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9話

今日は土曜日。

目覚ましが鳴る前に目が覚めたのは、昨日からずっと楽しみにしていたイベントがあるから。

「古墳巡りだぁぁぁぁぁ!!!!」

部屋の壁に貼った『行きたい古墳リスト』と睨めっこしながら、お弁当の準備を済ませる。

家の前では、明治さんが車で待っていてくれた。

初めは緊張していたけど、乗り心地が良すぎて―――ついウトウトしそうになるほど。

腕時計を確認すると午前8時。まだ空気がひんやりしていて気持ちいい。

「嬢ちゃん!来たんやな!今日の予定は、まず前方後円墳、そっから円墳、方墳、それから―――」

「ま、待って!?なんか詰め込みすぎじゃない!?」

「いやいや、何言うてんねん。今日のコースは“初心者向け”やで?」

「古墳くんの“初心者向け”は、初心者向けじゃないんですよねぇ~」

明治さんが、軽くツッコんだ。


こうして始まった、古墳巡りツアー。

最初に向かったのは、地元でも有名な古墳公園。

緑に囲まれた、丘のような前方後円墳。

横穴式石室が見られるように整備されていて、古墳くんの解説がもう止まらない。

「見てみい!この前方後円墳!上から見たら鍵穴みたいやろ?いや〜、ほんま素晴らしいわぁ〜!」

「うわぁ、、、言われてみればもう、それにしか見えない、、、」

「この角度がベストポジションや!ほら嬢ちゃん、ここ立ってみ?この角度からやと、めちゃくちゃ萌えるやろ!」

「古墳に“萌え”ってあるんだ、、、」

古墳くんは満足そうに草の上へ寝転がり、空を仰いでいた。

一つ目の古墳でテンション最高潮(さいこうちょう)の古墳くん。私はというと、すでに足が少し痛い。

けれど―――彼の話す言葉はどれもワクワクして、聞いていてまったく飽きなかった。

「で、次が徒歩三十分くらいのところにある〇〇古墳群や!」

「ちょ、ちょっと待って!?今、徒歩三十分って言った!?」

「せやで?ちょっとそこまでや」

※個人差があります

「明治さんの車は!?」

「運動不足解消ですよ!!」

笑顔で親指を立てる明治さん。つまり、車は使わせないということで、、、。


着いた先には、見渡す限り緑の丘、丘、丘。

全部、古墳。看板には『A号墳』『B号墳』、、、まさかのアルファベット制覇(せいは)が始まる予感。

「うわぁ、、、ここでも横穴式石室(よこあなしきせきしつ)が見られるんだ、、、」

「せや、しゃがんでみ?中はちょっと涼しいで」

確かに、石室の中はひんやりしていて、思ったよりも静かで、少しだけ怖くて―――でも、どこか神秘的だった。

「、、、あ、そうや。古墳くじ引いてく?」

「何そのオリジナルイベント!?」

古墳くんお手製の『古墳くじ』には、古墳の形が印刷されていて、結果は『吉』『大吉』『前方後吉』など謎のワードだらけ。

「大吉やったら今日一日、古墳パワーで体力回復したるで〜!」

「そのパワー、今すぐ欲しい~~!!」

気付けば時刻は午後三時。

足はパンパン、顔は日焼け気味。でも、心はなんだか満たされていた。

「次の古墳はあと40分や!」

「うっそでしょ!?もう歩きたくないよ〜!!」

「心の距離はゼロや!」

「いや、現実を見よう!?!?」


足が棒って、こういうことを言うんだ……。

時計を見ると、もう午後四時を過ぎていた。

日差しは傾きはじめ、古墳くんのテンションもそろそろ落ち着くかと思いきや

「さ、ラストスパートいくで!『Z号墳』目指すで!」

「まだアルファベット続いてるのぉぉぉ!?」

私は草むらにへたりこみ、ついに涙目で明治さんに助けを求めた。

「明治さぁぁん、、、このままだと、私、古墳になりますって、、、」

「古墳になる、面白い例えですね。そろそろ夜ご飯の時間ですから、悠久邸でどうですか?」

ぽんっと、明治さんが日傘のような優しい笑顔を浮かべて言った。

「夜ご飯!?」

「ええ、疲労回復にはしっかりした栄養と休息が大切です」

明治さんがすっと手を差し出してくれる。

私は即座にその手を掴んで、立ち上がる。

「えっ、本当にいいの!?もう歩かなくていい!?」

「ここから徒歩で帰るとなると、、、軽く一時間は超えますよ?」

古墳くんが少し名残惜しそうに、こちらを見つめている。

「え、もう帰んの?Z号墳、ええ角度やのに、、、」

「ごめんね古墳くん、、、疲れた、、、」

座った瞬間、ふかふかのシートが私を優しく包む。

うぅ、、、車って最高。運転してくれる明治さん、もっと最高。

窓の外には、さっきまで歩いていた草原と、かすかに見える前方後円墳のシルエットが揺れていた。

「今日はよく歩きましたね」

「うん。でも、すごく楽しかった。あんなにちゃんと古墳を見たの、初めてだったかも」

「せやろ?じゃあ次は古墳時代に行こうや!んで、古墳掘りまくるで〜!!」

「それはちょっと、、、遠慮しとこうかな」

「それは何よりです。知を得て、感動し、空腹になる―――実に理想的な一日ですね」

「最後の“空腹になる”が急にリアル、、、」

でも、それも本当のことだった。

今は、古墳型のクッキーでもいいから、何か食べたい。


そうこうしているうちに、車は静かに悠久邸の門前に止まった。

明治さんが私の荷物を軽々と肩にかけ、扉を開けてくれる。

その瞬間、屋敷の中から―――

「お前らー、飯の時間だぞー!!」

「カレーだよな?カレーだろ~な!?」

「おりゃあの炊いた米が一番やと思う人〜!」

「あれ?誰が僕の干し柿食べたの、、、?ねぇ、誰?」

「室町、落ち着けぇ!!」

すでに元号男子たちは、いつも通りの賑やかさで盛り上がっていた。

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