれた。


「ありがとう、皆が手伝ってくれたから思ったより早く終わったよ」

「へへっ、まかせとけよ。なんかお前頼りなさそうだからな、なんかあったら他にも手伝ってやるぜ」


「こらーっ! 手伝いもしないで何遊んでんだい!」

 肝っ玉母さん風のおばさんに耳をつままれて、ジムは情けない声を上げていた。

「いてててっ! 遊んでねーよ! こいつの掃除手伝ってたんだよ!」

「おばさん、本当だよ。三人でノエルの寝床の掃除してたんだ」

「ふんっ、ケリーが言うなら本当のようだね」

「ひでーよ! 母ちゃん息子よりケリーを信じるのか!」

「当たり前だろう、日頃の行いの差だね」

「くそーっ!」


 皆が一斉に笑い出した。

 その後、ジムたちはお母さんに

「さあ、やることは山ほどあるんだよ」

 と連れて行かれた。

「またあとでねー!」

 アンが手を振り、ケリーが

「手伝いが終わったら、また話聞かせて」

 と笑って去っていく。


 急に静かになった小屋の中で、ノエルは軽く伸びをした。

「ふぅ……ちょっと疲れたかな」

 久しぶりに人と話したから、少し緊張したな。

「ちょっとだけ、休もう……」

 空中に手を伸ばすと、淡く光る歪みが現れ、そこに手を入れて毛布を取り出した。

 床に毛布を敷いて、横になり目を閉じると、あっという間に眠りに落ちた。


「……!」

 何か遠くから焦った感じの声が聞こえてきて目が覚めた。

「結構疲れてたんだ……。起こしてくれてもいいのに」

 気づけば小窓の隙間から茜色に染まった西日が差込んで小屋の中をオレンジ色に染め上げていた。

《話しかけるまで黙っていろと言われたので》

 私にしか聞こえない声が正論をかましてくる。

「うっ。そうだけど……」



 背伸びをしてゆっくり起き上がる。

「いてて……毛布一枚じゃやっぱり体がきしむな、それにしてもなんか外が騒がしいな」

 小屋の扉がノックと同時に開かれた。

「ジムたちがいないんだが、ここには来てないか?」

「疲れて眠っていて、今起きたところなの」

「そうか悪かったな」

 そう言って村人は出て行った。


「どれどれ」

 子供たちはさっき見て知っているのでスキル〈索敵(サーチ)〉で確認してみる。

「ここから少し離れた所に三人ともいるね、よかった、あまり離れてなくて。まだ二十五kmまでしか〈サーチ〉出来ないからねー。色も緑で命の危険は今のところなさそうだな。今のところ周りに魔物もいないし」

《ですが、急いだほうがよろしいでしょう》

「わかってる」


「よいしょっ……と」

 かけ声とともに立ち上がると、空間に作った歪みに毛布を放り込み、リュックを背負い小屋を出た。

 外では村の大人たちがあわただしくジムたちを探していた。


「村中探したけど、どこにもいねぇ」

「まさか森に行ったのか?」

「バカな! 今、森にはブラックベアが出るんだぞ!」

「そう言えば今、森にベリルの実が生ってるな」

「まさか……」


 遠くから男性が慌てて走ってくる。

「おーい、今、子供たちに聞いたら、どうもジムたちがノエルって子にベリルの実を食べさせたいって言ってたって」

「じゃあやっぱり、森に行ったのか。今はブラックベアが出るから森には近づくなって言ってあったのに」

 村人の顔に焦りが滲んできた。


「ブラックベアか……」

 確か中級冒険者が二〜三人で倒すレベルの魔物で、初級ではちょっと厳しいくらいだっけ……。

《やはり急いだほうがよさそうですね》

「うん。私の為に取りに行ったらしいからちょっくら行ってくるか」

 大人たちが対策を練ってる隙に村を出て森に向かった。





「この奥かな?」

 誰にも見られず森にたどり着いたところで、もう一度〈サーチ〉を展開してみる。

《子供たちの反応、森の南東の方ですね。……あ、魔物が一体、すぐ近くまで来てます》

「やっぱりか。三人から少し離れたところに魔物がいる。少し急がないと」


《その方がいいでしょう。あの距離だと、もう走って逃げるのは無理ですね》

「了解」

《木の根っこには気をつけてくださいね。転んだら笑いますよ》

「笑うなよ……」


〈サーチ〉を頼りに三人の元へ走っていると、少し先から子供たちの叫び声が聞こえてきた。

「ちっ、向こうが先に着いたか」

走るスピードをさらに上げて、声のする方へ駆け出した。


「きゃーー!」

「わー、ブラックベアだ!」

「このヤロウ! こっち来んな」

 三人が固まって大きな木を背にして、大きくて黒い熊に追い込まれている。

 ジムは小さいナイフをブラックベアに向けて他の二人を背中に隠し一生懸命守っている。


 ブラックベアの腕が子供たちに振り下ろされる寸前。

「ジオシールド!」

 ノエルが唱えると、ジムの足元から土壁が伸びてブラックベアが振り下ろした爪が弾かれた。



 攻撃を防がれて激昂したブラックベアが、私に気付き向かって来た。

《ブラックベアは火魔法が弱点です》

「了解」

 ブラックベアに向かって手をかざし、唱える

「ファイアストーム」

 ブラックベアが炎に包まれ燃え上がる。


 子供たちの無事を確認しようと炎の横を通り過ぎる瞬間。

《まだです! まだ生きてます》

 慌てて後ずさると、今まで立っていた場所に炎に包まれたブラックベアの爪が振り下ろされていた。

「しぶといなぁ……エアブレード」

 ブラックベアの頭と体が二つに別れ崩れ落ちた。


「さすがにもう動かないでしょ」

《手を抜きましたね、油断は禁物と言ってるでしょう》

「悪かったって。ファイアストームでいけるかなと思って」

 そう言いながら子供たちに振り返る。

「大丈夫だった? ケガはない?」

 土壁が崩れて三人が目と口を見開いてびっくりした顔でこっちを見ている。


「強い……」

「ノエルすごい……」

「魔法使えるんだね……」

 見た感じ三人ともかすり傷程度のようだ。安心した。


「さっきからノエルは誰と喋ってるの?」

 アンの言葉に「うっ」と声に詰まる。

「あははー。最近独り言が多くて、年かなー?」

「年って、僕たちと同じくらいなのに」

 ここは押し切ろう。


「そんなことより! ダメじゃない、この森に入っちゃいけない約束なんでしょ?」

 三人は、はっと思い出した顔をして。

「「「ごめんなさい……」」」

「謝るのは私じゃなくて村の大人たちによ」

 三人は下を向いて落ち込んでいる。


「……絶対、母ちゃんに殴られる……」

 ジムが頭を押さえて崩れ落ちた。

「私もお父さんとお母さんに怒られちゃう」

 アンが涙目になって怯えてる。

「僕もお仕置きでしばらく遊べなくなるかも……」

 それぞれ帰ってからのお仕置きを想像して顔を青くしている。

 よし! 誤魔化せた。


 ブラックベアの死体の横に両手をついて。

「このまま放っておいたら血の匂いで別の魔物が来るからね」


 そう言うと、ケリーが。

「どうするの? 燃やすの?」

「いや、土に埋めようと思って」

「じゃあ俺、掘るの手伝うよ」

 そう言ってジムは持っていたナイフで地面を掘ろうとする。


「大丈夫だよ、……(収納)」

 声に出さずに唱える。

 淡い光が地面を包み、光に吸い込まれるように土が消え、ぽっかりと大きな穴ができた。

 三人は再びびっくりした顔で固まった。


「はあ?」

「なんでっ?」

「どうやったの?」

 口々に騒ぎ出す。

「それより死体を穴に入れるから手伝って」


 皆でブラックベアを穴に落とし、今度はその穴の上に手をかざす。すると空中から土がドサドサと穴に向かって落ちていき、あっという間に穴が塞がった。

「よし。終わり」

 軽く手を払って、ついた土を落とす。


「……今の、何の魔法? 土魔法じゃないよね?」

 ケリーが興味津々といった感じで食い付いてくる。どうやら魔法が好きなようだ。

「うーん、これは魔法じゃなくて〈スキル〉だよ」


「なあ、なんのスキルなんだ?」

 ジムが不思議そうな顔をして聞いてくる。

「ジム! スキルをむやみに聞き出すのはダメよ!」

 アンに注意されてジムは口を尖らし不満げだ。

「何も、無理に聞き出す気はないよ、ちょっと気になっただけで……」

「でも気をつけないとね、僕たちは冒険者になるんだからギルドでも暗黙のルールだしね」

 ケリーにまで言われて渋々と謝る。

「ごめん……」

「いいよ、気にしてないから、でもスキルは内緒」

 ノエルは指を口元に当ててウインクした。

 三人はこくこくと真剣に頷く。


 この世界では、人のスキルをむやみに詮索したり聞き出すのは、あまり良いこととされていない。

 冒険者ギルドでも、それは暗黙のルールとして定着している。

「さ、ベリルの実も持って帰ろ。せっかくここまで来たんだし」


 枝に赤く実ったベリルの実は苺くらいの大きさで見た目はラズベリー。味はまんま苺。

 皆で急いでもぎ取りながら、たまにつまみ食いをして口の周りを真っ赤に染めて笑い合っていた。

 その光景は、さっきまでの緊張が嘘のように穏やかだった。


「さあ、暗くなる前に帰ろう。村の皆も心配してるよ」

 私たちは森を後にして急いで村に帰った。

 ――そんな彼女たちを、少し離れた草むらの陰からひとりの男が見ていた。


 かなり使い込まれた上等な革鎧に、大剣を構えた男。

 彼は、飛び出して子供を助けようとしていた冒険者だった。

 だが、少女――ノエルが現れたことで、茂みの陰に身を潜め、静かに様子を伺っていた。

「……今の力、それにスキルか……」

 その声は、風に溶けて消えていった。

 




 村の入り口が見えてきたころには、空はすっかり夕焼けに染まっていた。

 子供たちはそれぞれ、バツの悪そうな顔をして歩いている。

「みんな、ちゃんと謝るんだよ」

「うん……」


 村に戻ると、今まさに森へ探しに行こうとしていたのか、斧や弓、鍬など――思い思いの武器を手にした大人たちが駆け寄ってきた。

「ジム! アン! ケリー! 無事だったのかい!」

「心配したんだぞ!」


「「「うわーん、ごめんなさーい」」」

 さっきまでの元気はどこへやら、大泣きしてそれぞれ両親に抱き締められている。

 その光景を見てノエルが腕を組んでうんうんと頷いている。

《なんか仕草が年寄り臭いですよ。今は子供なんですから、もっと子供らしくしたらどうです》

(うっさいわ!)


「そういえば、なんで旅の嬢ちゃんが一緒なんじゃ?」

 村長さんの一言で皆が一斉にこっちを見た。


「ブラックベアに襲われそうになって、ノエルが助けてくれたの!」

「すごかったぜ! 魔法でゴウッて燃やして、ビュンって首切ったんだ!」

「土魔法のシールドも展開してくれて、おかげで助かったんだ!」

 子供たちが口々に私の活躍を大人に伝えてくれる。


「ありがとうね。よくわかんないけど、魔法で助けてくれたんだね」

「すごいな! こんな小さいのに魔法が使えるのか!」

「だからこんなに小さいのに一人で旅が出来るんだね」

 村人が感心して私を褒めてくれるが何か引っ掛かる。


《珍しく褒められてますよ。小さくてよかったですね》

(だ・ま・れ)

 しょうがない、本当の年齢を教えるか。

「コホン。皆さん小さいって言いますけど私、十歳なんですよ」

「思ったより上だけど小さいには変わりないねえ」

「あっはっは! そうだな実際ちっこいもんな」

 皆が笑い出した。


 それぞれの親に何度も「うちに泊まっていきな」と引き止められたけれど、私は首を横に振って丁重に断った。

「お気持ちだけで十分です。ちゃんと寝られる場所もありますし、今までも一人だったので、その方がよく眠れるんです」

「そうかい……じゃあ今夜は、子供たちが無事に帰ったお祝いとお礼も込めて、広場でごちそうだ!」


 気づけば、村の人たちが次々に準備を始め、あっという間に木のテーブルやランタンが並べられていく。

 私も食材提供にと、小屋の中にテントを張った後、葉っぱで包んだお肉を持って行った。


「食材の足しにして下さい。ホーンラビットとロックバード、それとオークのお肉です」

「お、お嬢ちゃん!? ホーンラビットはいいとして、ロックバードとオークはどうやって手に入れたんだい?」

「自分で狩りました!」

「ああ……そう言えば魔法持ちだったね。それにしても結構強い魔物なのに、すごく強いんだねぇ」


 そんな話をしていたら、一人の男性が近づいてきて、

「ちょっと手伝って欲しい事があるんで、嬢ちゃんを借りてくよ」

 そう言って私の腕を引いて、皆から離れた所で薪割りを手伝う事になった。


「俺が割るからそこに薪を置いてくれるか?」

「はいっ」

 カコーン、カコーンとリズムよく薪割りの音が響いている合間に男性が話しかけてきた。


「……もしかして、お嬢ちゃんは〈空間収納(アイテムボックス)〉持ちか?」

「あー、やっぱりわかっちゃいますか?」

「安心しろ。村のやつらはよく分かってない。俺は前に村を出て冒険者をやっていてな、まあ、目が出なくて辞めて帰ってきたんだが。〈収納〉持ちの危険も知っている」


「心配かけてすみません。でもそんなに大きく無いので大丈夫だと思いますよ。……でもよくわかりましたね、マジックバッグだとは思わなかったんですか?」

「マジックバッグは高額で取引されるんだぞ。あんなでかいリュックがマジックバッグだったらそれこそ狙われるだろう」

「あはは、やっぱ無理があったか」


 慌てて笑ってごまかすと、男性が懐から何かを出して、ポイッと私に投げてよこした。

「それを持っていけ、冒険者時代にダンジョンで手に入れた物だ。」

 渡された物を見るとそれは布で出来たショルダーバッグで、中を見ると真っ暗で何も見えない。

 マジックバッグのようだ。

「そっ、そんな高価な物貰えませんよ!」

「ジムの命を救ってもらった礼だ、受け取ってくれ。ジムの命に比べたら安いもんだ、あの子は甥っ子なんだ」

 男性はリズムよく薪を割りながら続ける。

「それはそんなに容量はないし、時間停止もついてない、せいぜい小さい荷車一つぐらいだ。それでもカモフラージュにはなるだろう」

「……ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね。……でもいいんですか? ジムが冒険者になる時に上げようと思ってたんじゃ……」

「いいんだ。ジムには他にも譲る物があるからな」

「わかりました。遅れましたが私はノエルと言います」

「俺はトムだ。自分で危険なのがわかってるんなら、もっと周囲に気を配れ」

「……はい、気をつけます」


《やーい、怒られた》

「うっさ……」

 思わず口を抑える。

(うるさい!)

《まあ、冗談は置いといて、良いものを貰いましたね》

(本当にね、大切に使わないと。いつかジムが冒険者になって会えたら渡してあげたいな)

《そうですね。その為にも貴方は、冒険者の先輩として、頑張らなくてはいけませんね》


 あっという間に宴の準備が整っていった。広場の真ん中には大きな焚き火が焚かれ、各々、家から持ち出した木のテーブルには焼き立てのパンやスープ、村人たちが持ち寄った料理が並んでいる。


「おおっ! ご馳走がいっぱいだ」

 ノエルが思わず感嘆の声を漏らすと、三人の他にも村の子供たちが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「ノエル! 一緒に食べよ!」

「こっち、こっちに座って!」

「旅のお話聞かせて!」


 たくさんの子供たちに囲まれ席につくと、すぐにお皿が手渡され、焼いたベリルの実のケーキや、香ばしいオーク肉の串焼きが次々と並んでいく。

 村人たちは口々に感謝を伝え、ノエルは少し照れながらも笑って応えた。

《久しぶりに賑やかで、楽しい時間ですね》

(うん……皆でいっぱい食べて、いっぱい笑って、楽しいね)


食事のあと、子供たちに魔法が見たいとねだられて、簡単な魔法を見せたりして、時間はあっという間に過ぎて、焚き火の火が小さくなった頃、大人たちが片付けを始めた。


「明日、行っちゃうの?」

「うん。でもちゃんと挨拶して行くから、明日また会えるよ」

「わかった! 約束だよ、黙って行かないでね」

 名残惜しそうに手を振る子供たちを見送り、小屋へ戻った。

 

 小屋に張ったテントに入って〈結界〉を張る。

《今日は、いい一日でしたね》

「そうだね……久しぶりに、人の温もりを感じた気がする。それじゃあ、寝るか。〈マイルーム〉」

 テントの中に人が通れるくらいの白い歪みが現れ、その中にのそのそと入って行く。


 テントの中は一見、日本によくある普通の部屋。十畳程の部屋にキッチンやテーブル、ベッド等がある。

 自分に〈クリーン〉をかけてベッドにもぞもぞと入りあっという間に眠りに落ちた。

《おやすみなさい。良い夢を》





 朝になって、村の門の前にすでにたくさんの人が集まっていた。皆で私を見送ってくれるらしい。


「ノエルちゃん、これ、旅の途中で食べな!」

 ジムとケリーのお母さんたちが、布に包まれたお弁当を何個か渡してくれる。

 アンのお母さんは、蓋付きの籠を差し出した。

「こっちはおやつね。甘いベリルの実のジャム入りパイや日持ちする木の実のケーキやクッキーがあるから」

「わあー! ありがとうございます、嬉しいです」


 貰った物を、斜め掛けにしたショルダーバッグに入れて、振り返り皆にお礼を言う。

「短い間でしたが、ありがとうございました」

「また来てね!」

「次はもっと長くいて!」

「こっちこそありがとうな!」

「俺たちもすぐに大きくなって、冒険者になるから。その時は一緒に冒険しような!」


 口々に声をかけられ、ノエルは少し照れくさそうに笑って頭を下げた。

「うん、待ってるね。でもその前に、冒険者になって会いに来るから」

 その言葉に、村人たちは嬉しそうに頷いた。

 リュックを背負い直し、みんなに手を振って、街道へと歩き出した。

 その小さな背中を、村人たちはいつまでも見送っていた。





「いい村だったね。ご飯も美味しかったし」

《そうですね、良い人が多いのどかな村でしたね》

 何となく寂しくなって、何も言えずに歩いて行く。


《気付いてますよね?》

「もちろん。昨日からでしょ?」

《はい。ずっと一定の距離でこちらを伺っているようです、計算して〈気配察知〉の範囲外に居るようです》

「普通なら分かんない距離か……」

《はい。ノエルの〈サーチ〉には意味がありませんが》


「〈サーチ〉では警戒色になってるから、今すぐ危険って訳じゃないし」

《そう判断できます。昨夜、森の中で貴方の戦闘を見ていた人物かと》

「だと思った。……まあ、放っておこう。そのうち飽きて離れるでしょ」

《そうですかね? その可能性は低いと思いますが》

 ノエルは何事もなかったように、朝の陽射しの中を歩き続けた。


 昼に差し掛かろうという頃。

《まだ、ついてきてますね》

「もういい。あの森を使ってケリをつけよう」

 ノエルは街道脇に見えた森へと足を向けた。木々の間は薄暗く、昼でも少しひんやりしている。

 足音を立てずに森の奥へ進み、静かに呟く。


〈気配遮断〉

 空気がわずかに揺れ、ノエルの存在が霧のように溶けていく。

《尾行者、森の中に入りました》

「よし……」


 男が周囲を警戒しながら木々の間を進んできたその瞬間、ノエルは背後から軽く声をかけた。

「……そんなに私のことが気になるの?」

 低く静かな声に、男の肩がびくりと跳ねる。慌てて振り向こうとするが、すぐに制される。

「振り向かないで」

 その声音は穏やかだが、有無を言わせない力があった。男は息を呑み、ゆっくりと動きを止めて、両手を上げて言葉を続ける。


「昨日の戦闘を見て……こんな小さい子が、あの魔物を難なく倒して、後始末まで完璧だったから。どこぞのスパイか、訳ありかと思って……つい、気になってしまって」


 その声に悪意は感じられなかった。私は静かに息を吐いて肩の力を抜く。

「そっか。まあ、気になる気持ちはわかるけど……レディを一日中つけ回すのはいただけないわ」


「レ……レディ……? いっ、いや本当にすまない。謝る。他意は無いんだ……もしよかったら、このまま一緒に行かないか? レディを一人で放っておく理由にもいかないし。目的地は次の街だろう?」


「ううん、一人で大丈夫、よくわからない男と一緒の方が危ないし。それにおじさんの想像通り訳ありでね」

「おっ……おじさんって言うな! 俺はまだ若い! お兄さんだ!――じゃなくて、怪しい者ではない、ちゃんと身分も立証出来る物もある」

「ふふっ。本気で疑ってはいないけど、一人の方が気楽なんだ。心配してくれてありがとう」


「だが……」

「じゃあね。またどこかで会うかもだけどバイバイ」

 そう言って気配を消した。

 男は慌てて振り返ったがもうノエルの姿は完全になかった。男はしばらくそのあたりを探していたがそのうちあきらめて森を抜けていった。


《やはりギルド関係者ですか?》

「鑑定して見たけどそうみたいだね。関係者っていうか上級冒険者だね。あきらめてくれて助かったけど今日はここで過ごすよ」

《安全の為にはその方が良いですね》

 マイルーム内で〈サーチ〉を見て男が離れていくのを確認した。

「急ぐ旅じゃないし、のんびり行くよ」

《冒険者ならまた会うことになりそうですね》

「……まあ、縁があればね」

 そう呟いてノエルは小さく伸びをした。





 森を抜けた男は、しばらく立ち止まり森を見つめた。

 夕暮れの光が木々の隙間から差し込み、あの少女の銀髪の残像を思い出させる。

「……一体、何者なんだ。あの年で、あの魔法とスキル……」


 思わず頭を掻きながらため息をつく。

「ギルドに戻って情報を集めてみるか……」

 街道へと歩き出しながら、男は森を後にした。

 男の背中が遠ざかるにつれて、森には再び静寂が戻っていく。

 ──ここからノエルの騒がしい物語が始まっていく。




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