6話
放課後の教室。カーテンが揺れ、空が赤く染まる中―――私は、机に突っ伏していた。校庭からは青春の一ページのような声が聞こえてくる。
「、、、やる気とか元気とか、どっかに落としてきた、、、」
机の上には、お菓子のゴミとスマホ。スマホ画面にはSNSで見つけた「好きな画像を並べて進路を決めよう!」という占いサイトのスクショが表示されている。結果は『流しそうめん職人』だった。
「いやー、今週は頑張った。月曜から金曜まで一回も小テスト真面目に受けてない。ある意味パーフェクト!」
頬杖をつきながら、ぐで〜っと体を伸ばす。ついでに人をダメにするクッションに沈んでる人のモノマネをするが、椅子がガタガタいってるあたり不安定。
そんなダメ人間オーラをまき散らしていた私の前に―――“現実”がやってきた。
「おい、堕落生」
ズバァッ!
勢いよく机を叩いて現れたのは、黒髪メガネのクラス委員長。
顔が怖い。めっちゃ怖い。なんで?今日そんなに怖い日!?
「えっ、え、委員長。もしかして、、、もしかして私の堕落生活を見かねて、私を更生させに、、、?」
「違ぇわ、馬鹿!」
即座の否定。
しかも手に持っていた鞄をごそごそと漁り、取り出したのは——まぶしいほどの現実。
「進路希望用紙だ!!お前だけだろ、まだ出してないの!」
「うわぁぁぁあああああああ!!!!!」
まるで悪霊でも見たかのようにのけぞる私。
「し、進路、、、進路なぁ!?あ〜、懐かしい響き!!昔はよく言ってたよね、『将来の夢は?』とか!ね!」
「今がその“将来の夢”を考える時期なんだよ馬鹿!!!」
「わ、分かった、じゃあ、、、えーっと、、、旅人!」
「江戸時代か!!」
「じゃ、じゃあもういっそ、竹を流れるそうめんになりたい、、、!」
「逃避すんなぁ!!」
「じゃあ委員長はどうなのさ!進路希望、何て書いたの!?」
詰め寄る私に、委員長は一瞬たじろぎつつも、咳払いして言った。
「、、、早稲田大学。って言っても進路の選択肢として考えているだけだが」
「ここに学力格差の壁がある!!!」
委員長が私の机から、くしゃくしゃにした旧・進路希望用紙(清書済み)を見つける。
そこには、へったくそな字で大きくこう書かれていた。
『希望進路:異世界』
「本気で現実から逃げるなや!!!!」
委員長の魂のツッコミが教室に響き渡る。
「つーかお前、毎日教室で寝て、課題は出さず、SNSで“#進路不明JK”とかタグ付けて投稿してんだろ!」
「だってバズったんだよ〜!?トレンド載ったんだよ〜!?」
「それ自慢にならねぇんだよ!」
委員長は盛大にため息をついたあと、机に突っ伏す私の目の前に、改めて進路希望用紙を突き出す。
「、、、せめて白紙じゃなく、“何か書いた”って事実を担任に見せろ。頼むから」
「、、、“何か”ね。じゃあ書くよ」
シャッとペンを走らせる私。
『希望進路:楽しく生きたい』
「人生相談かよ!!!!あと就職か進学か選べや!!」
結局この後、委員長と私で新しい進路希望用紙を四回書き直す羽目になった。
最終的に私が書いた進路希望は、『勇者になって世界を救いたい。それか流しそうめん職人』
「お前、、、本当に何考えて生きているんだよ、、、」
委員長の呆れと疲れが混ざった呟きが聞こえた気がするが、気にしない気にしない。