2話
その時、少し高めの声が聞こえてきた。
「始めましてだねー」
「そうだね」
振り返れば、双子のような二人の男の子が、いつの間にか背後に立っていた。
「僕は南朝」
「俺は北朝」
仲の良さそうな二人。ニコニコと手を繋いでいる。
南朝くんはタレ目で、北朝くんはツリ目って感じ。
「僕達はそれぞれ南くんや北くんと呼んでいますが、美空さんの教科書に沿って説明すれば二人は『南北朝』です」
明治さんが説明してくれる。
「僕達の時代はねー」
「朝廷が南北に分裂されんだ」
「そうそう。一時は僕が北朝の天皇陛下を拉致したり、、、」
南朝くんって、可愛い見た目だけど実は恐ろしい子なんじゃ、、、。底しれぬ闇を感じる。
「最終的には俺が勝ったけど」
腕を組んでドヤる北朝くん。
「「でも今は統一されて一緒にいるよ」」
あ、息ぴったり。双子だからかな?
なんて思っていると、
ガラガラドッシャン!!
二階の方から物音が聞こえてきた。
何かあったのかと思い、奈良さんを先頭に二階に上がると、段ボールの山が崩れて赤絨毯が敷き詰められた廊下が詰まっていた。
「、、、なにこれ」
「また縄文くんの土偶ですかね」
「多すぎだろ!」
「お片付けしよーよー縄文くん」
「早く出てこい、通れねぇだろ」
段ボールを掻き分け、埋もれている人を発掘した南朝くんと北朝くんは段ボールの片付けをすすめているが、南朝くんの言い方は完全に脅しにしか見えない。
「う、そんな怒らなくても良いじゃんかぁ〜」
オレンジ色の髪の男の子(多分、縄文くん)は三十センチ程の土偶のぬいぐるみを抱きしめ、涙目で訴えている。
「こりゃ大仕事になりそうばい!」
「そうだねー」
せっせと段ボールを積み上げる作業をしていく弥生くんと奈良さん。
「はぁ、俺達も手伝ってやるよ」
「うん!これってどこに置けば良い?」
ブツブツ言いながら床に散乱した土偶グッズを掻き集めて段ボールに詰め込んでいく南朝くんと北朝くん。
私も土偶グッズを拾って段ボールに入れていく。土偶以外にも古墳グッズが転がっている。
「あ、これ可愛い」
拾ったのは土偶の形のキーホルダー。
「可愛いでしょ、、、僕が作ったんだ」
「そうなの!?上手!!」
「本当?じゃあ、あげる」
手渡されたのは土偶型のジンジャークッキーと私が拾ったキーホルダー。
「古墳グッズは無視しておいて良いから、土偶について話そ」
コテンと首を傾げる縄文くん。
柔らかい笑みを浮かべながらそっと手を握ってくる。
「古墳の方がええやん。土偶なんて所詮まじないに使うもんやろ?」両手いっぱいに古墳グッズを抱えた緑色の髪の男の子が言った。
「古墳はな、王の墓やねんで。ロマンが詰まっとんねん。しかもな、嬢ちゃん。大阪府にある『百舌鳥・古市古墳群』は世界遺産に認定されてるんやで」
古墳に対する愛を語る男の子。
「あ、嬢ちゃん。名前は?俺は古墳。よろしくな」
「初野美空です。えっと、、、古墳くん?」
古墳時代って、あったっけ?
指を曲げて数えてみる。
「縄文、弥生、古墳、飛鳥、、、あっ、あった」
「俺、忘れられてたん!?」
ツッコむ古墳くんにプププと笑う縄文くん。
「古墳の時代はな、ヤマトタケル大王の大和政権が強かったんやからな!偉い人なんやで!」
「何言いよるばい?ハニワん方が素敵ばい!!」
弥生くんはそう言うと、段ボールに詰めたはずの大量の古墳グッズと土偶グッズを二人に投げつけた。
「ちょ、いった!」
「わ、やめ!」
数分後。
「喧嘩しない」
「「「はい、、、」」」
仁王立ちをしながら静かに怒るのは奈良さん。
明治さんは巻き込まれないように新聞を読んでいるし、南北ツインズは何処か行った。
どんよりと気まずい雰囲気のなか、明治さんは口を開いた。
「、、、やかましいのが来ますよ」
「え?」
やかましいのって一体?
そんな疑問を口に出すまでもなく、部屋の扉が思いっきり開かれた。
「お腹すいたー!!」
扉を破壊するような勢いで来たのは、ふわふわした薄いピンク色の髪の男の子だった。身長は私と同じくらいか少し高いくらいで、白色の書生服に灰色の袴を穿いている。中のスタンドカラーシャツは黒色だ。
数秒、その子と目を合わせる。
「新人だー!!」
満面の笑みで、その子は無理やり私の手を握り、握手した。手を大袈裟に振る。
「俺は大正。好きな物はラジオだよ!よろしくね!!」
「え、あ、うん。美空です」
戸惑いながらも答えた。
「敬語はなしなし!!俺のこと、大正でも大正くんでも何でも呼んで良いよ!俺は美空っちって呼ぶから」
可愛らしい大正くんは子犬みたい。
、、、んっ!?
「み、美空っち?」
「うん。美空だから美空っち!」
「そ、そうなんだ、、、」
「俺は十五年しか続かなかったけど、日本社会が目まぐるしく変わっていく時代だったんだ!誇れるものはやっぱり洋風化が進んだことと、男子普通選挙かな?」
「普通選挙、、、?」
「そう!今の子は成人済みの男女に参政権があるでしょ?でも、明治さんの時までは国に十圓、、、約二十万円以上を納税している二十五歳以上の男子が選挙権を持ってたんだ」
「納税、、、」
「でもねぇ〜、大正十四年に納税金額関係なく二十五歳以上の全ての男子が選挙権を持てるようになったんだ〜!!」
嬉しそうに話す大正くん。でも、話す内容は難しい、、、。
その時、ボーンボーンと柱時計が鳴った。時計の針は六時を示している。
「あ!やばい、帰らないと!!」
でも帰り方覚えてないしな〜、、、どうしよう。
「僕が送って行きますよ」
明治さんが手を上げた。
そして、明治さんに黒塗りの高そうな車で家まで送ってもらった。
めっちゃ座り心地良かった!!
「、、、さて、どう思った?」
奈良が振り返り、明治を除く十四人の顔を見渡す。
「馬鹿だな。純粋さは仇になる」
「鎌倉は会ってへんやろ」
「俺はアイツ次第だと思う」
「僕は好きだよ。これぞ後輩!って感じがして」
「うんうん!!」
「良か女児そうやったばい。可哀想に」
「嘆くだけなら誰でも出来る。我々が出来ることを」
「そうじゃの」
「そうだね。来る日まで彼女の準備を済ませる。そして未来を変える」